「じゃあ千歌ちゃんもかいとのお姉ちゃんになってみる?」
お姉ちゃんがあふれんばかりの笑顔で言ったセリフが僕の脳内で何度も何度もこだまのように反響する。・・・千歌さんが僕のお姉ちゃん?? 何言ってるんだ?
「え、え、どういうこと梨子ちゃん?? 私がお姉ちゃんに??」
千歌さんも僕同様にお姉ちゃんの言葉の意味がピンと来ていないようで、お姉ちゃんに何々と迫っている。千歌さんは元々好奇心旺盛な性格だがそれにしてもやけにお姉ちゃんに食いついている気がする。
「ふふ、落ち着いて千歌ちゃん? 私は常々思っていたのよ、かいとのように思わず抱きしめたくなっちゃうくらい可愛い弟を独り占めしてもいいのかしらと?」
「ほうほうほう!」
お姉ちゃんは弟の目の前で友達に何を言っているのだろうか? と言いたいところだが千歌さんもアホ毛をぴょんぴょんさせながら馬鹿みたいにお姉ちゃんの言葉に相槌を打っている。
でもこれはこっそり学校に行くチャンスでは? よしそうしよう、さらば!
「いいえ独り占めなんてだめよ! だからこう思ったのよ! 他の人にもかいとの素晴らしさを共有してもらえばいいと!」
「おぉっ!!」
いいと!じゃねえよっ!! 弟の人権を何だと思っているんだ!? 千歌さんも何でそんなノリノリなんだよっ!
ちなみに逃げようとしたら一瞬でお姉ちゃんに見つかり僕を後ろから抱きしめるような形であっさり拘束されてしまった、まったく動けません。後周囲の目がきつい・・・。
「じゃあじゃあ! かいと君を千歌の弟としてくれるの??」
千歌さんは、目をキラキラさせてそう質問をするが、
「千歌ちゃん、勘違いしないでほしいのだけど、かいとをあげるわけないでしょう? あくまで共有するだけよ? 調子に乗らないで頂戴。」
「・・・すみません。」
般若のような表情と化したお姉ちゃんによって、一瞬で諌められていた。千歌さんは分かりやすく項垂れて、アホ毛もしゅんと垂れ下がっている。
お姉ちゃんは、昔から僕のこととなると、普段のおとなしい姿からこんな感じに豹変するときがあるのだ。本当にこの時のお姉ちゃんは怖いんだよ・・・。
しかし、何か違和感がある・・・。自分で言うのもなんだがお姉ちゃんはブラコンだ。ブラコンオブブラコンだ。要はお姉ちゃんは僕のことが大好きであり、さらに独占欲が強いのだ。どれくらい強いかというと、僕と離れるのが嫌だという理由で、学校を休んで僕の修学旅行について来ようとするくらいだ、親に止められてたけど。そんな独占欲が強いお姉ちゃんが、仲が良いとはいえ千歌さんと僕を共有することを提案することが考えにくいのだ。
そんな僕の疑問を感じ取ってかは分からないが、お姉ちゃんが
「かいと、お姉ちゃんと二人きりでイチャイチャできないのは、寂しいと思うけどこれは仕方がないことなのよ? ・・・私もう無理なの。」
と、心の底からごめんね?と言いたげに僕を抱きしめる腕に力を入れながら謝罪をしてきた。お姉ちゃん、イチャイチャできないのは全くのノープロブレムだよ? ていうか無理って何が無理なんだよ?と思っているとお姉ちゃんが続けて
「・・・最近かいとを見てると襲いそうになっちゃうの♡」
「「・・・・・。」」
・・・イマナンテ? オソウ? オソウッテナニ?
僕は、言葉の意味を理解できずに呆然とし、千歌さんは顔を引きつらせてマジかよと言わんばかりにドン引きしている。
「だから、かいとを千歌ちゃんに共有という形で貸しだせば私もかいとを襲わなくても済むし、千歌ちゃんにもかいとの素晴らしさを知ってもらえるし、理想的な弟がいる生活を体験できるでしょう?」
・・・どういうことだ、全然お姉ちゃんの言っていることが分からないっ!ていうか何??僕は毎日、実の姉に襲われそうになってたのかよ!?? ブラコンってレベルじゃねえ!!毎日布団に潜り込んできてるけど何もされてないだろうな?? 一気に自分の貞操が不安になる中、千歌さんが
「・・・ま、まあ梨子ちゃんの言いたいことは何となく分かったよ。後、梨子ちゃんがやばいってことも。」
「ふふ、分かってくれて嬉しいわ♪」
「・・・・・。」
もう考えるの面倒になってきたし、流れに身を任せよう、もう疲れた。色々と衝撃的な展開についていけず脳がキャパオーバーしてしまったので諦めて傍観に徹することにした。
「要するにお互いのメリットの為に、かいと君を千歌の弟として貸してくれるっていうことだよね?」
千歌さんはさっき怒られたことがまだ尾を引いているのか、恐る恐ると言った感じで、しかしややテンション高めにお姉ちゃんにそう確認をとる。ていうか千歌さんさっきからやけに乗り気だが、僕に弟になってほしいのか? 千歌さんみたいに可愛い人にそう思われてるとなると結構嬉しかったりするが、だからといってまじで弟になるかと言われればそれとこれとは別だ。
「ええ、そうよ。とはいっても私もずっと会えないと寂しくて死んじゃうからとりあえず、3日あたりでどうかしら?」
「うん! それでいいよ!! じゃあ早速今日からいいかな!!」
「ええ、ノープロブレムよ!」
「いやいやいや、普通にプロブレムだわっ! 何勝手に僕の3日間のスケジュールを埋めてるんだよっ! 大体弟を共有とか聞いたことないわっ!」
と、傍観に徹するつもりだったが我慢できずに抗議した、しかし二人の耳に届くはずもなく、どんどん二人の話は進んでいく、弟に人権はないらしい。
「いい千歌ちゃん? 弟として貸しはするけど、かいとに手を出すのは禁止よ?」
「わ、わかってるよ// いちいちそんなこと言わなくても大丈夫だよ。」
「本当にお願いよ、かいとの魅力に負けないでね? アクアのメンバーを信用しているからこその話だということを覚えててね?」
「うんっ、任せてっ!」
最早ツッコミはしまいが、この人たちは僕の目の前で何の会話をしているんだ? これ最早セクハラだよな?
しかし、お姉ちゃんはああ言っていたがやはり僕を共有する件については違和感が残る。あのお姉ちゃんが僕を他所に弟として貸すとは・・・何か裏があるのではないだろうか?
しかし結局考えても僕の中のモヤモヤは最後まで晴れなかった。
「じゃあそういうことだから、今日から早速千歌ちゃんの家に弟として行って頂戴ね?」
どういことかよく分からないが、本当に千歌さんの弟として派遣されてしまうらしい。当の千歌さんはというと「末っ子の千歌にも弟が・・・。」と、なにやら感激している様子。まあその気持ちはわからなくもない。僕も弟でいつもお姉ちゃんに振り回されているため自分にも弟や妹が欲しいと思ったことはあるからね。
「そ、そういうわけだから、よろしくね? かいと君//」
千歌さんが、少し恥ずかしいのか上目遣いでそう言ってくる。・・・可愛いすぎるだろ、ちくしょう。こんな風に言われてしまっては断れるわけもなく、
「・・・まあ、はい。」
と答えるしかなかった。
というわけで、よくわからないまま僕は三日間限定で千歌さんの弟になることになってしまった。正直何をすればいいのか分からないが、実の姉に襲われそうになっているこを知ってしまった今、避難するという意味ではありがたいことなのかもしれない・・・多分。
ちなみにこの日、僕を含めお姉ちゃん、千歌さんは長話をしていたせいで学校に遅刻した。遅刻の理由と聞かれて、姉に拘束されていましたって言っても信じてもらえなかった、僕が何をしたって言うんだよ・・・。
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「・・・はあ、千歌さんの弟とか言われてもなぁ。」
放課後、お姉ちゃんに逆らえない僕は千歌さんの弟になるため、千歌さんの家に向かっていた。
・・・自分で言っておいてなんだが、意味が分からないな。
「お姉ちゃんの目的はよく分からないけど、適当にやればいいだろう。」
そして、僕は高海家のインターホンを押した。
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かいと、離れ離れになってとても寂しいけれど頑張って弟をしてきてね? 私自慢のかいとなら、きっとみんなのことを・・・。
つづく
2話読んで頂いてありがとうございます!
少々梨子ちゃんブラコン過ぎますかね(笑)
でもこんな感じのお姉ちゃんに憧れているわけで、はい(変態の自覚はあります)。
さて次回は千歌ちゃんを中心とした形のお話になります!
最後に早速お気に入り登録していただいた方々ありがとうございます!
では、また次話で会いましょう!