黒い闘争と黒い混沌に絡まれた件   作:とりゃあああ

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結  クトゥルフ編
五十五話 拳拳服膺


 

 

 

 

七耀暦1205年8月4日。

運命の夜に『巨イナル黄昏』が発動してから約二週間が経過した。鉄血宰相の巧みな演説、帝国政府の発表した情報、闘争を煽る黒い風。全てが一つの終着点に辿り着くように統制されていた。

即ち、エレボニア帝国の齎す世界大戦である。

巨大な闘争の渦にて七の相克を果たす。それだけの為に、世界の全てを巻き込んだ大戦争が間近に迫っていた。

本来なら七耀暦1206年の9月1日に発令されるヨルムンガンド作戦だが、今回の世界線だと凡そ半年以上も早く前倒しされるだろう。

ミュゼやヴィータさんが奮闘しているものの、期限までに周辺諸国を対エレボニア帝国として纏め上げられるかどうか。

世界中の人間が未来に絶望しつつ、それでも一筋の希望だけを頼りに足掻く中、俺はアルフィン殿下と共に皇城バルフレイム宮へ招かれた。

鉄血宰相の誘いだ。断るなど出来ない。彼の真意を少しでも理解するに越したことはない。なによりも黄昏の贄とされているリィン・シュバルツァーの解放という条件があまりに魅力的すぎた。

彼はトールズ士官学院の要であり、帝国内にて灰の騎士として英雄視されている武人であり、そして起動者の一人でもある。救出するに不利益など見当たらなかった。

緋の騎神から降りて皇城へ足を踏み入れた瞬間、可憐ながらも怒気に溢れた声が響いた。皇城の玄関口、豪華絢爛なシャンデリアの下で仁王立ちしていたプリシラ皇妃は、アルフィン殿下を問答無用で自室に連れていった。

今頃はお説教されているのだろう。

アルフィン殿下の助けを求める視線に気付くも、プリシラ皇妃から皇帝陛下がお待ちですよと機先を制されてしまう。ならば謝罪だけでも口にしようとしたが、そんな暇も与えないと言わんばかりに、アルフィン殿下は補殺場へと送られる家畜のように皇城の奥へ引っ張られていった。

一人寂しく残された俺はクレアさんに引率された。

無言で皇城内を歩き、10分足らずで皇帝陛下の私室に着いた。

皇帝陛下がお待ちです。

案内ありがとうございました。

そんなありふれた言葉を交わして、私室の扉をノックしようとした瞬間、クレアさんは言った。

「貴方は、私の大事な人なのですか?」と。

俺は能面のような表情で返した。

「それはきっと、貴女の勘違いですよ」と。

その後の事はよく覚えていない。

ただ、クレアさんの泣きそうな顔だけが脳裏に焼き付いていた。

 

 

 

「随分と久しく感じるな、ヴィルング卿」

「ご尊顔を拝し、恐悦至極に存じ上げ奉ります」

「相変わらずだな、そなたは。堅苦しいのは止すが良い。この場にいるのは余とそなただけだ」

 

皇帝陛下が苦笑いを浮かべた。

ソファーの背凭れに身体を預けている様は、尋ねなくとも疲弊しているのだと推察できた。テーブルを挟んで視認するだけでも、半年前と比べると明らかにやつれておられる。

アルフィン殿下にセドリック殿下、誰にも止められない激動の時代、破滅に向けて邁進するエレボニア帝国、その全てを背負い、受け止め、それでも統治者として前を向かねばならない皇帝という立場は想像を絶するような重責なのだろう。

その一つになっている俺が同情するなど、皇帝陛下に対する非礼の極みか。

俺は腰を折り、丁寧に頭を下げた。

 

「はっ。しかし、陛下の御一存で貴族の末席を預かった身の上としては、今後礼儀作法を改めて然るべきかと」

「今の余は娘の選んだ騎士と交流を図りたい一人の父親に過ぎぬよ。アレはどうも昔の余に似たらしくてな。心配なのだ、あのお転婆娘が」

「父親として、ですか?」

「皇帝として考えるなら、アルフィンに心配などない。時おり暴走してしまう部分に目を瞑れば、アレは余よりも優れた統治者となるだろう。しかし、娘として見れば話は変わる。幾つになろうとも余と妃を心配させる悩みの種なのだ」

 

やれやれと肩を竦める皇帝陛下。

至尊の座に君臨する方を悩ませる大元、それはフェア・ヴィルングに他ならない。

自然と背中に冷や汗が流れた。

過去の行いを後悔していないものの、此処は誠心誠意をもって謝罪するしかない。それが帝国臣民として当然の行いだからだ。

 

「二週間前は申し訳ありませんでした。事情が有ったとはいえ、アルフィン殿下を攫うような大罪を」

「謝罪は必要ない。妃に対してもだ。余から伝えてある故な。むしろ、救ってくれた事を感謝しなければなるまい」

「殿下の騎士として当然のことをしたまでです」

 

皇帝陛下は首を横に振る。

それだけではないと言葉を続けた。

 

「セドリックも迷惑を掛けたようだからな」

 

やはりか。

陛下はセドリック殿下の状態を把握していた。

衰弱していたアルフィン殿下の様子が脳裏を過った。非礼だと知りながらも眉間に皺が寄った。一呼吸置いてから口を開く。

 

「皇帝陛下、皇太子殿下のご様子は如何なのでしょうか?」

「端的に言えば芳しくない。日に日に酷くなっておる。ヴィルング卿、そなたはどう思った?」

「正直、以前の皇太子殿下と同一人物だと思えませんでした。何者かに操られているのか、それとも自我を書き換えられたのか」

 

可能性として高いのは、セドリック殿下の近くに現れた謎の球体だろうか。正体不明の動力で空中に浮き、単眼を明滅させていた。

ロゼ曰く、地精の連中かもしれぬとのこと。

アルフィン殿下に行った事を鑑みれば許せる道理など欠片も無いが、無理に操られているのだとすれば事情も変わる。

 

「誰もがそう疑うが、事実は違うのだ」

 

皇帝陛下は苦々しく否定した。

 

「つまり、アレが皇太子殿下の本性だと?」

「皇室の悪い部分を受け継いだのだろう。修羅の血だ。敵対者を赦さず、実の姉に対しても無慈悲に手を掛ける。そんな修羅の血が目醒めた」

 

嘆息。

 

「本来なら目醒める筈は無かったのだがな」

 

偽帝オルトロス。

獅子戦役にて獅子心皇帝に敗れた男もまた、セドリック殿下と同じく修羅の血に目醒めた皇族の一人だと皇帝陛下は言った。

 

「劣等感に苛まれ、将来を悲観し、双子の姉を嫉妬する状況で『黒』の放つ悪意に囚われた。無理もなかろう」

「ご無礼ながら、止めようとなさらなかったのですか?」

「止めることは容易かったが、現状よりも酷くなるのは明白であったのだ。宰相とも話し合い、セドリックの件は彼らに任せた」

「一歩間違えば、アルフィン殿下は殺されていたのですよ」

「わかっておるとも。そなたの言いたい事は痛いほどに理解しておる。それでも、現状が最も『マシ』なのだ」

 

数秒間、互いの視線が交わった。

何回か言葉を飲み込む。

紅茶を一口だけ含み、気分を落ち着かせる。

俺が幾度に渡る輪廻で多数の未来を知っているように、皇帝陛下も古代遺物によって帝国に起こり得る未来を把握している。

だからこそ、セドリック殿下の暴挙を止めなかったのだ。仕方なかった。今が最も恵まれた世界線だと自覚しなければならない。

己を納得させる為にも皇帝陛下に確認する。

 

「それは、黒の史書に因る結論ですか?」

「そうとも。やはり知っていたか」

「エレボニア帝国の過去から未来、その全てを記述している古代遺物だと」

「七耀教会には、そう言い伝えられているそうだな」

「違うのですか?」

「厳密にはな。エレボニア帝国の皇位を継いだ者だけがーーいや、その中でも一握りの者だけが知っている」

 

即ち。

 

「黒の史書は、古代遺物ではない」

 

目を白黒させる俺を見兼ねたのか、皇帝陛下は穏やかに問い掛ける。

 

「古代遺物の定義を知っておるか?」

「『早すぎた女神の贈り物』とも呼ばれる、古代ゼムリア時代に作られた遺物だと聞き及んでいます」

 

女神の贈り物というだけで寒気がする。

七至宝といい、碌なものを寄越さない空の女神を信奉する奴らの気が知れない。七耀教会など最たる例だ。

 

「黒の史書は古代ゼムリア時代に作られた遺物でなければ、空の女神に関連する物でもない。七耀教会は教義の破綻を防ぐために古代遺物と断定しているのだろうが」

「女神にも関連していないと。七至宝でもないということですか?」

「余も『時の至宝』だと思った時がある。即位して直ぐの頃だな」

「左様ですか」

「五ヶ月ほど前か。魔女の長殿に遠目ながら確認してもらい、判明した。黒の史書は外の理で作成された書物であると」

「何故、そんな物を皇室は所有されているのでしょうか」

「さてな。初代アルノールは渡されたと記述している。黒の史書、その一頁めに自らの血で刻まれてあった」

「どうして、血だとおわかりに?」

「不思議な事に、今もなお赤く輝いておるのだ」

「ーー1200年も」

「恐らくな」

 

絶句した。

それは果たして『血』と呼べるのだろうか。

1200年も輝く血文字など不吉以外の何物でもない。それがフェア・ヴィルングの前世、アルスカリ・ライゼ・アルノールの遺した血文字なら尚更だった。

 

「外の理で作成された物だとしても、エレボニア帝国の過去と未来を記した史書である事は間違いない。未来を知った余は深く絶望した。諦めたと言い換えてもよい」

「だから、鉄血宰相に全てを委ねたと」

 

それは逃避であり、妥協策であったのだろう。

未来が変えられないのであれば、世界を巻き込む終焉が訪れるのであれば、誰か優秀な者に任せる他ない。

たとえ結末が同じだとしても、そこに至る過程に少しでも救いを求めるなら最も現実的な手段だと思う。

 

「百日戦役はおろか、十月戦役も史書に記載してある通りに進み、内戦は無事に終結した。皇城に戻った余は愕然とした。史書の記述が変わっていたからだ」

「良くある出来事、ではないですよね」

「今まで一度も起こり得なかった現象だ。黄昏へ至る道筋が書き換わっていたよ。宰相の思惑通りに」

 

書き換わった部分は、セドリック殿下とアルフィン殿下に関する一文だったようで、結果として両名とも生存するような内容に変更されていたらしい。

 

「故にセドリックとアルフィンについても、宰相に一任した。余が動いてしまえば、より事態は酷くなる。それは一ヶ月ほど前に痛感していたのでな」

 

どんな状態であろうとも、両殿下が生存する未来ならばそれに賭けようと考えたからだと。

鉄血宰相もその意見に賛同して、セドリック殿下とアルフィン殿下を注意深く監視していたのだとか。

 

「一月前と仰られると、アルフィン殿下の事でしょうか。愛憎反転の呪いを解呪したという」

「アルフィンから聞いたのか?」

「はい」

「そうか。ヴィルング卿の決意と覚悟を無駄にした余はまさしく愚か者よな。善意と悪意は紙一重というが、一歩間違えれば取り返しのつかない事をしでかしてしまった」

 

皇帝陛下に非はない。当然、ロゼにも。

邪神の施した呪いだ。俺を嘲笑う外なる神に騙されたに過ぎない。誰が気付く。誰が抗える。人の善意に付け込んだ邪悪の意志を考慮するなど不可能だ。

アルフィン殿下を苦しませたのは、俺の愚かな決断である。

 

「そんな事はありません。悪いのは私ですから」

「年頃の娘を想ってくれるのは父親として嬉しい限りだが、統治者たる皇帝としては厳しい事を言わざるを得ぬよ」

 

皇帝陛下はため息を溢した。

紅茶を飲み干し、視線を窓の外に向ける。曇天とも晴天とも言えない中途半端な暑天を冷ややかな笑みで見下した。

 

「どうなさいましたか、陛下」

「いや、気にせずとも良い。それよりも、これから必ず起こる『七の相克』について話そうか」

「はっ」

「そなたも知っていると思うが、七の相克とは鋼の至宝を再練成する為にある。その果てに待つのは世界の終わりだ」

「重々承知しております」

「うむ。恐らく他の六体を取り込んだとしても、黒の騎神には勝てぬ。それも知っておるな?」

「遥か昔、緋の騎神から力を奪ったと聞き及んでおります。陛下、それも黒の史書に書かれていたのですか?」

「詳しい事は宰相から聞いておる。緋と黒の関係についても」

 

何でも知っているな、鉄血宰相。

地精と協力関係にあり、黒の騎神の起動者なら知っていて当然なのだろうが、何処か釈然としない部分が存在する。

そう、あの男は知り過ぎなのだ。

まるで過去や未来を覗き見たかのような知識量とさえ云える。

 

「黒の史書には、黄昏の顛末はどのように書かれているのですか?」

「わからぬ」

「わからぬ、とは?」

「見たことのない文字で記されているのだ。余とて遊んでいた訳ではない。世界各地の文字と照らし合わせてみたが、どれ一つとして該当しなかった」

 

厄介な。

書かれていないなら諦められるが、読めない文字だと足掻きたくなる。

成る程、それを見越しての事か。

解読できない文字を与えて、それを必死に解こうとする人間を遥か高みから嘲笑う邪神の姿が目に浮かんだ。

 

「見知らぬ文字ですか。それも外の理に通ずる」

「未来は定まっているが、それを知るのは外の存在だけよ」

「嘲笑っているのでしょうね、私たちを」

「かもしれぬな。所詮我らは一己の人間でしかないのだ。笑われようとも、足掻くほかあるまい」

「御意。誠にその通りかと」

 

今回の輪廻がどのような最期を迎えるにしろ、邪神に一矢報いてみせる。それが、アルフィン殿下を地獄のループに巻き込んだ俺のせめてもの抵抗だった。

勿論、可能なら今回の輪廻でケリを付けたい。

初代アルノールでも成し遂げられなかった焔の神を殺害して、邪神の興味を喪失させ、この世界の存在を赦してもらう。そうすれば俺は本当の死を賜われる筈だから。

焔の神を殺害する方法は全く見当も付かないが、皇帝陛下の仰る通り、矮小な人間でしかない俺たちは足掻くほかない。

力強く肯定する俺を見て、皇帝陛下は表情を綻ばせた。

 

「話を戻そうか。黒を斃すのは最後にせよ。六体の騎神を集結させねば、黒の騎神を打倒するのは不可能だ」

「陛下、もしも黒を斃せたとしても鋼の至宝は錬成されてしまいます。それは大崩壊後の混乱を再現するだけだと愚考いたしますが」

 

ロゼも頭を悩ませている。

たとえテスタ=ロッサと俺が勝ち残ったとしても鋼の至宝は最錬成される。七の相克が始まる以上は、どのような道筋を辿ろうとも最終的にその結末に至るだろう。

『巨イナル一』と称される物がどういう形で顕現するか、それはわからない。黒の騎神が相克に勝利すれば俺の記憶する化け物になるだろうが、黒以外の騎神が勝利した先に待つ『巨イナル一』は見たことがない。

いずれにせよ。

再び封印するにしても問題を先送りするだけ。それでは1200年前と何ら変わりない。打倒するにしても、相対するそれは二つの至宝が融合した力の塊である。

ヴィータさん曰く、鋼の至宝が最錬成された瞬間を狙い、黒の思念体と共に大地の檻に閉じ込め、現実世界に顕現した後に滅ぼそうとしたらしい。

だが、大地の檻は既にない。内戦最後の夜に、俺とテスタ=ロッサの呪いを抽出する受け皿になったからだ。

ロゼとヴィータさんは諦めずに方法を模索しているが、頭の悪い俺はお手上げ状態だった。

 

「その通りよ。黒の悪意をうまく取り除けたとしても、残るのは『巨イナル一』と呼ばれる力の塊だけだ。帝国はおろか、世界も滅びてしまう」

「故にわかりませぬ。黒の史書に記載されているとはいえ、帝国を愛している宰相閣下がどうして黄昏を引き起こしたのか」

「宰相には宰相なりの勝つ見込みがあるのだろうよ」

「黒に打ち勝つ秘策が、鋼の至宝をどうにかできる方法があると?」

「余も詳しく聞いておらぬ。何しろ宰相は黒の騎神の起動者だ。下手な事を口にしてしまえば、黒に聞かれてしまうやもしれぬ」

「なるほど」

「その点、そなたなら問題あるまい。その首飾りも役立ったというものよ」

 

皇帝陛下が俺の首元を指差す。

其処には緋いペンダントが有る。

形は六角柱。大きさは7リジュ。色素は濃く、仄かな温もりを持つ皇室伝来の宝。魔都クロスベルへ赴く前に、皇帝陛下とアルフィン殿下から下賜された大事な首飾りを手に取り、その煌めきに目を細める。

 

「これですか。ロゼが言うには、獅子心皇帝が身につけておられたと聞きましたが」

「それは邪な物を跳ね除ける力を有しておる。獅子心皇帝の遺言には、皇位を継いだ者が身に付ければ真価を発揮するとあった」

「それほど大事な物であるなら、皇帝陛下にお返し致します」

 

慌てて首飾りを外そうとする俺を、皇帝陛下は穏やかに押しとどめた。

 

「よい。そなたが持っておれ」

「しかし——」

「既にそなたへ譲った物だ。返せという方が無粋であろう。至らぬ皇帝と言えど、余とてそこまで狭量ではない」

「いえ、ですが——」

「そなたも強情者だな。その忠義心は喜ばしい限りだ。故に嘘偽りなく答えてほしい、ヴィルング卿」

「御意。私に答えられる質問であるなら」

 

元より皇帝陛下に対して、虚偽を述べた事などない。

たとえ俺が初代アルノールの生まれ変わりだとしても、皇族の方々に対する尊敬の念は些かも失われていないのだから。

 

「それが光り輝いた事はあったか?」

 

記憶を探り、該当する事柄を思い出した。

 

「有りました。クロスベルのとある遺跡にて」

「やはりか」

「如何なされましたか?」

「余の台詞を思い出すとよい。その首飾りは皇位を継いだ者が身につければ真価を発揮する。つまりは『アルノールの血を持つ者』でなければ光り輝く事などあり得ぬ。たとえ魔女殿が加護を与えたとしてもな」

 

言葉を失った。

皇帝陛下は微笑んでいる。

どこまでご存知なのか。俺が初代アルノールの転生者だと知っておられるのか。少なくとも皇族に関係する人間なのは確信しているだろう。

ロゼの加護も把握しているなら、五ヶ月前にロゼと対談した時から知っていたということになる。だから俺に対して格別の温情を与えてくださったのか。

わからない。

何を言って良いのか、それさえもわからない俺は無様にも口を開け閉めするしかできなかった。

 

「安心するが良い。余はそなたを信頼しておる。口にしないならば、何か理由があるのだろう。その程度は理解できるとも」

「皇帝陛下に隠し事など帝国臣民として有るまじき行いだと承知しております。しかし、迂闊に口にすれば『外の存在』による介入を許すかもしれないと」

「魔女の長殿がそう仰ったか?」

「御意。皇帝陛下を騙す意図は御座りませぬ」

 

巨イナル黄昏の起きた二日後、ロゼにだけ打ち明けた。

フェア・ヴィルングは初代アルノールの生まれ変わりなのかもしれないと。

焔の聖獣は考え込み、無闇に公言してはならないと忠告した。それが事実かどうかはさて置き、前世に囚われてしまえば歩むべき道を間違えるかもしれないからと。

 

「頭を上げよ、ヴィルング卿。余は気にしておらぬ。そなたの忠誠、想いは理解しておる。我ら皇室を慮っておる事もな。有り難い事よ」

「勿体なきお言葉」

「赦せ。余は確認せねばならなかったのだ。そなたが、アルノールの血を持つ者である事をな。緋の騎神に選ばれた時点で半ば確信していたが、万が一もあった故な」

「アルフィン殿下の騎士になる為に箔が必要だからでしょうか?」

「いや、そうではない。そなたに伝えねばならない事が有ったのだ。初代アルノールが言い遺したとされる、大地の聖獣が眠る墓所の在り処を」

 

大地の聖獣は死んだ。

カレル離宮に出現した黒キ聖杯にて。

墓所と呼ぶべき場所は明白だと思うが。

 

「大地の聖獣は黒キ聖杯内で死んだ筈では?」

「確かに逝去したであろうな。巨イナル黄昏が起こった故、それは間違いあるまい。しかし、聖獣の眠る場所は異なる。予め定められた墓所にて待っておる筈だ。そなたと緋の騎神を」

 

テーブルに差し出された一通の封筒。

手に取る。中には一枚の紙が入っていた。

大地の聖獣が眠る墓所、その場所が記されているのだろうか。

出来るかぎり早く訪れた方が良いだろうが、先ずはロゼやヴィータさんに相談してからだな。俺が本当にアルスカリ・ライゼ・アルノールの転生者なら敵対しないと思うが、初代ローゼリアの件がある。警戒して損はない。

 

「ヴィルング卿、頼む。どうか、帝国に未来を」

 

まるで哀願するような。

まるで懇願するような。

世界最大の帝国を統治する者に相応しくない弱気な発言でありながら、エレボニア帝国の行く末を誰よりも案じる仁君に相応しい声音だった。

 

 

「お任せください、陛下」

 

 

 

 

 












アルフィン「お母様に3時間も二人きりで怒られた(泣)」

オリヴァルト「残当」

プリシラ「ぷんすか!」




セドリック「僕が帝国最強の剣士だ!」





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