「とりあえず皆すまなかった。我々の手違いでテストの範囲を間違えて記入していた。テストはもうすぐだが、頑張って勉強してくれ」
坂上先生はそう言ってプリントを配っていく。前に配られた範囲とは確かに違っている。
「先生でも失敗する時はあるんですね…」
椎名さんはそう言って、少し驚いた表情をしている。椎名さんが驚くところはあまり見たことが無いので新鮮だ。
「私そんなに表情が乏しいですかね…」
椎名さんが落ち込んでしまったから慰めようとすると、
「おい、学校側にミスが有ったんだろ?その謝罪の意味を込めて俺達にポイントぐらいくれてもいいんじゃねえか?」
龍園君さんが坂上先生にそう言うと、
「それについては一切無いと言っておこう」
「そうかよ。じゃあもう言うことはねぇ」
そう言って龍園君さんは黙った雰囲気からしてCクラスの『王』彼になったようだ。
「多分そうでしょうね。皆さん龍園さんには逆らえないって思っているみたいです」
まぁ、それはどうでもいい。今考えるべきは試験だ。範囲が変わった以上またやり直さなくては…
「大丈夫です。こんなこともあろうかとあなたに教えていた範囲は、変わった範囲もバッチリ入ってます!」
椎名さんはそう笑顔で言ってくる。なるほど。どおりで椎名さんからもらったプリントが難しいわけだ。
「すいません…あなたに教えるのが楽しくなってしまって…」
そんなにシュンとしないで欲しい。こっちは教えてもらっている身だ。文句なんて言える立場じゃない。
「そうですか…じゃあこれからも頑張りましょうね!」
椎名さんの言葉にしっかり頷く。けれど椎名さんは大丈夫なのだろうか、俺が教えてもらっているせいで赤点をとってしまったら辛い。
「大丈夫ですよ?授業さえ聞いていればテストなんて簡単ですから」
椎名さんはあっさりと言ってのける。これが天才の余裕か………
HRが終わり、椎名さんと帰ろうとしていると
「おい、ちょっと良いか?」
龍園君さんが話しかけてきた。
「何でしょう?私達はこれから図書館に勉強をしにいくのですが…」
「大した用じゃねぇよ。そいつを少し貸してくれれば良いだけだ」
そう言って龍園君さんは俺を指してくる。何かやらかしたかな?
「ほら、早く来い」
龍園君さんに手を引っ張られ連れて行かれる。椎名さんに図書館でまっていて欲しいと伝え、龍園君さんの話を聞く。
「何、ちょっと頼みたいことが有るだけだ」
龍園君さんが俺に頼む様なことなんて無い気がするが…
「そう言うな。俺は意外とお前に期待してんだぜ?」
期待されても困るのだが…
「まぁ、そんなことは置いといてだ。頼みたいことってのは、今回のテストで赤点を出さない方法についてお前には考えてもらう。勿論拒否権は無い」
横暴だ!そう叫びたいのグッと堪え話しを聞く。
「何もタダとは言わねぇ、成功したらポイントはちゃんと払う。成功したら俺の携帯に連絡を寄越せ」
そう言って俺の携帯に連絡先を無理矢理入れた後、龍園君さんは去っていった……
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「彼もなかなか無茶なことを言うのですね。あっ、そこはこれを使って解いた方がいいですよ」
椎名さんに勉強を見てもらいつつ、龍園君さんとの会話を伝える。しかし、赤点を出さない方法か…
「頭を空っぽにして考えるのも手の一つですね」
椎名さんに言われて確かにと思う。バカになってみるのも良いかも知れない。そう思っていると
『あぁん!うっせえなぁ!』
声のした方を見ると前に見た赤髪の不良と多分Cクラスの生徒が言い争っていた。
「ここは図書館なんですから静かにして欲しいのですが…」
全くだ。だか、Cクラスの生徒を止めないとCクラスの評価が下がってしまう。ここは一肌脱ぐとしよう。
「?何をするんですか?」
椎名さんや、他の生徒が見ている中俺はCクラスの生徒の肩を叩く。
「あ?何の…様だ………ょ」
俺の携帯の画面には『龍園 翔』と出ている。Cクラスの王の名だ。少し位黙ってくれるだろう。
「あ、あ、あ、すいませんした!」
もの凄い勢いで彼は謝った後、急いで図書館から出ていった。龍園君の名前パワーは凄いらしい。
「そこの君、ありがと~」
椎名さんとの席に戻ろうとすると後ろから女子の声が聞こえた。振り向くとBクラスのリーダーの女子生徒が居た。
「いやーなかなか二人とも止めないから困ってたんだよ~。あっ、私は一之瀬 帆波って言うのよろしく!」
一之瀬さんに自己紹介をし、こちらこそよろしくと伝える。
「これでもう友達だね!連絡先交換しよ!」
一之瀬さんに押しきられる形で連絡先を交換したあと椎名さんのいる席へ戻る。
「これで静かになりましたね。あと、その…か、かっこよかったですよ…さっきの」
椎名さんが顔を少し赤くしながら言ってくれた言葉はかなり破壊力があった、まったく椎名さんには敵わない。
しばらく二人が顔を会わせれなかったのはここだけの話