まぁ、ラストはだいぶ変わると思いますが。
「ごめんなさいね、私ってば。勘違いをしちゃって」
「え、あ。いや。大丈夫です」
(ううぅ。頼むからジーナ、この状況で戻ってこないで!)
霊園から少し奥まった東屋で、アセルスは叔母と向かい合って話をしていた。背中に冷たい汗をかきながらも、怪しませないよう精一杯の笑顔を作りながら対応する。
お互いに見つめ合って動けなくなった時、最初に我に返ったのは叔母の方だった。
「ごめんなさいね、お嬢さん。貴女が知り合いの娘によく似ていたから、びっくりしてしまって。いきなり知らない名前で呼ばれて、驚いてしまったわよね」
「あ、あ。はぁ」
「もしよければなんだけれど、貴女の名前、教えてもらえないかしら」
「え、えと。ジーナ、ジーナっていうんです、私!」
この時とっさに、ジーナの名前を名乗ってしまったのだ。その後、友達を待っていると答えれば「それだったら、そのお友達が来るまで少しお話してもいいかしら」とこの東屋に連れて来られ、今に至る。
(ああぅ、この状態でジーナが私の名前を叫びながら走ってきたらどうしよう)
もし、を考えるとアセルスは気が気でない。会いたくてたまらない叔母だったが、自分の正体がバレてしまったら。この優しい顔が、恐怖や嫌悪に変わって自分を見たら。可能性が頭を過ぎる度に、怖くて苦しくてたまらなくなる。
ビクビクしながら対応していたら、叔母も気がついたのだろう。苦笑いして、頭を下げてきた。
「本当に悪かったわ、ジーナさん。よく考えなくても、こんな知らない年寄りの話し相手なんて、若い人なら嫌に決まっているのに。私ったら、一体何をしているのかしら」
「や、いえ。そんなことは」
叔母の言葉を、アセルスは必死になって否定する。ファシナトゥールで目覚めてから、ずっと会いたいと願っていた。嬉しくない訳がない。
「えっと……私、そんなに似ていますかね? その知り合いの女の子に」
どうすれば此方の気持ちが伝わるか考えた結果、アセルスは自分から積極的に話題を振ることにした。質問された叔母は一瞬大きく目を見開いたが、直ぐに笑みを浮かべると「ええ」と頷いて答えてくれる。
「あの子は髪の色が茶色だったけれど、それ以外はよく似ているわ。雰囲気も……そうね、アセルスも貴女みたいに動きやすいズボンをよく履いていたわね」
「そう、なんですか」
自分の名前を呼ばれて、反応しそうになる身体をなんとかやり過ごす。変に映らなかったかと心配するが、叔母は特に気づいていないようだった。
「そ、それで……その子は……?」
「行方不明なの。用事を頼んだら事故にあったらしくて、道路に血痕が残っていたって。警察の人には『この出血だと助からない』って言われたけれど、死体は結局見つからなかったからひょっとしたらって思っていたわ」
「行方……不明」
「だからね、貴女を見た時は息が止まるかと思って。今日はアセルスが消えてちょうど十二年目だから、あの子が戻ってきたのかと。そんなわけ、ないのにね」
「そう、だったんですね」
相槌を打ちながら、叔母の姿をまじまじと眺める。あの時より髪に白いモノが増え、皺も深くなっていた。年齢よりも若干年老いて見えるのは、自分がいなくなって苦労した事があったのだろう。生きているのかどうか分からない養い子をずっと待つのは神経をすり減らしただろうし、事情を知らない人からは心無い言葉を投げつけられたかもしれない。
(おばさん、私のことずっと待っていてくれたんだ)
「ここにはね、ケジメというか諦めの気持ちできたのよ。もう十二年経った。あれ以来情報も入ってこない。待っていたけれどあの子は……アセルスは死んだのだって。ようやく私の中で納得できて、その事をアセルスの両親に報告していたの」
「……」
(そっか……。おばさんの中では私は、もういなくなった事になっちゃったんだ)
胸がツキリと痛んだが、仕方がないと諦めた。十二年も待っていてくれたのだ。早く目覚めなかった自分を恨むしかない。
「それでね、事故現場にあったアセルスの靴を遺体の代わりにしてお墓に入れようと思うんだけれど、私の家族と本当の両親のお墓どっちに入れた方がアセルスが喜んでくれるか迷っていてね。何だかんだ言っても、やっぱり血の繋がった」
「おばさんのお墓がいい!」
どこか寂しそうな表情を浮かべる叔母を目にして、気がつけばアセルスは叫んでいた。
「だっておばさん、十二年間ずっと信じて待っていてくれたんでしょう! だったら家族はもうおばさんだよ! おばさんがいい、一緒にいたい!」
感情のまま叫んでから呆けた表情で叔母が此方を見ているのに気づき、慌てて私がアセルスって娘だったら、そう思います。と付け加える。
叔母は何も言わずにアセルスを眺めていたが、しばらくするとクスリと笑う。
「フフ、アセルスに似ている貴女に言われると、そんな気がしてきたわ」
「ご、ごめんなさい。でしゃばって」
「いいの。なら貴女の言葉を信じて、この靴は私の家族の墓に入れることにするわ。付き合ってくれてありがとう。さようなら…………」
最後はあまりにも小さな声だったので、何を言っていたのかは聞き取れなかったが。
やがて入れ違いのようにして、花束を抱えたジーナが戻ってくる。
「アセルス様、お待たせしました。……アセルス様、どうかなさいました?」
「うん? どうかしたって?」
「なんだか先程より随分と楽しそうな表情ですので」
「あぁ……ジーナが来るまで、おばさんと話してたんだ。前みたいに一緒に暮らすことは出来ないけれど、気持ちをしっかりと伝えることができたからそれで吹っ切れたんだと思う」
「それは良かったですね」
「うん」
自分のことのように喜んでくれるジーナに頷くと「よし」と叫んで立ち上がり、彼女と手を繫ぐ。
「ア、アセルス様!?」
「ずっと一緒にいてくれてありがとね。私はもう大丈夫。寂しいと思うだろうけれど、きっと何とかなるよ。さ、行こう! そしてジーナの行きたい所を教えて。今まで私の我儘ばっかりだったから、今度はジーナの故郷とか家族とか、色々聞かせて欲しいな!」