【完結】リージョン漫遊記   作:飛沫

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 ようやく自分的に納得いくエピローグが書けたので。
初めは零姫ちゃんに転生の法を教えてもらって、延々と二人で旅をするような話にしようと考えていたのですが、それじゃあ半妖と人でいる理由がないよなーと思い直して、本編のラストと同じ流れにしました。やっぱり原典が究極にて至高なんですね。


滞在リージョン・???

「ねぇ、ジーナ。ついてきてくれてありがとう」

 

 そう言われたのは何時だったか。復興の手伝いでマジックキングダムを訪れた時のような気がする。

 

「もし、ファシナトゥールを出た時、私一人だったらこんな風な未来になってなかったと思う。ジーナが何時も隣にいてくれて、私のやることを肯定してくれたり、応援してくれたから、強くなれたしこうやって誰かを助けることができるようになったんだ」

 

 あの時、なんとなくだったけれど、ジーナに声をかけた自分を褒めてやりたいよ、なんて照れ臭そうにするアセルスに、自分はどう答えたのか思い出そうとすると、どこからともなく子供の声が聞こえてきた。

 

「おばあちゃん、おばあちゃんってば!」

 

*  * *

 

 大きな声に驚き、ジーナがパチリと目蓋を開くと、覗き込むようにして見つめてくる六つの瞳がある。可愛い自慢の孫たちだ。

 

「おばあちゃん、起きた? そろそろアセルス様がやってくるよ」

 

 指摘されることによって、ぼんやりとしていた頭の霞が晴れていく。そうだ、今日は年に一度、アセルスがジーナの家を訪問してくれる日だ。だから、懐かしい夢もみたのだろう。

 

「あら、大変。微睡んでいたから準備もしてないわ」

 

 もてなしの用意を何もしていない事に気付き、杖をとって立ち上がろうとするジーナだが、子供たちがそれを遮る。

 

「大丈夫だよ、おばあちゃん。さっき私たちがクッキー作ったから」

 

「お母さんも食べたけど、美味しかったって!」

 

「マフィンもあるよ!」

 

 言われて白いテーブルを眺めれば、大きな皿にはハートか菱形のクッキーや、手作り感溢れるマフィンが盛り付けられて置かれていた。今日やけに静かだったのは、これが理由だったのか。

 

「皆、ありがとう。アセルス様も喜んでくれるわね」

 

「よかったー!」

 

「それじゃあ私たち、家の中に戻ってるよ」

 

「アセルス様が来たら、温かい紅茶持っていくね!」

 

 子供たちは仲良く手を繋ぎながら、家の中へと入っていく。それを見送ってから、再びテーブルへと視線を戻す。

 あれから六十年が過ぎた、まさか自分が告白をされて、来年曾孫が生まれるような大家族になるなんて想像もしていなかった。

 幸せだと感じる反面、歳をとって言うことをきかなくなってくる身体に、ままならない気持ちをなる事もある。昔はドゥヴァンの神社に続く階段を、休憩無しに登りきることができたのに、今では家の庭に出るのにも杖がなければ不安で仕方ない。視力も衰え、細かい作業も難しくなって、アセルスの服を作れなくなった時は本気で数日落ち込んだものだ。

 

(こうやって会うことが出来るのは、後何回くらいになるのかしら)

 

 最近よく、そんなことを考えてしまうのも、やはり心身共に弱くなっているからかもしれない。勿論、アセルスの前ではおくびにも出さないが。

 

「ジーナ!」

 

 奥の方から待ち望んでいた人物の声が響く。顔を上げれば、初めてあった時から変わらぬ姿である初恋の相手、アセルスが手を振って走ってきた。出会ってもう六十年になるが姿を目にするたびに、胸の高鳴りは彼女と初めて出会った時と変わらない。もう縫えないが、自分が作った服を気に入ってくれて、多少デザインを変えながらも着続けてくれるのもまた嬉しくなる。

 

「アセルス様、一年ぶりですね」

 

「うん、毎年この日を楽しみにしているんだ。今年は天気もいいし。あ、お菓子が置いてある。ジーナが作ってくれたの?」

 

「いえ、孫たちがアセルス様が来ると張り切って作ってくれたものです」

 

「へー! じゃあ、後でお礼を言わないと。ん! 美味しいよ、ジーナ」

 

「孫が聞けば喜びますわ」

 

 用意されていた椅子に腰かけて、互いにこの一年の出来事を報告していく。途中「紅茶です」とティーセットを運んできた子供たちに、アセルスが礼を言いながら頭を撫でてやれば、はしゃぎながら戻っていった。

 

「あの子たちも元気だね。私が来ると凄く喜んでくれるし」

 

「私がアセルス様の話をよくするから、憧れているそうですよ。大人になったらアセルス様と一緒にリージョンを巡るのが夢だとか」

 

「うわ、照れるなぁ」

 

「そうだ、今度曾孫が生まれるんです。是非とも、会いにきてください」

 

「うん、絶対に行くから! 生まれたら教えてね!」

 

 ジーナが周りの近況を語れば、アセルスはまるで自分の事のように喜び、何度も首を縦にふる。もう家から出ない為、報告は十分もすれば終わってしまうので、今度はアセルスの近況について訊ねてみる。

 

「ファシナトゥールや他の皆さんは元気にしてますか?」

 

「そうだね。イルドゥンは相変わらずだし、ゾズマや白薔薇、セアトなんかも変わってないよ。お……父さんとの関係も悪くないし。あ、この前リージョンシップの話がきたんだけれど、ラスタバンが凄く乗り気で指揮をとりはじめてさ、直ぐは難しいだろうけれど、いつかシップが出来て人の行き来が楽になりそう」

 

「まぁ、そうなのですね!」

 

 最後に訪れたファシナトゥールの光景が目に浮かぶ。確かにシップ発着所の変わりとして使っていた場所は、昔使っていたままの、地面がむき出し状態のままだった。だが、個人のシップ持ちが喧伝したのか、着実にファシナトゥールにやってくる人間は増えていたし、シップに通ずる道も整理されてモンスターもほぼ消滅していた。

 ファシナトゥールも、人間相手を意識した店がいくつも現れてキャッシュを扱えるようになっていたし、ゴザルスも客に腕を認められて機嫌が良かったのを思い出す。リージョン内では、外部からの客を受け入れる体勢は出来ているので、発着所が出来てもしっかり対応できるだろう。

 

「エミリアはね、今度孫が生まれるって言ってたよ。写真を撮るからジーナにも絶対見せてって頼まれてるんだ。烈人君もまだIRPOで頑張ってて、ゲンさんとヒューイの人使いが荒いってぼやいてる。済王様もまだ古墳には戻ってないし、ブルーは学長は辞めたけれど、まだ出来ることがあるからって学院に残ったままだよ」

 

「そうなんですね。エミリアさんには写真楽しみにしていますと、伝えて下さい」

 

「任せといて」

 

 コクリと頷くアセルス。すると、今までずっと笑顔を絶やさなかった顔が、不意に曇る。

 

「どうかしましたか?」

 

「最近ね、凄く怖くなる時があるんだ。皆、まだまだ元気だけれど歳をとってきてる。もし、誰かが具合を悪くして、よくならずにそのまま……ってなったらどうしようって」

 

「アセルス様」

 

「我が儘を言ってる自覚はあるんだよ。お父さんは優しいし、白薔薇やイルドゥンもいる。寂しくはないし、私を知ってる人がいなくなることもない。一人になることは絶対にないのに、仲のよかった人が一人でもいなくなるのが嫌で仕方なくて」

 

 今が凄く楽しくて幸せな分、それが失くなってしまった時を考えると。

 表情を隠すように、アセルスが俯く。

 ジーナもあまり意識しないようにしていたが、人と半妖である以上は必ず別れはやってくる。

 誰にも言っていないが、どんどんと開いていくアセルスとの歳の差に「自分も半妖だったらどれだけよかっただろう」と考えたことも一度や二度ではない。

 

「……アセルス様、いい機会ですので正直に話しますね。私も、アセルス様を置いて逝ってしまうの、悔しいんです」

 

「え、悔しい? 悲しいじゃなくて?」

 

「まぁ……悲しいも少しはありますが、悔しい方が強いんです。だって、死んでしまえばそれで終わりですから。もう新しい思い出は作られない、過去の記憶も新しい出来事に追い抜かれて段々と薄くなっていく」

 

「そんなことないよ! ジーナとの思い出が頭から離れることなんて」

 

「いえ、薄くなっていきます、それは別に悪いことではないんです。だってアセルス様は、生きて前に進むのですから」

「……と、まぁ否定的な事を言ってますが、嬉しいこともあるんですよ?」

 

「ん?」

 

 突然、話の方向が変わり、アセルスが首を傾げた。

 

「悔しいのに?」

 

「はい。それはもう、凄く悔しいです。でも、私とアセルス様の記憶は、薄くなったとしても消えて無くなることはないはずです」

 

 絶対的な自信があった、何しろ一番アセルスと長く旅をしたのは自分なのだから。

 

「何時もは記憶の奥の奥に仕舞われているとしても、何かの切っ掛けでふと思い出してもらえれば」

 

 多分、一枚の絵や写真のようになっているだろう。脳裏に焼き付いた最高の一瞬は、足されることもないが減ることもなく、綺麗な記憶のままずっとずっと残っていてくれる筈だ。

 

「たまに思い出す程度で構いません。でも、思い出してもらえる限り、私はアセルス様の中で生きていて、共に旅をしていることになりますので」

 

「……そうだね、そうだよね! ジーナやエミリア、ブルーやゲンさんたちと旅をして、色んな事をやって今の私がいるんだもんね!」

 

「はい、ですから悲しまないで下さいね。皆さん、ちゃんとアセルス様のお側にいますから」

 

 微笑みながら手を握れば、落ち込んでいたアセルスの表情も明るくなる。その顔を見て、やはりこの人は笑顔でいるのが一番だと実感する。

 

「フフ、アセルス様がお見えになる前は、あと何年会えるかなんて考えていましたが、こうやってお喋りすると元気が出てきました。百まで生きられるよう頑張りますね」

 

「当たり前だよ、まだまだ私の話し相手になってよね」

 

「はい」

 

 朗らかに笑う声が、庭全体に響き渡る。つられるように孫たちがやってくるのはもう少し経ってからだ。

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