彼は人類に絶望した
ある時は親友の妻を死に追いやった者たちに
またある時は特別な力を持つ少女を『化け物』と呼び迫害する者たちに
そして進化が停滞し数千年間同じような争いを繰り返す愚かな人類そのものに
しかしだからと言って人類を滅ぼそうとは思えなかった
なぜなら彼は知っていたからだ
彼らの中に存在する光の尊さを
故に彼は決断した
「人類を進化させよう」と
警備の忍達が倒れ炎が立ち込める研究所内を弥勒は悠々と歩く。
「ん?」
すると前方から新たな忍たちが現れ立ちはだかった。
「まさかこんなにも堂々と攻めてくるとは思わなかったぞ弥勒」
最前線に立つ忍最高幹部の鉄心がこちらを睨みつけながらそう呟く
「やあ、久しぶりだね鉄心。昔に比べてだいぶ老けたかな?」
「そういうお前は全く変わらんな。あの日のままだ」
自身を取り囲む忍に動じる様子もなく弥勒は懐かしそうに微笑みながら鉄心に話しかけ鉄心はそんな彼に皮肉を言った。鉄心の言う通り弥勒の姿は若々しく一切の老いを感じない
「もはや人を捨てたのだろう?」
「捨ててはないさ、ただ君たちより先に進んだだけだよ」
「ふざけるな!!」
弥勒の返答に鉄心は怒りを込めて叫ぶ
「やはりあの日…お前が俺たちを…半蔵様を裏切ったあの時に倒せていればこんなことにはならなかった…!!」
「そうだね、先生は勿論、君も霧夜も…そして竜舌も僕の誘いを拒んだ。だから敵対することになったんだ」
弥勒は寂しそうに上を見上げると再び鉄心を見つめる。
「どいてくれないか?僕は彼を迎えに来たんだ」
「狙いは竜司か…」
弥勒の狙いに気づいた鉄心はさらに顔を硬らせる。
「当たり前じゃん、君たち忍はあれから何も学んでない。まさか君たち自身がワイルドギアに手を出すなんて思いもしなかったよ。それに関しては…『見損なった』としか言えねえよ」
瞬間、弥勒は怒りに満ちた形相を浮かべ鉄心を睨みつける。
「ふん…貴様にそれを言う資格があると思うのか?お前がスカルの力を目覚めさせなければこんなことにはならなかった。」
「なるほど、そう言う考え方も出来るね。だけど竜司くんは連れて行かせてもらう。彼のような人間こそ新たな人類史を築く同胞に相応しい」
「…させると思うか?」
鉄心が指を鳴らすと突如として空間が揺らぎ辺りの景色が変わった。
「これは…忍結界か?それにしてはかなり大規模なものだ…」
辺りを見渡すと自身の周りにいたアントスカル達が見当たらない
「連動忍結界、複数の忍が同時に忍結界を張りそれを束ねることで大規模な忍結界を展開させる高等技術だ。かつて霧夜の教え子が開発した」
「すごい技だな…しかし霧夜の教え子か…教師に向いてると思ってたけどここまですごい術を編み出す教え子を育ててたなんて…」
ふと見ると自分を取り囲むように手だれの忍が大勢武器を構えていた。
「でも僕を倒せるのかい?忍の力でスカルである僕を」
「倒せるさ、そのための10年さ」
「「「うぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」
鉄心の合図とともに忍達は弥勒へと武器を構えて飛びかかった。
「…面白い」
『ヴァンパイア!!』
弥勒は再びヴァンパイアスカルへと変身して忍たちを迎え撃つ
『ラプトル!!』
『ラプトル!!』
「なっ…!!」
すると、忍達が手にした鍵穴の付いたブレードに起動したキョウリュウキーを挿し込み斬りかかってきた。さらにその武器を銃へと変形させると怯んだヴァンパイアスカルへと放つ。なんとか回避するが肩は銃弾で撃ち抜かれ腕には斬り傷があった。
「まさか…キョウリュウキーの量産に成功してたのか…!?」
「そうだ、我々はお前がスカルとなったあの日からずっと力を築いてきたのだ!!全てはお前を倒し、この国を守るためにな!!」
鉄心の力強い言葉とともに精鋭の忍たちがヴァンパイアスカルを取り囲んだ
「これで我々忍も戦える…いかに貴様でもこれだけの精鋭を相手に出来るかな!?」
「そう言えば…昔もチームを組む時は君がいつも指揮をとっていた…なるほど、少し君たちを侮っていたみたいだ…」
想定外の事にヴァンパイアスカルはクスリと嬉しそうに笑みを浮かべる。
「その余裕も今日までだ!!かかれぇ!!」
「「うぉぉぉぉぉぉ!!!」」
鉄心の指揮とともに専用武器を手にした忍たちはヴァンパイアスカルへと攻撃を仕掛けた。
「でもまだ足りないね」
瞬間、地中から突如として血の様に紅い槍が突き出し忍たちへと襲いかかった。
「なっ…!!」
突然のことに鉄心も驚きを隠せずにいた。
「見事な采配だったよ。戦力の配置、敵を罠に嵌るまでの流れ…その後の攻撃での連携…どれをとっても完璧だった。並のスカルは愚かロードスカルでも危うかっただろうね」
そう言ってヴァンパイアスカルは右手に紅い血を集結させ鋭い爪を顕現させる
「けとそれじゃあ僕は倒せない」
それから僅かな間に鉄心が集めた精鋭は弥勒の前に敗れ去った
「ば…莫迦な…」
あまりのことに鉄心はただ呆然と立ち尽くすことしか出来なかった。この10年の間で自身の想定を遥かに超える力を得た弥勒に何も出来なかったのだ
「さて、それじゃあ僕はもう行かせてもらうよ」
変身を解いた弥勒はそう言うと鉄心の横を通り過ぎようとする。
「っ!!そうはさせん!!」
我を取り戻した鉄心はすかさず銃を抜いて弥勒へと放つ
「遅いよ」
「がっ…」
しかしそれよりも早く地中からの槍が鉄心の腹を貫いた
「最後まで折れないところも変わらなかったね鉄心…」
地面に倒れた鉄心を見つめながら弥勒は寂しそうにそう呟き静かに去っていった。
「み……ろ……く……」
倒れた鉄心は薄れていく意識の中、脳裏に浮かんだのはかつて仲間たちと理想を語り合った懐かしき日々だった。
一方、竜宮結界内では
「はぁぁぁぁぁ!!」
「おりゃぁぁぁ!!」
竜司と炎佐がティラノサウルスとスピノサウルスと戦っていた。
2人の攻撃は何度も恐竜たちに炸裂しているがびくともしない。
「グォォォォォォォン!!」
「ギャォォォォォォン!!」
そして反撃と言わんばかりにティラノサウルスは噛みつき攻撃を、スピノサウルスは紅蓮の炎を纏った爪を繰り出していく
「「うわぁぁぁぁぁ!!」」
その攻撃に俺たちは吹き飛ばされ壁に激突した。その体は両者とも満身創痍ですでに何度もやられたのが分かった。だが…
「まだまだぁ!!」
「舐めんなぁ!!」
竜司も炎佐も諦めずに何度も立ち上がり恐竜たちへと立ち向かう。
「グルルルルル…」
何度力の差を見せつけても折れずに立ち上がる2人を2匹の恐竜はじっくりと見つめていた。
「炎佐!!やっぱりこいつら…」
「あぁ!!間違いない…俺たちを見定めてる!!」
ティラノもスピノも試しているんだ、俺たちが自分の全力を受け止めるに足るかどうかを…人間の俺たちに…恐竜の力を使いこなせるのか…ならば、俺たちのやることはただ一つ
「全力でぶつかって…」
「こいつらの期待に応える!!」
そして俺たちは再びティラノとスピノに飛び掛かる。しかし、殴っても蹴っても恐竜の体にはびくともしない。そもそも生物としての格が違うのだ。しかし、
「あき…らめるかぁぁぁあ!!」
俺はティラノの背中に力を振り絞ってがっしりとしがみつく
「グルァァァァァ!!」
ティラノは俺を振り解こうと目一杯体を振り回した。
「ぐ…くそぉぉ!!」
俺は振り落とされまいと必死に力を込める。すると
「…え?」
不思議なくらいに力を感じずティラノにしがみついていた。先ほどまでの辛さが嘘の様に、まるでティラノと一体化したかの様な気がした。
「グルァァァァァ!!」
「うわぁ!?」
気の抜けた一瞬、ティラノに振り落とされ俺は地面に落下する
「竜司!!お前今…」
炎佐も俺の様子に気づいて慌てた様子で近づく
「掴んだ…!!」
今確かに俺はティラノの全力に耐えていた。いや違う、乗りこなしていた。
「炎佐!!わかったぞ!!力に抗うんじゃない…抗っちゃダメだったんだ!!」
そう言って俺は再びティラノの背中に跨る。
「グルゥ!?」
ティラノはそんな俺に驚きオレンジ色のオーラを纏って再び俺を振り落とそうとする。しかし
「はあっ!!」
俺は振り落とされないことに神経を注いで息を整え耐える
「どうした!?俺はまだ余裕だぞ!!」
「グォォォォォォォ!!」
ティラノは雄叫びをあげながら暴れるが先ほどよりも安定して掴まっていられる。
「ははっ…やっぱりそうだった」
俺たちは今までずっと恐竜たちとぶつかることしかしなかった。ワイルドギアをものにするために…恐竜を屈服させなきゃいけないって…でも、それじゃあダメだったんだ!!
「力は飲み込まれるものても…押さえつけるものでもない…力は、合わせるものだったんだ!!」
あの時感じたティラノと一体になる…ティラノと呼吸と力を合わせる感覚…それを再び掴めれば今度こそいける!!
「…ははっ!!なるほどそう言うことか…!!」
竜司の様子を見た炎佐はニヤリと笑ってスピノを見つめる。
「スピノ…俺たちもやってみるか!!」
「グルァァァァァ!!」
スピノは全身に炎を纏って炎佐へと突進する。
「ほらよ!!」
炎佐はそれをひらりと躱すと竜司の様にスピノの首と背鰭の間に跨る。
「見せてやるよ、俺の全力って奴を…だからお前も本気でこい!!」
「ギャオォォォォォン!!」
スピノは雄叫びをあげると全身の炎を更に燃え上がらせ全力で駆け出す。
「はぁぁぁぁぁぁ!!」
「グォォォォォォ!!」
「うぉぉぉぉぉぉ!!」
「ギャォォォォン!!」
竜司はティラノに、炎佐はスピノに跨る。2匹の恐竜は凄まじいパワーで走り暴れ回る。しかし気づけば2人は振り落とされることなく乗りこなしていた。暴れ馬を乗りこなす騎手の様に2人は恐竜を乗りこなしていたのだ。
「よっしゃぁ!!見せてみろティラノ!!お前の力を!!」
「スピノ!!お前の本気をあいつらに見せつけてやれ!!」
「グォォォォォォォ!!」
「ギャォォォォォン!!」
2人の指示と共にティラノとスピノは互いへと体当たりを繰り出していた。
「…ここか」
竜宮結界の前にたどり着いた弥勒は結界に入ろうとゆっくりと近づいた。
「待てよ弥勒」
すると、苦無を手にした竜舌が弥勒の前に立ち塞がった。
「…術を維持したまま結界の外に出る。そんな高等技術を習得してたなんて自称『落ちこぼれ』が聞いて呆れるよ」
「落ちこぼれさ、だから人より多く練習した。俺がそう言う奴だってのはお前が一番よく知ってるだろ?」
竜舌は弥勒にそう返すと苦無を構える。
「こっから先には行かせねえぜ」
「邪魔しないでくれよ。君では僕には勝てないのは知ってるだろ?あの日、僕を殺せなかった様に」
その言葉に竜舌は目を瞑り思い出す。地面に倒れた自分を見下ろす様に見つめる血だらけの弥勒を
「だからって…退くわけねえだろ」
しかし竜舌は笑みを浮かべて立ちはだかる。
「俺はあいつの父親だからな」
後ろにいる息子を守るために
「はぁ…はぁ…すごいなお前…こんな力があったのか…」
「ははっ…さすがは地球最強の生物、恐竜だよ…」
「グルルルル♪」
「ギャウッ♪」
俺たちを乗せた恐竜たちは嬉しそうに鳴き声をあげた。あの後俺たちは恐竜の力を乗りこなしておりいつのまにか炎佐とスピノとぶつかり合い互いの力を引き出し合ってお互いが疲れるまで戦っていた。
「なぁ…これでわかったろ?俺たちはお前らの全力を受け止められる」
「だからさ、俺たちと一緒に戦ってくれ」
寝っ転がりながらティラノとスピノに俺たちは手を伸ばす
「グルルルルル…」
そんな俺たちを2匹の恐竜はじっと見つめていた。
その時
「な、なんだ!?」
突如空間が揺らぎ始めた。
「これって…忍結界が解ける時の…!!」
そう言えばさっきから親父の気配がない…
「まさか…外で何が合ったのか!?」
「竜司、気をつけろ!!何か来るぞ!!」
するとガラスが割れる様な音と共に竜宮結界が解けてしまった。そして俺たちの目の前にある男がいた。それは…
「弥勒…!!」
「こいつは…スカルの親玉!?」
そう…スカルたちを統べる親玉、弥勒であった。
「やあ、久しぶりだね竜司。」
「お前…なんでここに!?親父たちはどうした!?」
「ああ、彼らかい?ほら、あそこ」
弥勒が指差した先には親父が傷だらけのまま壁に寄りかかっていた。
「親父!?」
「はぁ…はぁ…竜司…逃げろ…!!」
俺たちに気づいた親父はふらつきながらも再び立ち上がる。
「んなこと…出来るわけねえだろ!!」
俺たちは親父を背に弥勒に立ちはだかった。
「…竜司くん、君はなぜそうまでして戦うんだい?」
突然弥勒は俺に宗聞いてくる。
「そんなの…『世界一カッコイイ忍者』になるために決まってんだろ」
『世界一カッコイイ忍』…今も昔も変わらない俺の夢、その夢を目指して俺はここまで頑張ってきた。いきなり何を聞いてくるんだ…
「竜司くん…君は騙されてるんだ。忍の世界は君が思っている様なものじゃない。それどころか…君の母親だって…」
それを聞いた途端、弥勒は俺を憐れむ様に見つめ突然話し始める。
「何を…」
「竜司!!聞くな!!」
突然親父は慌てる様に俺へと叫ぶ。しかし弥勒は構うことなく喋り続ける。
「ワイルドギア…恐竜の潜在能力を引き出し高い力を発揮できる様になる。だが恐竜の力に体は耐えられなくなり自我を呑まれていく…おかしいと思わないかい?なぜそんなことがわかるのかって」
「えっ…?」
言われてみれば確かにそうだ…なぜそんなことがわかる?それこそ実際に試さないとわからないのに…
「試したんだよ。昔、忍にワイルドシステムを搭載したドライバーを装着させ新たな軍事力とする計画があったんだ」
「なっ…!!」
そんな計画がこの国にあったのか…!!でもそれと母さんの死になんの関係が…
「その計画を実行したのが善忍の中にある暗部の一つだった。彼らは自分たちの部隊の忍にワイルドギアを搭載したドライバーを使わせた。だが当時のワイルドギアの副作用は今のものよりも大きく被験者は次々と死んでいったよ…その中で唯一適合したのが君の母親の叶だったんだ」
「母さんが元暗部…!?」
衝撃の事実に俺は驚きを隠せない
「だがそんな彼女も副作用により体はどんどんボロボロになっていった。それでも上層部は構わず彼女にドライバーを使わせてデータを集めさせたんだよ。その結果彼女は君を産んでたった1年で命を落とした…つまり君の母親を殺したのは…」
「善忍そのものなんだ」