ジーナに案内されてやってきた土産屋は、小さな店だった。隅々までじっくり眺めても、十分はかからない広さ。だが、そんな店でも二人には充分楽しめる品が揃っていた。
「お嬢さんたちいらっしゃい。このリュージョンでしか売っていない物もあるから、じっくり見ていっておくれ」
奥から老婆がやってきて声をかければ、二人は礼を言ってから熱心に土産を眺める。その様を目を細めて見守っていると、少し遅れてエミリアたちもやってくる。老婆は挨拶をした後、今度はブルーに声をかけてきた。
「お客さんは、術師かい。心術を学びにきたのかね?」
「そうしたかったのだがな、向いていないと断られてしまった」
「おやまぁ、そんな事もあるんだね。それじゃあそこの美人さんとモンスターと、術の旅を?」
「ああ。ついでに言えば、そこの二人組も旅の仲間になる」
「おや、お嬢さんがたもそうなのかい。若いのに大変だねぇ。そうだそうだ、旅をしているのなら、こんな物はどうだい?」
何やら一人で納得して、奥に引っ込む老婆。少ししてから、お盆に何かを乗せて戻ってきた。
「旅の安全を祈願したお守りだよ。効果は小さいけれど、ちゃんとご利益もある。同じ目的の仲間として、揃いのお守りを身に付けて絆を深めるというのも悪くないと思うよ」
「あら、可愛い」
反応をしたのはエミリアだ。ジーナの隣に移動し、一緒になって差し出されたお守りを検分し始める。
「へぇ、お値段も手頃なのね。かさ張るものでもないから、鞄にでもつけておこうかしら」
「済王様は、こういうアクセサリ類なら付けられるんだよね? どれにするか選んで選んで!」
「あぁ、では見させてもらおうか」
「ブルーさんもいらしてください。お守りの種類によって効果が変わってくるみたいですよ」
「……分かった」
ジーナに誘われ、ブルーも傍へとやってくる。どうせ買うのなら、役に立つ土産の方がいいと判断したからだ。全員で手に取ったり効果を訊ねたりした結果、翼のお守りを人数分買うことにした。エミリアにクレジットを渡し、会計を頼んでいたアセルスだが、買った後もしきりに他のお守りを弄っている。
「どうしたアセルス、他の種類も欲しいのか?」
「あ、済王様。ううん、違うよ。折角だから、白薔薇やあの人にも、お土産買っていこうかなー、って考えていたの。私、ファシナトゥールってリージョンから来たんだけど、その二人から良くしてもらったからさ」
「悩むくらいなら買ったらどうだ」
「え、いいのブルー?」
意外な人物からの言葉に、アセルスは驚く。
「……私を何だと思っているんだ。まあいい。金を持っているのはお前なんだから、気になるようなら買っておけばいいだろう」
「結構買うよ?」
「なら余計ここで買っておけばいい。私としては、諦めきれずに別の場所で高価な土産品を買われるより、それほど高いものではないお守りを買ってもらった方が助かる。荷物にもならないしな」
「ブルー、もうちょっと本音を隠した方が人間関係にヒビ入れずにすむわよ」
「うーん、あんまりな言い方だけど筋は通ってるから文句を言うのはやめておくよ。じゃあ白薔薇とあの人には花のお守り、イルドゥンたちには牙のお守りを買うことにするね」
そうして更に六つのお守りを購入した。
「あの、店長さん。このお守りを配達してもらうことは可能ですか?」
「場所によるねえ。定期的にシップが発着しているリージョンなら大丈夫だけど、それ以外の場所だと厳しいかな」
「じゃあ届けてもらうのは無理か。あの個人シップの人にあったら、またお願いしようかな。会えればいいけれど」
個包装してもらったお守りを鞄に仕舞いながらアセルスが呟き、これで用は済んだとシップの発着所へと向かう。
だが、そんな一同を影からコッソリと監視している人物がいた。
「クッ、あの小娘め。浮かれた女子高生の如く、旅を満喫しおって……!」
ギリギリと音がしそうなほど口を強く噛んでいるのはファシナトゥールの上級妖魔、セアトだった。彼がここにいる理由はただ一つ、オルロワージュに命令されたからである。
「娘の様子を見てこい。便りがないのは元気の証拠というが、万が一という可能性がある」
一歩間違えれば消滅するのではと思うくらいの圧をかけられ、セアトは針の城を飛び出すようにして後にした。ちなみに、ファシナトゥールを出たのは十日前。見てこいという割には場所を教えてもらえなかったので、あちこちのリュージョンを探し回っていたのだ。寧ろ、十日でアセルスを見つけた事を褒めてもらいたいくらいだと思っている。
此方が必死に探し回っていたというのに、相手は呑気に景色を眺め、更に楽しそうに買い物までしていた。逆恨みだとは解ってはいるが、殺意を抱かずにはいられない。加えて、セアトがアセルスにイラつくのはもう一つ理由がある。
セアトの頭のなかでは、シップの事を伝えればアセルスはイルドゥンか白薔薇を連れてファシナトゥールから逃げ出す筈だった。それを主に伝え、追った際に事故と見せかけアセルスから妖魔の力を奪う。そして、奪った力を元に他の妖魔も襲い、最終的にはオルロワージュの力さえ手にして、針の城の新しい主へと成り代わるつもりだったのだが。
事もあろうにアセルスは、オルロワージュにリージョンから出たいと直談判しに行ったのだ。挙げ句どういう手段を使ったのかまでは知らないが、手厚い介護付きの了承まで得て。
食べられないご馳走など、ストレス以外の何物でもない。手を伸ばせば届く位置にあるのなら、尚更だ。
と、苛立ちを隠すことなく殺気を撒き散らしていたので、当然誰かに気付かれ。
「アセルス、あの男が先ほどからお主をみているようだが、知り合いか?」
「あれ、セアトだ!」
バレた。