平賀才人が、なんかやたら話しかけてくる   作:ぽぽりんご

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第1話_気づいたら、サイトの頭を踏まされていた

Q:物語の世界に転生したとしたら、貴方ならどうする?

A:どうもしません。

 

 

 方針、平穏が一番。

 私は、余計なことをしない事に決めた。

 

 原作通りなら、ハッピーエンドになるはずのゼロの使い魔(物語)

 そんなものに関わって余計な苦労を背負うぐらいなら、見て見ぬふりをした方が良い。当然である。私と関係ない所で、勝手にハッピーエンドになっていろ。

 

 まぁ原作通りにいかない可能性だってあるが、それこそ私の出る幕ではない。虚無だの伝説だの、よくわからん力が乱舞する場所に出張るような力を私は持っていない。だから、余計なことはしない。それが一番良い選択肢なのだ。そう決めた。

 

 

 幸か不幸か、私はこの魔法学園において、平々凡々な外見と家柄である。

 男性なら戦争に狩り出されたりもするのだろうが、女性である私の身には何も降りかかってこないはず。

 自分から行動でもしないかぎり、物語のほうから私に絡んでくることはあるまい。

 

 しいて挙げるとしたら、この魔法学園に襲撃を仕掛けてくる炎使い、白鯨の……白煙の? メ……メ……?

 あと、たまにサイト達にちょっかいをかけてくるガリア王の使い魔、ミョ……ミョズ……?

 

 

 そう。とにかく、コルベール先生に恋しちゃってる白面のメなんとかさんと、常に失敗しかしない神の頭脳、ミョズっち。

 この二人さえ回避すれば、円満な学園生活が待っているはずなのだ。

 ビバ! 平穏無事な貴族生活! やった、ハッピーエンドだ!

 

 

 

 そんな事を考えながら自室のドアを開けると、外には異国の風貌をした少年の姿が!

 

「なぁ、ちょっといいか? 相談したいことがあるんだけど」

「ダメです」

 

 私はドアを閉じた。

 

「ちょっとでいいんだよ。頼むよ」

「いや、ドア開けないでくださいよ。空気読めないんですか」

 

 私に待っているのは、優雅で平穏な貴族生活のはず。

 なのに、物語の主人公こと平賀才人君が、やたら私に話しかけてくる。

 

 なぜ。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 強引に部屋の中に入ってくるサイトを見て、私は頭を抱えた。

 なんやかんやで、彼はちょくちょく私と話をしに来る。

 

 理由がまったくわからない。ギーシュ戦の前に、やむにやまれぬ事情で一言二言会話しただけなのだが。どういうわけか、たったそれだけの接触で目を付けられてしまった。勘弁して。

 以前ならともかく、今の彼はそこまで周囲に煙たがられているというわけでもないはず。なにしろ、ギーシュに勝利したり、フーケを捕まえるという大手柄をあげたりしているのだ。特に使用人達の間では、彼は時の人である。塩対応する私に話しかけてくるぐらいなら、メイド達にチヤホヤされに行ったほうがよほど良いと思うのだが、どうか。

 

 

「相談っていうのは、ルイズの事なんだけど」

 

 サイトが喋り始めたので、私は彼の言葉に耳を傾けた。

 彼の態度を見るに、どうやら今日の彼は頭が沸いている日らしい。普通の話なら当たり障りのないようあしらえるのだが、こういう状態のサイトは危険だ。妄想力がエクスプロージョンしているので、突っ込みを入れざるを得ない。勢いでうっかり未来の情報でも話してしまおうものなら、原作崩壊の危機である。なんかの罠かこれは。

 

「俺、気づいちゃったんだよね」

「なんですか。また妄想ですか」

「ルイズ。あいつ、最近妙に俺に優しい」

「犬扱いされてるのに優しいとか、サイトさんの目は節穴なのでは」

 

 塩対応にもめげず、ぐいぐいと来るサイト。

 はて? 普通の人間なら、こんな対応をされて普通に会話などできないのではないか。

 もしかすると、彼は度しがたい性癖の人間なのかもしれない。サイトは、マル……マルコ……リヌ……マリコルヌ……? と同種の存在。つまりは、ドMである。

 

 なんということだ。

 つまり彼は、メイド達にチヤホヤされるよりも、こうして塩対応されるほうが好きなのだろう。だから私の所に来るのだ。

 彼がドSピンク(ルイズ)の使い魔であることを忘れていた。この変態め。

 

 そんなドM君は、"俺は、とんでもないことに気づいてしまった"みたいな真剣な表情をしながら、私に爆弾を放り投げてきた。

 

 

「あれ、たぶん俺に惚れてる」

 

 

 ……いや。

 最終的には間違いでなくなるのだろうが。

 鞭で叩いてきたり、三日間食事抜きにしてきたりする今のルイズを見てそう思うというのは、どうなのか。

 脳みそが沸騰しているのでは?

 

「寝言は昼間から言う物ではありませんよ」

「いいや間違いない。俺には確信がある」

「その自信はいったいどこから」

 

 サイトは、自信満々で妄言を口にした。

 使い魔はご主人様に似てくるというが、サイトも例に漏れず、ご主人様に似てきたのかもしれない。

 妄想力逞しい、エロの使い魔なのかもしれない。目を覚ました方がいいのでは?

 

「今日、俺はルイズに告白する」

「そうですか、頑張ってください……あ、これをどうぞ。たぶん必要になると思うので」

「水の秘薬? こんなものが何で必要になるのかはわからないけど、頂くよ。俺の、いや俺とルイズの新しい門出を祝う品として」

「はい。おめでとうございます」

 

 

 三十分後。

 隣の部屋から、サイトの断末魔が聞こえてきた。

 

 私の部屋は、ルイズの隣なのである。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「何をしているのですか」

 

 使い魔の散歩から帰ってくると、私の部屋の前に異次元の世界が広がっていた。

 

 サイトである。普段は向こうから声を掛けてくるのだが、今日は思わず私から話しかけてしまった。

 それも仕方が無い。なにしろ今日のサイトは、半ケツの状態で地面にキスをし、ピクピク震えているのだ。

 

「なんですか、嫌がらせですか。それとも、新たな特殊性癖にでも開眼したのですか」

「ちがうのでしゅ……ごめんなしゃい……」

 

 キモい。なんだそのしゃべり方。

 新手のギャグか何かか。というか、そこに居られると、私が部屋に入れないのだが。

 

 まぁサイトがキモくなるのはいつものことなので流すとして、いったいこの状況はどういうことだろう。

 

 ……ふむ、なるほど? これは、あのピンクの色ボケの仕業か。

 冷静になれば、こんな事態を引き起こすのは情緒不安定なピンク頭しかいないと分かるが、目の前に酷い絵面が飛び込んでくると混乱してしまう。

 見ると、サイトのケツには赤い跡が。鞭の跡だろう。人を鞭打つなど、常識的な人間としては考えられない。まさに悪魔の所業。

 エルフ達が虚無の胸娘を指して「シャイターンの悪魔」と呼ぶのにも納得だ。奴はもはや人ではない。

 

 

 私はため息をついて、サイトに治癒の魔法を掛けた。

 こんなアホらしいことに魔法を使いたくは無いが、部屋の前で半ケツの男がピクピク震えているという状況は看過できない。

 

「それで、今度はどうしてこんな結末に?」

「ごめんなしゃい、話せば長くなりましゅ……」

 

 サイトが語るには、食事を抜かれた仕返しをルイズにふっかけたらしい。

 パンツのゴムに切れ目を入れてやったのだが、ちょうどピンク頭が窓から身を乗り出した時に切れてしまい、ずり落ちたパンツに足を取られた色ボケ娘は、そのままアイキャンフライしてしまったのだとか。

 

 へぇー。

 

「それは、怒られて当然では?」

 

 思ったより酷い話だった。

 

「んへぇぇ、ごめんなしゃい……全部ぼくが悪いんでしゅ……モグラでごめんなしゃい。土下座しましゅので、ぼくを踏みつけてくだしゃい。ぼくの罪を清めてくだしゃい。卑しいモグラのぼくを、そ、そ、そのおみ足でお仕置きしてくだしゃい」

「なんですか。マリコルヌの真似ですか」

「お尻を出した子、一等賞なんでしゅ」

 

 なぜ唐突に日本昔話を。わけがわからない。

 というか、土下座だったのかそれ。ギーシュと戦った時に「下げたくない頭は、下げられねぇ(キリッ!)」と叫んだ人物だとはとても思えない。どういうことなの。

 

「……んん? でも今の話、私の部屋の前で土下座している理由にならないのでは? 謝るのならピンク頭(ルイズ)にでしょう」

「まだ続きがあるんでしゅ」

 

 なんでもこの後、鞭で叩くだけでは気が収まらなかったルイズが、魔法でサイトを吹き飛ばそうとしたらしい。

 そして案の定失敗し、とある場所を爆破してしまったと。

 

「……え? どこが爆発したとおっしゃいましたか」

「壁でしゅ。ルイズの部屋の壁が、木っ端微塵になったんでしゅ」

「もしかしてその壁は、私の部屋の壁でもあるのでは」

「そうでしゅ……ごめんなしゃい……」

 

 なんだと。

 謝って済むか、この野郎。

 

 私は、サイトの頭を踏みつけた。

 

 

 




流れるように頭を踏ませるサイト。
おのれ策士め!

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