星の巫女は貴方を待ち続ける   作:アステカのキャスター

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最終回です。


大学の課題がようやく終わって書く事が出来ました。

遅くなってすいません。

感想、評価があればよろしくお願いします。




『天』は託された星を背負い『人』は世界に微笑む

 

 

 シドゥリはただ泣いた。

 

 涙など枯れ果ててしまうほどに泣いていた。リィエルが無力な自分なんかに託して、聖杯の中身として消えていったのに、悲しみしかなかった。

 

 それでも……

 

 

『貴女に託すのは私の意思……ウルクを守りたいと言うその想いよ……それをどうか忘れないで』

 

 

 リィエルが守ろうとした事を()()()()()()()()()()()()()。シドゥリは立ち上がり、左手を聖杯に掲げる。自分は余りにも無力で、リィエルのようにはなれないだろう。

 

 

「──告げる!」

 

 

 それでも、そんな自分にリィエルは託したのだ。泣いてもいい、まだ弱くてもいい。だが、()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。次に自分が何をすればいいか分かった。リィエルがそこまでの道を繋げてくれた。

 

 だから、今自分に出来る事をシドゥリは右手にあるリィエルの魔杖を触媒に詠唱を紡ぎ出した。

 

 

「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に!! 

聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ!!」

 

 

 リィエルが指し示してくれた道を無駄にはしない。紡ぎ出した詠唱は加速する。

 

 

「誓いを此処に! 

 我は常世総ての善と成る者! 

 我は常世総ての悪を敷く者!」

 

 

 シドゥリはリィエルに託された最後の巫女。

 シドゥリは星を背負う事はできない。非力な自分ではリィエルに及ばない。それでも、リィエルが託したのは星を守りたいと思うその意思だ。故にシドゥリは新たな詠唱を紡ぎ出した。

 

 

「我は星より世界を賜りし者、

 人より星を授かりし最後の巫女」

 

 

 シドゥリを信じてくれたリィエルを忘れない。

 リィエルが王を待ち続けて、ウルクを守った事を無駄にしない。リィエルの願いは必ず自分が叶える。

 

 

『私はもう……居なくなってしまう……ギルガメッシュを叱ってやれる……人が居なくなる……だから……貴女が……シドゥリが……王様を叱ってあげて……』

 

 

 それが願いだ。

 恐らく民達は最後まで王の事を思いながら国を守った偉大な英雄に敬意を表するだろう。けれどシドゥリはそれを望んでいない。望んでいるのは、英雄の称号ではない。最後の最後に王に逢いたかったと願った1人の女の子だと知っていたから。

 

 

「汝三大の言霊を纏う七天

 抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ──!!」

 

 

 今でも胸が張り裂けそうだ。

 リィエルの魔力で英霊を召喚するのはリィエルを利用しているようで狂いたい程、悲しさに押し潰されそうだ。

 

 それでも、それでもリィエルが託した事をシドゥリが為さなければならない。託されたと言うのはそう言う事だ。

 

 膨大な魔力が魔法陣を通じて溢れ返る。

 

 そこに召喚された幾多の英雄が姿を表す。筋骨隆々で盾を持つ兵士のような男、刀を携え見た瞬間に手練れと分かる侍みたいな女、その後ろに立つ巨漢の男、そして白い長髪でフワフワと花を連想させる男。

 

 だが、シドゥリが驚いたのはそこでは無かった。

 

 召喚された英雄達の()()()()()()()に思わず目を見開く。

 

 

 

「……サーヴァント、エルキドゥ。召喚に応じ参上した。どうか無慈悲に使ってほしい」

 

 

 そこに居たのは、2年半前に神の呪いによって死んだ筈のエルキドゥだった。それはリィエルが触媒になった影響か、リィエルがギルガメッシュの為に願ったのかは分からない。

 

 それでも目の前にいるエルキドゥは紛れもなく本物だった。

 

 どうして、エルキドゥが召喚出来たか分かってしまったシドゥリは大声を荒げてみっともなく泣き叫んだ。

 

 リィエルの願いを叶える事とは言え、リィエルを犠牲にした自分が許せなかった。ただ、ただ泣くしかなかった。

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 

 

 

「これが……リィエル様の最後でした」

 

 

 シドゥリは涙を流しながらも顛末をギルガメッシュに全て打ち明けた。ギルガメッシュはただ呆然と、世界が黒く染まっていく。

 

 

「……無理もないよギル、僕も君と同じくらい悲しいよ」

 

 

 エルキドゥはそれを見て、同情するしかなかった。

 いや、()()()()()()()()()()。エルキドゥが召喚された理由はリィエルだ。リィエルの力があるからここに居る以上、エルキドゥにはどうする事も出来なかった。

 

 

 

「…………あ……」

 

 

 涙が溢れた。

 

 自分を待ち続けるが為にウルクを護り、神の時代と人の時代を文字通り命をかけてまで成し遂げた彼女に一体自分は何をしてやれたのか。

 

 何もしてやれなかった。気付けなかった。

 

 いや、気付けた筈だ。エルキドゥを失い、不死に縋る自分とは違い、彼女はきっと()()()()()()()()を。

 

 死とは悲しく、生物全てが囚われてしまう物だ。けれど、死なないと言うのは、いずれ誰かを置いて生き続けなきゃならない死より悲しい現実だと言う事に、気付けた筈なのだ。

 

 届かない。届く筈が無かったのだ。

 

 ギルガメッシュでさえ届かない高嶺の花に思えてしまう程にリィエルが遠かったのだ。

 

 

 

 アレだけの偉業を誰が成し遂げられる? 

 

 自分が任せた国を自分だったら護り通せた? 

 

 もし、自分が不死なんかに縋らなければ、

 

 

 

 リィエルは死ななかったのか? 

 

 

 

「あ……ぅぁ……あぁ……」

 

 

 エルキドゥを召喚出来たのはリィエルが願ったからだ。

 

 寂しいと思わせないように、支えになってくれる存在がギルガメッシュの隣に居る事をリィエルが願ったからだ。彼女は最後の最後まで王の為に在り続けたのだ。

 

 ギルガメッシュには分からない。

 

 分からない程遠すぎた。一体どうしてそこまで王の為を思えたのか。託されたシドゥリにもギルガメッシュからしたら遠く、託したリィエルの背中は余りにも遠すぎる。

 

 追いつけない。追いつける気がしない。

 

 リィエルと言う一つの星に届く気すらしない。

 

 

 

「うああ……あああああ……」

 

 

 ギルガメッシュの口から、獣にも似た呻き声が漏れた。

 再びその場から崩れ落ち、地面を何も考えずに見下ろした。

 

 

「あああ……ああああああ!!」

 

 

 どうしてリィエルはこんなにもウルクを思える事が出来たのだろうか。どうして自分が人柱になってまで守りたいと思えたのか。何故未だに帰らぬ王の為にここまで戦い、ここまで人として誇らしく在り続けたのか分からない。

 

 狂っているのかもしれない。

 ウルクを守りたいと思うそれは狂気の沙汰かもしれない。

 

 それでもその在り方は美しく、一切の後悔すら残さずに誰かの為に次に託した。そんな在り方を誰が真似できるのだろう。

 

 

「あああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

 

 漏れ出たのは、慟哭だった。

 

 頭を抱え、涙を流し、喉が枯れてしまう程に叫びながら、絶望する。

 

 自分は一体何をしていた。大切だった彼女さえ死にゆく時すら見届けられず、何も出来ない無能の王の為に彼女は死んだのだ。

 

 約束の為にと酷い枷で縛って国を守らせて、手に入れた不死の草さえ最早意味などない。ただ彼女を置いていき国を守らせ、神の時代を終わらせて、国の為に命を捧げた彼女に自分は何もしてやれなかった。

 

 何も出来なかった自分の為に彼女は死んだのだ。自分が不死に縋るから彼女を見殺しにしてしまったのだ。

 

 

「何故だ……何故そこまで我の為に、我なんかの為に!!」

 

 

 ギルガメッシュはただ泣くしかなかった。

 自分の人生で唯一の光だったリィエルが消えた世界に絶望し、今の自分には後悔しかなかった。無能の王に付き従えた偉大な巫女は最後まで国を想い、王に託した。

 

 約束も叶わなかった。

 

 自分が居たら、あの時自分が居たら、こんな結末は無かった筈なのに。千里眼で見通せば、こんな最後は無かった筈なのに……

 

 

「何故……何故貴様が命を落とす!?不死に縋る道化の我に……!!何故お前が死ななければならない……!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バギィ!! 

 

 

 突如、鋭い痛みがギルガメッシュを吹き飛ばした。

 

 ギルガメッシュが言葉を詰まらせ、空気を静寂にする。

 ビクリと肩を震わせ、その目を大きく見開いた。

 ギルガメッシュは頬の痛みを与えたエルキドゥを呆然と見ていた。

 

 ────その身体は、震えていた。

 

 エルキドゥは、呼吸を荒くし、肩で息をしながらも、また殴りかからないように必死に抑えていた。

 

 

「……フー、……フー!!」

 

「っ……エルキ、ドゥ……」

 

 

 ギルガメッシュは、自分がずっと放ち続けてきた言葉を止め、出会ってから一度も見た事の無いエルキドゥのその表情に驚いていた。

 

 

「……エル……っ!」

 

 

 ────エルキドゥの瞳は、涙で潤んでいた。

 エルキドゥの、その冷たい目は、確かに怒りを帯びていた。それはリィエルを死なせた事に対してでは無かった。ギルガメッシュの胸元を掴み、持ち上げる。

 

 

「……“全部、我の所為”だって……? ……自惚れるなよ……ギル!!」

 

「……っ」

 

「っ……たかが、君一人の責任で、リィエルが死んだだなんてっ……! リィエルが思っていた事はそうじゃないだろ……!!」

 

 

 ────ギルガメッシュのその言い方は、まるで。

 自分がリィエルに託さなければ、リィエルは死ななかったと。そう言っているみたいで。エルキドゥは殴らずにはいられなかった。

 

 リィエルがどんな思いでウルクを守ったのか、帰りを待ち続けたのかは知らない。けれど、ギルガメッシュに託された事を誇りに思ったからこそ、リィエルはウルクの全てを守り切ったのだ。

 

 

 

 

「────馬鹿にするなよギル!! 僕の友達は、()()()()()()()()()()()()()()()と言うつもりか!?」

 

 

 守らせなければ死ななかった? 確かにそうかもしれない。けれど、それでは、今のリィエルは何の為にウルクを守った? 無能の王? 不死に縋る道化? 

 

 違う。そんな王の為にリィエルが犠牲になったのならば、リィエルの死は一体何だったのか。リィエルは最後まで、そんな男の為に戦ったのではない。

 

 

「リィエルが……リィエルが何を想って守っていたのか……!! 君には分かる筈だろう!!」

 

 

 ()()()()()()()だからだ。

 いつもと変わらないギルガメッシュを待っていたのだ。傲岸不遜で天上天下、それでも国の為に戦い、エルキドゥと3人で笑い合ったギルガメッシュを、ずっと待ち続けていたのだ。

 

 

 

「立ちなよギル……! 君は王だ、リィエルが全てを捧げてまでその玉座を守った()()()()()()()なんだ……!!」

 

 

 エルキドゥの潤んだ瞳から涙は零れ落ちていた。

 立ち上がらなければ、リィエルが求めたギルガメッシュはこんな所で折れるはずがないと信じて守り続けたリィエルが惨めに思えてくる。

 

 もう分かっている筈だ。

 

 

「……ギル…………立って……立ってくれ……!」

 

 

 エルキドゥではない。

 リィエルが待ち続けた人はエルキドゥじゃない。今を生きる人達の上に立ち折れないと信じて託したなら、立ち上がらなければリィエルの全ては無駄になる。

 

 故にエルキドゥは必死に懇願するように力が抜け落ちたギルガメッシュに言い続ける。

 

 抜け殻のように、ただ呆然として何も見えていないギルガメッシュにそれだけしか今のエルキドゥには伝えることが出来ない。

 

 

 

 

 

「…………っ……」

 

 

 ギルガメッシュは立ち上がった。

 そこには王としての覇気は無く、失ってしまった悲しみに顔は酷く見えた。だが、それでも立ち上がらなければいけないのは分かっていた。

 

 リィエルが待ち続けた自分はここに帰ってきたのだ。

 

 

「リィエル…………」

 

 

 自然と、墓に突き立てられた斧のような魔杖に手を伸ばした。

 どうしてこの時手を伸ばしたかは分からない。けれど、ギルガメッシュはそこに誰かが居た気がしたのだ。

 

 その魔杖に触れた瞬間、ギルガメッシュの視界から世界が消えた。

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 

 

 

「…………ここは……」

 

 

 空も、地面も何も無い白い世界だった。見渡す限り何一つ存在しない空虚な世界だ。けれど何処か懐かしく思えてしまうような世界にギルガメッシュは困惑する。

 

 

「…………」

 

 

 目の前に一つの扉があった。

 装飾も色もなく、真っ白な扉が目の前にあった。それ以外何一つ存在しない。けれど、その扉の先に居る。

 

 

「そこに……居るのか」

 

 

 ギルガメッシュは直感で分かってしまった。

 この扉を開けたら待ち続けてくれた人が居る。こんな自分を支えてくれた高嶺の花のような女が居る事を。

 

 ギルガメッシュは扉を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あ……ああ」

 

 

 そこは壁も無く、城も無ければ、国どころか地面さえ無い世界だった。けれど無限を思わせる程の星空に、優しく可憐で儚さを感じる懐かしい歌声、そしてその先には1人の女がいた。

 

 あの時と変わらない長い銀髪に蒼い瞳と少女のような可憐さを持つ女が振り向いた。

 

 

 

 

 

 

「──おかえりなさい。ギル」

 

 

 あの時と全く変わらないリィエルが居た。

 柔らかな笑みでギルガメッシュに伝えた言葉、そこに皮肉は全く無く、何も言わないギルガメッシュを見据えて悲しそうな顔をしていた事に困惑していた。

 

 

「あ、あれ? 何か間違えちゃった?」

 

 

 何一つ変わらなくて、美しいままだ。

 

 会いたいと、望んでいた。それと同時に責められると思っていた。いや、責めてほしかった。それに例えリィエルに殺されるなら、それも良いかもしれないと、そう思えた。

 

 けれど、彼女は責めなかった。

 

 

「……怒らないのか?」

 

「怒れないよ。私は貴方を置いていったから」

 

「……貴様の……所為ではないだろう」

 

「それでもだよ。約束を破った。ごめんなさい」

 

 

 

 リィエルはそれだけ言うと、少し悲しい顔をして苦笑していた。

 

 

 

「……は」

 

 

 

 ギルガメッシュはその動きを止めた。一瞬、何を言われたのか分からなかった。泣きそうだった涙は消え去り、頭がぐらつく。リィエルの謝罪にギルガメッシュはただ、呆然とした。

 

 

 ────今、なんて? 言ったんだ? 

 

 

 ギルガメッシュには分からなかった。謝らなければいけないのは自分の方なのに、何故彼女が謝っている? 

 その言葉だけは、どうしようもなく受け入れ難かった。言葉が出てこない。身体を震わすだけ。

 

 

 

「……我を、責めないのか……?」

 

「……責められないよ。私も貴方もエルの友達だったんだから」

 

 

 

 エルキドゥが死んでから、リィエルもギルガメッシュも辛かった。あのままではギルガメッシュは壊れてしまうと知っていたリィエルはギルガメッシュを送り出した。

 

 確かに押し付けられたのかもしれない。けれどリィエルはそれでもギルガメッシュのあんな顔は見たくなかった。だから寂しさも在りながらも、ギルガメッシュの旅を止めなかったのだ。

 

 

「恨んで、ないのかっ……! 我は、お前に、ただ押し付けた……! ウルクの危機にすら駆け付けてやれなかった……! それでも我を責めないのか……!」

 

「……うん。私が貴方ならそうしていただろうし」

 

「っっ!」

 

「それに、貴方は多分不死を得ずに帰ってくるって、心の何処かで分かっていたから……不死になるって事はエルの約束を無かった事にしてしまうから、いつか貴方がそれに気づくって分かってたから」

 

 

 死と生は表裏一体。死ぬから、生きていられる。生きるという始まりがあるからこそ、死という終焉が存在する。不死といえば聞こえはいいが、それは終わりがある者を置いていく事に他ならない。

 

 リィエルは不死になりたいと思わなかった。

 

 

 けれど止めなかった自分にも責任があるから。

 

 

 

 

 

「ギル、聞いて」

 

 

 リィエルは真剣な顔になり、ギルガメッシュに近づいた。

 

 

「今、私は聖杯の中に生き続けてるの」

 

 

 リィエルは聖杯の中身になっただけではない。

 その魂は聖杯の中に留まり続け、ウルクの大聖杯は起動し続けている。聖杯戦争を関係なく、英霊を長く現界させる事は普通の聖杯では不可能で、巨大な力が働かなければ普通は無理なのだ。

 

 

「ウルクを滅ぼす三女神、魔獣の母ティアマト、どちらにせよ脅威である事には変わらない。今のままじゃエルが居ても勝てるか分からない」

 

 

 ティアマト神については原初の母であり、生物の存在がティアマトの存在理由になる程の脅威的な存在だ。神話の始めはティアマトから始まったと言っても過言ではない。

 

 そんな存在が起動すれば……世界の終わりだ。

 

 

「今、ウルクは英霊達に支えてもらってる。けれど鍍金(メッキ)はいつか剥がれる。だからギル、貴方がウルクを支えてあげて。あの場所は私が愛した場所で、失くして欲しくない場所なの。そしてそれが、私の最後の我儘」

 

 

 リィエルはもうウルクを自分で守れない。

 だからこれは我儘だ。ギルガメッシュに守ってほしいと言うリィエルの我儘だ。

 

 

「もし、もしね。全てが終わって、貴方がウルクを守らなくてもいいって、そう思える時が来たら───」

 

 

 王が居なくとも、今を生きる人間達が支え合える時が来たら。人の時代を築き上げたリィエルに何か意味があったと伝える事が出来たなら。

 

 その時は────

 

 

「私を聖杯から解き放って」

 

 

 それは、自分を殺せと言う意味だった。

 その言葉を聞いた瞬間、ギルガメッシュは目を見開いた。震える身体を抑えながら、それを許したく無かった。

 

 

「出来るわけが……ないだろう!!」

 

「……いつか、貴方にも私と同じくらい大切な友達が出来る。いつか、私と貴方とエル、3人で生きる時が来る。貴方が死ぬ時は私も一緒に行きたいの」

 

 

 ギルガメッシュはまだ生き続ける。

 だが、全てが終わり、王としての責務が無くなり、人の世の始まりを見定める事が出来たのなら。リィエルもその役を終える時なのだ。

 

 ギルガメッシュは分からなかった。自分を見殺しにした相手と一緒に死にたいなんて正気の沙汰ではない。狂気かもしれないだろう。

 

 

「何故……何故そこまで……」

 

 

 

 今はまだ言えない。

 本当は言いたいけれど、今の気持ちを足枷にして欲しくない。本当は待ち続けたくない。寂しくて、1人は悲しい。けれど、いつかまた星の下で会える時が来るのなら……

 

 リィエルは嘘をついた。

 

 

()()だからだよ。ギルガメッシュ」

 

 

 ギルガメッシュの身体が光り始めた。

 それはリィエルが創ったあの魔杖に残した僅かながらの力が失われているのだ。あの魔杖に込められた繋がる力は、聖杯まで繋がっているが、それももうお終いだ。

 

 

「繋がれるのは、ここまでみたいね」

 

「…………」

 

 

 ギルガメッシュは何も言わなかった。

 この別れは永遠の別れではない。遠い未来でまた逢う誓いだ。それを分かっていたから

 

 

「……リィエル、最後に一つ聞かせよ」

 

「?」

 

「貴様は我が……我が王でよかったか?」

 

 

 その言葉にリィエルはクスッと笑いながら口にした。

 

 

「当然だよ。貴方なら越えられるって信じてるから」

 

 

 額を当てて、リィエルは当然の如く言った。

 その言葉にギルガメッシュの目からは涙が溢れていても、笑っていた。これは最後なんかじゃないって、分かっていたから。

 

 ギルガメッシュはリィエルを力一杯抱きしめた。

 

 

「──リィエル、我は必ずお前を迎えに行く。だから、待っていろ」

 

 

 遠い星だろうと、どんな所に居ようと必ず迎えに行く。

 ギルガメッシュはまた遠い未来の約束をした。

 

 

「ははっ、待ってるよギルガメッシュ。星の下で、私は貴方を───」

 

 

 最後に笑いながら泣いていた。

 最後に告げたリィエルの言葉が途切れ、ギルガメッシュの身体は白い世界から消えていった。

 

 

 ────────────────────

 

 

 目を覚ますと、自分の右手にはリィエルの創った魔杖が収まっていた。神々が用意した鎧はもう無く、人としての王の姿にギルガメッシュは変わっていた。

 

 後ろに立つエルキドゥはギルガメッシュに問う。

 

 

「……もう、良いんだねギル?」

 

「……()()()()()()()

 

 

 それ以上の会話は、必要なかった。ウルクに向かって歩き出すギルガメッシュとエルキドゥ、託された巫女であるシドゥリは静かに後ろへと付き添った。

 

 

「……どうするおつもりですか」

 

「決まっておろう。リィエルが成した事を引き継ぐ。神の時代は終わった。これより人の時代を築き上げる。我は、王なのだからな」

 

 

 最後まで自分を友達と呼び、最後まで自分の国を守り続けた巫女が居た。自分が王でよかったと心の底から言ってくれた人が居た。

 

 だからもういいのだ。後悔なんてすることが惜しいくらいだ。

 

 

「民は、反対するでしょう」

 

「わかっている。シドゥリ、エルキドゥ、手を貸してもらうぞ」

 

 

 リィエルが守り続けたあの場所を無駄にはしない。

 三女神にティアマト神、異端の存在に人類史の崩壊、定められた未来を覆さなくてはいけない。

 

 命をかけて守り抜いたリィエルの行為を無駄にはしたくない。だから、千里眼で見える未来の絶望など覆して見せる。

 

 

 

「行くぞエルキドゥ、シドゥリ、今こそ王の帰還だ。託された物を手に出来たのだからな」

 

 

 託された想いも、願いも我儘も、ギルガメッシュは全て受け止めよう。それが王の度量という物だ。

 

 ギルガメッシュはもう失敗しない。

 

 この先に何が起きようと、

 

 

「待っていろ。必ず───」

 

 

 約束を違わないと誓ったのだから。

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行っちゃったな……」

 

 

 私は未だに白い世界で立ち続けていた。

 

 聖杯の中は何も無くて、自分が描いた星の空を眺め続ける。

 

 

 

「ギルガメッシュ……」

 

 

 この気持ちは、まだ閉まっておこう。

 

 今の私には似合わない。この感情も、胸の痛みも、愛おしく思えてしまうから。今はそれだけでいいのだ。

 

 

 約束したのだから。

 

 

 星の下でまた会えると約束したから。

 

 

 だから……

 

 

 

 

「次逢う時は、必ず伝えるから……」

 

 

 

 

 全く、厄介な人を好きになってしまったな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは、英雄の物語ではない。

 

 

 国を愛し、彼女は戦ったかもしれない。

 

 

 けれど、それは1人の王の為に、と。

 

 

 

 彼女はただ待ち続けた。

 

 

 

 

 彼女が彼の前から居なくなっても。

 

 

 

 彼女は今も、変わらず待ち続ける。

 

 

 

 ただ恋焦がれた女の子の物語だった。

 





次回リィエルのプロフィールを公開し、本当の完結とさせていただきます。アンケートへのご協力、よろしくお願い致します。

完結した後、書いて欲しいシリーズは?

  • エルキドゥを混ぜ込んだ約束のZERO!
  • いや、やはり王道でFGOでしょ!!
  • 馬鹿野郎!!そこはカルデアの幕間だろ!!
  • いやいや、ここは冬木も捨てがたいだろ!!
  • どれでもいいからイチャイチャ寄越せ!!

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