「タバサを助けられて、本当によかった。あいつには、いつも助けられてばっかりだったから」
サイト君、ガリアから帰って来るなり、真っ先に私の所に成果報告である。
どういうことなの。最近、距離感おかしくない?
「サイトさんは、恩を返すタイプなのですね。さながら鶴のように」
「いや、恩は返すべきだろ誰だって。てか、この世界にも鶴の恩返しってあるのな」
しまった。口を滑らせてしまった。
まぁ大丈夫だろう。サイトはおっぺけぺーなので、簡単に騙されてくれる。何かあったら、適当に法螺を吹いてごまかそう。
ぶぉぉぉー、ぶぉぉぉーと法螺を吹いてやる。
◇◇◇
「どうやったら、ルイズの心を震わせられるのかな」
学園に
サイトに、なんだかよくわからない相談を持ちかけられた。
なんだよ、心が震えるって。
震えるぞハート、燃え尽きるほどヒートとか言い出したりしないかなこいつ。
いや、原作を知っている私なら理解出来る話なのだが。
突然やってきて、「ルイズの心を震わせる手段について相談させてくれ」みたいな事を言われても、普通なら意味不明だろうに。それとも、私が全部知っている前提で話を持ちかけてきたのだろうか。隣の部屋の内緒話を、全部共有しているつもりなのだろうか。ハハハ、こやつめ。いい加減にしろ。
「一応確認ですが、ルイズは不在なんですよね?」
「ああ。俺がここに来るときは、部屋にルイズがいない時だよ」
なぜそんな密会のような真似を。
ピンク頭にバレたら殺されるのでは? おもにサイトが。まぁ、サイトなら大丈夫か。
「閃きました」
「早いな。聞かせてくれ」
「心は筋肉と同じです。負荷をかければ、そのぶんプルプル震えたり、強く復活したりすると思います」
「その考え方は脳筋すぎる気がするんだけど」
「大丈夫です。
「あっ、はい」
続いて、具体的な作戦をどうするか整える。
サイトの演技力はゴミカスレベルだが、ピンク頭を騙すぐらいはできるはず。あのボンバーマンを騙すなど、杖を転がすより簡単だ。
「では、詳細の説明に移ります」
頭の中に思い描いた流れを口に出す。我ながら、完璧な作戦と言える。
唯一問題があるとすれば、サイトの身の安全が保障できないという事ぐらいだが、大事の前の小事。些細な問題であろう。
「まず、サイトさんがこう言います。『あれ、ルイズ。服の向きが逆じゃないか? あっ、ごめん背中と胸を間違えた! なにしろペッタンコだから。大平原の小さな胸だから! テファとは大違いだから!』 ここでのポイントは、
「それ、俺が殺されない?」
「殺されます」
「殺されるのかよ」
だって、仕方が無いではないか。
サイトが犠牲にならないと、ルイズの心が震えないのである。
悪いのはルイズだ。
「まぁ、サイトさんなら半死半生で済むでしょう。ある程度
「そんな馬鹿っぽい作戦、通じるのかな……」
「通じます。
「あっ、はい」
後日サイトに話を聞いたところ、作戦はうまくいったらしい。
嘘だろ。
あのピンクは、どんだけ単純なのか。
◇◇◇
「……なぁ。これ、何?」
「ああ、それですか」
私の部屋を訪れたサイトが、机の上にあった台本を目にして問いかけてきた。
やべぇ、隠すのを忘れていた。
まぁ、別に秘密にするほどのことでも無いのだが。
「それは……風の剣士、ヒリーギル・サートームの伝説、第二章の下書きですね」
「なんだよそれ! なんでそんなもんがここに!?」
「第一章が大好評だったので、第二章の台本作成も頼まれたんです」
「も、って何!? 劇場で開かれてるアレ、お前の仕業だったの?」
「はい。実は私の仕業だったのです」
ばれてしまっては仕方が無い。事件の黒幕は、すべて私である。
悪いのは私ではない。悪いのは国民であり、私に金を回してくれない国そのもの。
サイトは時の人。トリステインで一番の大英雄。誰しもが、お金を払ってでも彼の英雄譚を聞きたがる。
そして、サイトの活躍をよく知る私にはお金が無い。こうなるのは必然であった。国民は英雄譚が聞けてハッピー、私はお金が貰えてハッピー。Win-Winの関係。誰も不幸にはならない、最高のハッピーエンドが、ここにはあった。
「大丈夫です、安心してください。国家機密的なアレは、フィクション的な物語に包んで隠しておりますので」
「いやいや!? 俺、表を歩けなくなるほど恥ずかしいんだけど! てか、風の剣士ヒリーギル・サートームって何。なんでそんな名前に」
「本名だと恥ずかしがると思ったので、ちょっと名前をいじりました。感謝してください」
「するはずがねぇよ。風の剣士も大概恥ずかしいよ」
「果たしてそうでしょうか?」
「そうだよ」
「あれでも、だいぶ控えさせたつもりなのですが……劇団の人は『この二つ名、瞬殺の美天使に変更できないか?』って言ってきましたよ。真顔で」
「マジかよ」
マジだよ。