シルバー・ブレット   作:ダイコンハム・レンコーン

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今回は短め、日常回前編、あまりにも遅く進んでいますが、ここを超えれば、後は一気にラストスパートになる予定です。

今回の話はちょっと勘違い要素がありますのでご注意下さい。

後、日常回と言いましたが日常回になり切れていない気がする……。

そして相変わらずキャラクターの思考を追うのは緊張する。


心は大人、身体は子供

──東京エリア 内地

 

「東京エリアの中でも、ここは一際賑やかですね」

 

 車道の方を見れば、吊り下げられた列車が走っている、一体何故列車を吊り下げようなどと思ったのだろうか。

 

「アイゼンちゃん、あれはモノレールって言うのよ」

 

「モノレール……一本線のレールとは、凄まじい技術です」

 

 夢中になって走るモノレールを目で追っていると、戻した視線の先には微笑む木更君が居た。頭を傾げていると、彼女がその訳を話してくれた。

 

「いや、変な話だけれど……アイゼンちゃんもやっぱり子供なのよね」

 

「子供は大人になれませんけど、大人は子供になれます、大は小を兼ねると言う東洋の諺を聞いたこともありますよ、だから子供らしくない私だからこそ、いつでも子供になれるんです」

 

「ふふっ、多分そう言う所が子供らしくないって言われちゃうんじゃないかしら?」

 

 俺は楽器ケースを背負っている所為で人並みをかき分けるのも一苦労だ。

 

 俺たちは歩き疲れる前に、近場のカフェに入る事にした。

 

 落ち着いた雰囲気の静かなカフェは、俺たちの様な子供が来るにはいささか大人び過ぎているだろうか。席に着くと、木更君は俺に薄いメニューを手渡してくれた、が、俺はまだ日本語を読む事が出来ない。

 

「……すいません、私、文字が読めないので」

 

 木更君は少し申し訳なさそうな顔をしたが、別に重い事情は無いのだ、だが、言った所で理解出来るわけがない、俺は元々日本の人間ではないから日本語を読めないなど、しかもこうして日本語は喋れているのだから尚更に信じられない筈だ。

 

 ──ご注文はお決まりでしょうか? 

 

「なら、この苺のパフェが良いんじゃないかしら」

 

「お金は私が出しますよ」

 

「いいえ、大丈夫よ、多田島さんからその為のお金も貰ってるの」

 

「……なら、貴女も何か頼んだらどうですか?」

 

 苺パフェを勧めてくれた彼女は既にメニューを閉じ、テーブルの端に立てかけていた。彼女は恐らく何も頼まないつもりだったのだろう。

 

「私は別に気にしなくて良いのよ」

 

 そう言った彼女は、次の瞬間、地響きの様な音を腹から流す。彼女は赤面を覆い隠そうとするが、隠せていない。

 

「多田島警部もその程度の手間賃は折込み済みだと思いますよ?」

 

 彼女が財布を覗いては閉じ、を繰り返す事数度、迫る空腹に諦めた様に彼女も注文する。

 

「うぅ、なら、私はナポリタンをお願いします」

 

 ──はい、かしこまりました。

 

「いやはや、身体は正直ですね、木更君」

 

 テーブルに突っ伏した彼女は腕の隙間から恨めしそうに此方を覗く。

 

「ここ最近はまともにご飯も食べれてないんだから仕方ないのよ……」

 

 随分と切実な懐事情の様だ、ゾンビの腐肉や雑草を食う羽目にならない様に祈っておこう。

 

 後、折角の民警の社長と語らえるのだから、聞けることは聞いておこう。

 

「民警って言うのはそこまで稼ぎに困る物なんですか?」

 

「東京エリアトップクラスの民警になれば稼げるんでしょうけどね、私達みたいな下層の民警はネームバリューが低過ぎて仕事が全く回って来ないのよ」

 

 そう言えば、里見君はもやしを一袋6円で買いに行っていたな、若いのに……いや、これ以上考えるのは悲しくなる、やめておこう。

 

「ですけど、あの会議の場には呼ばれてましたよね?」

 

 確かあの会議は東京エリアでも指折りの民警が集まっていたと聞くのだが、そこはどう言う事なのだろうか。

 

「それについては分からないわ、何故私達が呼ばれたのか、誰の指図か、全部突然だったのよ」

 

「なるほど、まだ分からない事だらけですね」

 

 お手上げのポーズを交え大袈裟に語る。

 

 ──お待たせいたしました、苺のパフェとナポリタンになります。

 

「思い出しましたけど、私達は遊びに来たんです、仕事脳は捨てましょうよ」

 

「えぇ、そうね、今日は存分に楽しんで英気を養いましょう」

 

 長く細いスプーンを透き通る赤が流れる白い山へと突き刺す。

 

 今まで結構なゲテモノを食べて来たせいか、初めての食べ物でもすんなりと口に入れられた。いや、流石に食えない物を出す店は少ないだろうが。

 

「苺パフェの味はどうかしら?」

 

「ひんやりしてて甘いですけど、苺のおかげで甘過ぎません、これは良く考えられた一品ですね」

 

「何か、品評めいた言葉遣いね……」

 

 それを聞いてか、彼女は呆れた後に軽く微笑む。俺は無意識に見た事もない筈の母の微笑みと重ねて彼女を見ていた。

 

 俺はふと夢想した。

 

 朝日の下、里見君と木更君が両脇に立ち、その間に両手を繋いだ藍原君が居る、そんな光景をだ。

 

 似合いの姿ではないだろうか。

 

 ……ん。

 

 何故かその夢想が勝手に動き出し、いつの間にか正妻を争う藍原君と木更君に里見君が両腕を引っ張られている画に変わっていた。

 

 何故だろうか、里見君はこっちの方がらしく見えるのは。

 

 いつの間にか俺は笑みを溢していた。

 

「アイゼンちゃん?」

 

 ナポリタンとやらを黙々と貪っていた彼女がふと顔を上げる。

 

「いえ、貴女と里見君が夫婦で、藍原君が娘なら良い家族になりそうだなと」

 

 

「……私が、お母さん、ね」

 

 今までとは違った、妙にしんみりとした反応、釣られて俺も口が開いてしまった。

 

 

「──私は、物心付いた時から血の繋がった家族が居ませんでした、だから、どうしても人の繋がりを見ると、それを家族に当て嵌めて考えてしまうんです、私の家族がどんなものだったのか、理想の家族って何だろうかとか、色々考える為に」

 

 

 話している彼女は、少し困った顔をしている。……おっと、暗い話になってしまった、話を変えよう。

 

「あの、すいませんでした、暗い話になって……え?」

 

 ぽんと頭の上に手を置かれる、温もりがじんわりと伝わって行く。

 

 ゆっくり、ゆっくりと、氷を溶かす様に撫でてくれる手は、彼女の物だった。

 

「大丈夫よ、子供なんだから、言いたい事を言っても」

 

「……でも、そんな貴女も子供です」

 

 私は……私は、"俺"を思い出し、それで急に恥ずかしくなって来た、ヤケクソで子供染みた返事では、彼女の微笑みを崩せない。

 

「はい、あ〜んして、ほら」

 

 すると、彼女は俺のスプーンを手に取り、白と赤の螺旋を切り取った物を差し出して来た。

 

「と言うか何ですかその『あ〜ん』ッ!?」

 

 後に続く言葉を言い切る前に、口の中に甘味が放り込まれる。

 

「どうかしら?」

 

 彼女はしてやったりと言う風に口角を上げる。

 

 冷たかった筈のクリームは、彼女の手の様に、じんわりと何かを温めてくれた。

 

「おいしい……ですよ」

 

 僅かながらの抵抗として、彼女から目線を逸らしながら言ったが、逸らした先に何故か彼女のニヤついた顔が見えていた。

 

「ふふっ、子供らしくて大変よろしい」

 

 昨日、小比奈と戦う為に子供の意地を引っ張り出したせいか、どうも冷静ではいらない、まるで時が巻き戻された様な……ありもしない懐かしさが込み上げる。

 

 

 

 俺の生きていた時代が違えば、世界が違えば、他の子供と喧嘩して、泥だらけになった俺を迎えてくれる家族が居たのだろうか……いや、結局、家族を作ろうなんて考えなかったじゃないか。俺が何もしなかっただけだ。

 

 ──郷愁の念など、

 

 ──幼年期への憧れなど、

 

 とうの昔に捨てた筈なんだ。

 

 

 

「……昨日の仕返しにしては随分と念入りですね」

 

「倍返しって奴よ。私がやられっぱなしじゃないって事を胸に刻み込みなさい、仏の顔も三度までなんですから」

 

 彼女は、そのお淑やかな風貌にあまりに似つかわしくない、悪戯好きの妖精の様な笑顔を見せていた。

 

 はぁ、全く、この日の内に何度彼女に仕返しされるのか、俺は頭を抱えたくなって来た。

 

 

 

 ✳︎

 

 

 

「ここは?」

 

「ここはショッピングモールよ、ブティックや雑貨店、ゲームセンターや、他にも色々なお店があるの」

 

 商店街とは趣向が違うのか、ショッピングモールの内装自体も華やかで、中心にある吹き抜けの空間にはベンチやなどが並び、人々はそこで休憩したり、ロマンスを感じていたり──ここはフランスか? 

 

「こ、子供は見ちゃいけません!」

 

「もう手遅れですし、免疫もありますよ」

 

 師匠にサキュバスを始めとした魅了に対する訓練として、ただ一人歓楽街に金渡して放置されたのは酷かった、そもそも誘惑に負けず誰ともする事無く帰ってこい、なのか、店に入って性への免疫を高めろ、なのか、師匠が教えもしなかった所為で酷い目にあった、訓練中に本物かつ男色のインキュバスに襲われた時は、師匠の事を殺そうかとも思ったな。

 

 ……思い出したら一気に気分が悪くなって来た。不味い、吐きそう。

 

「──それって、まさか」

 

 頭上を見上げれば、木更の顔は僅かに動揺していた、どうしたのだろうか。……あぁ、なるほど、彼女は俺が"そう言う事"をされたと勘違いしているのか。それぐらいの訂正なら簡単に出来る。

 

「大丈夫ですよ、私、"そう言う事"された訳じゃありませんから」

 

「──"そう言う事"って…………あ、わ、私、変な事聞いちゃったわね」

 

 彼女の言動は更にしどろもどろになっていく。俺は何か間違った事を言ったのだろうかと、先の発言を振り返り、気付いた。

 

 ──しまった、墓穴を掘った。俺は大人のノリで答えてしまったが、普通子供が、"そう言う事"なんて知っていたらおかしい筈だ、どうした俺は? 間食したばかりなのに頭が回ってないぞ。

 

 ……まさか、思考能力までガストレアウイルスの減少で落ちているなんて事ないだろうな。

 

 起きてしまった事故は仕方ない、この事を無理に否定しようとしても傷がどんどん深くなっていくだけだ、流してしまおう。

 

「あ……木更君、どこへ行きますか?」

 

「……アイゼンちゃん」

 

 木更君は俺の手を不意に掴む。

 

「どうしたんですか、木更君?」

 

「ショッピングモールは人が多いから迷子にならない様に、ほら、手を繋いで居たら迷子になるなんて事ないでしょう? さぁ、行くわよ、アイゼンちゃん!」

 

 すると、彼女は俺が返答する前に動き出し始める、掴まれた手が引っ張られる前に、俺は小走りで彼女の隣につく、彼女は先と変わらない微笑みを此方に向けているが、俺は子供扱いされるのが妙に恥ずかしく、顔が熱くなっていた。

 

 つくづくらしくない、俺はいつからこんな歳盛りの娘っ子の様になってしまったのだろうか。

 

 

 

「──いや、なってましたね」

 

「ほらアイゼンちゃん、あのお店、私の高校でも有名なブティックなのよ、見てみましょう」

 

 

 

 ……もしかすると、これも神秘の一種かもしれない。俺の身体に起こっている事を、狩人の時代の常識に当てはめる。

 

 現世における存在の比重で言えば、基本的に"完全な肉体"、"魂"、"常人の肉体"の順で存在が重くなる。例えば、魂を無くせば、常人の肉体は動かないが、完全な肉体と言うのは動き続ける。

 

 ガストレアウイルスは、人間の肉体を常に健康的な状態にすると言うが、それによって、この身体は不老ないし不死、又はそれに準ずる能力を持った完全な肉体となり、その完全な肉体の中に居る俺の魂の存在の比重が、肉体の存在の比重へ寄り始めている、と言った所か。

 

 子供の頃を置き忘れた俺に、誰かが、あったかもしれない昔日を運んで来たと言う事なのだろう、全く、余計な事をしてくれたものだ。

 

 

 

 だが、今日くらいは、

 

「木更君」

 

「ん、何かしら?」

 

「そこまで貴女が楽しませてくれると言うなら、私も全力で楽しみますから、覚悟してくださいよ?」

 

「それじゃ、遠慮は無しね。嬉し泣きするまで遊んであげるわ!」

 

 俺が私に合わせるのも、悪くないか。

 

 

 

 ✳︎

 

 

 

(……変わった子ね)

 

 天童木更が、あの会議室で、アイゼン・バンカーに会った時の第一印象がこれだった。

 

 基本的に、イニシエーターとは、プロモーターを司令塔としたスタイルで運用される事が多い、中には知能派のイニシエーターの指示により動くプロモーターも居るが、それは少数派となる。

 

 その為、仕事の現場で誰の指示も仰がず、一人で考えて動くイニシエーターと言うのが、木更には珍しく見えていた。

 

 

(……どうして貴女は、そんなにも平気そうにしているの?)

 アイゼンが倒れ、そして復活した時に、木更の心の底から湧き上がったのは疑問だった。

 

 何故、あそこまで痛めつけられ、平然としているのか、呪われた子供たちは最年長でも十歳以下の少女なのにも関わらず、その様な苦痛を容易く飲み込めるのか、木更はその時はまだ、理解出来なかった。

 

 

「──私は、物心付いた時から血の繋がった家族が居ませんでした、だから、どうしても人の繋がりを見ると、それを家族に当て嵌めて考えてしまうんです、私の家族がどんなものだったのか、理想の家族って何だろうかとか、色々考える為に」

 

 この時、木更は察した。

 

(この子は、きっと、身体の痛みじゃなくて、心の痛みを知り過ぎたのね)

 

 アイゼンがまともな教育も受けず育った為に、言葉の読み書きが出来ないのだと彼女の前の言葉で察してはいたが、両親が居ない、その事を知り、木更は、自身の境遇と重ね合わせ、より同情的に彼女を見ていた。だから頭を撫でた、もしも亡くなった両親が、まだ生きていたらどうするのだろうかと考えて。

 

 

「大丈夫ですよ、私、"そう言う事"された訳じゃありませんから」

 

 しかし、顔を青ざめさせた彼女が言った一言によって、今まで彼女に感じていた同情心は、別の物へと振り切れてしまった。

 

(……まさか、アイゼンちゃんは)

 

 一つの暗鬼が伝播し、次々と木更の頭の中で、事実と想像が線で結ばれる。

 

 言葉の読み書きが出来ないのも、そう言う目的で"使われて"いれば、わざわざ読み書きを覚えさせる必要が無いから。

 

 無茶をするのも、物として使われた結果、自分の価値を下に見ているから。

 

 飄々としていて、冗談をよく言うのは、自身の暗い部分を隠そうとしているから。

 

 彼女の笑顔だってもしかすると…………考えればキリが無い。

 

 

(私は、この子の為に、何が出来るの……?)

 

 

 彼女が元々持っていた正義を求める心根は、出来る事を探そうとする。

 

 

(君なら……里見君なら……きっとこうした筈よね)

 

 

 彼女は心の中で、正義の基準を探し、そうして見つけた最も身近な正義の基準に彼女は力を貸してもらう事にしたのだ。

 

 

 木更はアイゼンの手を引き、ショッピングモールを巡り始める。

 

 ……始めは単に茂徳の依頼であったが、最早これは彼女自身の願いへと変わり始めている。

 

 側から見れば、それは酷い勘違いなのかもしれない。

 

 だが、その勘違いは木更の心に、両親の死から歪んでいた筈の、在りし日の正義を呼び起こしていた。

 

 

(私は、アイゼンちゃんを心の底から笑わせる。それが、きっと正しい事なのよね、里見君)

 

 

 それが何を変えるか、それは木更にも、アイゼンにも、そう、誰にも分からない。

 

 ──休日はまだ、始まったばかりだ。




と言う事で前編は終わりです、里見君が藍原君に救われてるなら、木更さんを救ってくれる幼女が居ても良いじゃないかと言う欲望が見え隠れしている上、アイゼンくんちゃんが勘違い系闇深TSロリに片足突っ込んでる……。
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