シルバー・ブレット   作:ダイコンハム・レンコーン

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前話に書き込みましたが、前話をちょっとだけ修正しました、本編には全く影響無いですが一応。
……この次話を書くにあたってやっと公式サイトの設定見たりアニメ版見たりして考えを纏めてると、ブラック・ブレットの作品世界の奥深さを改めて知らしめられました。


出会いの港

 俺はただ、生き延びる為に銃を握った。

 

 

 人に向ける銃ではなく、化け物に向ける銃を。

 

 

 やがて俺は、感謝の味を覚えた。

 

 

 それは、幼い俺には猛毒だった。

 

 

 いつの間にか、俺は感謝される為に、化け物と言う絶対の悪を殺す大衆の為の正義に染まっていた。

 

 

 それが間違いだと気付いたのは、己の友を撃ち抜いた時だった。

 

 

 

「すまない……許してくれ、許してくれ!」

 

「ほん、とうの……化け物は……」

 

 掠れた声、潤んだ瞳、伸ばした彼の手が、俺の胸を指し示す。

 

 

 

 本当の化け物は、そこに居る。

 

 

 俺は、己の正義を刻み込んだ銀の弾丸で、それを撃ち抜くと決意した。

 

 

 

 ✳︎

 

 

 

 ヒタヒタと丘を登った俺は、いよいよ街の様相をはっきりと認識出来る様になっていた。

 

 感覚を研ぎ澄まし、遙か先に広がる街を覗いてみる。

 

 車……恐らくは、昔見た車が発展した物が、灰色の大地を所狭しと駆け巡っている。

 

 そして、黒鉄のオブジェもそうだが、俺の見てきた建築物と比べ物にならない程の、高い、高い建造物が地平線を覆い隠していた。

 

 

 この世界の人間は、高い技術力を持っている。

 

 

 そう確信に至るまではそう長くはなかった。

 

 

「……そうか、"アレ"はそう言う意味か」

 

 

 目でぐるりと均等に並び立つ巨大な黒鉄のオブジェを追っていくと、用途がやっと分かった。

 

 アレは結界の一種だろう。恐らく、人間の生活圏を先の奴らから守る為の。

 あの巨大な板の内には比較的新しい建造物が見られるのに対し、その外側の荒廃っぷりの、その差が目に見えて分かるからだ。もはや露骨と言っても良い。

 

 

 もしかすると、結界や加護などと言った神秘の類の研究も盛んなのだろうか、と一瞬考えたが……少なくとも街中にローブを被った奇人変人の類は見当たらない、恐らくアレは科学の類だろうと踏んだ。

 

 記憶に残る二度の大戦の中、科学が人に対しても、化け物に対しても猛威を奮ったのを知っている、風の噂で聞いた話だが、電磁波で焼かれた吸血鬼なども居たそうだ。

 

 

 ……そんな事を考えていると、先程の死臭とはかけ離れた爽やかな湿り気を帯びた風がやって来た。

 

 雨の匂いだ。

 

 あの力を見たとは言え、裸で雨に打たれるのは、流石に不味いだろう。

 

 風と雨音に急かされるように、原っぱを駆け抜けた。

 

 

 

 ✳︎

 

 

 

 ジャラ

 

 

 ジャラ

 

 

 ジャラ

 

 

 砂利を蹴飛ばし、いよいよ黒鉄のオブジェの足元にたどり着いた。

 

 瓦礫が散乱し、倒れた建造物の基礎がもろ出しになっている。また、残っている建物も、夥しい密度の蔦に覆われ、最早幾星霜と時を経た大樹の様な様相である。他にも、割れた灰色のコンクリートからは幾つもの雑草が生命力に任せて繁茂している。

 

 正にジャングル、その他に形容できる言葉は存在しなかった。

 

 念の為、巨大な黒鉄の塔と塔の合間に何らかの結界が構築されている事を警戒し、瓦礫を放り込む、反応はない。

 

 片腕を前に、その先に更に杭を伸ばしながらゆっくり、ゆっくりと"見えない境界線"へと足を進める。

 

 

 ペタ……ペタ。

 

 

 ペタ……ペタ。

 

 

 ペタ……ペタ。

 

 

「…………はぁぁ……」

 

 

 深いため息を吐く。

 

 黒鉄の塔は後方に。つまり、あそこには何も結界的な障壁は無かった。自身にもあの化け物の力の幾分かは混じっているはずなのだが、何故通れたのだろうか。

 

 ……まさか、タダのカカシの筈はないだろう、もしかすると、明確な知性を持たない存在からの視認を妨害する様な、認識阻害の結界かもしれない。

 

 己の中に理由を付けながら、更に石の森を進む、雨を避ける為に、幾つかの軒下を経由しつつ。

 

 

 

 ✳︎

 

 

 

 すっかり俺は各部位のコントロールを会得し、雨の影響を多少でも避ける為に俺は背中の羽をインバネスコートの様にして両肩と乳房を包み、尻尾で臀部を隠しつつ行動するようになっていた、俺であれば、この様な姿の者に出会えば間違いなく淫魔の類と断じてしまうだろう、すっかり俺は、何か服でもないかと思える程の余裕が生まれていた。

 

 そうするとやはり、更に自分の身なりにも気を向ける様になってくる。

 

 偶々通りかかった家の中に、割れたガラスが散乱していた。手鏡代わりと手にとったその中には、美少女……と言うより、美幼女と呼ぶべき存在が映っていた。

 

 

 白と黒の入り混じった背中にかかる程の長髪、多少ハネているが、それでも髪質が良いと分かる。この髪をくすませている事に男だった筈の俺が罪悪感を抱くほどだ。

 

 瞳は"黒"、あの黒鉄の塔にも匹敵する艶めきを放っていた。瞳に吸い込まれそうになるのは亡霊の双眸を覗き込んだ時以来だ。

 

 胴体はスラッとしていながら十分に肉が付いているのが分かった。……俺が仕事をよく受けていた村でも、ここまで"健康"な事が一目で分かる子供は居なかった。

 

 

 ……待て、おかしい、俺は奴らと同類ではなかったのか、何故目が黒いんだ、てっきり同じ種族だからこそあの赤光を放つ目を持つのだと思ったのだが。……いや……これもいずれ分かる事だろうか。

 

 思考を整理し、気を再び目の前の鏡に向ける、今、鏡は自身の全体を映していた。

 

 森の中を抜けてきた事もあり、木々の木末に晒された肌は傷つき、汚れ切っていた。

 髪には葉っぱや蜘蛛の巣が絡み全体を俯瞰的に、物に例えて評価したのであれば、恐らく、手入れを怠った旧家の屋敷とでも評価するだろう。

 

「……流石に汚いな」

 

 ……丁度外では雨が降っている、身体を洗えなくもないが、やはり疾病の類は恐ろしい、なので頭だけを軒下から出し、そこだけ洗おうとした。……のだが。

 

「……オイお前! そこのお前!」

 

 活発さを声で表せばこれ以上ない、咎める様な、友人に呼びかける様な、不思議な声がどこからか響く。……強化された感覚のおかげで大体わかるのだが。

 

 ここに来て初めて声をかけられたのもあり、取り敢えず返事をする。

 

 

「おれ……いや、私に話があるのかな?」

 

「おうおう! ここは誰の縄張りだと……」

 

 声の主が空から降って来た。声の主は片膝立ちに地面に着地する、膝に悪くはないのだろうか。一人称を変えるのは一応、この姿で俺と言うのは憚られる物があったからだ。

 

 ……話が通じる事に疑問が無いわけではない、しかし、悪魔や天使が母国語を喋ったとする話もある、それと一緒だと言っている訳ではないが、つまり、考えても仕方ない事だと言う事だ。

 

 そうして、声の主は、顔を上げ……絶句していた。

 

 

 

「な、お前、何かされたのか! だ、大丈夫か?」

 

 

 

 停止していた声の主は、目を煌々と赤色に煌めかせ慌てふためき始めた。忙しいものだ。

 

 声の主、彼女の質問の意味は何となく分かる。丸裸の幼女が歩いていれば何事かと思うのは当然だろう。

 

「そうか、確かにそうだ、そうだな、それが普通だな、はははっ!」

 

「な、なんだ? まさか頭に何かされたのか!」

 

 そう、心配するのが普通だ、真っ先に淫魔の類だと警戒する方が異常だ。あぁ、随分と前の常識が染み付いてしまっている。

 

「……あぁ、すまない、君は? ……いや、こちらから名乗るべきか」

 

「お、おう……お前、ヘン……だな?」

 

 俺の名前、名前か、そのまま言うべきだろうか。

 

 ……いや、偽名で良いだろう、どうせ戸籍など無いだろうが、同姓同名の狩人の存在が居たなんて面倒な事にはしたくない。……未来か過去か、それとも別の世界か、俺はまだこの世界に生まれ落ちたばかりの幼子でしかない、身を守る為に、出来ることなら強かに、だ。

 

「……私の名は……アイゼン・バンカー」

 

「あ、あいぜん、ばんか?」

 

「……あぁ、そうだ」

 

 ……途端、彼女の目が哀れみを含む物に変わった。

 

「……お前、いつ捨てられたんだ?」

 

「……?」

 

「……いや、名前って、言う時に色々、なんというか、思いが入るじゃねぇか、でもよぉ……苗字も、名前も覚えてるのに、なんの思いもなく言ってるのが……なんか、気になっちまったんだよ」

 

「……そうだな、私は、捨て子だ」

 

 よく分からないが、話を合わせておく。

 

「やっぱりか、やっぱり、思いが全然動いてない……きっとお前は酷い目にあってきたんだな、だな!」

 

 俺より背丈の高い彼女に頭を撫でられているが、何より感じるのは騙していると言う罪悪感である。

 

 彼女の強い縄張り意識、仲間感覚、恐らく彼女は、捨て子、もしくは親亡き子が、そのままストリートチルドレンないしギャングへと変わった存在だろう。

 彼女は隠し通したつもりだろうが、背中からナイフの柄が微かに見えている。

 

 化け物に因るもの以外にも、戦争や疫病によりそうなってしまった子を何度も見た事がある、そして、目の前の彼女も、同じ目をしている。

 

「来い、わたし達の縄張りに案内してやる!」

 

「……ありがとう」

 

「あ、そうだ! わたしの名前はな、ピーだ! ここはピー様の縄張りなんだぞ!」

 

「宜しく、ピー」

 

「よろしくな! バンカ!」

 

 動き出そうとした時にはすっかり晴れ、赤色の空が広がり、地平まで埋め尽くしていた。

 

「おぉ、晴れたな!」

 

 ……茜色が彼女の風体を詳らかにしていた。

 

 オレンジ色の長い髪、白めの肌、健全な身体と……茶色の目。

 

「行こう! 皆歓迎してくれるぞ!」

 

「あぁ、その言葉、信じるよ」

 

「あ、その前にこれ、着ておけ!」

 

 こちらの胸元へ差し出されたのはつぎはぎの外套だった、誰が作ったのかは分からないが、よく出来ている。

 

 それを着込むのを見届けると、ハンドサインでこちらを招きながら走り出した。

 

 彼女の足の速さにも驚いたが、それに楽々追いつける自身の速さにも内心驚いていた、恐らく、彼女も"同じ"、しかし目が赤いのはいよいよ関係しているのかしていないのか分からなくなって来た。

 

 

 

 ✳︎

 

 

 

 コンクリートの森を抜けると、潮風が頬を撫でた、海の近く……丘から見下ろした時、港の側にすらあの黒鉄の塔が屹立していたのが見えたのだ、問題は無いのだろう、しかし、周りの建物が廃墟同然である事に変わりはない。むしろ潮風による劣化が著しい分、こちらの方がより廃墟然としているかもしれない。

 

 移動中、辺りに人の気配を感じなかったが、歩みを進めていくと、廃墟の内一つから強い揺らぎを感じる。

 

 より強くなる存在感に少し神経質になりながらも、辿り着いた目の前にそびえ立つ腐った木の様な廃墟は見ているだけで不安を掻き立てるアシンメトリーさが強調された趣味の悪い芸術家のオブジェにも見えた。

 

「ここだ! わたし達のねじろだぞ、だぞ!」

 

 どこでそんな言葉を覚えるのか、そんな疑問もつゆ知らず、彼女はオレンジ色の髪を揺らしズカズカと廃墟に踏み込んでいく。

 馬の尻尾の様に見えたと言うのは失礼だろうか。

 

 揺らぎを追いかければ、そこには数十人の女児に絡まれているピーの姿があった。

 

「あ、またピーちゃんが女の子誑し込んでる〜」

 

 いや、だから本当にどこでそんな事を習ったんだ。

 

 彼女の言葉に反応したのか、真っ赤な何十もの光がこちらを照らす。

 

「いや! 違う、断じて違うぞ! わたしにそんなしゅみは無いんだ!」

 

 浮気のバレた配偶者の様な形相でこちらに話しかけたピー。

 

 ……そのまま数十人の拘束を無理くりに解いて弁明を続ける彼女の瞳は真っ赤に輝いていた。

 

 

 

 ……まさか、目の光は制御出来るのか? 

 

 頭に引っかかっていた疑問の答えがこんな形で出てきた事に拍子抜けしない訳ではないが、それ以上に奇妙さと滑稽さに笑いがこみ上げる。

 

 俺は微かに口許を緩める……彼女らがどんな目に遭ったのか、薄々想像をつけながら。

 

「……凄い尻尾」

「つのだ! かっこいい!」

「この羽すべすべ〜」

 

 不味い、いつの間にか囲まれている。

 

 俺は、子供の相手はロクにした事がない、それどころか苦手だ。……基本的に、化け物の歯牙に掛かるのは弱い存在、女子供だからだ。仕事の依頼も、妻や子供を失った夫や、村の村長からなどで、子供と言えば生きた子供より、死んだ子供を見た方が多いと言える程に。か弱い命は、狩人の手から真っ先に零れ落ちるものだ、化け物を狩るのが狩人の本分だとは言え、救えなかった存在と言う事から来る敬遠もあるのだろう。

 

「……少し離れて、くれないかな?」

 

「バンカが困ってるぞ、離れろ離れろ〜」

 

「「「わぁ〜!」」」

 

 一人一人丁寧に引き剥がす彼女の姿にはこの歳にして既に母性を感じさせる。先程までは一家の大黒柱の様な父性を持っていたが……不思議なものだ。

 

 

 

 ✳︎

 

 

 

「え〜こほん! それでは、改めて新入りの紹介だ!」

 

 床に敷かれたマットに並んで座っている15人の子供達が真っ赤な目をキラキラ輝かせている。……心の昂りに合わせて輝きも増すのだろうか? など益体もない事を考えながら口を開く。

 

「私の名は、アイゼン・バンカー、ピーがバンカと呼んでくれているので、バンカと、そう呼んで欲しい」

 

「……他に言いたい事はあるか?」

 

「……そうだな、この角と尻尾は少し尖っているから、触る時は注意して欲しい、それと、これからよろしく頼む」

 

 ナチュラルに新入りとして扱われたが、どっちみちそれが現時点で最善の手だと感じていた為にそれについて何も言う事はなかった。

 

「……やっぱり、バンカはヘンな奴だな……」

 

「「「「「よろしく! バンカ (お姉) ちゃん!」」」」」

 

 ……詳しい事は、明日聞くか……

 

 安全を確信してしまった為か、途方もない疲労感に襲われた俺は、そのまま気絶する様に眠りこけてしまった。




主人公が子供たちスタートだとほぼこう言う立ち上がりしか想像出来なかった自身の思考の浅さが憎い!憎い!

関係ない話ですけど、公式サイト見て思ったんですが、ステージⅤ……ゾディアックの巨蟹宮が欠番なのって黄道十二宮の第"四"宮な事と"癌"を示す"cancer"と言う単語が"蟹座"も意味する事が関係するんですかね?
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