星の巫女は貴方を待ち続ける   作:アステカのキャスター

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すまん。最終回にならなかったわ。
あと一話だけ書きます。期待してた人、すみません。

改変が酷いです。嫌な人は回れ右でお願いします。
それでも気に入ってくれる方は感想や評価をお願いします。





『人』は彼方の『天』に歌を捧げる

 

 ────私は世界と共に在り

 

 

 

 ねえ、ギルガメッシュ。

 

 

 

 ────私は歌い、世界は踊る

 

 

 

 ねえ、エルキドゥ。

 

 

 

 ────私は星の灯火を人の時代に移し

 

 

 

 私ね……やっと

 

 

 

 ────神の時代の最後の星となろう

 

 

 

 遠かった2人に追いつけた気がするよ。

 

 

 

 

神代の終幕を告げる(エヌマ)–––––

 

 

 けど、私の役目はここで終わりよ。

 

 

 神と人の時代を隔てて、少し疲れたわ。

 

 

 だから、私は少し休むわ。

 

 

 責務を投げ出して、貴方みたいに少しだけ自由に……

 

 

 

 

 後は……そうね……

 

 

 

–––––––人理の裁き(エリシュ)!!!』

 

 

 

 貴方を……待ち続けるとするよ。

 

 

 貴方が1人にならないように、星の上から貴方を待つよ。

 

 

 これは別れではないわ。

 

 

 約束したでしょ? 3人で。

 

 

 遠い未来でまた会おうって……

 

 

 だからね……ギルガメッシュ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 ギルガメッシュの旅路は約束通り三年で終わった。流石に途方に暮れ、苛立ちを感じながらもウルクに帰っていった。

 

 不死の草は狡猾な蛇に喰われてしまったのだ。リィエルの分も取ろうとしたが、残念ながら手に入れたのは()()のみだ。

 

 ()()()()奪われた筈の不死の草は2()()()()()()()()()ギルガメッシュ叙事詩においてズレがあったのだろう。

 

 それでもギルガメッシュはここで使う事は無かった。ギルガメッシュが不死になってしまえば、リィエルと一緒に生きられない。不死とは()()()()()()()()()()()()()()()()事をギルガメッシュは知ってしまったからだ。

 

 持っていた2つの内、一つを不死の草を蛇に奪われ途方に暮れた英雄王は、仕方なく故郷へと戻ることになった。

 

 

 ギルガメッシュはリィエルを信じていたが、幾らリィエルとて王不在の中、ウルクを守る事は不可能だと感じていた。

 

 リィエルは確かに強いが、他国との摩擦に土地神のイシュタルが消えた問題、国の発展には流石のリィエルでも無理があると思っていた。

 

 渋々。渋々ながらも、諦めてはいたのだ。三年間自分がいない状態でウルクを守るなど、とてつもない無茶を押し付けた自分にも非がある。だから、例え他の国に都を移していようと、仕方がないと。

 

 

 

「……むっ?」

 

 

 ウルクに戻る道に誰かが立っていた。

 

 

「なっ…………!?」

 

 

 それは忘れもしない自分が旅をするきっかけを作った存在、神々によって命を落とし、遠い未来でまた会おうと約束した友。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……エル……キドゥ……?」

 

「久しぶりだね。ギル」

 

 

 そこには()()()()()が立っていた。

 その隣にはシドゥリと呼ばれていた女性。数年が経ち、妖艶な雰囲気を醸し出す美女となった彼女はエルキドゥの隣に立っていた。

 

 

「何故貴様がここに……貴様は神の呪いによって死んだ筈……!」

 

「それは、彼女から聞くといい」

 

 

 エルキドゥは隣に目を移した。

 シドゥリは黒いベールで顔を隠している為、表情すら見えない。だが、ギルガメッシュには心当たりがあった。祭祀長であり、リィエルが母親のように懐いていた人物。

 

 

「貴様は……確かシドゥリ、だったか」

 

「…………」

 

「ギル……不死の草は使ったのかい?」

 

「いや……手に入ったのは一つ。帰ったらリィエルと使うか考えていたのだが……それがどうしたと言うのだ」

 

「……いや、まだ使わなくてよかったよ」

 

「…………? それはどういう──ー」

 

 

 

 

 

 パァン、と言う音が空虚に響き渡った。ギルガメッシュは、何をされたのかわからなかった。目の前の人物がそんな短慮ではないと知っていたから。そんなことをする人間ではないと知っていたから。

 

 いつもリィエルが言っていた。シドゥリさんは優しい人で平気で誰かのために無理しちゃう。だから王様はちゃんと見ていてね、といつも自分の事のように言っていた。

 

 今の彼女からは優しさの欠片も感じない。感情は怒りとなり、激情に駆られている。

 

 

「……王の帰還を迎える者が、こんな不敬者とは。貴様、首を出す覚悟はあるようだな」

 

 

 静寂に響き渡る音と、振り抜かれた拳。そして自身の頰の熱を以ってして、ようやくギルガメッシュは理解した。目の前の女性が、シドゥリが、自分を殴った事を。いきなり殴られた事に少々戸惑ったが、その不敬は許せなかった。

 

 ただ、殴った彼女が何故泣きそうなのか分からないのだ。

 

 

「ええ、首など後で幾らでもくれて上げます!! けど!! 私はやはり、貴方を許せない!!!」

 

「……何?」

 

 

 出迎えにしては些か奇妙だ。

 そもそもエルキドゥが居て、シドゥリがこの場所に居るのは何故か。国が滅んだならリィエルが別の場所に移している筈だ。幾ら王ではないリィエルでさえそれくらいの事は思いつく筈だ。

 

 シドゥリが一体何に許せないのか理解出来ないのだ。

 

 

「私は……貴方を殴る為に!! 貴方を叱る為に!! ウルクから貴方を探し続けた!!! それが……それが()()()が最後に私に託した事だから!!!」

 

 

 最後、と言う言葉に何か嫌な予感がした。

 

 ギルガメッシュの思考は、最悪の結論を導き出そうとしていた。エルキドゥが居るのに見当たらない彼女に、怒りと後悔で泣き崩れるシドゥリ。全ては、そう考えれば辻褄があう。あってしまう。

 

 

 

 

 

「…………おい……リィエルは? リィエルはどうした?」

 

 

 

 そしてギルガメッシュの優秀な頭脳は、無情にも正解をはじき出す。更に極め付けは()()()()()()()()()()()()だ。エルキドゥが居たせいか気付かなかったが、シドゥリが持っているソレはギルガメッシュがリィエルに渡した『白き世界の一つ星(ユニバース・ワン)』だ。何故、それをシドゥリが持っているのか。

 

 

「……」

 

「……」

 

 

 沈黙。それこそが、答えに他ならなかった。泣き崩れるシドゥリも隣に居るエルキドゥも何も言わない。ただ悲しそうに、目を伏せるだけ。

 

 

「……何が、あったと言うのだ。答えよシドゥリ!!」

 

 

 嫌な予感がした。

 ギルガメッシュは声を荒げざるを得なかった。約束した筈のリィエルが、この3年に一体何があったのかどうなったのか。その疑問だけが、頭から離れない。答えてすらくれないのに苛立ちを感じてしまう程に。

 

 

「……ギル、疑問に思う事は分かる。だけど今は帰るよ」

 

「エルキドゥ……リィエルはどうしたのだ」

 

「……もう一度言うよギル、()()()()()()()()()。僕が何故居るのか、今ウルクがどうなっているのか。そして、彼女が何をしたのか」

 

 

 ギルガメッシュは宝物庫からヴィマーナを取り出した。

 一体何があったのか最悪の予想がついていた。帰ったら全部分かると言う以上、此処で聞いたところで理解出来ないかもしれない。ギルガメッシュはエルキドゥとシドゥリをヴィマーナに乗せてウルクに戻っていった。

 

 

 ────────────────────

 

 

「……っ!?」

 

 

 ウルクからあと数十キロと言う所でむせ返る程の色濃い血の臭いが漂った。ギルガメッシュも顔をしかめるほどだ。一体何人で殺し合いをすればこれだけの惨劇の後のような血臭がするのだろうか。

 

 だが、問題はそこではない。

 

 ()()はなんだ。

 

 どうしてあの場所にあれ程大きな()が存在しているのか。そしてその下敷きになっているのは、すでに腐り果て、その血の神秘が大地に流れて血を吸い、赤い草木を生やしている。

 

 アレは、イシュタルが引き連れた『天の牡牛(グガランナ)』だ。アレは3年前、3人で殺した筈だ。アレが何故死体となってこの場所に存在するのか。

 

 

「アレは……シドゥリよ、何故グガランナの死骸がこの場にある?」

 

「……アレは4ヶ月前、()()()()()()()()()1()()()イシュタル神ごと倒したものです」

 

「何っ……!? 幾ら我でも、アレを単独で倒すのは無理がある。まさかリィエルは、()()()()()()()と言うのか!?」

 

「……はい」

 

 

 シドゥリは肯定した。

 ギルガメッシュはリィエルの力を理解していた。「惹き寄せる力」に置いて、リィエルは自分の持つ財より輝きを見せる。それが歌となって無意識のうちに使えていたのは知っていた。

 

 だが、ギルガメッシュでも目を見開いた。

 星を惹き寄せるなんて、規格外な事を出来るなんて誰が予想できた。

 

 

「フッ、フハハハハハハハ!! 流石は我の見込んだ女よ!! 我でさえ為すことの出来ない事をやって退けた!! 一体誰が予想した!?」

 

 

 ギルガメッシュは高笑いした。

 リィエルがこれ程の力を持っていたとは誰が思っただろう。世界を見定め、裁定を下し、自分と共に星を背負う覚悟を持つ彼女は文字通り、星を背負いイシュタルとグガランナを殺した。

 

 

「神か!? それとも世界か!? 誰があの暴獣をイシュタルごと殺れる!? 全く持って我の斜め上の予想を裏切ってくれる!!」

 

 

 リィエルはギルガメッシュの約束通り、国を守ったのだ。

 イシュタルと言う悪神からウルクの地を民を守ったのだ。グガランナを引き連れたイシュタルをたった1人でリィエルは守り抜いたのだ。

 

 

「ギル、降りるよ」

 

「むっ……? ウルクまで数十はある筈だ。何故降りる?」 

 

「いいから、行くよ」

 

「なっ……!? ちょっと待てええええええ!?」

 

 

 エルキドゥはギルガメッシュの首襟を掴みながら、グガランナを潰していた山の頂点に空中から紐無しバンジーで降りていった。

 

 

「エルキドゥ貴様!! いくら我とて何も無しにこの高さから飛び降りるのは一度とはいえ冥界が見えたではないか!!」

 

「ギル」

 

「せめてヴィマーナをしまう位の時間を寄越すがいい!! アレは存外に壊れやすいのだぞ!! 二度と飛べなくなったらどうするつも──ー」

 

「ギル!!」

 

「っっ!?」

 

「前を見て」

 

「前をだと……? 一体何があると言うの……」

 

 

 そこにあったのは大量の花と突き刺さった()()()()()()()と、そして()()()()()()()()()だった。

 

 それはまるで誰かの墓のようだった。

 嫌な予感がした。ウルクに帰る途中に寄らなければならないのは何故か。今になって分かってしまったのだ。

 

 何故、この場所なのか、優秀な頭は嫌でもその答えに辿り着いていた。

 

 名前はこう書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『リィエル』

 

 

 ……そう書かれていたのだ。

 

 

 

「はっ……?」

 

 

 ギルガメッシュは目を擦った。

 痛くなるまで擦った。幻覚か夢か、はたまた旅路の疲れが目がおかしくなったのか。見違えている筈だと、そう思っていた。だが幾ら擦ろうが目の前の文字は変わらない。

 

 

「……嘘だ。嘘だよな友よ……」

 

「…………」    

 

「……リィエルが……死んだのか?」

 

「…………」

 

 

 ギルガメッシュの問いかけにエルキドゥはただ沈黙だった。それが答えだった。現実が飲み込めず、立っている地面さえ歪んでいるような感覚、ただ無情にも沈黙を続けるエルキドゥ。

 

 

「頼む……! エルキドゥ! 嘘だと言ってくれ!!!」

 

「……ギル」

 

「……いいえ、嘘でも間違いでもありません」

 

 

 その現実を叩きつけたのはシドゥリだった。

 涙を拭い、墓の前で膝をつき、シドゥリは真実を隠す事なく告げた。

 

 

 

 

「……4ヶ月前、リィエル様はお亡くなりになりました」

 

 

 それは最悪の現実だった。

 ギルガメッシュは身体から力が抜け落ち、跪いていた。リィエルが居たであろう世界は真っ黒に染まったようだ。白く、可憐に笑う彼女はこの世界から居なくなった。

 

 悪い夢なら覚めて欲しかった。

 

 

「何が……何があったのだ!!」

 

 

 激昂したところで、何も変わらない。そう知っていても、ギルガメッシュは声を荒げざるを得なかった。あの可憐な少女が、いつもギルガメッシュを叱る彼女が、どうなったのか。その疑問だけが、狂ったように頭を回り続ける。

 

 シドゥリは何があったのか全て話した。

 

 4ヶ月前、リィエルに何があったのか。

 

 

 ────────────────────

 

 

 ウルクの街に一つのワープゲートが繋がった。

 それは先程まで居た戦場から帰ってきた兵士と同じ、星が落ちる場所からリィエルが繋げたのだろう、

 

 

「リィエル様……!!」

 

 

 ワープゲートから姿が現れた。

 それは身体中の殆どが血で赤く染まり、背中には矢や剣の刺し傷、両耳は掠れるような音しか聞こえていない。右足の骨はは完全に砕けて片腕と片目を失い、更には腹部にマアンナの矢で貫かれ、吹き飛ばされた臓器。

 

 

「っ…………」

 

 

 そんな中よたよたと歩きながらも、未だに生きていたリィエルの姿だ。生きているのが不思議なくらいだった。

 

 

 

「リィ……エル……様」

 

「……シドゥリさんか……ただいま……」

 

「っっ!! 喋らないでください! 医者の方を呼んで来ま──」

 

「無理よ……もう。無理なのよ」

 

「無理ってそんな……事…………」

 

 

 リィエルは自分の死を悟った。

 リィエルは幾多の並行世界に繋ぎ、ギルガメッシュの財宝選びからその武器や薬を持っていた可能性に接続すれば、真名開放出来ずとも武器を手にし、薬ならギルガメッシュと同じレベルのものを引っ張り出せる。だが、それでも無理だとリィエルは断言した。

 

 

「……城まで行かなくちゃ……」

 

「リィエル様!!」

 

「シドゥリさん……悪いけど一緒に来てくれないかしら」

 

 

 リィエルが喋れているのも、エルキドゥの力で命を()()()()()()からだ。戦闘が終わり、魔術回路の殆どが断線した以上、繋ぎ止める時間も残り少ない。

 

 

「その身体で何をなさるつもりですか!? リィエル様……!」

 

「あの場所に……私がやらなきゃいけない最後の役目があるから……」

 

 

 ウルクの城の自分の工房に足がもたつきながらも向かっていた。するとシドゥリは膝をついてリィエルの前に背中を向ける。

 

「……乗ってください。城の工房ですよね?」

 

「……血で汚れちゃうよ?」

 

「構うものですか!!」

 

「ハハ……じゃあお願い」

 

 

 シドゥリはリィエルを背負って城の工房へ向かった。その時のリィエルはシドゥリがゾッとするくらい軽く、血も肉も失っていた。吐きそうなくらい恐ろしいリィエルの現状に歯を食いしばりながら城にリィエルを背負って急いで向かった。

 

 

 ────────────────────

 

 

 リィエルの工房は少し特殊だった。

 

 シドゥリ自身、何度か訪れた事はあるが、巨大な魔法陣が地面に幾つか書かれているだけ、本や机、魔道具など一切ない。代わりにギルガメッシュが旅に行く前に渡した宝剣が3つ、結界の触媒として突き刺さっている。

 

 魔術師ならもっと揃えているものだと思っていたが、ここまで殺風景なのは特殊と言わざる得ない。

 

 

「……うっ…………」

 

「着きました。リィエル様」

 

「……ああ……少し寝ていたわ……ありがとう……シドゥリさん」

 

 

 リィエルは魔杖にもたれかかりながらも立ち上がった。

 この魔法陣はリィエルにしか分からない。ただ、リィエルは虚数空間にしまっているだけである程度の道具をいつも取り出している。

 

 

「……接続……開放」

 

 

 リィエルが魔杖を地面に当てると、魔法陣から現れたのはギルガメッシュの中でも特別な財であり、()()()()()()にリィエルに預けたものだ。

 

 光が一つに集い、現れたのは、

 

 

 

 

「……ウルクの大聖杯」

 

 

 ギルガメッシュが持つウルクの大聖杯だった。

 

 ギルガメッシュが旅路に行く際に渡した特殊な財だ。ギルガメッシュが持つウルクの聖杯は特殊で()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ものだ。色々あって少量しか中身がなかった状態で渡されたが、それでも使い切る事を許されたものだ。

 

 

「それでリィエル様の傷を……!」

 

「ううん……無理……中身がないから……」

 

 

 ギルガメッシュがリィエルに渡した時に聖杯には()()があった。

 

 精々、些細な願いを叶えるくらいしかなかったが、聖杯の中身である無色の魔力は確かにあったのだ。

 

 

 だが、()()()()()。理由は分かっていた。

 

 

 リィエルは聖杯に一つ魔術をかけていた。もしも自分の思惑を超え、自分でもウルクを守る事が出来ないと判断した時、聖杯が()()()()()()()()()()()()に細工をしていた。

 

 リィエルが落とした星はリィエル自身でさえウルクを守れないと判断し、その結果、聖杯に願われた『()()()()()()』と言う願いが自動的に起動したのだ。

 

 アレだけの質量がウルク周辺で起きたのに被害が無いのは聖杯の力だ。だが無色の魔力が枯渇してしまうほどにリィエルの星の災害は酷かったのだ。

 

 

「……シドゥリさん、よく聞いて」

 

「……リィエル様…………」

 

「今……魔獣がウルクを襲ってるのは……恐らく三女神の1人が魔獣を生み出し……操っているからよ」

 

「三女神……ですか?」

 

「多少……予想は付く。私の予想でしかないけど、魔獣を生み出し、操れる存在なんて私には1人しか思い浮かばない……」

 

 

 ここ数ヶ月で魔獣の数が劇的に増えた。

 倒しても倒してもキリが無い程に、魔獣は増え続けている。凶暴な魔獣をこれ程の数生み出し、それを使役できる存在は1人……いや、一体と言うべきだろう。

 

 原初の母にして、人界創生の神である存在は1人しかいない。

 

 

 

 

 

「……()()()()()……私の予想ならそれが……蘇ろうとしている」

 

 

 ティアマト。

 古代メソポタミア神話に登場する原初の大地母神にして、『人類悪』の一つ。ティアマトは生み出した神々を愛したが、神々は母であるティアマトに剣を向けた。ティアマトは嘆き、狂い、新しい子供として十一の魔獣を産みだし、神々と対決し、戦いの末、ティアマトと十一の魔獣は敗れた。

 

 神々は彼女の死体を二つに裂き、天と地を造り、これを人界創世の儀式とした。つまりは世界創生の神話を持つ原初の母と言える。

 

 だが、彼女は人類に必要とされなかった。

 

 生命を生み出す土壌として使われたが、地球の環境が落ち着き、生態系が確立された後に、不要なものとして追放された。並行世界でもなければ、一枚の敷物の下にある旧世界にでさえない、世界の裏側──生命のいない虚数世界に存在する。

 

 

 それが世界の外側に蘇ろうとしているのだ。いや、正確には回帰すると言った所か。

 

 人類を愛すが故に人類を滅ぼす獣、それが『人類悪』だ。なんとも皮肉めいている。

 

 

「そんな……あり得ません!! ティアマト神はイシュタル神やエンリル神とは違い過ぎる程、格が違い過ぎます!! 世界を創生した神が蘇ろうだなんて……!!」

 

「……多分、三女神は何かを賭けて……ウルクを滅ぼそうとしてるの……それはこの聖杯か……世界の覇権かは分からないけど」

 

 

 それならティアマト神が一人勝ちしてしまう。

 これも推測だが、()()()()()()()()()()()()()()()()が存在している。三女神も分からない。自分が殺したイシュタルなのか、エンリル神なのか、冥界の女神かは分からない。

 

 

「っっ!! ゴホッゴホッ……!!」

 

 

 リィエルは血を吐いた。

 もう原因は分かってる。エルキドゥの繋ぎ止める力が切れてきたからだ。当然だ。既に死んだも同然、生きている方が不思議なくらいなんだから。

 

 

「リィエル様……!!」

 

「……シドゥリさん」

 

「何か……何が無いのですか!? 貴女自身が助かる術は無いのですか!?」

 

 

 シドゥリは叫んだ。

 どんな些細な可能性でもいい。これではいつもウルクを支え、王を叱り、偶に無茶をしながらも笑って、王の帰りを待つリィエルが報われないではないか。

 

 だが、リィエルは首を横に振り申し訳なさそうに言った。

 

 

「……ごめんね……私自身はどうしようもないの……」

 

「……っ! そんな……そんなの貴女が報われないではないですか!? 王が帰ってくるのを、待ち続けているリィエル様が……!!」

 

()()()()

 

 

 リィエルは初めてシドゥリを呼び捨てにした。

 その事に戸惑ったシドゥリはただ泣くしかなかった。それを母親のように頭を優しく撫でるリィエルが居た。

 

 

「……泣かないの……これは別れなんかじゃないわ」

 

「ですが……ですがリィエル様は死ぬより辛い事になる!! 私は……!」

 

「……シドゥリ……私は死なないわ」

 

「死んだも同然になります!! 私は……! 貴女が()()()()()になって欲しくない!!」

 

 

 シドゥリは分かってしまったのだ。

 

 今のリィエルには守る術が無い。魔獣戦線も兵士が奮闘しているとはいえ長く持たない。守る術があるとするならただ一つ。ウルクの大聖杯の中身を満たし、ウルクを守護する者。即ち()()を召喚する他ないのだ。

 

 ギルガメッシュの文献にあった7つの人類悪に打倒するために用意された七騎の英霊、それを世界の意思ではなく人の身で召喚出来る儀式が存在する。

 

 

 その名は聖杯戦争。

 

 

 七騎の英霊が聖杯を奪い合う儀式だ。それを利用し、人類悪対抗の手段として呼び出すなら、七騎は殺し合いをせずに人類悪を倒す為にウルクを守護する形に持っていくのだ。

 

 

 

 だが、中身が無ければ話にならない。

 

 

 

 中身は調()()しなければならない。

 

 

 

 では中身となるのは何だ? 

 

 

 

 無色とまではいかないが、英霊を召喚するのに充分過ぎる魔力を保有し、純粋な魂を持ち、汚れない強靭な精神を持つ人間は1人しかいない。

 

 もう答えは分かっていた。

 

 

 

 

 

 

「気づいていたのね……シドゥリ」

 

 

 ()()()()だ。

 

 リィエルが聖杯の中身となれば、それが可能となる。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()があった。

 

 

「……私は……私は貴女の犠牲を踏み台に……ウルクを守りたいだなんて思えません……」

 

「……そう」

 

 

 静かにその言葉を呑み込んだ。

 リィエルはシドゥリの事を優しく抱きしめた。シドゥリが血に濡れようと構わなかった。リィエルの友がギルガメッシュであるようにシドゥリもリィエルの事を大切に思っているのだ。

 

 気付けなかった訳ではない。ただ、それは相手を傷付けると言う事なのだ。

 

 

「シドゥリ……私の最後の我儘を聞いて……もらってもいい?」

 

 

 シドゥリは首を縦に振った。

 泣いて言葉も出ないまま、ただ頷くしか無かった。本当は聞きたくない、けれどシドゥリはリィエルから聞こえる心臓の鼓動が徐々に聞こえなくなっていくのだ。

 

 リィエルの最後は変わらなかった。

 

 せめて、リィエルの最後を見送るくらいしか出来ない自分が恨めしくて仕方なかった。

 

 

「はい…………」

 

 

 シドゥリは覚悟した。

 その返事がリィエルに届くと、リィエルは最後の我儘を口にした。

 

 

「私はもう……居なくなってしまう……ギルガメッシュを叱ってやれる……人が居なくなる……だから……貴女が……シドゥリが……王様を叱ってあげて……」

 

 

 リィエルが思い出したのはあの王の顔だ。

 結局、願いは叶わなかった。自分を置いて死ぬなって言われてたのに、叶わなかった。だから、託すのだ。

 

 ギルガメッシュを叱るのはいつもリィエルだった。

 

 

「……ギルガメッシュは……あの人は寂しがり屋だから……私が居なくなったら……後悔すると思う……だから……お願い」

 

「…………リィエル……様」

 

「……それと……シドゥリ……」

 

 

 リィエルは自分が長く愛用していた魔杖

白き世界の一つ星(ユニバース・ワン)』をシドゥリに渡した。

 

 それはウルクでギルガメッシュに認められた唯一の『巫女』たるリィエルが、シドゥリに『巫女』の称号を渡したと言う事でもある。

 

 

「これを……貴女に託す……」

 

「……わたしには……貴女のようにはなれません……」

 

「ならなくてもいいわ……貴女に託すのは私の意思……ウルクを守りたいと言うその想いよ……それをどうか忘れないで」

 

 

 リィエルはシドゥリの額に自分の額を押し当てた。

 もう、限界だ。リィエル自身の中にいるエルキドゥの存在が消えかかっている事を理解した。

 

 

「リィエル様……」

 

「もう……時間ね」

 

 

 泣き崩れながらもシドゥリはリィエルを見送ると決意した。それがリィエルに託された事なのだから……リィエルの我儘なのだから。

 

 

「シドゥリ……今までありがとう……またいつか」

 

 

 またいつか……星の下でまた会いましょう。そう告げたリィエルはシドゥリから離れて聖杯の前に最後の力を振り絞る。

 

 

「『星の巫女』としての最後を……我が身を聖杯に捧げよう……」

 

 

 リィエルは片腕を掲げ、聖杯と繋がった。

 魂が引き込まれそうになる。自分という人間が徐々に溶け合って消えていくのを感じる。

 

 けれどリィエルは踏みとどまった。

 

 

「だから……一時だけ……私は歌う。彼方の王に届ける為に」

 

 

 『星の巫女』としての最後の歌を聖杯に捧げた。

 

 それは優しく可憐で、何処か儚さを感じ、何処か寂しさを感じ、そして別れたくない後悔を感じた。

 

 それは誰かに届いてほしいと言う願いだった。

 

 

 

 

「(ねえ……ギルガメッシュ……)」

 

 

 

 私の役目はここで終わり、

 

 

 

「(最後まで……口に出来なかったけど……)」

 

 

 

 神と人の時代を隔てて、

 

 

 

「(あなたが……いてくれてよかった)」

 

 

 

 変わらなき意思を託し、

 

 

 

「(多分、私……あなたの事が…………)」

 

 

 

 世界を見守り続ける。

 

 

 

「────────」

 

 

 

 蒼い瞳から溢れた涙を流しながらそう最後に呟くと、リィエルは聖杯の前から消えていった。

 

 身体も、血も、歌の音色すら全てが光り輝き、聖杯へと集まって、それは流れ星のように儚さを感じさせながら消えていった。

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 またね。

 

 

 またいつか、星の下で……

 

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