「クッ……」
アセルスに気付かれたセアトは、顔を歪めながら姿を現した。突然姿を見せた妖魔に、アセルスとジーナ以外は物珍しそうな視線を向ける。
「へぇ~、貴方がアセルスが言っていたファシナトゥールにいる妖魔? やっぱり整った顔しているのね。レンには敵わないけれど」
マジマジと見据えた後にケラケラと笑うのはエミリアだ。セアトは、そんな彼女に憎悪のこもった目で睨み付ける。上級妖魔を前にして、人間ごときが評価を下すなどおこがましいにも程がある、と。無礼者が! と切り捨ててやりたい気持ちが込み上げてくるが、なんとか押さえ込む。下手に戦闘に持ち込んでアセルスに怪我でもさせた場合、主の怒りを買って確実に自分の命がなくなるからだ。くわえて、アセルスを囲んでいるメンバーにも問題がある。
(フン、呑気に旅を楽しんでいるだけかと思っていたが……。随分と手練れを連れているじゃないか)
アセルスの横に並ぶ旅の仲間を観察した後、セアトは目を細めた。上級アンデッドに術師、先程笑っていた女も腰には性能のよさそうな銃をさしていて、身体も鍛えているのか引き締まっている。先程の賑やかな雰囲気からは、想像もつかない人選だと感じた。そして、アセルスと彼女にぴったりとくっついている、仕立て屋にいた娘だが。
(こちらも……城から出た時に比べれば成長したようだな)
城内でボーイナイフを手に、へっぴり腰で低級モンスターを相手にしていた時とは見違えるほど、アセルスが幻魔を持つ姿は凛々しく、美しかった。仕立て屋の娘も、ブリューナクを手にしている。この銃は威力は高いが、込められている弾数は一発だ。それしか装備していないということは銃の腕に自信があるか、銃を射ち終えても攻撃の手段があるということだろう。銃を上手く扱うのに必要な集中力は、術を発動させるにも有用なので共にいる術師に師事しているのかもしれない。
(これはオルロワージュ様に報告をした方がいいか?)
万が一にも目の前の相手が、反旗を翻すつもりで仲間を集めているとしたら少々厄介な事になるが、セアトは考え直す。
今のオルロワージュは、完全に親バカと化している。おそらく進言した所で「娘がそのような計画をたてるものか」と一蹴されるだろう。下手すれば恨みを買ってしまう可能性もあるので、黙っているのが最良の選択だ。ひょっとしたら互いに潰しあって、漁夫の利が自分に転がり込んでいる可能性もある。
「ところで、セアトは何しに京に? セアトも観光?」
「貴様と一緒にするな、半妖。私はオルロワージュ様に言われ、様子を見にきただけだ。別段変わった所もないようだから、これで失礼する」
質問に早口で答えてから、もう用件は済んだとさっさと背中を向けた。だが、それをアセルスが呼び止める。
「針の城に戻るの? それなら、さっきお土産を買ったんだ。ついでだから、持っていって皆に渡してくれないかな」
グイグイと幾つもの小袋を押し付けられて、セアトの額に青筋が浮かぶも、黙って受けとった。押し返しなどすれば、問答が始まって更に面倒くさくなりそうだからだ。
(小娘どもが。この貸しは高くつくからな)
内心舌打ちしながら、渡された品を確認する。赤い紐が結ばれているのは、白薔薇姫とオルロワージュに渡す物らしい。そして、青い紐はイルドゥンら宛らしいが。
「おい、小娘。此方の袋は四つあるが、誰に渡すんだ」
怪訝な顔をしながら、訊ねる。アセルスが針の城で直接関わった妖魔は、上記に出ていた二人と、イルドゥン・ラスタバンくらいだ。他の二つを誰に渡すのか、セアトには想像がつかない。すると、アセルスは何を言っているんだという顔をする。
「誰って、セアトに決まっているじゃないか。あ、もう一つはゾズマに宜しく。会えた時でいいからさ」
本当はゴサルスにもって考えてたんだけれど、あの人凄く器用だから、こんなの渡しても邪魔なだけかなーと思って。
その言葉を聞いて、セアトは耳を疑った。土産? 自分にもだと?
「何故私にも? 貴様に感謝されるような行為はしていないだろう」
「何言ってるんだ、個人シップの事を教えてくれたじゃないか。そのお陰で、こうやってジーナたちと旅が出来るようになったんだからさ、お礼をするのは当然だと思うけれど」
「そんな、アセルス様……♡」
どうも彼女は、自分が善意でシップの発着を伝えたと勘違いしているようだ。さて、どうする。黙ったままにしておくか、間違いを訂正しておくか。
「……言っておくが、私は親切心でシップの事を言ったわけではないぞ」
「うん、知ってる。セアト、私をよく思ってないんだろうなって。でも、どんな気持ちであれ教えてもらえて凄く助かったんだ。ありがとう。だから、捨ててもいいから、今は受け取って貰えると嬉しいな」
「いいだろう。そこまで言うなら貰っておいてやる。……勘違いするな! 別に嬉しいとかそういうわけではないからな!」
最後は一気にまくしたてると、渡されたお守りを握り締めてセアトは消えていった。
「嬉しくない? あれだけにやけた顔で言われても説得力がないな」
「やれやれ、ブルーに言われたらおしまいね」
「うむ」
* * *
一方ファシナトゥールの針の城内では。
「娘が私に旅先の土産を? ゴサルスを呼べ。今から奴にこのお守りを保存用・観賞用・見せびらかし用として、最低三つは複製させよ!」
「コレをアセルス様が私に? ああ、離れていても私の事を想っていてくださるのですね。嬉しゅうございます。できることなら私もアセルス様のお側に……」
「ア、アセルス様から物を承るとは! 直ぐに祭壇を作って祈りを捧げなくては!」
「な、何を見ている! コレは仕方がなくつけているのだ。決して大事にしようとか、そういうつもりは微塵もない!!」
程度の差はあれ、皆喜んでくれた。
はしゃぐ一同を眺めていると、イルドゥンの中に疑問が沸く。
(たかが、お守り一つで。しかし城内の者の反応……ひょっとして俺がおかしいのか?)
イルドゥンの中の 常識が 乱れる!