僕と花丸の間に尿の匂いが立ち込める中、僕は絶望を通り越して、無の境地にたどり着いていた。
カサカサというゴキブリが元気よく動いている音にも、もはやアウトオブ眼中である。
・・・終わった。
・・・もう、どうでもいいんだ。
というより、どうにかしたくても、この足の状態では仰向けの状態から一切の行動をとることができない。
つまり僕は、下半身に感じるこの生暖かい感触から自力で逃れることはできないのだ。
そしてもう少しで帰ってくるであろうお姉ちゃんに見つかって、とても優しい表情を浮かべながら、丁寧に処理をして介護的扱いを受けるのだろう・・・。
そして僕は、周りからリアル小便小僧とでも言われ、馬鹿にされ続けるのだろう。
・・・ふっ、いいじゃないか、そんな人生でも。
やはり、人生普通じゃ面白くないよね・・・。
僕がほとんど精神を崩壊させながらそんな末期的な思考を巡らせていると
「いたた・・・あの、かいと君・・・大丈夫ずら?」
花丸はよろよろと立ち上がり、僕を覗き込むようにそう確認をしてくる。
「・・・ああ、怪我はないよ。精神的な怪我は負ったけどね、ははは。」
「あの・・・まるは、気にしないよ? 絶対に周りには話さないし、そもそもまるが悪いし。」
「・・・いいんだよ、気にしないでくれ。後もうちょっとでお姉ちゃんが帰ってくるだろうから、それまで僕はここで待ってるよ。だから花丸はもう帰っていいよ。小便臭いだろう?」
僕が、努めて笑顔でそう花丸に言って、帰らそうとする。
花丸だって、このどうしようもない状況では対応に困るだろう。
僕は、お姉ちゃんが帰ってくるまでの辛抱だ、お姉ちゃんにこんな姿を見られるとか、花丸に見られる以上に屈辱だろうが背に腹は代えられない。
・・・贅沢を言えば、小便が冷たくなるまでには帰ってきてほしいものだ。
「そんなの悪いずら、まるがちゃんと片付けるずらよ?」
「・・・花丸、流石に同級生の女の子に漏らした処理をしてもらうのは、恥ずかしい、いや、そんな生ぬるいものじゃない、男の尊厳に関わるんだよ、分かってくれ?」
漏らしたくせに、尊厳もくそもない気がするが、ここは花丸を帰らす為にそう言い切る。
・・・頼むから帰ってくれぇ。
しかし、花丸はその場で動こうとせず、手を顎にあて、何かを考え始めた。
・・・どうしたのだろう、まさか漏らした僕を鑑賞して辱めようとでもしているのだろうか?
恐ろしい想像に全身を震わせていると、花丸が考えるのをやめたのか、顎から手を離し、再び僕を覗き込むような姿勢をとったかと思うと、こんなことを聞いてきた。
「かいと君はこの惨状をお姉ちゃんである梨子ちゃんに処理してもらおうとしてるんだよね?」
「・・・そうだけど、それがどうしたんだよ? ていうか花丸が惨状って言うな!」
「つまり、かいと君のお姉ちゃんであれば、よいと?」
「・・・そういうことになるのか? ていうかそれがどうしたんだよ?」
・・・何の質問なんだ? 滅茶苦茶嫌な予感がするんだが。
「千歌ちゃんと梨子ちゃんに聞いたんだけど、今なら、限定的にかいと君のお姉ちゃんになれるって言ってたんだよね・・・。」
「・・・・・は?」
・・・ちょっと待て、どういうことだ?
そりゃ無理やり千歌さんの弟にされたりしたが、あれはあの時の限定的なことである。
何を考えているんだ、花丸!!
「だから、まるがかいと君のお姉ちゃんになれば、全部解決ってことだよね?」
「いやいやいやいや、おかしい、絶対おかしい!」
「どうしてずら? まるがかいと君のお姉ちゃんになれば、何も問題ないんだよね?」
「馬鹿じゃないのか?? そんなわけないじゃないか! ていうか花丸は僕と同い年だろ! お姉ちゃんとかないから!」
「かいと君は誕生日いつずら?」
「・・・3月8日だけど。」
「まるは、3月4日ずら、つまりまるのほうがお姉ちゃんずら。何も問題ないずら。」
「たった4日じゃないか! そんなことで弟になってたまるか! 大体千歌さんの時もお姉ちゃんが無理やりさせてきただけなんだよ!」
「でも梨子ちゃん、アクアの人なら誰でもかいと君を弟にしていいって言ってたずらよ?」
「・・・嘘だろ。」
お姉ちゃん、いったい何を考えいるんだよ・・・。
僕を精神的に追い詰めるプロジェクトが知らぬ間に実行されているのだろうか?
「というわけで、今からまるはかいと君・・・いや、かいとのお姉ちゃんずら♪」
「なっ//」
満面の笑みで、そう言う花丸の言葉に思わずドキッとしてしまった。
・・・いきなり呼び捨ては反則だろう。
しかし、これはよくない! すぐさま辞めさせるべきだ!
同級生がお姉ちゃんとか絶対おかしい!
「だからっ! 花丸は「だめずら!」」
僕がこんなのはおかしいと猛抗議する姿勢を見せ、ようとしたが、花丸が大きな声でそれを遮ってきた。
そして花丸はまるで小さな子を諭すように俺に向かって、
「花丸じゃなくて、まるお姉ちゃんでしょ?」
「・・・・・。」
むりーーー!!
いや~、絶対にむりー!!
同級生をお姉ちゃん呼びとか絶対にむり!!
しかもまるおねえちゃんとか、ちょっと名前をアレンジしてる感じが余計にむりーー!
僕が絶対的な拒否的な姿勢を目で訴える。
すると花丸は、ゆっくりとした動作でポケットからスマホを取り出したかと思うと
「もし、言う事聞かなかったらこの光景を写真に収めるずら。」
な・・・ん・・・だって・・・。
とんでもなく畜生なセリフに目の前が真っ暗になってしまう。
そんなのって・・・あんまりだ。
その写真をどうするかなんて想像もしたくないが、決していい方向に動かないことは確実だ。
・・・かいと、こころを決めるんだ。
千歌さんの時も乗り越えたじゃないか・・・いや、乗り越えなかったから今足が動かないんだっけ・・・。
・・・いや、だからこそっ! 今回こそ乗り越えて見せる!
「・・・く、ま、まる・・・お姉ちゃん。」
お姉ちゃん・・・、まさか仰向けで小便漏らした状態で同級生の女の子にお姉ちゃん呼びする日が来るとは思わなかったよ。
何かは知らないが、何かに目覚めそうだよ。
しかし、花丸もといまるお姉ちゃんは、僕のその言葉に満足したのか、顔をパアアと輝かせ、
「えへへ、よく言えました♪ かいとはえらいね~♪」
と、僕の頭をよしよしと優しくなでてくるのだった。
・・・もう殺してくれ。
当然、こうなってしまうと僕の男としての尊厳なんて欠片も残っていなかった。
「じゃあ、雑巾とかないか探してくるずら! ここで大人しく待つずらよ!」
そういって、速足でこの場から去っていく花丸。
・・・できればそのまま永遠に戻ってこないことを祈るしかないな。
しかし、その祈りも虚しく、ゴム手袋をつけ、さらには雑巾とバケツを持ってすぐに戻ってきてしまった。
まるおねえちゃんは、仕事ができるなぁ・・・。
「よし、じゃあ早速綺麗にしていくずら!」
「・・・・・。」
ここまで来ると抵抗する気もない僕は、せっせと片づけを進める花丸を見つめていた。
というより、手袋をしてるとはいえ、僕の小便を手につくことに抵抗はないのだろうか?
僕が、そんなことを考えていると、あらかた片づけが終了したようで、「ふ~」と達成感をにじませるように言ったかと思うと、その目線は僕に移った。
正確には、僕の股間に・・・・。
まさか・・・いや、そんなまさかな?
僕が、起こりうる最悪のケースを想像し、冷や汗をだらだらかいていると、まるお姉ちゃんは、
「じゃあ、次はその濡れたズボンとパンツを脱ぐずら!」
はい、最悪のケース頂きました!
「流石にそれは絶対だめ!! 一億歩譲って限定的にお姉ちゃんになるのは認めても、それだけはだめ!!」
ズボンとパンツを脱ぐということは、この場で僕に下半身丸出しにしろと言っているのだ。
正気じゃない!
ていうか、流石にそこまでいくと、完全な変態じゃないか!
「ほら、我がまま言ってないで、早く脱ぐずら!」
と、花丸は僕のズボンに手をかけ、無理やり脱がそうとしてくる。
さっきは、部屋でズボンを脱ごうとしてた僕を変態扱いしたくせに、どいうことなんだよ!
手だけは自由に動く僕は、当然花丸の奇行を必死にとめるべく、脱がそうとしてくるズボンを脱がされまいと力を込めて対抗する。
「ちょっと!! 花丸!! 流石にこれはまずい! 僕を下半身丸出しにするつもりか!!」
「そのままだと風邪ひくずら!! いいから大人しく脱ぐずら!! 後、まるお姉ちゃんって呼べずら!! 写真撮るずらよ!!」
「ああ、もう!! まるお姉ちゃん!! 頼むから!! もう分かったから自分で脱ぐから! せめて自分で脱ぐから、バスタオルだけ頂戴!! 聞いてる!? 脱がそうとするな!!」
僕と花丸が熱烈な取っ組み合いをしていると、
ドサッ!
と、何かが落ちる音が聞こえた。
「「??」」
僕と花丸がその音をした方向に振り向くと、そこには・・・
お姉ちゃんがいた。
千歌さんも、だ。
「あ、ああ、まさか・・・私の可愛いかいとがこんな、ハードプレイを趣味としているなんて・・・。」
「・・・・・っ」
驚きを隠せず、ワナワナと震えるリアルお姉ちゃんとドン引きしている千歌さんの姿が。
・・・もう嫌だ。
つづく
というわけで、第8話を見ていただきありがとうございます!!
え~、完全な余談ですが、現在、主人公が足が動かなくなる状態にしてしまった罰が当たったのか分からないですが、作者、足が肉離れを起こして、自力で歩けなくなってしまいました・・・。
それで分かったのですが、マジでトイレに行くのがつらいです。
・・・・・。
はい! 完全な余談でした!忘れてくださいw
次話、早く更新できるように頑張ります!
また、お会いしましょう!
追伸
体を動かす時は、事前にストレッチすることをお勧めします・・・。