【完結】リージョン漫遊記   作:飛沫

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ヴァジュイール様はいい人


滞在リージョン・ムスペルニブル

 カツカツと靴音を響かせながらアセルスたちは、ムスペルニブル宮殿の長い廊下を歩いていた。思い出すのは、先程言っていたブルーの言葉だ。

 

「私の、双子の弟のことだ」

 

 始めて語られる彼自身の話によると、ブルーには顔が瓜二つの弟がいるらしい。とは言っても、知っているのはルージュという名前に、同じ顔をしているということだけで、話したことも会ったこともないという。知っているのはマジックキングダムの学院にいた時に、教師に散々そう教え込まれたからだと。

 そして、マジックキングダムでは双子の扱いは少し特殊らしく、卒業と同時に校長たちに呼び出され術の話をされるらしい。陰術と陽術、秘術と印術、本来ならどちらか一方しか覚えられないが、双子ならばそれぞれが覚えることができ、ある行為を行えば全ての術を使うことご出きるのだという。

 色々と教えてくれる割には、ある行為については曖昧な説明で終わったままだったのは、少々気になったが。

 

「ここに来る前にいた零姫だったか? 彼女が私の顔を見て言ったんだ。つい先程、私によく似た顔立ちの男を見たと」

 

「え、それって……」

 

「問い返せば、その男は時術を求めてムスペルニブルに向かったらしい。おそらくルージュも、陰術と印術の両方の資質を手に入れたのだろう」

「ルージュのやる事を止めろとは言わない。私だってお前たちがいなければ、麒麟に勝負を挑み躊躇いなく殺していただろうしな。ただ、伝えておいて欲しい。私は時術の習得に一ヶ月程時間を有する、すまないがその間待っていて欲しい、とな」

 

 

 

「そうは言われたけれどさ」

 

 歩みを止めないままクルリとアセルスは振り向いて、ジーナたちを見た。

 

「出来ることなら、そのルージュさんにも思い留まってほしいよね」

 

「はい、誰かが死なずにすむのならそれに越したことはありません」

 

 綺麗事を言うつもりはなかった。もうそんなつもりはないが、半妖という状態に馴染めず人或いは完全な妖魔として生きると決意し、その手段がオルロワージュを倒すことでしか叶わないというのなら、自分だって迷うことなくオルロワージュに戦いを挑み倒すことに全力を注いだだろう。

 相手を殺す事でしか得られないモノがあって、本人もそれを承知して行うのならば、自分に止める権利などないとアセルスは考えている。

 けれど奪う以外でも方法があるのだとしたら、そっちを選択して欲しいとも願っているのだ。

 

「ジーナの言うことは尤もだが、問題はどうやって相手にそれを納得させるかだな」

 

「そこなのよね。ブルーが譲歩してくれたのは、私たちに情があったからだし。初めて会う相手に頼んでも聞く耳もってくれる可能性は低いわよね」

 

「足止めするとしてもな」

 

「一ヶ月もどうやって引き留めるというんだ」

 

「ううぅ、いい案が思い付かない自分が憎い」

 

「アセルス様、しっかり!」

 

 済王たちとそんな会話をしているうちに、身長の二倍以上はあろうという扉に前にまでやってきた。軽く触れると、重厚な音をたてて独りでに扉が開き、先には玉座に座り此方を見ている妖魔が一人。此方に気がつくと、目を細めて手招きをする。

 

「ほう、先程に続きまたしても客人がくるとは、今日は賑やかな一日だ。さて、用件は何だ。話してみろ」

 

「初めてお目にかかります、指輪の君ヴァジュイール様。私はファシナトゥールのオルロワージュ様に仕えるイルドゥン、本日は時術についてヴァジュイール様に伺いに参りました」

 

 意外にも、返答したのはイルドゥンだった。何時もは尊大な態度をしているイルドゥンが礼を執った姿に、アセルスたちが妙な感心をしている一方、ヴァジュイールと呼ばれた妖魔は「オルロワージュ……」と渋い顔だ。

 

「我が主が何か?」

 

「いや、最近奴が『娘からもらった』とお守りを持ってきては自慢話にくるのだ。一日おきに来ては、三時間程喋りっぱなしでな。いい加減相手にするのも疲れてきたので、そろそろ出入り禁止を考えているところだ」

 

(親バカね)

(親バカだな)

(只の親バカじゃねぇか)

(我が主よ……)

(自慢したくなる気持ち解ります、オルロワージュ様!)

 

 一行が呆れたり同意したりする中、アセルスは恥ずかしさのあまり顔をうつ向かせる。軽い気持ちで買ったお土産が、まさかこんな事になっているとは。

 

(なにやってるのあの人、アレそんなに高い物じゃないのに! いやいや、違う。まずは謝らないと)

 

「あ、あの。ごめんなさい」

 

 一歩前に歩み出てから、顔を伏せたまま更に頭を下げる。顔が火を吹いたかのように熱く、とてもじゃないが顔をあげることができなかった。

 

「なぜお前が謝る?」

 

「いえ、そのお守り買ったの私なんです。その、誰かに迷惑かけることになるなんて思わなくて」

 

「ほう、ということはお前が血を分け与えたという『娘』か……」

 

 縮こまっているアセルスをヴァジュイールはしげしげと見つめていたが、やがて微笑をたたえるとゆっくりと口を開く。

 

「アセルス」

 

「は、はい」

(うわあ、自己紹介してないのに名前まで覚えられてる!)

 

「私は確かに、今のオルロワージュに壁佪してはいるのだがな、少しだけ嬉しくもあるのだ」

 

「え?」

 

「私たちほどの妖魔になると、傷をつけることが出来る存在も少ない為、死すら遠いモノなる。人間の中には永遠の命を願う者がいるというが、終わりのない生というのもなかなかに面倒だ。私は退屈しのぎの方法を見つけたのでまだいいが、つい前までのオルロワージュはそれがなかった」

「寵姫集めが、あの男にとっては生き甲斐だったかもしれんが、ある寵姫が逃げ出してからはそれもしなくなった。ずっとファシナトゥールに引きこもり、溜まった鬱憤が限界を迎えたら近づくもの全てに不幸と恐怖を撒き散らす災厄になるのではと危惧していたのだが……。どうやら今はお前という娘がいるのが楽しくて仕方がないらしい。この様子なら後数百年は平気だろう」

 

「そ、そんなものでしょうか」

 

 自分は熱く語るというオルロワージュ見ていないのでいまいち実感できないが、被害者がそういうのならそうなのだろう。その後「だから、あの男の自慢話はもう少し我慢することにしよう」と言われたときは「ごめんなさい! 止めてって言っておきます!」なんて思わず叫んでしまったが。

 

「それで時術についてだったか? 時術を使う妖魔がいるというが、術を極める努力など上級の妖魔がすることではない。おそらく、下級妖魔だろう。その者の元へ送ってやるので、自分の目で確かめてみるといい」

 

「ありがとうございます」

 

「そう言えば、先程もきた者らも時術について訊いていたな。何かが足りないというので、一度ファシナトゥールに送ってやったのだが、その後はどうしているのか。まぁ、いい。飛ばすから目をつむっておけ。……オルロワージュの件、くれぐれも頼んだぞ」

 

「はい、任せて下さい!」

 

 こうして、アセルスたちは時の君がいるというリージョンへと向かった。

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