平賀才人が、なんかやたら話しかけてくる   作:ぽぽりんご

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第4話_風の剣士、ヒリーギル・サートーム

 

 

「タバサを助けられて、本当によかった。あいつには、いつも助けられてばっかりだったから」

 

 サイト君、ガリアから帰って来るなり、真っ先に私の所に成果報告である。

 どういうことなの。最近、距離感おかしくない?

 

「サイトさんは、恩を返すタイプなのですね。さながら鶴のように」

「いや、恩は返すべきだろ誰だって。てか、この世界にも鶴の恩返しってあるのな」

 

 しまった。口を滑らせてしまった。

 まぁ大丈夫だろう。サイトはおっぺけぺーなので、簡単に騙されてくれる。何かあったら、適当に法螺を吹いてごまかそう。

 ぶぉぉぉー、ぶぉぉぉーと法螺を吹いてやる。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「どうやったら、ルイズの心を震わせられるのかな」

 

 学園におっぱいお化け(テファニア)がやってきたり、青髪陰キャ(タバサ)がサイトに纏わり付きはじめた頃。

 サイトに、なんだかよくわからない相談を持ちかけられた。

 

 

 なんだよ、心が震えるって。

 震えるぞハート、燃え尽きるほどヒートとか言い出したりしないかなこいつ。

 

 いや、原作を知っている私なら理解出来る話なのだが。

 突然やってきて、「ルイズの心を震わせる手段について相談させてくれ」みたいな事を言われても、普通なら意味不明だろうに。それとも、私が全部知っている前提で話を持ちかけてきたのだろうか。隣の部屋の内緒話を、全部共有しているつもりなのだろうか。ハハハ、こやつめ。いい加減にしろ。

 

「一応確認ですが、ルイズは不在なんですよね?」

「ああ。俺がここに来るときは、部屋にルイズがいない時だよ」

 

 なぜそんな密会のような真似を。

 ピンク頭にバレたら殺されるのでは? おもにサイトが。まぁ、サイトなら大丈夫か。

 

「閃きました」

「早いな。聞かせてくれ」

「心は筋肉と同じです。負荷をかければ、そのぶんプルプル震えたり、強く復活したりすると思います」

「その考え方は脳筋すぎる気がするんだけど」

「大丈夫です。色ボケピンク(ルイズ)は脳筋なので」

「あっ、はい」

 

 続いて、具体的な作戦をどうするか整える。

 サイトの演技力はゴミカスレベルだが、ピンク頭を騙すぐらいはできるはず。あのボンバーマンを騙すなど、杖を転がすより簡単だ。

 

「では、詳細の説明に移ります」

 

 頭の中に思い描いた流れを口に出す。我ながら、完璧な作戦と言える。

 唯一問題があるとすれば、サイトの身の安全が保障できないという事ぐらいだが、大事の前の小事。些細な問題であろう。

 

「まず、サイトさんがこう言います。『あれ、ルイズ。服の向きが逆じゃないか? あっ、ごめん背中と胸を間違えた! なにしろペッタンコだから。大平原の小さな胸だから! テファとは大違いだから!』 ここでのポイントは、胸魔神(テファ)と比較して貶すことです。ピンクぶち切れ、間違いなし」

「それ、俺が殺されない?」

「殺されます」

「殺されるのかよ」

 

 だって、仕方が無いではないか。

 サイトが犠牲にならないと、ルイズの心が震えないのである。

 悪いのはルイズだ。

 

「まぁ、サイトさんなら半死半生で済むでしょう。ある程度ペタンコ娘(ルイズ)が殴り疲れた所でこう伝えるのです。『でも俺、そんなルイズのことが大好きだヨ』と。そしたら、あの淫乱ピン……ルイズも、脳内の妄想ボックスをピンク色で一杯にして蕩けるでしょう。心が震えること、アル中のごとし」

「そんな馬鹿っぽい作戦、通じるのかな……」

「通じます。ピンク(ルイズ)は馬鹿なので」

「あっ、はい」

 

 

 後日サイトに話を聞いたところ、作戦はうまくいったらしい。

 

 嘘だろ。

 あのピンクは、どんだけ単純なのか。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「……なぁ。これ、何?」

「ああ、それですか」

 

 私の部屋を訪れたサイトが、机の上にあった台本を目にして問いかけてきた。

 

 

 やべぇ、隠すのを忘れていた。

 まぁ、別に秘密にするほどのことでも無いのだが。

 

「それは……風の剣士、ヒリーギル・サートームの伝説、第二章の下書きですね」

「なんだよそれ! なんでそんなもんがここに!?」

「第一章が大好評だったので、第二章の台本作成も頼まれたんです」

「も、って何!? 劇場で開かれてるアレ、お前の仕業だったの?」

「はい。実は私の仕業だったのです」

 

 ばれてしまっては仕方が無い。事件の黒幕は、すべて私である。

 

 悪いのは私ではない。悪いのは国民であり、私に金を回してくれない国そのもの。

 サイトは時の人。トリステインで一番の大英雄。誰しもが、お金を払ってでも彼の英雄譚を聞きたがる。

 そして、サイトの活躍をよく知る私にはお金が無い。こうなるのは必然であった。国民は英雄譚が聞けてハッピー、私はお金が貰えてハッピー。Win-Winの関係。誰も不幸にはならない、最高のハッピーエンドが、ここにはあった。

 

「大丈夫です、安心してください。国家機密的なアレは、フィクション的な物語に包んで隠しておりますので」

「いやいや!? 俺、表を歩けなくなるほど恥ずかしいんだけど! てか、風の剣士ヒリーギル・サートームって何。なんでそんな名前に」

「本名だと恥ずかしがると思ったので、ちょっと名前をいじりました。感謝してください」

「するはずがねぇよ。風の剣士も大概恥ずかしいよ」

「果たしてそうでしょうか?」

「そうだよ」

「あれでも、だいぶ控えさせたつもりなのですが……劇団の人は『この二つ名、瞬殺の美天使に変更できないか?』って言ってきましたよ。真顔で」

「マジかよ」

 

 マジだよ。

 

 

 


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