前回のあらすじ
忘れられた者の最後
消滅したはずの意識が急速に戻ってくるのを感じる。巧がまず一番最初に感じたのは「何故?」だった。つい先程自らの「死」を確かに感じたはずだった。そのはずなのに、何故か未だに意識は続いている。巧はとりあえず目を開く。そこには全く見覚えのない天井があった。巧はゆっくりと体を起こすとまず周囲を見渡し今の状況を確認する。
「(…見覚えのねぇ場所だな。)」
今、巧のいる場所はどうやら小屋の中のようだ。小屋の窓からは鬱蒼と茂る竹藪が目に入る。先程までは草むらで寝そべっていて、寿命を迎え全員の記憶から消えるという最後を迎えたはずだった。一体、自分の体に何が起こったのか巧が考えようとしたときに小屋の扉が開いた。
「あっ、目が覚めたのね。」
開いた扉から一人の女が入ってくる。その女は———頭から耳が生えており腰のあたりから尻尾が生えていた。そしてその耳と尻尾は自然に動いておりそれが人工的な物ではないということを伺うことができた。
「どうかしたの?」
どうやら、耳や尻尾に気を取られすぎて少し呆けていたようだ。とりあえず今の状況を確認しなければいけないだろう。
「…ここは、どこなんだ?」
「えっと、ここは幻想郷の迷いの竹林って場所なんだけど…。あなた外来人よね?」
「外来人?幻想郷?なんだそりゃ。」
巧は首を傾げる。全く聞いたことのない場所と名前だった。
「えっと、幻想郷っていうのは外の世界で忘れ去られた妖怪とかが暮らしている場所なの。もちろん私も妖怪よ。それで外来人っていうのは、外の世界からこの幻想郷にやってきた人のことを言うの。」
『妖怪』もちろん巧も聞いたことがないわけがない。だが、巧達のいた時代では信じられていないものであり、もちろん巧は存在を信じてすらいなかった。
「妖怪?そんなもん存在するかよ。」
「まぁ、そうよね…。でも、ほらこの耳と尻尾見れば信じられる?」
そう言って、耳と尻尾を指す。先程、巧が特に気にした部分であった。
やはり、動き方などを見ている限り偽物ではなさそうだった。
「…本物みたいだな。」
「えらくすんなりね。これまで何人か外来人に会ったことがあるけど大体みんなもっと取り乱していたものだけど。」
「…まぁな。」
巧がすんなりと受け入れることができたことにはいくつか理由がある。それは巧自身がオルフェノクであること、そして巧がここで目覚める前に存在が忘れ去られていたこと。それが今話していた内容と一致していた為受け入れることができていた。
「そういえば貴方は…そういえばまだ名前を聞いてなかったわね…。私は今泉影狼。狼女っていう種族になるわ。」
「乾巧だ。」
この自己紹介だけを見るとかなり無愛想に見えるかもしれないが巧としてはかなり大きな進歩である。今の巧は見た目は18歳ほどだが実際の内面の年齢は30歳ほどである。もし、巧がライダー大戦などを体験する前の乾巧であったならばそもそも名前すら名乗らなかっただろう。
「巧さんね。それで巧さん貴方は外の世界に戻りたい?」
「…いいや、もう十分だ。」
歴史が変わる前の世界は泊達がいる。そして元の場所には三原がいる。そして海堂も。今更忘れ去られた存在である自分が戻ったところでと巧は考えた。
「本当に巧さんっておかしな人ね。大体の外来人は何かしら結界の歪みとかに巻き込まれて迷い込んでしまうから自分の世界に帰りたがるものなんだけど…。」
「あぁ、俺は向こうで存在がなくなって気づいたらここにいたからな。さっきの話で納得がいった。だからこそ戻ったところで誰も俺を覚えてないからな。それに…頼れる奴らが向こうにいるからな。」
「そうなんだ。…それなら巧さん。こっちで泊まる場所決まってないでしょ?ここ泊まって行っていいですよ。」
普段の影狼ならばこんな提案はしなかっただろう。だが何故か巧に対して親近感———まるで同族であるかのような感覚を覚えて気づけばこんな提案をしていた。
「俺としては有り難い提案なんだがいいのか?」
「なんだかここでお別れっていうのも勿体ない気がしたの。これからよろしくね乾さん。」
「あぁ、よろしくな。」
こうして、乾巧の幻想郷生活は幕を開けた。
次回予告
この世界での生活を決めた巧は影狼に渡されたとあるものを手にまずは幻想郷の調停者、楽園の素敵な巫女博麗霊夢に会いに行くことにそこで二人の少女が待ち受けていた…。