本当はリマスターで追加されたフルドの工房や生命科学研究所のネタも入れたかったのですが、話に上手くねじ込めそうになかったので諦めました。
一応完結ですが、半妖エピローグみたいに変わらないアセルスと歳をとったジーナのやり取りも、上手く纏められたら書きたいなーと考えているので、その時はまたお付き合いをお願いします。
「私も一度、ファシナトゥールに戻ろうかなぁ」
クーロンの屋台で買った飲み物を片手に、町の中をフラフラしながらアセルスはボソリと呟くと、直ぐ様ジーナが反応を示した。
「帰られますか?」
「うん、エミリアとも別れたし。ちょっと考えてたんだ」
先ほどのやり取りを思い出す。クーロンに着くと、エミリアは組織のアジトであるイタリアンに顔を出しに行った。今回も報告だけをして戻ってくるとばかり思っていたのだが。
「ごめんね、アセルス。今度はしばらくの間こっちの方に集中しないとみたい」
顔を合わせると、エミリアは両手で拝むような仕草をしながら、そんな事を言ってきたのだ。
「アレ、また任務?」
「ええ、またトリニティに潜入することになったの」
「えっと……大丈夫なの?」
ヤルートのハーレムが頭をよぎるが、エミリアは落ち着いたまま頷いてみせる。
「ええ。私も最初断ったんだけれど、ルーファスからヤルートはあのハーレムの件が表沙汰になって、更迭されたって教えてもらったの。あの冤罪刑事が頑張ったみたいね。それで、次にモンドという男がヤルートの代わりにきたらしいんだけれど、この人はかなり切れ者らしいの。変な趣味もないみたいだから、普通に潜入して情報を聞き出してみせるわ」
「そして、これは勘なんだけれど、ジョーカーにかなり近づいていると思うのよ。だから、ここから先は私だけで決着をつけたいの。我儘言ってごめんね」
「そっか。ううん、エミリアは私と違ってしっかりした目標を持って旅をしていたわけだから、別れがくるのは予想してたよ。でも、やっぱりさみしいな。もし、手助けが必要になったら何時でも言ってね、駆け付けるから」
「あら、頼もしい。解ったわ、手に余るようなら直ぐに連絡するからよろしくね」
「うん、じゃあ」
* * *
「ブルーも烈人君もエミリアも、皆しっかりした目的があって、それを目指して旅をしていたでしょ。私も、最初は叔母さんの家に帰る為にファシナトゥールを出たけれど、結果はどうあれそれはもう達成されていて、後は戻るのが面倒でフラフラしていただけだからさ。これを機に戻るのもありかなぁって思って」
「私は別に構いませんが……済王様とゲンさんはどうされます? 気が乗らないようなら、ここで別れることもできますが」
「余は特に問題はない。あの古墳に戻ってもする事などないしな。まだ、お主たちについていこう」
「俺も構わないぜ。せっかくだ、ファシナトゥールの酒でも楽しませてもらおうか」
「ありがとう、二人とも。なら皆で行こっか。とはいえ、まずは連れていってくれる個人のシップ屋を探さないとだけど。クーロンにいるかなぁ」
首を傾げながら、発着所に向かおうとすると「オイ」とイルドゥンに声をかけられた。何時もの不機嫌顔で、何を言われるのかと身構えていると意外にも「戻っていいのか」と心配される。
「え、どうして?」
「お前、ファシナトゥールが嫌で他のリージョンに来たのだろう」
「……バレてた?」
「俺と白薔薇様がいる時に、散々文句を言っていただろう。お前が決めることだから止めはしないが、戻ってもいいのか」
「ああ、うん。イルドゥンの言う通り、確かにファシナトゥールを出た時は、あの止まったような空気が漂う城内が凄く居心地悪かったし、ラスタバンとゾズマ以外は皆不機嫌な顔をしていたから、とにかく居たくなくて元の家に帰りたいって気持ちでいっぱいだった」
「でも、ヴァジュイール様が言ってたでしょ。あの人が変わったって。だったらファシナトゥールも少しは変わって、前よりもいい雰囲気になってるかもしれないでしょ」
アセルスは少し間を置いてから「それに」と続けた。
「白薔薇から聞いているかは解らないけれど、私はあの人の事、そんなに嫌いってわけじゃないんだ。だから、戻るのは怖いことでも嫌なことでもないよ、大丈夫。心配してくれてありがとね」
「心配したわけではないのだがな。まぁ、お前に問題がないなら、俺に問題はない。とっとと行くぞ」
「うん!」
こうして、発着所にいた数人の個人シップに交渉を試みたのだが、誰もファシナトゥールまでの経路を知らないということで断られてしまう。ならばと、以前自分たちを送ってくれた個人シップを見ていないかと訊ねれば、オウミで補給をしているのを見かけたという話を聞くことが出来た。急いでオウミ行きのシップに乗って向かえば、幸運な事に例のシップ屋はまだ残っており、こちらに気がつくと向こうから声をかけてきた。
「よお、あんたたちか。久しぶりだな、アレからどうしてる?」
「お久しぶり。ところで、今は何かの仕事をしている最中?」
「いや、とりあえず燃料の補給に来ただけだ」
「それなら、また私たちを乗せて欲しいんだけれど」
「あぁ、いいぜ。あんたたちなら大歓迎だ。料金払ってくれたら、何処までも飛ばすぜ!」
男の言葉を聞いたアセルスは、残っていた数個の金と宝石で作られた薔薇を差し出して頼んだ。
「お願い。もう一度、私たちをファシナトゥールに連れていって!」
* * *
ファシナトゥール・針の城の一室で、ジーナたちはミルファークに食事の世話をされながらアセルスの帰りを待っていた。
「うう、こんなもてなし受けたことないので緊張します」
「オイオイ、いいのか? ただ乗せてきた俺もこんな待遇受けて。金もらって乗せただけだから、当然のことしただけなんだぜ?」
雰囲気に押されて、居心地悪そうにしているのは、ジーナとシップの運び屋だ。済王は食べはしないものの、生前は王というだけあってかしづかれる事にはなれているのだろう、普段通りのままでいる。そしてゲンは、酒の入ったカップを手にしながらも、口にすることはなくじっと出入口を見つめていた。
「どうした? 酒が飲みたいと言っていたから、年代物を出したんだが口に合わなかったか」
イルドゥンが問えば、ゲンは「いや」と首を振って答える。
「アセルスが、ああやって自分と向き合って答えを出そうとする姿を見ていたら、俺も酒で誤魔化すのはもう止めようかと考えていたところだ」
「……故郷と人を守れず、ずっと酒に酔うことで情けない自分から逃げていた。頭の中じゃあ、このままでは駄目だって解っていたんだが、踏ん切りがつけられなかった。だが、ああやって若いのが頑張っている姿を見ていたら、人生の先輩として情けない様を見せ続けるわけにはいかねーよな」
「うむ。何かを決意して始めることに、遅いということはあるまい」
「まぁ……好きにすればいい。人間は俺たちと違って寿命も短いのだからな」
「ゲンさん、手伝える事があれば言ってくださいね。私たちはカードの事でお世話になりましたから。ところで、アセルス様はまだ戻ってこられませんが、大丈夫でしょうか?」
心配そうな表情で出入口を見つめるジーナに、イルドゥンは「問題ないだろう」と短く返す。
「今の主ならば、アセルスに危害を加える等というのとはないだろうからな。絶対に」
* * *
「帰ったか、娘よ」
初めて言葉を交わした玉座の間で、アセルスはオルロワージュと対面していた。
(確かに、ここを出る前とは表情が全然違うな)
穏やかな顔つきで話しかけてくるオルロワージュの姿に、アセルスは驚く。ほんの数ヶ月前は無表情で、この世の中の出来事全てが面白くないという空気を纏っていたのいうのに、この変わりよう。ヴァジュイールが鬱陶しがりながらも、変化を喜んでいたのが解る気がした。
「どうした、呆けた顔をして。我の顔に何かついているか?」
「あ、ううん。その、ここを出る前よりもなんていうか……いい顔しているなって思って」
「そうか。確かに、以前よりは生きることが面白いと感じられるようにはなった気がするな。して、外の世界はどうであった?」
「そうだね、えっと」
問われたアセルスは、目を瞑って今までの出来事を振り返る。数分の沈黙の後、彼女は答えを出す。
「世の中は、思ったよりも私にとって優しいんだなって解ったんだ」
「中には、私の事を物珍しい存在程度にしか思って人もいたよ。でも、そんなのには一人しか会わなかった。ジーナやブルー、済王様。エミリアとヒューズ、ゲンさんも烈人君も私が半妖だからって気味悪がったり差別しないで普通に接してくれた。種族なんか関係ない、私が私らしくしていればいいんだって、教えてくれた」
「……人間に、全く未練が無くなったわけじゃないんだけれどね。いなくなった私の事を、ずっと待っていてくれたおばさんの事を考えると、人のままでいられたら本当の親子みたいになれたんだろうなって、残念に思ったし」
「でも、タラレバの話をしてもきりがないから。とりあえず、お礼は言わせてね。……私を助けてくれてありがとう、お父さん」
「あ、でも恥ずかしいから、ヴァジュイール様の所にお守り持って自慢話に行くのはやめてね」
「なんと。では、五日おきに赴くとするか」
「もー! 止めてって言ってるの!」
* * *
最近、知り合いのシップ屋の一人が、やけに羽振りがよくなった。理由を訊ねてみれば彼曰く「非常に金払いのいい客と知り合いになったお陰」とのこと。自分もそのチャンスにありつきたいと、頼み込むこと数回。根負けした彼が教えてくれた。
「だったら、ファシナトゥールに行ってみな。流石に俺の客は譲れないが、あそこはシップ発着所がないから人の出入りが殆どない。掘り出し物が見つかるかもしれないぜ」
礼として、今度ヨークランドの美味い酒を奢ることを約束してから、急いでファシナトゥールへ向かう。初めて行くリージョンだったので多少の不安があったが、教えてもらった場所へ向かえばシップを止めるのにちょうどよさそつな平地があったのでそこに止めて町へ向かう。途中モンスターに出くわすこともあったが、隠れることでやり過ごすことが出来た。例の客とやらが定期的に使っているからか、広さの割にはモンスターの数も多くはない。何度も隠れながら進むと、やがて扉が見えてきた。押せば簡単に扉が開き、小さな部屋へと繋がっていた。そこから更に扉を開ければ、町の広場らしい場所へと出る。
「ここがファシナトゥールか……」
物珍しげに辺りを見回す。少々薄暗いが、町のあちこちに淡い光を放つ鉱石があるので、足元が見えないということはない。そのまま、気の向くままに町の中を散策していたのだが、ある店の前で思わず足が止まった。
目を引いたのは、あるネックレス。細工も見事なのだが、特殊な術でもかかっているのか目が放せないくらい魅力的に見えるのだ。多少勇気がいったが、店の中に入ってみるといたのは一人の妖魔。緊張しつつも、表に飾ってあるネックレスの事を訊ねれば「ほう」と感心したような声を上げる。
「魅力のネックレスに気がついたか。人間にしてはなかなか目が利いているようだな、気になるようなら、他の品も見せてやるぞ?」
是非に! と頼めば妖魔は二階から数々のアクセサリーを持ってきてくれ、男はその技術の高さに驚くばかりだ。どれもこれも手が込んでいるだけではなく、何かしらの加護がついている、マンハッタンの高級アクセサリーショップの品ですら、目の前の装飾品には敵わないだろう。
幾らか訊ねれば、妖魔は「金では売っていない、代金はお前の命だ」と言われ、思わず息を飲む混むが確かに此れだけの品なら、多少の寿命を渡しても惜しくはない。悩んでいると妖魔が笑う。
「冗談だ。まぁ、以前は本当に命で支払ってもらっていたんだがな、とある方に言われて今は金かクレジットで譲ってやる。どれが、欲しいんだ?」
安堵の息を吐き出してから、手持ちと相談をして数点購入する。今度はもっとクレジットを持ってくるのでまた色々と見せて欲しいと、支払い時に言えば「私の芸術品を理解出来る人間は無下にしない。楽しみにしていろ」と返してもらえた。どうやら、客として認めてもらえたようだ。
その後も町の中をふらついていると、一件の服屋を見つける。刺繍やレースがふんだんに使われている衣装は、普段着にするには豪華過ぎるが、パーティー会場や披露宴などでは映えるだろう。特に一点ものという言葉が大好きな金持ちには喜ばれそうだ。
店に入れば、対応してくれたのは人間だった。事情を話せば笑顔で服のサンプルを見せてくれただけではなく、お茶まで出してくれる有り様。
「いやぁ、なんかここまでしてもらって。すみません」
「いいんだよ、こっちも買い手が増えてくれるのは嬉しいことだし。しかし珍しいね、こんな所に人がくるなんて」
「個人で商売をしていてシップを持っているんです。このリージョンは知り合いに教えてもらって。ここは貴女一人でやられているんですか?」
「いやいや。一人従業員がいるんだけれどね、城の若様と仲良くなられてからというもの、その方が出る度について行っちまうようになってさ」
「若様?」
「そう。この前帰ってきたと思ったら、仲良くなった相手の婚約者を殺した犯人を倒しに行くって出ていって。それから、若様の知り合いの家族の敵を取りに行って、今は地獄がどうこう言いながら出掛けちまった。全く仕立て屋の従業員が、困ったもんだよ」
言いながらも、例の従業員を思っているであろう表情は穏やかだ。
「おっと、愚痴って悪かったね。それじゃ商談といこうか」
「よろしくお願いします」
その後例の従業員が戻ってきたり、若様とやらが女性であったり、その若様が知り合いの上客だと解ったりするのだが、それはまた別の話。
今日もアセルスたちは、様々なリージョンを自由気ままに旅をしている。
完結させた褒美として、感想や評価をもらえると超嬉しいです。