ぴん、ぽ~ん・・・。
インターホンを少し控えめに押した後、しばしの沈黙があたりを包む。この時間って意味もなく緊張するが僕だけだろうか?
ほどなくして、「は~いっ!」と元気な返事がインターホンから帰ってきたと思ったら、ドドドッと明らかに走ってきているのが丸分かりな騒がしい音をまき散らしながら玄関まで来て、ガラッと引き戸タイプのドアが勢いよく開いた次の瞬間
「おっかえり~っ!!」
千歌さんが満面の笑みで飛び出してきて、思い切り抱き着いてきた。
「うおっ、ちょっと千歌さっ!わっぷっ!?」
一瞬のことであり回避ができるわけなく、千歌さんを受け止める形をとる。強い衝撃とともに、全身がむにゅりとした柔らかく暖かい感触と、さらにはお風呂に入ったのだろう、柑橘系のシャンプーの良い香りが僕を襲いかかってくる。。
ほぁあああ!? こ、これは、たまらない・・・。特に胸に当たるこの二つの特段柔らかい感触が僕の理性を破壊していいく。
しかも千歌さんのましゅまろのような頬で僕の頬にすりすりしてきたぞっ!?
・・・だめだ、これはだめだ。
「ん~、これが梨子ちゃんが言ってたおかえりのぎゅ~か~、これは確かにいいかも~。って、かいと君!? どうしたの、白目になってるよ!?」
千歌さんは、ひとしきり満足したのか僕から離れると、僕の異常に気付いたのか慌てた様子でそんなことを言ってくる。
どうやら理性を押さえつける為に全精力を注ぎこみすぎて白目になっていたらしい、想像したら凄く気持ち悪いな、それ・・・。
というより、いきなり抱き着いてきたのはお姉ちゃんの入り知恵か・・・。確かにお姉ちゃんは僕が帰ってくるたびに抱き着いてくるが・・・。
「千歌さん、もしかしてお姉ちゃんから僕のことを色々聞いてる?」
恐る恐るそう確認するが、千歌さんはむ~と不満げに頬を膨らませると
「違うでしょ??」
と、一言
「何が違うの??」
意味がよく分からなかったので、そう聞き返す。
それにしても頬を膨らましてる千歌さんまじで可愛いすぎるんだが、怒り慣れていない感じが何ともぐっとくる・・・。
僕の言葉に千歌さんは、さらに可愛く頬を膨らませると大きく口を開け、
「千歌お姉ちゃんでしょ?」
「・・・・・え?」
ちか、お姉ちゃん?? どういうこと??
・・・まさかそれで呼べと??
「いやいやいやいや、無理無理無理!」
手と首がもげんばかりにぶんぶん振って否定する。
いくら弟として貸し出されたはいえ、お姉ちゃんの友達にお姉ちゃん呼びとか恥ずかしすぎるだろっ!? どんなプレイだ!?
しかし、まったく納得した様子のない千歌さんは
「だめ! そう呼ぶまで家に入れないよっ!」
腰に手を当て、なぜか説教モードで怒られてるんだが?? お姉ちゃん呼びがそんなに重要か??
「・・・勘弁してくれないですか?」
「だめ。」
懇願するも、秒で却下されてしまった。
ちなみに、本当の自分の家には帰れない。お姉ちゃんから今日から3日は千歌ちゃんの家で弟をすること、と言われ家を締め出されているのだ。家に帰っていいのは放課後の1時間程度だ。ずっと千歌さんの家だと僕成分が足りずに死ぬからとのお姉ちゃんの命令だ、意味が分からないが。まあ何が言いたいのかというと、千歌さんをお姉ちゃん呼びしないと、今日の僕の寝床がないということだ。
「・・・どうしてもだめですか?」
「だめ。」
再度懇願するも回答は同じ。どうやら覚悟を決めなければいけないらしい。
「千歌・・・おねえ・・・ちゃん//」
うおお// は、恥ずか死ぬっ!! 本当の姉以外にお姉ちゃん呼びするのがこんなにも恥ずかしいとは//
しかし千歌さんは分かりやすくにぱーと笑顔になっていき、そして
「きゃ~// か、可愛すぎるよ~! ね、ね!!もう一回、もう一回言って!!」
と、大変興奮した様子できゃっきゃ言いながら、僕の肩を掴んでぐいぐい揺らし来るわ、揺らし来るわ・・・。
「嫌だわっ!? ちゃんと言ったんだから早く家に入れてくれよ!!」
当然アンコールに応えるわけもなく千歌さんの腕を振り払い、そう捲し立てる。
しかし千歌さんはそんな僕の言葉なんて全く気にしていないかのように、
「お願いお願いっ!!もう一回!もう一回だけだから!!」
と、顔を僕の顔にぐいっと近づけてきて再度懇願される。いきなり顔を近づけられて、慌てたこともあり、つい。
「・・・後、もう一回だけだからな?」
と、言ってしまった。千歌さんみたいな可愛い顔をいきなり近づけられたらこうなるって、普通・・・。
「うんうんうんうん!!」
千歌さんは、わくわくしたように何度も首をぶんぶん振り、そう言ってくる。
・・・はぁ、しょうがない。ここは心を殺して乗り切ろう。
そう、僕は千歌お姉ちゃんと言うだけのロボットなんだ、そう思い込むんだ・・・。
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―――――
(10分後)
「はぁ~、すっごく幸せだよぉ~♪♪」
「・・・そりゃよかった。」
今にも宙に浮きそうなほど舞い上がっている千歌さんとは対照的に僕の精神はけちょんけちょんにやられ、もうズダボロだ・・・。
結局、もう一回もう一回と要求されまくり50回くらい千歌お姉ちゃんと言わされた。最後の方はもはや何かの呪文じゃないのかと錯覚したレベルだ。
「じゃあ、約束通り家に入れてあげるね! 今からもう楽しみで楽しみでしょうがないよ!!」
全然約束通りじゃないけどな・・・。もう一回だけと、幾度となく嘘をつき続けた千歌お姉ちゃ・・・千歌さんに心の中で文句を垂れながら玄関にとぼとぼと重い足取りで向かう。
何はともあれ、これでようやく寝床を確保できたらしい。
「ほら、早く家に入らないともう一回お姉ちゃんって言わせるよ!」
「すぐ行くよっ、千歌お姉ちゃん!!」
千歌お姉ちゃんの言葉を聞き、弾丸の如きダッシュで高海家にお邪魔した。
ていうか、まだ家にすら入っていない状況で既に疲労困憊ってやばいのでは・・・。
―――――――――――――
―――――――
「はい、じゃあお姉ちゃんの前に座って?」
「・・・・・。」
予想は大的中。先ほどまでのはまだまだ序の口だったらしい。
リビングに迎え入れられた僕は、そこでテレビでも見ようと言われた。ちなみに夕食とお風呂は既に自分の家で済ませてきた。流石に食事を出してもらうのは悪いとの配慮だ。
話を戻すが、テレビを見る、その提案自体はよかったのだが、そこからが問題だった。
千歌さんが足をまっすぐ、かつ少し左右に開く形で床に座り、先ほどの言葉だ。
「・・・どういうこと?」
「ん? だから千歌お姉ちゃんの前に座ってって。」
そう言いながら千歌お姉ちゃんが足を開いて座ることによってできた左右の足の間の空間を指差してくる。
「・・・どうしてそこに座るの?」
・・・本当は分かってる、毎日お姉ちゃんにされているのだから。しかしその現実を受け入れたくなくて、そう質問を投げかける。
「それで私がかいと君を抱きしめながらテレビを見る。これが最高だって梨子ちゃんが言ってたよ? ちょっと恥ずかしいけど・・・私もしたい!!したいったらしたい!!」
OH~、お姉ちゃん・・・どれだけ僕たちの日常を周りに喋ってるんだよ。僕がシスコンだって思われるじゃないか、もう思われてるけど・・・。
ていうか、恥ずかしいならやめたらいいじゃないか、顔ちょっと赤いし・・・。
駄々っ子の様に手足をばたばたさせている千歌お姉ちゃんを見て、少し可愛いなと思いながらそう考えていると、
「もう、はやくっ!」
中々座ろうとしない僕にしびれをきらしたのか、がばっと立ち上がり僕に足払いの要領で無理やり座らせに来たんだがっ!?
そして
「えへへ、えいっ!!」
ぎゅっ
後ろから力強く本日二度目の抱きを体験する。
やばいやばいやばいっ! お姉ちゃんから毎日されている(無理やりだぞ?)ことだが、千歌さんから伝わる体温、そしてやはり感じる二つのふよりとした超絶柔らかい感触が嫌というほど存在感を主張してくる。さらに先ほど手足をばたつかせていたせいか、ほんのりとした汗の匂いとシャンプーの混じった麻薬のような香りが、僕の理性をごりごりと削っていく。
・・・素数だ、こういう時は素数を数えるんだ、1、3、5・・・あ、これ奇数か。
緊張のあまり思考がまとまらない、いやっ、僕ならいけるっ!!
これは、まじのお姉ちゃんだ、そう思い込むんだ!
これはお姉ちゃん、お姉ちゃん、お姉ちゃん、お姉ちゃん、お姉ちゃん、お姉ちゃん、お姉ちゃん、お姉ちゃん、お姉ちゃん、お姉ちゃん。
・・・よし、何とか落ち着いてきた。やばい奴みたいだが、これなら何とかなりそうだ。
「ふわぁ~、これ凄くいいかも・・・。」
千歌お姉ちゃんも満足してくれたみたいだ。よし乗り越えた・・・。
僕が、試練に打ち勝ち達成感に浸っていると
「ただいま~、おっ、本当にかいと君がいる。」
「あらあら、いらっしゃい♪ かいと君♪」
声がした方向を見ると、怪しい笑顔を浮かべた美渡さんと志満さんの姿が。
・・・持ってくれよ、僕の理性。
つづく
あ~お姉ちゃん欲しい・・・。
はい、というわけで第3話でした(笑)
色々妄想をぶつけているだけのお話ですが読み続けていただければ嬉しいです(笑)
では、また次話で会いましょう!