後G4と氷川さんの熱演に隠れてあまり話題にならないんですが劇場版アギトのシャイニングフォーム変身→OP→エクシードヒールクロウ→シャイニングライダーキックの流れ滅茶苦茶カッコいいよね。
歌野に背負われて異形達から逃げていった水都は当然ながら津上翔一の変身したアギトの戦いを間近にじっくりと見たわけではない。それでも振り返って見たわずかな時間だけでもアギトの戦いぶりに対して鮮烈に抱いた印象がある。達人だと。
激しく自分から動き回り相手を翻弄するわけではないが、殺到する怪物達の腕や足や口が届く一瞬先に的確に打撃を叩き込み痛撃を与え、決して自分自身には攻撃を届かせない。かつて古来の武人が目指した無我の境地であるかのように、最初から動きが決まった演武であるかのようにアギトのみが一方的に異形へダメージを与えていく。
「ふっ」
歌野と水都が安全圏と言っていい程に離れたのを見て一気にアギトは攻撃の手を強めた。まずは前衛となる内の2体の体勢が崩れた一瞬を見計らい放たれる、大地に根付いた確固たる踏み込みからのサイドキックと手刀が直撃した事によって二体の異形が倒れ伏し爆発する。
「せいっ」
アギトの戦闘能力を警戒したのか異形は一旦距離を取ろうとするが、回避も防御すら許さず目にもとまらぬ速さで抜き放たれた旋回するハルバードがその首を切り落とした。風の力を宿した青く変化したアギトのベルトから出た武器が一瞬にして絶命せしめたのだ。
だが崩れ落ちる仲間を盾代わりに残り2体の異形が接近しアギトの首筋を狙う。鋭角な機動でほぼ同時に放たれた鋭利な爪の一撃をアギトは潜り抜ける様に躱し腰のベルトに腕を添える。すると中から出てくるのは重厚な中央部が赤く染まった剣。剣を握ると同時にアギトは今度は赤く変わっていく。
「――――――はあっ!」
並び立つ異形に対して左の一体の胸に剣を突き刺し最後の一体は剣を引き抜く勢いすら利用して両断する。ほぼ一瞬に行われた居合めいた早業を背に剣を携えアギトは残身を決める。背後で爆炎をなびかせながら。
こうしてこの日諏訪の街に現れた異形はアギトによって殲滅された。だが怪物の来秀という本来あり得ない問題よりも、身近だが歌野と水都の間には持ち上がっていた。
翌日の朝。歌野の畑には翔一がいる。訳あって記憶喪失の時に他家にご厄介になっていた頃から自前の家庭菜園を持っている事もあり、こうした畑などには強く興味を持っているから予定通り歌野の畑を見に来たのだ。この来訪は当初のやり取りから決まっていた事であり無論歌野も来ているがその様子は明らかに精彩を欠いていた。
「ノーみーちゃん……ノーノーギョー……ミーちゃんを気遣えない私はノー……」
本当に精彩を欠いていた。目からハイライトが消え、今日着ている「農業王」と書かれた何処ぞのヒゲが好きそうな感じのTシャツ(歌野はこれを20着持っている)もどことなく萎れて見えた。
「うわあ予想以上に重症だあ」
歌野はどうやら昨日水都が居心地悪そうにしていたのは自分が翔一への説明にかまけ水都を置いてけぼりにしたせいであまつさえ危険な目に遭ったと思い責任を感じているようだ。翔一は歌野の昨日とのあまりの変わり具合に最早感心してしまう。
「気を取り直していこうよ。あんなアンノウンみたいなやつらが来るなんて誰にも予想できないし、歌野ちゃんは悪くないって。それより俺がなんでアギトに変身できるかとか興味ない?」
「インタレスティングな事ですが……みーちゃんが来ない事の方がモアインタスティング……ノーみーちゃん……」
「ううん……」
この様なハイライトの消えた歌野を視たらおそらく彼女の友人や家族は仰天するだろう。それほどまでに今の歌野は落ち込んでいる。普段を生命力豊かな緑あふれる若木とするならば今の歌野は排気ガスをたっぷり浴びた枯れ木がいい所だ。
「昨日の今日だし、遅れてるのが心配なら俺がちょっと見てこようか?」
「お願いします……ノーフューチャー……」
翔一の言葉を受け最早ペッパー君やら難波重工製ガーディアンやらトダ―の方が滑らかに人間らしく動くだろうという程にぎこちない動きで歌野は木の根元に座った。その有様は心配だったがまず翔一は水都の方を優先する事にした。自分の直観ではそうするべきと感じたからだ。
「はああああああ……」
いつもの道をパンクした自転車を押して歩きながら水都はため息をついて歩く。昨日のの出来事は本当に有痛だ。あの騒動の後昨日あの後あまり話をせずに水都は歌野と別れてしまった。その時の歌野のショックを受けた時の顔が水都は忘れられない。
(うたのんがあんな顔するなんて……どう考えても私が悪いよね……)
確かにあんな化け物が来るなんて、津上さんがそれらを何か金色の姿に変身して倒してしまうなんて確かに誰も予想できないけど、本来歌野の夢の第一歩になるはずだった日にケチが付いたのは自分のせいだと水都は考える。元から内向的で自罰的な水都は当たり前の様に自分のせいだと結論付けてしまっていた。だから水都は自分を責めながらいつもの歌野の畑に向かっていくがその姿は鬱々としている。
「……‥…」
「お~~~~い!」
うつむきながら歩く水都の反対側から歩いてくるのは津上翔一だ。オレンジ色のジャンバーを着た翔一は昨日の激しい戦いの気配など微塵も感じさせない陽気さで水都へ向けて歩いてくる。
「いや~心配したよ。自転車がパンクした感じなのかな?」
「はい。何か尖った物を踏んでしまったようで」
「それはついてないなぁ。俺も何度かそういう事があったけど自転車ってそういう時に不便だ。人間みたいにパン喰ってれば治る訳じゃないし」
……今のは笑うべきなんだろうか。水都は判断に迷う。彼女が知らない事であるが料理の腕は超一流なのだが翔一のギャグセンスは壊滅的であり、それは何と水都が生まれる前から変わらないのだ。
「それじゃあ行こうか。歌野ちゃん滅茶苦茶落ち込んでるから早く言ってあげよう」
「そ、そんなに落ち込んでるんですか?」
「そうだなぁ……俺の知ってる歌野ちゃんがシャキシャキシャキッ!て感じなら今日はシオ~~~~て感じ」
「そこまで……」
歌野の落ち込みつつも水都はますます罪悪感を感じる。やはり歌野にとって本来今日も大切な日であるはずなのに自分が足手まといになっている。だから思わず水都は翔一に話してしまった。昨日まで全く面識のなかった下手をすれば自分の父親くらいの人間に自分と歌野では釣り合いが取れないのではないかという悩みをこぼした。美都の話を聞いた翔一は少し考え込むような顔を見せたがすぐに話し出す。
「俺はそうは思わないなぁ。諏訪に来る前も何度か話したけど歌野ちゃんは水都ちゃんの事を話す時凄い時凄い楽しそうだったし、昨日も言ってたよ。「時々自分の夢に自信が持てなくなる事もある。けどみーちゃんが応援してくれるから頑張れる」って」
歌野だって中学生離れした能力や精神力を持つといっても人間だ。時には自分の夢に自身が持てなくなる事もある。けれど水都が背中を押してくれるのだと照れ臭そうに電話越しに行っていた事を翔一は思い出す。
「それにこれも電話で聞いたんだけど……水都ちゃんは歌野ちゃんと初めて会った時の事を覚えているかな?」
「えっと確か……」
そう、水都が歌野は元から同じ中学だったが本格的に面識が出来たのは1年くらい前の事。迷子になって泣いていた外国人観光客の子供を見つけた水都が何とか話を聞いて親を探そうとしている内に歌野が合流し二人で一緒に親を探した事がきっかけになったはず。
「それと昨日も水都ちゃんは自分より年下の子供を危険なのに助けようとしてたでしょ?あんなに自分が危険なのにそんな事を出来る人はなかなかいない。だから俺は水都ちゃんは誰かの事を思いやれる凄い良い子で、歌野ちゃんと釣り合いが取れないなんて事は全く思わないって」
「そ、そこまで言われると……でもそれって」
翔一のストレートな言葉に水都は顔を赤らめる。かつて自分の人生でこれほどまでにストレートな肯定を他人からもらった事があっただろうか?それに感受性の強い水都は翔一の言わんとしている事に気づく。
「私は私のままでいいってことですか……?」
「うん。まず水都ちゃんは自分を認めて、それから何か新しい事に挑戦したりして少しづつ前に進んでいけばいいんじゃないかな。君は君のままで、変わればいい。俺はそう思う。ほらBELIEVE YORSELFって感じで」
「私は私のままで、変わればいい……」
アギトの力等関係なく津上翔一は津上翔一で、白鳥歌野は白鳥歌野、藤森水都は藤森水都だ。自分の二本の足をしっかりつけて大切な人と一緒に人生を歩んでいけばいい。そんな生き方を他の誰かが夢だと平気な顔をして笑っても、囚われずに自分を信じて生きたいと翔一は考えている。
「折角の一度きりの人生、楽しく美味しく生きなきゃ!」
「津上さん……ありがとうございます」
やや赤くなった顔で照れながらも水都はしっかりと礼を言う。少しばかり話しただけで自分の中の疑問が晴れてしまうのは単純すぎるかもしれない。でも津上翔一という人間の飾らない言葉は確かに水都の悩める心に届いて、解きほぐしたのだ。
「どういたしまし――――まずい!歌野ちゃんが危ない!」
「津上さん!?危ないって……まさか昨日の!?」
翔一の表情が急に切迫する。水都に応えるよりも早く翔一の傍らの虚空が震えると金色を基調としたバイクマシントルネイダーが出現する。
「津上さん、私も連れて行ってください!私は何もできないけど……うたのんの友達だから!」
「分かった!水都ちゃんも乗って!」
水都をも乗せたマシントルネイダーは超高速で走るが水都は全く恐怖を感じない。マシンの音も振動も速度からすると嘘の様に安定している事もあるが何よりも危機に陥っている友達を助けたいという気持ちが水都を支えていた。
ごく短い時間で畑につくと歌野の姿はいない。思わずやられてしまったのかと肝を冷やすが何体かの異形が畑の近くにある何らかの研究所かの跡地に集まっていくのが見えた。アクセルを強めた翔一たちが突入するとやはりここに逃げ込んだ歌野が異形達―――――その数数十に追い詰められていたから、翔一は迷わず入り口あたりをふさいでいた異形を体当たりで吹き飛ばし逃げ道を作る。
「歌野ちゃんと水都ちゃんは逃げて!こいつらは俺が倒す!」
「分かりました!う逃げよううたのん!」
「みーちゃん、どうしてここに?」
歌野は意外気な顔で水都を見返す。その答えはただ一つで明白だ。今なら水都は自信を持って言える。
「私は――――――うたのんの友達だから!」
「……うん!」
二人の間には多くの言葉は必要ない。翔一が突入した入り口から二人は連れ立って距離をとっていく。異形達は二人を追い変えようとするがそれは出来ない。そうするには眼前に立つ男の発するプレッシャーはあまりにも協力過ぎた。
異形達はまず翔一を排除しようと一斉に体を向け、さらにその包囲網の中心に一際重厚な体を持つ得意な個体。色合いこそ変わらない物の周囲より二回りは巨大な体つきに巨大なガントレットを両腕に備え、その頭部には2対の球形の目と獅子の様な鬣を持っている。いうなれば
されど翔一は揺るがない。ただ無心で腰へ出現したベルトの左側へ両腕を重ねる。
「―――――――変身!」
翔一の気合と主にその姿は雄々しいアギトの姿に変わっていく。ただしその姿は黄金の装甲に包まれているだけではない。右肩から右手にかけて炎の如き赤に染まり直剣フレイムセイバーを携え、左肩から左手にかけては風の如き青に染まり両刃の長刀に似た長物ストームハルバードを携えた姿は、アギトが大地と焔と風の三位一体の力を司るトリニティフォームの証。
「ふっ――――」
トリニティフォームとなったアギトに異形の大群が進撃する。アギトをすり抜け水都と歌野を襲う事を意図しているのかそれぞれ左右の群れに分かれた異形達。だがアギトは揺るがず左側にはストームハルバードを投擲し、右側にはフレイムセイバーで切りかかる。如何に人外の力を持つ異形達の数が多いと言っても津上翔一がアギトになった当初から至っている無我の境地には見切られ、ただ悪戯に傷を増やしていくのみだ。
ブーメランのように旋回するストームハルバードは右側の異形までなぎ倒し左側まで切り込むアギトの元へ戻る。異なる種類の獲物による二重の斬撃により混乱し統制の乱れた異形の列の中にアギトは飛びこみ、しっかりと地に足をつけて二つの武器を振る。風と焔の相反する力が不浄な白を薙ぎ払った。
「はあああっ!」
縦横無尽に振るわれる武器により一体、また一体と異形は両断され爆発していく。だが異形の数はまだまだまだ多い。その上にあの異形の獅子型の指揮官、アンノウンでもあったリーダー格の上級個体に相当するのであろう、重戦車の様な印象を与える敵はすでに虎視眈々とアギトを狙うどころか口の端からは火炎が見える。何処かどす黒い不浄な色の炎に照らされて獅子型の虚ろな2対の目が妖しく光った。さらに自身の身を鑑みずに異形達が特攻しアギトの足を封じる。
直観的に獅子型の吐く火炎の強力さを悟ったアギトの判断は早い。残る異形を拘束具代わりにアギトを狙う収束率を高めた火炎は目論見通りに高速で吐き出されてアギトに殺到し爆発を起こした。
もうかなり距離の離れていた水都と歌野が驚いて振り返る程の爆音を響かせる程の爆発が響く。凄まじい威力の火炎。発射台となる出力によっては神の加護すら貫くであろう威力に、吹き飛んだのはアギトを囲んでいた白い異形達のみ。立ち上る炎の中からゆっくりとアギトが姿を現した。
マグマの様な印象のひび割れた装甲に身を包んだその姿はアギトバーニングフォーム。地の底で煮えたぎる溶岩の如しアギトはゆっくりと獅子型に歩み寄っていく。その堅牢な装甲に異形達が爪や歯を立ようとするが入った装甲に全くダメージを与えられず、反対に無造作な一撃で粉砕されていくのみだ。それを見た獅子型もガンとれっおで装甲された両の腕を掲げアギトに歩み寄る。対するアギトも片手間に残りわずかな異形達を砕きながら獅子型を見据えていた。
「おおおおおおおっ!!」
最後の異形が爆発すると同時にアギトと獅子型はすさまじい力を込めて殴り合う。パワーに特化したバーニングフォームに対抗するだけあって獅子型の膂力は絶大な物。この膂力ならば戦車を始めとするこの世に存在するありとあらゆる兵器を物理的に叩き潰す事が出来る程だ。しかしアギトには莫大なパワーを巧妙に使う技と経験がある。
かつて翔一もバーニングフォームの強すぎる力に苦悩した事がある。が、恩人との再会を通して成長した翔一はその力を使いこなすようになり、やがてその先への切符も手にした。故に如何に獅子型が人間を殺すのに特化し絶大な力を持つとしても力の集中には一日の長がアギトにはある。
「せああっ!!」
獅子型の拳を透かすようにしてバーニングフォームの拳が獅子型の顔面に入った。クロスカウンター気味に完全に入った一撃は決まったと思えたが獅子型もさる者。何とか一撃に耐え抜き変形させたガントレットをも利用して両腕でアギトの首を掴み締め上げる。
「ぐっああ……があっ!」
万力の様な力により首を絞められアギトは苦悶の声を上げる。本来力を与えるべき大地は足から離れて絶対絶命の状態。白く虚ろな獅子型の目はどことなく勝利の予感に輝いて見えた。
(翔一さん!)
(……津上さん!)
されどアギトの背には居場所を、未来を守るべき少女達が居た。ならばこんなアンノウンもどきに負けてはいられない。アギトは渾身の力で拘束を外し獅子型を蹴り上げ距離をとり構える。其処へ降り注ぐのは太陽の光。
マグマの様なバーニングフォームの装甲にひびが入っていく。散る花弁の様に剥がれていく装甲はバーニングフォームの敗北を意味するのではない。下から現れるのは陽光に照らされて輝く複雑な紋様の刻まれた銀色の装甲。中心にある発行体と共にアギトの目は太陽の様に輝いている。
この姿こそはアギトシャイニングフォーム。かつて津上翔一が到達したアギトの究極の姿である。
「銀色の……光?暖かい……」
「わお凄いシャイニング……」
その輝く姿を水都や歌野は直接目にしてはいない。だけどその光は確かに届いていた。君は君のままで変わればいい。自由にそして誇り高く咲く花のような光を二人は暖かく感じていた。
何処か暖かな気持ちに包まれる二人の視界の外。幾度の打撃を受けて転がる獅子型に対してさらなる力を開放し6本角となったアギトは腰を落とし居合の様に半身をねじって構える。二者の間に浮かび上がるのは神秘的に輝く3つのアギトの紋章。
アギトは自身の足に向けていた視線を空気を切り裂くようにして獅子型に向け走り出す。そして短時間にして迫力ある助走をつけて跳んだ。
力強く突き出した右の蹴脚を先頭に超高速で流星の様に飛翔するアギトの必殺の一撃を獅子型は炎を纏うガントレットを肥大化させ盾を作り防ごうとする。だがそんな防御で防げる物ではない。かつて神にすら立ち向かった勇者の、仮面ライダーアギトの一撃は!
「はああああああああああああっ!!!」
アギトの一撃は瞬時にガントレットを砕き獅子型の胸の装甲を砕き数十メートルにわたって弾き飛ばす。其処まで弾き飛ばされてようやく獅子型は止まるが立ち上がる事が出来ない。
「………!…………!!………‥!!!」
胸を中心に無数の日々を入れた獅子型は無言のままがくがくと身を震わせ続け最後に何かを呪う様に右腕を掲げると、ゆっくりと倒れ伏し大爆発した。
残身のままに獅子型の爆散を見届けたアギトは少女たちのいる方へ歩みだす。余計な邪魔が入ったけどまだあの子達とは話す事も教える事も、また自分が教えてもらう事も沢山ある。アギトは、翔一はそれが楽しみだった。そんな他愛のない出来事は人生に欠かせない美味しい1ピースになるはずだから。
2019年の12月31日。寒く澄んだ空気の中諏訪大社の境内を歌野と水都は歩いていく。諏訪の空気は澄み渡り何度も慣れ親しんだ諏訪大社に向けた静かな道を二人は仲良く歩いていく。歌野の頭には真新しい髪留め。金糸梅を模した髪留めは今日歌野の誕生日に水都が送った物だ。
「今年はいろいろあったねー」
「ねー」
春先に翔一と会い、勇気づけられた事、異形達から助けられた事から今年はいろいろな事があった。それ以外にも大小さまざまな事があったしその中で水都の友達もちょっとだけど増えた。そして何よりも以前は疑問を抱いていた歌野との友情がより強固になった事が水都によっては何よりの得難い物だ。
「凄い良い出会いばかりだったけど……あの化け物にはもう会いたくないね。気持ち悪かったし」
「ミートゥー。それにしてもまさかパラレルワールドからの刺客とは、世の中にはストレンジな話があった物ね……」
夏頃に四国に住んでいる乃木若葉と上里ひなたについてきた諏訪に来た謎の男――――門矢士が言うにはこの世には無数のパラレルワールドがあり、世界の幾つかに生息する化け物の中には元の世界で因縁のあった人間とよく似た人間、場合によっては他世界の同一人物を狙う物もいるらしい。
「それにしてもあの士さんて人津上さんと同じ『仮面ライダー』らしいけど……インパクトあったね。」
「まさか若葉がショックでよろめくところを見ると思わなかったわ」
何というか門矢士は強烈な人間だった。それこそ以前の水都なら気圧されていたかもしれないが今は「世の中には凄い人がいるんだなぁ」って思う程度だ。
そんな他愛のない事を話しているうちに本殿にたどり着き、二人は参拝すると除夜の鐘が鳴り響く中家路へと帰っていく。水都はともかく歌野は親戚一同集まるがそれは午後の事なのでそれまでは水都と一緒に一緒に過ごすつもりだ。
「ねえうたのん。おせち料理って程豪華じゃないんだけど津上さんに教わった料理を作ってみたんだ」
「ワオ!それは楽しみね!みーちゃんの料理を食べて過ごす元旦……グレートね!」
「あはは。おおげさだよぉ」
そうこうしているうちに除夜の鐘が鳴り響きハッとして二人は向き合う。あわただしかった2019年が終わって2020年の始まりだ。
「「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」」
二人は声を合わせて新年の挨拶を述べて笑いあう。
藤森水都の顔は希望に満ちている。まだ彼女自身に夢はないがいつか見出すその日までそしてそれからも農業神の夢を見る白鳥歌野と一緒に歩いていく。そしてその道の途中には津上翔一や乃木若葉との様な出会いが待ち受けているはずだ。
藤森水都の希望はまだツボミの状態だ。でもそう遠くない未来にはきっと大輪の花を咲かす事だろう。歌野の咲かす金糸梅にも勝るとも劣らない美しい花を。
◎登場人物
・藤森水都
以前は家庭環境もあり気弱で自分に自信を持てなかった彼女は親友や恩人との出会いを得て自分は自分でいいって思えるようになった。彼女がやがて持つ夢は歌野の野菜を世界中に届ける宅配か、歌野の野菜を調理して大勢の人に振舞う料理人か、それとも別の何かかは分からない。ただどんな道を歩むにしても傍に親友が居れば悪くないはずだ。
・白鳥歌野
アグレッシヴな農業王。親友の藤森水都が大好きで、自分の夢は彼女あっての物と考えている。王は一人だけでは駄目なのだ。
・津上翔一
かつて2001年に仮面ライダーアギトとして戦った男。現在は料理人としてフランスや日本でレストラン「AGITΩ」を経営している。自身の経験から水都を君は君のままで変わればいいと勇気づけた。
◎おまけ
・門矢士
様々な世界を旅する仮面ライダーディケイドに変身する謎の男。若葉やひなたとは彼女たちの修学旅行にいつの間にか紛れ込んでいた時からの知り合い。
・乃木若葉&上里ひなた
四国で暮らしている白鳥歌野の友達。水都達と同じように異形に狙われていた為士がガードしていたらしい。無論その事には感謝しているのだがいつの間にか修学旅行に紛れ込んでいたり、バスで異形を轢いたり、うどんに加えて骨付き鳥まで食べていったのに当たり前の様に割り勘にする士のフリーダムさには困惑している。後ひなたはふとした事から士に仮面ライダーについていろいろ質問したが、ドルオタから神までいるカオスさに「仮面ライダーって何……?」と悩みその日は3時まで寝れなかった。
連載の予定はありませんが、ぐんちゃん編とか若葉ちゃんの小ネタとかは考えているんでそれらはそのうち投稿するかもしれません。この様な自己満足の塊のような作品を読んでいただきありがとうございました。