シルバー・ブレット   作:ダイコンハム・レンコーン

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何か唐突に思いついてしまったので勢いで設定もまともに見直さずに書き殴ってしまった……とにかく書いてしまったので初めてだけども投稿してみました。聞きかじった設定多めでガバガバ過ぎる上にブラック・ブレット要素ほぼ皆無なので注意してください……

追記:煉獄と辺獄で意味合いがだいぶ違うのでちょっと修正。

追記2:誤字報告を頂いたので幾つか修正、誤字報告ありがとうございました。


転がり込んだ銀弾

 狩人は、死に際の走馬灯の中、夢を見た。

 

 

 その夢の中で、何よりも煌めく黒い弾丸を見た、そして、古い憧憬を思い出した。

 

 

 救いようのない世界で足掻く青年のその姿に。

 

 

 迷いながらも己の正義を貫くその姿に。

 

 

 見たかった。

 

 

 触れたかった。

 

 

 いつか、そうなりたかった。

 

 

 ……銀の弾に、己の名を刻む、夢の向こうに佇む"化け物"を射抜く為に、少しでも、夢の向こうに佇む"青年"の力になりたくて。

 

 

 

 撃鉄を起こし、銀のリボルバーに同じ色の弾丸を詰め込む。

 

 

 

 身体を包む倦怠感を振り払い、引き金を、引いた。

 

 

 

 帰る事の無い矢は放たれた、すべてを振り切って。

 

 

 

 地平を超えて。

 

 

 

 次元を超えて。

 

 

 

 突き進む。

 

 

 

 目的地は、もうすぐそこだ。

 

 

 

 ✳︎

 

 

 

「……俺は、どうなっちまったんだ?」

 

 空は赤。

 

 大地は黒。

 

 おまけに夥しい死の匂いが辺りに撒き散らされている。

 

 俺は死んだ、狩りの途中で死んだ筈だ、ここは森、死んだ場所も確かに森、と同じではあるが、奴を閉じ込める結界を紡ぐ為に木に掘り込んだ文字が見当たらない、間違い無く死んだ場所ではない。

 

「ぁーあー、おーい! 誰か! 他に誰か居ないのか!」

 

 狩りの道具もない、塩も聖水も杭もリボルバーも、銀弾も。

 

 

 

 ……しかし、俺の声はこんな、甲高い、生娘の様な声だっただろうか? 

 

 

 

 顔を下に、覗き込めば、そこにはなだらかな丘とピンク色の山頂があった。

 

 ……女への変態……悪魔の仕業か? いや、妖精の悪戯と言う線もある…………最悪俺が悪魔の類になってしまった可能性も捨て切れない、何故なら。

 

 頭に手を伸ばせば、グルリと渦を巻いて天を突く硬い角。

 

 背中に手を伸ばせば、シルクの様な触り心地と木綿の様な強さを併せ持った蝙蝠の様な羽。

 

 おまけに臀部には太く長く、硬い何かに覆われた尻尾があった。

 

 ……悪魔としては尻尾が太過ぎるが、な。

 

 だが、考えても答えは出ない、鏡の類が有ればより正確な判断を下せるが、無いもの強請りをしても仕方ない。

 

 しかし、ここは何だ? 少なくとも俺みたいなのが辺獄止まりな筈はない、ここはもっと地獄の下層なのだろうか? 

 

 ……俺は神を聖水やら浄めの札やらをくれる便利屋程度にしか礼賛してなかったのだ。地獄にぶち込まれるのが道理だろう。

 

 しかしながら、地獄だとしても、警吏も拷問官も何も来ないのだから、俺は一先ず自らで断頭台にでも登らねばならないのだろうか。

 

 少なくとも俺は地獄1回目だ、悪魔が槍を片手に来ようが勝手が分からぬ者を1人にした貴様らが悪いと言ってやろう。生憎地獄の事がよく分かるバイブルも死に際まで持っていなかったからな。

 

「……少しも笑えぬジョークだ」

 

 少しこの森を歩いてみるか。

 

 

 ペタ

 

 

 ペタ

 

 

 ペタ

 

 

 素足に染みる水気を含んだ泥、小綺麗だった筈の足の爪には既に泥が所狭しと噛んでいた。

 

 空気はやや冷たく、しかしながら、時にもったりとした死の匂いと共に生温い風が吹き抜ける、そちらの方が慣れたものであり、悪寒よりも、寧ろ一瞬の安心と心地よい緊張を感じてしまうのは、狩人の性であり、業であろうか。

 

 

 ……しかし、奇妙な事に、これ程の死の匂いを醸していながら、死体が見受けられないのだ。

 

 

 経験上、ここまで死臭が立ち込めている地域には凄惨な現場が広がっているのがある種のお決まりであるが、ここにはそれが無い、つまり、死体が食べられているパターンか死体が化け物の仲間入りしているパターンだ。

 

「ははは……」

 

 思わず枯れた笑い声を出してしまう、こんな状況でも狩人としての業務を果たそうとする俺自身に。

 

 

 ペタ

 

 

 ペタ

 

 

 ペタ

 

 

 ……見つけた。

 

 

 真っ暗な森の中、ぬるりと煌めく粘液と、根源的な生理的嫌悪を催す腐敗臭。

 折れた木の幹にもたれかかる様に斃れた死体が二つ。

 

 一人は青年、胸に黒い金属製の杭が突き刺さっている、半開きの口に手を突っ込み口腔内を確認したが、鋭い牙は存在しなかった、片手には見慣れた回転式拳銃が握られている。空の薬莢が一つ、弾倉に残っていた。

 

 もう一人は女の子、こめかみから脳天を射抜かれている、死後の硬直で固まった手には青年の胸に突き刺さる杭が握られている。

 

 死体が背にした木の幹には血痕、そして黒い銃弾が埋まっていた、位置的に考えれば男の銃によるものだろう。

 

 

 

 恋仲であったのだろうかと。

 

 兄妹であったのだろうかと。

 

 そんな下世話な空想が頭を過ぎったが、死人に口無し、降霊術の類をするには道具もないので、そんな思考に蓋をした。

 

 気を入れ替え、こちらの女の子が"奴ら"かどうかを調べようとしたが、上顎をぶち抜いた際に頭蓋から溢れ出たであろう血が口腔内で固まり、まともに調べられなかった。その他に得られる情報も殆ど無かった。

 

 しかしながら、興味深い特徴を見つけた。

 

「これは……」

 

 真っ赤な目、ルビーやガーネットにも負けんばかりの輝きと美しさだ、彼女がそのまま成長していれば、間違い無く男連中の目を惹く美女になっていた事だろう、惜しいものだ。

 

「これで全部か」

 

 二人の死体の様子を確認すれば、大方死因は分かった。

 

 胸に突き刺さった杭、脳天を撃ち抜いた弾丸。

 

 

 恐らく、お互いの獲物なのだろう。

 

 

「概ね、心中、と言った所か」

 

 仕事道具が無い以上、悪魔や妖精に唆されたのか、それとも痴情のもつれによるものなのか、それを判別する術はない。

 

 だが、分かることはある。

 

 お互いに迷いなく、急所を的確に破壊している。

 

 例えば二人一緒に毒を飲んで自殺するよりも、お互いの頭蓋に銃を突きつけ、同じタイミングで引き金を引いて自殺する方が遥かに難しい、ましてや、獲物が違えば尚更に、だ。

 どちらかが僅かに躊躇したり、早とちりすれば片方しか死なない。

 互いに獲物を向ける心中とはある意味、お互いの覚悟を試される死に方だ。

 

 その点で言えば、この二人は満点だろう、不謹慎ではあるが、お互いに想いあっていたのには間違いない。

 

 

 

 ……そしてもう一つわかる事がある。

 

 

 彼らは、同業者だろう。

 

 

 "化け物狩り"と言う意味でだ。

 

 

 この黒い金属で出来た弾丸はともかく、杭は間違いなく特注だろう。

 俺が使っていた、銀の弾丸を始めとした道具達の様に。

 

 

 心中の理由は結局分からず仕舞いだが、この世界でも化け物狩りが必要とされている現状に悲しむべきか喜ぶべきか、まるで分からない。

 いや、ここは人として悲しむべきなのだろう、少なくとも、この青年と女の子はこんな場所にピクニックに来たという訳でもあるまいに、恐らくは"狩り"に出ていたのだから。

 

「……いや、しかし、ならば何故こんな所で心中を?」

 

 ……ますます心中の理由が謎めいてしまった。

 

 思考の海に溺れかけたその時。

 

 

 ドガン! 

 

 

 森の全てが揺れた。

 

 木の軋む音、葉が擦れる音、何かを砕く音。

 

 空気の揺らぎ、強まる腐臭。

 

 感じる視線。

 

 その全てが余す事なく自身の身体に届く。

 

 前の身体では到底想像もつかない"感覚"と言う情報の洪水に思わず酔ってしまう。

 

「おぇ……うっ……」

 

 情け無く空っぽの胃袋をひっくり返しても、当然ながら出てくるのは唯の胃液だけだった。

 

 しかし、幾たびもの死線を越えてきた自分自身の直感に従い、女の子が持っていた杭と、男が持っていたベルトポーチとリボルバーを抜き取ると、裸一貫の我が身に装備した。

 

 ベルトポーチのサイズが腰に合わず肩掛けにする。

 

 こんな格好をする事になるとは……本に乗っていたアマゾネスの姿を馬鹿にしていた友人に言ってやりたいな、「案外気持ちいいぞ」とな、勿論冗談だが。

 

「……?」

 

 揺らぎが止まった。

 

 ……来る。

 

 暗闇にさぞかし映えそうな銀の糸。

 

 巨大な蜘蛛の化け物である事は瞬時に分かった、ならばやる事はただ一つ。

 

 

「……仕事の時間だ」

 

 

 狩るか狩られるか。

 

 化け物と狩人、そこにそれ以外の道理は存在しないのだから。

 

 

 

 まずは身を翻す。

 

 しかし、糸の回避の為に右に飛び退いた瞬間、馬車が衝突した様な衝撃に襲われた。

 

 

「くっ……なん、だ? ……木?」

 

 

 少なくとも右手側に木などは無かった筈だ、そう思い、自身が立っていた筈の位置を見た。

 

 

 

 

 

 

 ……クレーターだ。

 クレーターがそこにはあった。

 

 

 奴の糸で? 

 ……違う、一点集中ならまだしも、糸に拡散する爆発力などないだろう。

 

 

 他の奴が攻撃を? 

 ……違う、感覚に一切引っかかっていない。隠形の類であっても、気配までは消せない。

 

 

 幾つかの可能性を排除して行き、最後に残った可能性を選択する。

 

 

 ……これは、俺の仕業だ。

 

 

 ならば何故、この様な芸当をその身一つで行えた? 

 

 答えを探す。

 

 

 

 先程より倍も離れたであろう距離。

 

 その先で佇むのは獲物に真摯な眼差しを向ける大蜘蛛。

 

 その眼は、悍ましさと美しさを孕んだ"赤"であった。

 

 

 

 

 

 …………血の血族、吸血鬼絡みの仕事で嫌と言う程聞いた言葉だ。

 

 血を分け与え、同族を増やす。

 

 同意があろうが無かろうが、それが行われたその先は大概悲劇しかなかった。

 

 ……人と、人であった化け物として、分かたれた者達を何度も見てきた。

 

 

 

 ……女の子の真っ赤な目が、その類である証拠であるならば、成る程、心中する心理も理解出来る。

 

 

 

 しかしそれは死んだ理由であり、小柄な女の子が狩りの舞台に居る理由にはならない。

 

 

 

 真っ赤な目、それが得られた情報の中で女の子と大蜘蛛を結ぶ一つのキーワード、そして、今、手に持っている黒い杭、この様な重い獲物を何故あんな女の子が持っていたのか、当然、万全に振るうには力が必要だ。

 

 つまり、裏返して考えれば、女の子には力があった。

 

 その力の源は? 

 

 恐らく、目の前の大蜘蛛に関連している筈だ。

 

 同じ"赤い目"を持つ、あの存在に。

 

 これは推理と言うより直感だ、長年の狩りの中で培って来たものであり、ある程度信頼している。

 

 そうして見つけられるのはきっと、あの様な女の子が狩りの舞台に居られる理由だ。

 

 

 

 ……今の俺も"同類"なのだろう、始末は自分で着けるとして、この大蜘蛛はまず始末しなければならない、ある程度狩れる可能性があるならば狩ると、昔からそうして来た。

 

 ……生きる為に狩っていた。

 

 

 

 ポーチから弾を取り出し、6発、装填した。

 

 撃鉄を起こし、引き金を引き、いくつかある目玉に1発。

 

 奴の目玉は水風船の様に破裂する。

 

 多少のけぞるが、有効打でない事は理解出来た。

 

 

 

 どうやら怒らせてしまったのか大蜘蛛はこちらに猛進して来た。

 

 本来、狩人として大柄の存在と戦うならば、罠の存在が不可欠だが、この身体ならば、問題はないだろう。

 

 杭を地面に刺し、鋭敏になった視覚の中、ゆっくり、ゆっくりと歩を進めている"様に"見えた大蜘蛛の右前足二本を早撃ちの要領で撃ち抜き、破壊する。

 

 シングルアクションのリボルバーは昔使っていた事もあり、直ぐに手に馴染んだ。

 

 急に支えを失った大蜘蛛の身体はこちらから見て左側に前のめりになりながら倒れる。

 

 土煙の中、恨めし気にこちらを写す赤い目を無視し、すぐさまに大蜘蛛の頭上を取り、頭部と地面を縫い付ける様に突き刺す。

 

 胴体と頭部の接合部に残りの3発を等間隔に撃ち込む。

 

 後は杭を持ち上げる様にして大蜘蛛の頭を引っこ抜く。

 

 抵抗すれど、上顎と下顎を縫い止められた状態でまともな攻撃は出来ないだろう。

 

 

 多くの化け物退治において"首を取る"と言う行為はある意味で絶対的な信仰がある、首を取れば死ぬ、間違いとも言い切れないが、東洋西洋に関わらずそれでは死なない化け物も当然いる。つまりは、油断はナシだ。

 

 

 念の為、何十回か胴体、頭部を黒い杭で突き刺したが、最早ピクリとも動かない。

 

 

 火でもあれば跡形も無く消せるのだろうが、そういった物は二人の手元に無かった、つまるところ、火は必要ではない、手持ちだけで"殺せる相手"なのだろう。

 

 

 ……俺の推察が正しければ、この大蜘蛛も元は……

 

 

 せめて死後の世界には辿り着いて欲しい物だ。

 

 そう言えば、人の道を外れてしまえば、人の祈りが作り出した物である天国にも地獄にも辿り着けなくなると狂った親父が言っていたな。そんな現金な死後の世界などクソ食らえだが。

 

 

 仕事を終え、再び二人の場所へ戻る。

 

 このままにしておくのも流石に忍びない、埋葬しようと考えたが、彼らの装備を、共に埋葬するべきか否か、それが悩みどころだった。

 

 恐らく、彼らの装備は、あの……赤目の大蜘蛛に効き目のある専用の装備だ、ここでただ捨て置くのは、勿体ない、と言う気持ちも当然ながら存在する。

 

 こんな時も狩りについて思考を巡らす自分に、乾いた笑いが出る。

 

 どうしたものかと考えていると、俺の直感が、凄まじい程の警鐘を頭の中でかき鳴らし始めた。

 

 間も無く、無数の揺らぎがこちらへ集まっていた。

 

 化け物を狩る宿業を背負えど……勝てぬ戦いを強行する程それに縛られる気はない。

 

「……すまない、墓は必ず、用意してやるからな」

 

 何か他に形見になりそうな物はあるかと二人の懐を探ると、精密な、色付きの写真が載られたカードを見つけた。

 

 字はよく分からなかった、俺自身、物心ついてすぐに狩りの世界に身を置いた為に、全くと言って良いほど字が分からないのだ。

 

 走り出す、素足のまま。

 

 

 

 ペタペタ

 

 

 

 ペタペタ

 

 

 

 ペタペタ

 

 

 

 ……振り向けば、大柄の首長の化け物や翅付きの化け物が森を跋扈していた、少しでも遅れていれば奴等の仲間入りだっただろう。

 

 あてもなく、更に歩いた。

 

 

 

 ペタペタ

 

 

 

 ペタペタ

 

 

 

 ペタペタ

 

 

 

 ✳︎

 

 

 

 ……何だ、あれは? 

 

 

 黒い、長方形の巨大な何かが並び立った場所が目についた。

 

 

 少なくとも、人工物には間違いない。自然にあんな物が生まれてたまるか。

 

 

 足をそちらに向けようとした時、ピタリと足が止まった。

 

 ……他ならぬ、自分自身による意思で。

 

 

 

 ……今、私は、角やら羽やら尻尾の生えた化け物だ。

 

 人の目の前に現れるのは問題があるのではなかろうか。

 

 

 

 ……いや。

 

 待て。

 

 もし本当に問題があるならば、あの赤目の女の子が普通の人間の青年と共に居た理由に説明がつかない。

 

 

 

 何か訳があるとすれば…………先程の俺の様な力を必要としている、か。

 

 ……もしそうならば、俺はまだ狩人を続ける事が出来るかもしれない。

 

 

 

 ✳︎

 

 

 

 ……そんな甘い考えが思考を鈍らしてしまったのだろう。

 

 

 ……まさか、二人を殺害した容疑で逮捕されるなど、この時の俺はかけらも想像していなかったのだから。




ここでイメージしてる狩人の姿は色んな狩人のイメージを片っ端から融合したナニかです、主人公は結構吸血鬼を狩っていますが基本何でも屋スタイルです。
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