平賀才人が、なんかやたら話しかけてくる   作:ぽぽりんご

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第3話_マッチョがホモ臭い理由

 

 

 私は、なぜかサイトに人生相談をされていた。

 どういう人選だろう。コルベール先生がいなくなってしまったから、私にお鉢が回ってきたのだろうか。

 

 アルビオンとの戦争が終わって、既に一ヶ月。コルベール先生は戦争中、白炎のなんとかいう奴が魔法学園を襲撃した際に亡くなった……ということになっている。

 心の支えだった恩師がいなくなって、サイトは意気消沈しているのだろう。

 

 や、実は生きてるけど、コルベール先生。だが、それを言うわけにもいくまい。

 

 

 私は、うなだれているサイトに目を向けた。

 心をとらわれている。外に目を向けられていない。

 こういう状態の時は、とにかく気を紛らわせるのが重要だ。それだけで心は回復する。適当に話をしているだけでもいい。

 本音を言えば、こんな時こそピンクの色ボケに慰めて貰えば良いのでは、とも思ったが。きっとサイトは、ご主人様に弱みを見せたく無いのだろう。なら仕方が無い。私が相手をしてやろう。

 

 

 さて、サイトと話す話題をどうするか。

 考えてみると、話題もそう多くはない。

 

 最近の話題は重い物が多いし、昔すぎるとそもそも話が弾まない。私とサイト、二人に共通することと言ったら、日本の話か魔法学園のゴシップぐらいだ。前者の話をする選択肢はない。となると……サイトが来る前の、魔法学園の話。これがベストだろうか?

 ピンク頭(ルイズ)、キュルケ、ギーシュ、青髪無愛想(タバサ)。こいつらは良くも悪くも目立つので、関わりの無かった私でも逸話の一つや二つ程度なら知っている。連中の失敗話でも聞かせてやろう。

 

 

 

 小一時間ほど、話をしていただろうか。

 サイトが最も興味を示したのはやはり妄想エクスプロージョン娘の話題で、彼女の失敗談を聞くたびに笑顔を取り戻し、今では普通に笑える状態になっていた。ピンク頭の話題は強い。ピンク頭の話題は……あれ、ちょっと待って。ルイズ、隣の部屋にいないよね? 壁が危篤状態なので、普通に聞こえてしまうような……考えないようにしておこう。許せ、破廉恥ピンクよ。

 

破廉恥ピンク(ルイズ)の失敗談といえば、中庭の新名所もそうですね。気を紛らわせたい時に、散歩ついでに見学してみるのもいいのでは? あの笑える像を見ていたら、すべてが馬鹿らしくなってくると思います」

「中庭の像って……あの、潰れた奴のことか?」

「はい。潰れたサイトさん像です」

「あれ俺かよ! なんで潰れてんの!?」

「ギーシュが像を制作していたのですが。完成間近になって、ピンク頭(ルイズ)煩悩メイド(シエスタ)がフライングボディアタックにて破壊しました」

「……俺、またあの二人を怒らせるようなことしたっけか?」

「はい。サイトさんは、いつでもあの二人を怒り心頭にしています」

「マジかよ」

 

 そんなこんなで、夜も更けていき。

 お開きの時間になったので、サイトは私にお礼を告げて去って行った。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「なぜ、そんな疲れた顔をしてるんですか」

「いや……俺、シュヴァリエになっただろ? だから、研修とか色々あるんだけど」

「サイトさんが疲れるほどの訓練があるとは思えませんが。研修でいびられたとかですか? 学園内にもいますよね。『この平民が! 地を這う虫けらごときが!』みたいな態度の人」

「さすがに虫けら扱いしてくる奴はいない……いな……あれ、ルイズに虫扱いされていたような……?」

 

 自分の立ち位置について、真剣に悩み始めたサイト。

 正直そんなどうでもいい事で悩まれても困るので、私は話の続きを催促した。

 

「で、いびられたんですか?」

「ん? いや、むしろ逆だよ。なんか、騎士団の人達がやたら好意的でさ。ちょっと距離感が近すぎるっていうか」

「そうですか。七万を止めた英雄ですからねサイトさんは。プライドバリバリのお坊っちゃま貴族ならともかく、本業の騎士になら好かれても不思議はないかと」

「そういうのじゃなくて……ああ、説明しにくいな」

「ふむ」

 

 どうも、ニュアンスが異なるらしい。

 先ほどのサイトの言葉を思い返しながら、少し考えてみる。

 サイトの話を、脳内で具現化するのだ。

 

 騎士達とサイト。むくつけきマッチョ共と少年。なるほど、ホモですね。

 好意的。恋と言い換えてもいい。なるほど、ホモですね。

 距離感が近すぎる。肉体的接触。それは、ホモですね。

 

「なるほど。サイトさんの言わんとしていることがわかりました」

「ほんとか? 今の説明で?」

「はい。つまりサイトさんはこう言いたいのでしょう? ホモ臭ぇから近寄るんじゃねぇよ、このマッチョどもが、と」

「誰もそんなことは言ってない」

 

 サイトの言葉を無視して、私は高説を垂れ流した。

 少し興奮しているのかもしれない。女子はみんなホモが大好きだから。

 

「サイトさん。なぜマッチョがホモ臭いか、理由を考えたことがおありですか」

「いや、だから誰もそんなことは言ってないと……え、理由あんの?」

「はい。この国で使われている筋力増強剤。騎士の方々がよく服用されるのですが、そこには男性ホルモンが含まれているのです!」

 

 いや、知らんけど。

 嘘八百だけど。

 

「筋力の増強にはいいのですが、とうぜん強い薬には副作用があります。薬で男性ホルモンを定期的に補給する彼らは、自身でホルモンを生成する機能が低下してしまうのです。その結果、外の男性ホルモンに惹かれてしまうことに……外の強い男性ホルモン。強い男性。つまりは、サイトさんですね」

「へぇ、なるほどなぁ」

 

 サイトは、感心したような声を上げた。

 話しながら適当に考えたデタラメなのだが、どうやらサイトはすっかり信じ込んでしまったらしい。

 将来、詐欺に騙されたりしないか心配である。

 

「……あれ? それって大丈夫なの、俺」

「大丈夫なのでは? 女性達にキャーキャー言われるのと何ら変わりないでしょう。ただ、性別が違うだけで」

「変わるよ。一番変わっちゃいけない所が違ってるよ」

「別に恋愛感情というわけではないので、大丈夫でしょう。たぶん」

 

 そうなのかなぁ、と悩むサイト。

 

 いや、真剣に悩まれても困るのだが。

 だって、嘘だし。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「ゆうべはお楽しみだったようですね」

 

 昨日から、シエスタがサイトの部屋に寝泊まりすることとなった。

 おかげで夜遅くまでイチャイチャ、イチャイチャ……こちとら寝不足である。

 

「なんか……ごめんな」

「謝罪の言葉はいりません。行動で示して下さい」

「具体的には」

「壁の修繕を」

「すまん、いくら直してもまた壊れるんだ」

「そもそも壊さないで下さいよ」

 

 もう、いい加減にしてほしい。

 どうせ壊すなら、窓側や反対側の壁だってあるではないか。吹きすさぶ風とお友達になったり、反対側の部屋にいるキュルケとルームメイトになってしまってもいいではないか。なぜ私の部屋の壁だけ壊すのだ。

 

 憤るが、どうにもならない。

 サイトは責められる事に快感を覚えるドMだし、ピンクの色ボケ(ルイズ)は公爵家令嬢。たとえ相手に非があろうとも、私が軽々しく要望を通せる相手ではない。

 本当に面倒くさい連中である。

 

 ガルルと恨みがましい目を向けてみるが、サイトはどこ吹く風といった面持ちで、のんきに欠伸なんかしていらっしゃる。

 こ、この野郎が。こ、こ、こ、この盛りのついた駄犬が。

 

「ずいぶんお疲れのようで」

「ああ、俺も寝不足なんだ。あんなん眠れねぇよ」

 

 私の嫌みをスルーし、サイトは答えた。

 まぁ、それもそうだろう。いつ爆発するか分からないボンバーマン娘に、除夜の鐘ですら浄化不能な煩悩メイド娘。そんな二人に挟まれているのだ。安眠などできようはずもない。

 

「……仕方ありませんね。そんな貴方に、素敵アイテムをプレゼントしましょう」

 

 私は、最終手段をとることにした。

 出費は控えたいが、仕方あるまい。いずれ慣れるとしても、私はいま辛いのだ。安眠させろ。

 

「眠りの秘薬。サイトさんには、睡眠導入剤と言ったほうがわかりやすいでしょうか? 騒がしい場所で眠り続けられるほど効果は長続きしませんし、お値段の都合もあるのでかなり薄めてあります。が、これで騒ぎの元凶(ルイズとシエスタ)を眠らせれば、私たちの平穏は確保されるはずです」

 

 薄いとはいえ、暗くしてベッドで横になっている状態ならば、よっぽど興奮でもしていない限り眠りにつくはず……興奮? あいつら、いっつも興奮してんな。大丈夫かな。たぶん大丈夫だろう。

 

「すげぇ……ありがとう! 恩にきるよ! これで安心して眠れる!」

 

 サイトは、涙を流して感謝の気持ちを伝えてきた。

 

 マジかよ。こんなに喜ばれるとは思わなかった。

 サイト……思えば、不憫な奴なのかもしれない。

 

 

 





マッチョに対する熱い風評被害。

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