後二・三話でこの話も終了の予定なので、それまでお付き合い願えると嬉しいです。
関係ないですが、孤児を育てている&丁寧語だと麒麟さんがどうもボ卿と被ってしまいます。
おやおやおやおや
次の日、クーロンの宿でぐっすりと眠って疲れを癒したアセルスたちは、ドゥヴァンへとやってきた。
例の、恐ろしく階段数の多い神社を前にしたときは全員真顔になっていたが、ここを登らなければ辿り着けないことを説明すれば、タメ息をつきながらもなんとかついてきてくれる。当然、登りきった後はしばらくの間誰も口をきくことはなかったが。
「なんじゃ、大勢で騒がしい。全く今日は……む、お主らであったか。久しいな、息災であったか」
「お、おはよう零姫ちゃん。ゼェゼェ」
「無事に二つの資、資質の資格を得てきましたので麒麟さんに会いにきました。ハァハァ」
「うむ、解った。解った故に息を整えて落ち着くがよい」
アセルスたちの言葉に頷いてみてから、零姫は息を荒くしている一同を眺めた。あの時から、人数が随分と増えている。と、その中の一人の顔を見て、首を傾げる。はて、何処かで見た気がと思考を巡らせると思い出して声に出す。
「ふむ。お主の顔、どこかでと考えていたら先程やってきた一行の中におった者に、よく似ておるな」
「……私に似た男?」
胸を押さえて屈んだ状態のブルーが、ハッとしたように顔を上げて零姫を見つめた。ブルーの問いかけに零姫は小さく頷いてみせる。
「うむ、一時間ほど前の事か。来た人数もちょうどお主らぐらいかもしれんな」
「その男は、何をしにここへ?」
「さぁ、大して興味もなかった故訊きもしなかったが、術を学んでいるようだったぞ。あやつらは、時術を知りたいと言ってからムスペルニブルの指輪の君を紹介した程度だ」
「……そうか。それだけ解れば充分だ」
「どうしたのブルー? 何か気になることでもあった」
「いいや、なんでもない」
何時も以上に生真面目な顔をするブルーに、気づいたエミリアが声をかけてみるが、彼は緩く首を振り早く行こうとアセルスを促す。
「うん、そうだね。じゃあ零姫ちゃん、お願い!」
「解っておる。では、久しぶりの再開を楽しんで来るがよい」
* * *
見えない何かに引っ張られるような感覚の後、アセルスたちは閉じていた目蓋をそっと開いて周りを確認すると、目の中に飛び込んできた景色に、自然と感嘆の声が上がる。
「うわぁ……」
「コイツは……凄えな」
そこには子供が一度は憧れる理想の景色、お菓子の国があったのだ。澄みきった青い空間の元に見えるのは、巨大なお菓子が積み重なって出来た家が建っている。ゲンすらも呆けた顔で、聳え立つケーキを見上げていた。
「ね、ねぇジーナ。これ全部本物のお菓子?」
少しばかり興奮しているアセルスの姿に、ジーナはクスリと笑いながら説明する。
「いいえ。近づいてみれば解りますが、お菓子の形をしているだけですよ。ここは孤児ばかりで、多かれ少なかれ寂しい思いを全員が抱えてます。なので、この寂しさを少しでも紛らわせようと、麒麟さんが作ったんです」
「確かにこんな所に住んでいたら、ちょっとワクワクするものね」
「ふむ、ジーナの話を聞く限り、人格者の見本そのものだな。麒麟というモンスターは」
「はい。子供たち全員に分け隔てなく優しくしてくれて、本当に素晴らしい方ですよ、麒麟さんは。さあ皆さん、案内しますのでついてきて下さい」
そうして、ジーナを先頭にアセルスたちは、ある一つの建物目指して歩いていく。途中、遊んでいる子供を見かける事があったが、どの子も不思議そうに見つめてくるものの、寄ってきたり話しかけてくることはなく、少しするとやっていた遊びに興味を戻す。
「麒麟さん!」
建物の中に入り、やがて開けた空間が見えてくるとジーナが走り出した。その先にいたのは、馬のような姿をした見たこともないモンスター。麒麟、と呼ばれたモンスターは突然やってきた来客にも驚くことなく、穏やかな口調で対応してきた。
「その声は……ジーナですか? 三年ぶりですね。元気そうで何よりです。ここには空術を求めて?」
「いいえ、その……私が働いているリージョンで仲良くさせてもらっている方を麒麟さんにも紹介したくて、来てしまいました」
「ひょっとして、その為だけに術の資質を? だとしたら大変な手間をかけさせてしまったようですね。ですが、そこまでして私に会いたいと思ってくれた事を嬉しく思います」
「フフフ、私も麒麟さん嬉しいです。それでは、紹介させていただきますね。私の大好きな方、アセルス様です!」
「ど、どうも。ジーナには色々と助けてもらって感謝しています」
「ア、アセルス様♡」
その後、ジーナは傍にいる済王たちも麒麟に丁寧に紹介していくが、ブルーは少し距離を取り、ジーナたちの様子を眺めながらじっと考え込んでいる。やがて、ジーナがブルーを呼んで紹介しようとするが、彼はそれを手で遮った。
「え、ブルー?」
驚くアセルスに構わず、ブルーは麒麟に語りかける。
「私はマジックキングダムの術士、ブルーだ。ここには空術を覚える為にやってきた」
「それではどの術をお求めですか?」
「全てだ。貴方が作り出した空術の全て。そして他の術と違い、空術の資質は術を作り出した本人を殺さなければ引き継ぐことが出来ないと聞いている。だから私と戦い、殺され、資質を渡せ」
「……成る程、それが目的でしたか。いいでしょう、受けてたちます」
「ブ、ブルー!?」
アセルスは慌てて両者を見やった。麒麟はジーナの恩人だ、殺す事なんて出来るわけがない。
だが、ブルーもずっと旅をしてきた仲間で、何度も助けてもらっている。彼を攻撃することも出来ない。
泣きそうな顔で何度も両者の顔を見るアセルス、そしてエミリアたちも困惑した表情で麒麟とブルーを見つめていた。その間、ブルーは表情を変えずに麒麟を見ていたが、アセルスへ顔を向けるとフッと口元を緩める。
「……というつもりでいたんだがな」
「……へ?」
「ブルー、さん?」
「どうも私は、自分が思っていたよりも冷徹にはなれなかったらしい。親しげに麒麟と話をしているお前たちの姿を目にしたら、奴の命を奪う事に躊躇してしまった。だから、一つ訊ねたい」
「麒麟よ。もし私がお前に師事した場合、時間がかかったとしても資質を得ることは可能か?」
ブルーの問いに、麒麟はふむ、と漏らした後黙り込む。暫くの沈黙の後に出した答えは。
「直接教えたという事例がありませんので、はっきりとした回答を示すことは今は出来ません。しかし、短期間で二つの術の資質を手に入れた上に、優秀な術士のようだ。貴方ならば、可能かもしれません」
麒麟の真摯な対応は、決断させるに充分だったらしく、ブルーは頷いてから口を開く。
「可能性があるのならば、それで構わない。では、麒麟よ。一ヶ月、空術を教えて欲しい。その間に私は極めて資質を得てみせる」
「もし、得ることが出来なかったら?」
「心術で、その悔しさは身に染みている。そうならないよう努力するだけだ。万が一覚えられなくともそれは私の責任、お前を殺して資質を奪うことはしないさ」
「解りました。では、早速」
「ああ。そうだ、アセルス」
「あ、ふぁい!?」
目まぐるしい変わる話の流れを整理することに集中していたアセルスは、突然呼び掛けられて妙な返事を返す。だが、ブルーは特に反応することはなく、微笑を浮かべたまま言葉を続ける。
「聞いていたと思うが、私はここでお別れだ。短い間だったが、なかなか楽しかった。感謝している」
「ううん、こっちこそ色々ありがとう。あの……何だったら待ってるよ?」
「いや、これは私の我儘だ。付き合わせるわけにはいかない、それに頼みたい事があってな」
「頼みたい……事?」
「ああ。私の……双子の弟のことだ」