「へー、このリージョンにははじめてきたけれど、こんな風になってたんだ。建物も景色も、見たことがない形で面白いね」
「アセルス様、あそこが庭園になっているそうですよ。そこで休憩するのはどうですか?」
「うん、いいね。じゃあ、行ってみよう」
こっちです、と案内してくれるジーナの後ろを歩いて行くアセルス一行。ここは『京』と呼ばれるリージョン。秘術のカードを集める旅の途中、息抜きがてらに寄ってみたのだ。
「んー♪景色もいいけれど、空気もおいしいわね。やっぱり自然が多いからかしら。バカラとは大違いね」
庭園に来ると金髪の美女が、大きく伸びをしながら息を吐く。彼女はエミリア、先ほど口にしていたバカラと呼ばれるリージョンで知り合い、共に旅をしようと新しく入った仲間になる。
彼女の言い分によれば、元は売れっ子のモデルだったらしいが、ある日婚約者の家へ向かうと、彼が謎の仮面の男に殺される瞬間を目撃したのだとか。急いで警察へ連絡し彼を殺した犯人の特徴を説明するが、前日に彼と喧嘩していた事を指摘され、更にそれを理由で犯人にされてしまい捕まってしまう。今、普通に外で歩けるのは、収監された監獄の所長主宰の脱走ゲームに勝利して解放されたからだという。
それからは、脱走を手伝ってくれた女性たちが所属するという組織に所属しながら、彼を殺したという仮面の男を追いかけているらしい。一緒に行動して、組織の方は大丈夫なのかと思ったが、エミリア曰く用事があれば呼び出しがかかるそうなので、呼ばれない時は好きに行動していいらしい。
「ところでアセルス、私はその秘術のカード? っていうのを集める旅に途中から参加している状態だけれど、ちゃんと覚えられるかしら」
「大丈夫じゃないかな。資質を得られるのは、カードが四枚揃ってかららしいから、集まるまでにいれば問題ないと思う。ただ、エミリアがグラディウスって組織に呼ばれている時に、揃ったら分からないけれど」
「うー、そうならないよう気を付けるわ。あの仮面の男を捕まえるには、戦う力があるに越したことはないし。あ、そういえばカードは後何枚集めるの?」
「えっと、杯と金のカードが手に入ったから後は」
「盾と剣のカードだな」
「済王様ありがとう。だって」
「ふーん、じゃああと半分なのね」
「うん、ブルーが色々頑張ってくれるから順調だよ。さっきも凄く助かったし」
先ほどの金貨のカード入手時の事が頭に浮かぶ。この時も、ブルーのお陰で無駄な出費を省くことができたのだ。
というのも、バカラにはノームと呼ばれる精霊が存在していて、それらが金のカードを持っていた。ホテル内を散策し、エレベーターに乗ったのを追いかけて駐車場まで行けば、今ここを通ったと言わんばかりに、マンホールが開いていた。余談だがエミリアとはこのマンホール前で会い、旅の仲間になっている。
マンホールの中はモンスターが闊歩する空間と化していたが、五人もいれば苦戦することもない。敵を蹴散らしながら奥へと進めば、やがて先ほど見かけたノームが歩いている空間へとたどり着く。そして、ノームと話をして金のカードをもらえる約束をしたのだが、交換条件として大量の金を寄越せと言わたのだ。仕方がなしに、持っている金を全て渡そうとしたら、ブルーが耳打ちしてアドバイスをくれた。あるだけを渡す必要はない、四個の金で十分だと。
アセルスとしては四個は大量のいう数のうちには入らない。どうしてだと訊ねれば、角に引っ張られて理由を聞かされる。
「アイツらの話を聞いていただろう。奴らは四人のノームを『沢山の仲間たち』と言っていた。つまり、ノームたちにとっては沢山という認識は四からになるということだ。だから、とりあえず金は四個渡しておけ。それで足りないと終われたら、少しずつ追加していけばいい」
よく聞いているな、と感心しながらアドバイスされた通りの四個の金を渡せば、ノームたちは大喜びで金のカードをくれた。
まだオルロワージュから貰った換金アイテムは残っているものの、それほど苦労せずに旅が出来ているのは豊潤な資金があるからなので、こうやって出費が抑えられるのは非常に助かる。
「あら? 肝心のブルーってどこ行ったの?」
「ブルーさんなら、個々でも術が覚えられるって修行場というところに向かいましたよ」
「え、秘術と関係ないのに?」
「あの男は術師だから、知らない術には興味が引かれるのだろう」
「勉強熱心だなぁ」
残った仲間とのんびりと会話をしながら景色を楽しんでいると、やがてブルーが戻ってきたが、表情をみてアセルスは不思議そうに首を傾げた。基本的に感情を表に出さない彼が、誰がみても解るほどに不機嫌な顔をしていたからだ。
「おかえりなさい、ブルーさん。どうしたんですか、怖い顔をして」
「……心術というのがあったから、修得できないかと訊ねてみたのだがな、私は心が二つに別れているから無理だと断られた」
「ふむ、確かお主は双子だったか。それが関係しているようだな」
「クソ、見知らぬ術を前にして覚えられないとは」
「そっか、残念だったね」
感情を露にして悔しがる姿に、珍しい物が見れたと若干驚きながらも、それならと言葉を続ける。
「休憩したし、別のリージョンに行こうか」
「ああ。もう此処に滞在する意味はないからな。次の秘術のカードを取りに行くとしよう」
「あ、あのアセルス様、ブルーさん」
ブルーの言葉に頷いて、シップ発着所に向かおうとすると、ジーナがモジモジしながら声をかけてきた。全員の視線がジーナに注がれるなかで、彼女は恥ずかしそうにしながらも意見を口にする。
「その……辺りを見ていた時にお土産屋さんを見つけたんです。よかったら此処を発つ前に、見ていきませんか?」
「土産屋? いや、私は」
「お土産屋さん!? いいね!」
断ろうとするブルーを遮って、アセルスがはしゃいだ様子で反応した。そのまま手をとって歩き始める二人に、声をかけようとしたブルーだったが、エミリアに肩を叩かれ首を振られる。
「あれくらいの年頃は、そういうの大好きだから止めるだけ無駄。諦めて付き合いなさい」
「しかしだな」
「まぁ見た感じ小さな店だ、長居する事はないだろう。我々の方が大人なのだから、付き合ってやれ」
言葉の割にはどこか楽しそうな口調な二人は、素直にアセルスの後ろをついていく。
しばらくその場から動かなかったブルーだが、やがて仕方がないといった様子で息を吐くと、早足で後を追いかけていった。