シルバー・ブレット   作:ダイコンハム・レンコーン

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1万字超えちゃったよ……アニメ見ながら書いてたらほぼアニメ通り+オリ主が加わる分文が膨大になってしまった……
注意:今回は、ほぼほぼアニメ二話の会議シーン通りになっているのであまり見る必要はありません、本当に見る必要ないです、見るなら前半だけで良いかもしれません、後最後はグロ注意です。

最後はグロ注意です(迫真)


血の会議

────東京エリア 内地

 

 空は俺達の初仕事を祝福する様に真っ青、この数日間で一番の晴天だった。しかし、隣で運転席に座る多田島警部の顔色は優れない、強面の顔が更に強張りを帯び、オーガに見間違えそうな程だ。

 

「いくら重要な会議とは言え、そこまで緊張するものですか? 多田島警部」

 

「……行く前に言っておくが、警察として民警に接触するのは危険だぞ」

 

 彼は苦い顔を更に顰める、ミイラの包帯をかじった時の俺の顔の様だ。

 

「行けば分かるだろうがな、民警と警察はお互いに対して良いイメージを抱いていない方が多い」

 

「それはまたどうして?」

 

「一つはガストレアへの力の弱さだ、民警が行使出来る権利の一つ、バラニウム製武器を警察は所有出来ない為に、ガストレア関連の事件が起きた際、俺らは現場の封鎖、確保と周辺住民への避難要請をしたら、法律の規定で民警を待たなくちゃならない、そのガストレアに対する無力感を八つ当たり染みた形でぶつける奴も居るんだ、……俺もその一人だったんだがな」

 

「……無力感ですか……分かりますよ、すっごくね」

 

「揶揄わねぇのか、情けない大人だとよ」

 

「……私が言えた義理じゃないからですよ、他には何か理由があるんですか?」

 

「……他には、民警にはならず者も多くいる事だ、この前言ったが、イニシエーターになった子供たちがプロモーターに殺される時がある、そんな時、そのプロモーターの経緯を洗えばアウトローの人物だったと言う時がままある。そんな奴らがいる民警と言う枠組みに不信感のある奴も居てな、特に若い正義感に突き動かされる奴は尚更民警に辛辣に当たるんだよ」

 

「後者はともかく、前者はバラニウム弾を警察が持てば解決しそうなものですが……」

 

「警察がバラニウム弾を持てないのは、日本人お得意の"慣例に倣う"って奴だ」

 

「慣例に倣う?」

 

「かつてのガストレア大戦直後の"治安悪化"や"新興宗教のテロ活動の頻発"に対して主に動けたのは、"逮捕権"の多くを有していた警察だけだった。そんな中、更にガストレアへの対処まで入った結果、警察は人員に対して仕事が多過ぎた為に機能不全一歩手前に陥った」

 

「その時現れたのが、民警と言う訳ですか」

 

「逮捕権を持たない民警はその時、ガストレアへの対処に専念した、ガストレアに構う暇の無い警察は、治安維持とテロリストの逮捕に専念した訳だ」

 

「その時の作業の分担が、今に至ると?」

 

「そうだ、民警に対ガストレアの仕事を任せた結果、警察の業務からガストレアの排除は消えた。ガストレア大戦時に生み出されたその体制が今に受け継がれた、だが、治安の安定化とテロリストの減少に伴い、ガストレアの排除と言う業務を復活させようと言う警察内の声の高まりに合わせ計画されたのが」

 

「私たち、警察に属するプロモーターとイニシエーターですか」

 

「民警の活躍により、プロモーターとイニシエーターのペアと言う形がガストレアに対し最小の単位かつ最大の効力を発揮すると言う事は周知されていた為に、警視庁もその形に則った訳だが……それはお前の知るところだ」

 

「……警察と言う組織体制に適応出来る十代が予想以上に存在しなかった」

 

「あぁ、ストレスに耐えかね、自傷行為に及んだ奴も居た」

 

「……私、ロクでもない事に選ばれましたね、それに皮肉ですよ、犯罪で捕まった私が警察? しかもならず者も多い民警の真似事をするなんて、そこも民警を再現したかったんですか?」

 

「流石に俺もお上がそんな面倒な凝り性を発揮してるとは思いたくないがな」

 

「……なるほどなるほど、今から行くのはそんな警察と仲のよろしくない民警のトップ達が集まる所な訳ですから、私達、ボロボロにされてもおかしくない訳ですね?」

 

「あぁ、そうだよ畜生、いきなりこんな仕事頼むか普通? 警察にもガストレアに立ち向かう力はあると言うアピールにしても、これはいきなり過ぎる」

 

「せいぜい身包み剥がされて晒し者にならない事を祈りましょう、グッドラック(幸運を祈る)ってね」

 

 防衛省と銘打たれた柱の間を通り抜け、駐車場に立ち入ると、次の瞬間、慣性に負けた身体が前にガクンと揺さぶられる。車が止まり、大きな影が辺りを包む。

 

「周りは高級車だらけ……はぁ、やっぱり来てるのはトップか、態々"防衛省"に招く程だからな、はぁ、頭が痛くなって来た」

 

「体調が悪いならここで待ちますか? 警部の分も話は聞いておきますよ」

 

「いくら肝っ玉が座っててませたガキだろうとそんな中に一人で行かせられるか」

 

 そう言った彼は助手席に座る俺の前のダッシュボードとやらを開き、中から色々取り出していた。

 

 ────警察手帳、これはプロモーター、イニシエーターのライセンスカードとしても使える特別な代物らしい。

 

 ────手錠、その鍵、逮捕権を持った警察として、イニシエーターである俺もまたプロモーターである警部の責任の元、犯罪者を逮捕出来るそうだ。

 

 ────アパートの合鍵、これには特に説明はなかった、普通に俺だけでも家に帰れる様にと言う事だろう。

 

 ────財布、落ち着いた黒革の小さな財布だ。警察は給料制で収入は安定している、食うに事欠くはないだろう、因みに通帳と口座も既に作ってある。

 

 ────スマートフォン、警部がこの仕事の為に買い替えたスマートフォンと同モデルらしい、色は警部がグレー、俺がレッドである。

 

 ────バラニウム製警棒、ガストレア、犯罪者両方に使える武器、丈夫さは折り紙付き。俺は二本、警部は一本用意されていた。

 

 ──── SAKURA M360J、装填数は五発、ダブルアクションで.38スペシャル弾を使用する、バラニウム弾もその規格に合わせた物で、多田島警部が持つニューナンブM60の弾薬と互換性がある。

 

 ────ホルスター&弾薬ポーチ、ハーネスの様な形でそれぞれの体格に合わせて伸縮する。左脇腹にホルスターが固定されており、ホルスターから伸びるベルトをニューナンブを紐付けする事で盗難を防げる様になっている。右脇腹には警棒を固定する事が可能。余った警棒はジャケットの右袖にしまっておいた。弾薬ポーチには.38スペシャル弾とバラニウム弾を入れたポーチの二つがあり、それぞれ左腰部、右腰部に備えられている。

 

 小物類をジャケット等のポケットに仕舞い込む。

 

「準備は終わりましたよ、降りますか?」

 

「あぁ、行くとするか」

 

 車から降り、影の指す方を見れば、そこには天を突く巨大な八角柱がそびえ立っていた、紀元前に持ち込めば天を支える柱だと信仰を捧げられるだろう。

 

 ……見惚れていると隣から声がかけられる。

 

「お待ちしておりました、警視庁対ガストレア課の御二方、どうぞこちらへ」

 

 威厳と歴史を感じる木製の扉を開けば、広いエントランスホールが俺たちを迎える。年季の入ったくたびれた警部の服にも、パンク風であるらしい俺の服にも似つかわしくない荘厳な雰囲気は東京の要所である事を言外に伝えていた。

 

 

 

 ✳︎

 

 

 

 人は一人ではない、孤独でも、苦境ですら友に迎え入れる。

 

 真に孤独である時は、それこそ、どこにもない。

 

 死すらも無ですら我らの友人だ、故に狩人の狩りに隣立つ人間は居ない。

 

 しかし、狩人は新たな大地へ立つ、隣り合う相棒と共に。

 

 そこにあるのは運命か、黒色の弾丸、血色の弾丸、そして、銀色の弾丸…………今、交錯する。

 

 

 

 ✳︎

 

 

 

 レッドカーペットのラインを手繰り、会議室へと少しずつ近付けば、より向こうから感じる揺らぎは大きくなる、……あくまで比喩的な表現だが、"化け物達"が向こうに居る、それがひしひしと伝わってくる。

 

「……一応聞いておきますけど、プロモーターって唯の……人、ですよね?」

 

「人だな、人の筈だが、自分と同じ大きさのバラニウムの大剣を振り回す奴も居た、はっきり言って同じ存在とは思えねぇな」

 

「……もしもの時は、私の後ろに隠れてください、いいですね?」

 

「大人の意地……なんて言ってる場合じゃねぇな。もしもの時は頼む、後、入る前に、お前の首輪の録音機能等をOFFにしておく。今回の会議に招集したのは"民警"だ、あくまでも仕事内容は極秘らしい」

 

 そう言うと彼は腕に装着されていたリストバンドの様な物を確認し、「コードE96DE7、トレーサー機能とバイタルモニター機能以外停止」と呪文の様な文言を唱えると、首輪が『コード受諾、トレーサー、バイタルモニター以外を停止します』と返す。

 

「この首輪……しゃべるんですね、それに、その腕輪は何ですか?」

 

「この腕輪は、機能の制限を行う際のコードをその場で発行する機械だ、セキュリティトークンって言うらしいな、こう言うのは…………それじゃあ、行くとするか」

 

 

 

 職員が木製のドアのノブに手をかけ、そのまま引き出す。俺は隣に並んでいた警部を追い越し、前に躍り出た。そのまま会議室に入ると、まず細長い楕円の円卓にずらりと名札らしき物とスーツの人物が並んでいた。その後ろにはまるでその人物を守る様に縦長の会議室の壁際にビッシリ、武装した子供たちや大人が並んでいた、恐らく前者が民警の社長で、並ぶのがプロモーターとイニシエーター達だろう。スーツ姿の社長に対し、プロモーターやイニシエーターは比較的華美な服を着ていた。特にイニシエーターはそれが顕著であり、確かに東京エリア上位のペア、つまり稼ぎが良いと言う事が察せた。

 

 空席は"二つ"しかなく、俺たちが座る席は当然無い、何故かと聞かれれば、"社長"なんて存在が居ないからである、その気になればこの会議の場を作った人物は警察のトップすらも呼べるかもしれないが、あくまでこの場に呼ばれたのは民警である。そんな訳で社長の居ない民警、つまり警察庁のプロモーターとイニシエーターである事はじきにバレる事であった。

 

 俺たちは社長の後ろに陣取れば良い他の民警とは訳が違うので、手持ち無沙汰になる前にとっととドアの対面、窓側の近くの壁際に陣取った。

 

「……皆さん、凄い目つきですね、特にあの大柄な男性、凄い大剣持ってますよ、いかにもな獲物ですよねぇ」

 

「確かに全員がこちらを見てるな、見知った顔も幾らかある、復讐するは我にありとでも言いそうな雰囲気だ」

 

「それは自業自得ですね、私は警部がボコボコにされている隙に逃げますよ」

 

「……首輪の機能停止してから急に生き生きしやがってからに……さっきまでの言動と言い本当に仕事中は真面目にするのかと思えばこれだ」

 

「分かってますよ、私がふざけるのは"安全な時"か"危険な時"だけです」

 

「いや、どっちか分かんねぇだろうが……」

 

 ……しかし事実なのだから仕方ない。朝作ってこっそりポケットに入れておいたシュガーラスクをポケットの中で手慰みにしていると、ブロンドの三つ編みを両耳の前に垂らした少女と目が合った、先の大剣を持ち、バンダナで口元を隠した金髪の大男、そのイニシエーターだろう。

 

 目が合った事を察したのか、その少女は感情を感じさせないニュートラルさを保ちつつお腹を押さえて口をパクパクさせる。

 

「ん……?」

 

 読唇術でも試されてるのか……「おな、かす、きま、した」……なるほど、黙っていても腹は減る、心底よく分かる、特に罠に獲物がかかるまで待ってる時とか、後で友好のしるしとしてシュガーラスクでもあげようか。

 

 ……"子供"になった故か、どうしても待ち時間が長く感じる。それに警部より俺の方に視線が集まっているのがとても気になる、いや、理由は分かる、改めてこの部屋の子供たちを見ても、俺の様に色々生えているわけでは無い、むしろ俺が季節外れのハロウィンの仮装をしてる浮かれた子供に見える、周りの子供たちの中にも重そうなドレスを身に着けていたりする奴がいるが。

 

 更に辺りを見回していると、俺のパンク風の服装と似た系統の服を着ている革のジャンパーを着たプロモーターと革ベスト姿のイニシエーターが目に入った、お互いに金髪かつ癖のある毛、前者は短髪、後者はツインテールだ。両者共俺を見て唖然としている……やはり、この悪魔の様な姿は目立つか。

 

「……来た」

 

「あぁ? 何が来たってんだ」

 

「今に分かる事ですよ」

 

 次の瞬間、ドアが開き、若い女性と昨日出会った里見蓮太郎が入室して来た。

 

「木更さん、こいつは……」

 

「これ、東京エリア上位の人間が殆ど呼ばれてるんじゃ……」

 

 どうやら黒い長髪でスタイル抜群の女性の名は木更と言う様だ。

 

「ありゃあ……天童民間警備会社の……」

 

「……民警の最初の名前の様なものは、社長の苗字なんですか?」

 

「まぁ、そうだな、なにより民警ってのは数が多い、だから社名と社長の名前がリンクする方が都合が良いんだろうよ」

 

「だったら……彼女の名前は、天童木更(てんどうきさら)と言う事ですか」

 

 天童木更と里見蓮太郎、彼女らは、楕円の円卓の内、自身の空席を発見するとそちらへ向かっていく。……途中で、例の金髪口バンダナの男が彼女らの前に立ち塞がる。

 

「おいおい、最近はガキまで民警ごっこかよ? ここはガキの来るような場所じゃねぇんだ、さっさと帰りやがれ」

 

「用があるならまず名乗れよ……」

 

 次の瞬間、金髪口バンダナが彼女の前に躍り出た里見蓮太郎に頭突きを対する彼は後ろに引き下がりながらも背中のに獲物()手を掛けた、同じく大男も背中の獲物()に手を伸ばす。

 

 不味いな、いきなり仲間割れどころか乱痴気騒ぎか、警察として見逃しがたい事態だ、確かに今は警察の中の民警と言う立場で来ているが、逮捕権は健在、騒ぎを起こす前に警告しておこう、責任を問われかねん。

 

「お前、プロモーターなら"道具"はどうした?」

 

「……道具?」

 

「お前の"イニシエーター"だよ」

 

「道具……延珠を……道具だとッ!」

 

 

 

「警告です、これ以上は傷害罪か決闘罪でしょっぴきますよ」

 

 二人の間に飛び込み、ポケットから取り出した警察手帳を開く。片方は憤懣を、片方は唖然を顔に滲ませていた。

 

「……あの時の!」

 

「何だ……道具の分際で邪魔しやがって」

 

 

 

 両者の顔を見比べた後、テーブルに振り返り、全員に向けて名乗りを上げる。

 

「……私は警視庁対ガストレア課、イニシエーター、アイゼン・バンカー警部補です、そしてこちらが」

 

「同じく、プロモーター、多田島茂徳警部、こいつの上司だ……で、お前さん、また会ったな、相変わらずの不幸ヅラだな」

 

「…………どうなってんだ……?」

 

「……どう言う訳で警察がこの場に居るんだ? ここに来たのは民警連中だけだろうがよ」

 

「この度、警察庁はガストレア対策に向け、対ガストレア課を設立した。その一環により、警察内部にプロモーターとイニシエーターを立て、試験運用している……どうだ、満足したか?」

 

 

 警部の話を聞いていると背中から声がかかる。

 

 

「……お前、昨日の今日でどうしてこんな事に……」

 

「不思議な物ですよね、運命の不可思議さは心底経験して来たつもりですけど」

 

「……でも、無事だったんだな、良かった」

 

 困惑の色調を深めていた彼の顔がふっと緩む、キラースマイルという奴だろうか、恐らく彼はこれから色んな意味で女性に悩まされる事請け合いだろう、いや、幼さも僅かに残る顔付きは男も引き寄せてしまうかもしれない。……彼に女難からの加護でも掛けた道具でも与えようか、サキュバスの類いに対する加護だが、多少は役に立つだろうか。いや、この世界に神秘の類の力は存在するものなのだろうか。

 

「なるほどなるほど、延珠君が惚れ込む訳です」

 

「……何でそこで延珠の名前が出るんだよ?」

 

「妙な縁だな……お前さんとこうして会うのも」

 

「まさか、アンタがこいつのプロモーターになるなんてな、昨日まではまだ普通に警察だったよな?」

 

「俺も思っちゃいねぇよ、殆どこいつのおかげだ」

 

 警部がポンと俺の頭に手を乗せる、親の事は分からないが、居ればこんな感覚なのだろう。

 

「里見君、今度は同業者として、……今は居ないけど、イニシエーターの彼女を紹介してくれないかい?」

 

「……? あぁ、もちろん良いけど……」

 

「深く考えるだけ無駄だ、こいつの考えは俺にも分からん」

 

「……そう言えば、あちらの方は?」

 

「三ヶ島ロイヤルガーターの社長さんに説教されちまって完全に沈黙してるよ、……IP序列1584位の伊熊将監(いくましょうげん)とは言え社長には頭が上がらねぇみてぇだな」

 

「IP序列1584位!?」

 

「……どうやら、そろそろお話が始まる様ですね。私達のステージではありませんから、自己紹介は後に取っておきましょう」

 

 

 

 次の瞬間、俺たちが入って来た扉と反対側の扉が開く、そこから現れたの白髪、恐らく防衛省の制服を身につけた中年男性であった、顔に刻まれた皺と合わせた巌の様な顔付きは幾つもの苦難を超えたであろう貫禄のあるものに見える。

 

 カツカツと床を蹴り、円卓の前に立つ、一席残った空席を確認しつつ、次に述べられたのは"最終確認"であった。

 

 簡単に言えば、この依頼を受ける気がなければ帰れ、受ければ逃げれない。依頼内容ですら極秘に集められた以上、他の民警らもやはりそうかと、顔色を変える事はなかった。

 

「これより、依頼の説明を行う」

 

 席を立つ者が居ないことを確認した彼は反転し、黒い板に向け頭を下げる。

 

 周りの人物の視線が円卓の前に備え付けられた巨大な板に集まっている。……まさか、あれがテレビか、凄まじいものだな。半世紀以上も違えば当然だとしても、人類の進化とは著しいものだ。たった十年で人類を撃滅に追い詰めたガストレアへの対抗手段を見つけ出したのだから。狼男や吸血鬼の類を殺す銀の弾丸を人類が見つけるまでの歴史も神速を極めたものだったが。

 

 次の瞬間、真っ黒なテレビに真っ白な景色が写り込む。

 

 

 

「……あれはテレビじゃなくて絵画でしたっけ?」

 

 

 

 その中には絵画にも中々お目にかかれない美女と、まるでサムライの様な風体の老人がその側に立っていた。俺から見た彼女の存在は、絵画の様に儚く、脆く、実体が無い、架空の存在にも思えた。

 

 その姿を視認した瞬間、席に座る社長達がスターゲイジーパイの様に屹立したのだ。

 

 

 

 ……それだけで分かる、『彼女は頂点である』と。

 

 

 

「……彼女は?」

 

「まさか……"聖天子"様からの依頼とはな、そりゃあ東京エリアの統治者の依頼ならこれも当然か」

 

「なるほど、理解しました」

 

 

 

「ご機嫌よう、皆さん」

 

 その儚げな美貌に相応しい清廉な声、いよいよ俺は「実はこの人物は天使で、人間達は天使に支配されているのか?」と俺の世界の常識に当て嵌め考え始めていた。

 

 続けて彼女の口から出された依頼内容……それは、昨日俺が捕まる原因にもなったあのガストレアを生み出した"感染源ガストレア"の排除、そして、そのガストレアの体内に取り込まれた"ケース"を無傷で回収する事、だそうだ。

 

「ケースの中身、聞いてもよろしいでしょうか」

 

 予想外の依頼主の出現にどよめきを隠せない者達が居る中、見事なまでに一直線に手を挙げた女性が居た……天童木更だ。

 

 彼女がその質問を投げ込むと、聖天子は彼女に名前を問うた、しかし、彼女が「天童民間警備会社の天童木更です」と返すと、聖天子が横の老人に目をやりながら、噂は聞いていると、話を続けた。……もしかしなくても、画面の向こうの老人と彼女には因縁があるのだろう、勘ではあるが、先程から里見君の背中から僅かながらの揺らぎを感じる、恐らく里見君も一枚噛む案件なのだろう。

 

 ……そんな事を考えていると、隣の警部の肩が震えていたのに気付いた、恐怖ではない……怒気だ。

 

 

「何でアイツがここにいやがるんだ……どうして誰も気付かない!?」

 

「……どうしたんで……ッ!?」

 

 

 

 丁度俺たちの前に"あった筈"の空席が埋まっていた。

 

 

 

 ……紅い燕尾服、黒い笑顔が掘り込まれた白い舞踏会用の仮面、黒いシルクハット。……それらを着込んだ大道芸人もどきが行儀悪く足をテーブルに乗せ、我が物顔で座っていた。

 

 

 

「私の後ろに、気を付けてください、多分アレは"化け物中の化け物"ですよ」

 

 ……下手に手を出せない、大道芸人もどきが動かない限り、こちらは相手に飛び込まざるを得ない。気配を消されればまた見失う、あのふざけた格好に反して技量は間違いなく常人のそれとは逸している。

 

 ……異様な雰囲気を放つ大道芸人もどきに誰も気付く事なく会議が進む、天童君の質問はプライバシーと言う観点ではねつけられたが、食らいつく彼女はただの感染源ガストレアの駆除に対し、招集したのが東京エリアトップの民警達である事からケースの内容物がそれだけ重要な代物であると予想を語っていた。

 

 聖天子が返す言葉を述べようした時、遂に奴が動き出した。組んでいた足が緩み、開きそうになる、狙うなら今しかない、相手がいつでも動ける体勢を取る前に。

 

 周りは全員気付いていない、この段階で攻撃を放たれれば誰かが犠牲になる。東京エリアトップと言う事はここに居る面々一人一人が重要な防衛ファクターである事は間違いない。……正体不明に飛び込むのはひたすらに気が引けるが……

 

 

 化け物相手ならば、狩人が行かねばなるまい。

 

 

「すいません、私行きます!」

 

「おい、待てッ!」

 

 因子による力で踏み込んだ第一歩、それにより一気に数ヤードの跳躍を行い、きりもみながらその跳躍中にテーブルの木材を強化された腕力でいともたやすく引き剥がし、大道芸人もどきに表面の木目がしっかり見えるようにして投げつける。

 

 

 

 会する面々は俺の突飛な行動に驚き、席を離れていく。

 

 

 

 投げ付けた木材はまだ無傷……奴が視界を塞がれてる内にテーブルの上に背中を向けながら着地、回転中にホルスターから取り出した新品のSAKURA M360Jを片手に、放り投げたテーブルの欠片を避けるように左奥、つまり奴が座っていた右手側に飛び込んだ。

 

 木材をカバーにし、低い姿勢でテーブルから飛び出す、床に転がりながら"座っている筈"の奴に銃口を向けた。

 

 

 

「ッ!? そこッ!」

 

 

 

 しかし、座っていた筈の奴は既に消え、テーブルの上に直立していた。木材はいく宛を失い、そのまま椅子に激突し、止まった。

 

 気配を追い、そちらへ銃口を振ろうとしたが、次に感じた強い殺気に向け、反射的に銃を向ける。

 

 

 黒く冷たい光沢が首元に添えられ、首輪にぶつかる。咄嗟に向けた銃口をそのままに、俺は、"蒼一色の少女"へ向け引き金を撃鉄が下されるギリギリのラインにホールドした。

 

 

 

「パパ、こいつ、切ってもいい?」

 

「よしよし、小比奈、"まだ"、駄目だ、我慢しなさい」

 

「もう、パパぁ〜」

 

「……おいおい、舞踏会にでも来たんだってならもっとお淑やかに振る舞ってくれ、ドレスコードは満点でも間違いなく出入り禁止だぞ?」

 

「……面白い子だね、君は」

 

 "俺"の元々の口調が一瞬滲み出す、おまけに口からはペラペラ憚る事なくジョークが湧き出す、これは「危険な時」のジョークだ。

 眼前の少女は不機嫌さを露わにするが、剣先にブレがない、それこそ十分な修練を積んだ剣士以上に。

 

 その時、テレビに映る聖天子が奴に問いかけた。

 

「貴方は一体、誰ですか」

 

「……私は、蛭子、蛭子影胤(ひるこかげたね)だ。お初にお目にかかるね……"無能な国家元首殿"」

 

 視界の端で銃口を奴に向ける里見君と警部がチラリと映り込む。手に滲む汗は間違いなく自身の窮地を示している、いや、俺が全ての手管を利用すれば目の前の少女は恐らくどうにか出来る、それを疑ってはいない、狩人として積み上げた物がそこにあるのだから。しかし、奴が厄介だ。

 

「元気だったかい? 里見くん、オ、あの時の警察くんもいる様だね」

 

 それは、長い間会えなかった親戚にかけるような、朗らかな物だった。

 

 里見君が侵入経路を問いただせば何のことはなく蛭子は、

 

「正面から堂々と、まぁ、寄ってきた蠅の様なのは皆殺させたけどね」

 

 くるりと、かかとを軸に反転した奴は「紹介するよ」と目の前でこちらに切っ先を向ける少女に声をかけた。

 

「小比奈、おいで」

 

「はい、パパ」

 

 あぁ、見事な絆で結ばれた家族だ、ここに来る前に人を殺した事さえ知らなければ。

 

 目の前の少女が短い刀を背中に仕舞い込むと、軽く跳び、テーブルのど真ん中に乗り上げた。

 

「蛭子小比奈(こひな)、十歳」

 

 テーブルの上の彼女は可憐にスカートの裾をつまみ上げる……幼い割に妙に礼儀は達者なものだ、さぞかし良い父親なのだろう。……少なくとも昔の俺に奴の様な父親が居れば、彼女の様になっていたかもしれない。

 

「私のイニシエーターにして……"娘"だ」

 

「……何の用だ」

 

「私もこの"レース"にエントリーする事を伝えたくてね」

 

「舞踏会じゃなくてレース? 中世のジョッキーですか貴方は?」

 

「パパ、ほんとにあの煩いの、切っちゃダメ?」

 

「これが終われば、きっと彼女も来る、その時にすれば良いさ」

 

「分かったわ、パパ」

 

「さぁ、本題に臨むとしよう」

 

 

 気味の悪い沈黙が数秒流れ、奴は聖天子に目を向けた。

 

 

「"七星の遺産"は我々が頂く」

 

 

「七星の遺産?」

 

「そう、君たちが探すことになっているケースの中身だよ」

 

 七星の遺産? ……こう言う時に出る遺産なんてものは大概ロクなものではない、厄介ごとの濃厚な匂いがする。

 

「ルールの確認をしようじゃないか。私と君たち、どちらが先に七星の遺産を手に入れるか、そして掛け金は……」

 

 ……マスケラ、舞踏会用のマスクの中の双眸がギロリと動く。

 

 

 

「君たちの命で如何かな?」

 

 

 

「ごちゃごちゃうるせぇんだよッ!」

 

 先の金髪口バンダナが大剣を奴に振り下ろすのを見計らい、テーブルの下を蹴り抜き、空洞になっている場所に潜り込む。

 

 暗闇の中、突如真上から金属同士がかち合う音が聞こえ、即座にセンターラインの様にテーブルを横断するガラス面から覗けば、彼の大剣は何かに弾かれ、宙を舞って行ったのが確認出来た。……彼女の刀か、いや彼女は刀を抜いてない。奴だ、奴が何か……

 

 次の瞬間、誰かの号令と共に一斉に銃撃が始まった。

 

 

 

 しかし、奴は無傷で立っていた、勿論彼女も。

 

 

 

 銃弾が空中で止まっている、外から聞こえるくぐもった声によると、これは"斥力フィールド"、奴はイマジナリーギミックと読んでいるようだが。

 

 奴の身を取り囲む銃弾は彼女が触れてもピクリとも動かない、煙を噴いている弾丸も存在するが……見えない壁の類だろうか。しかし、その力の代償に内臓の殆どをバラニウム製の機械に置き換えているらしい。

 

 

 

「……改めて名乗ろう里見くん、私は『元陸上自衛隊東部方面隊第七八七機械化特殊部隊』『新人類創造計画』……蛭子 影胤、信じるも信じないも君たち次第だがね」

 

 

 

 奴は高らかな笑い声を響かせる……が、それはここまでだ。ポケットから手錠を取り出し、片方を自分の左手にかけ、もう片方を左掌に収める。

 

 

 

 二度目の攻勢、ガラスのセンターラインを突き破り、左手の手錠を奴の片足にかける。この手錠の丈夫さに賭ける。

 

「ほう……何も感じていなかったのかい、君は?」

 

「こう言うのは慣れてるんです、あまり褒められたものじゃないですがね!」

 

 子供たちとしての力をフルに発動し、手錠をかけられた影胤の身体を持ち上げ、叩きつける。斥力フィールドに押さえ付けられていた弾丸が地面へと転がる。

 

「パパ!?」

 

 やはり、十代である事に変わりはない、プロモーターと言う主に何かあれば行動が鈍くなる。今の内に彼女の制圧も、と、"左手"を伸ばしてしまった。

 

 

 

 ……何故左手が動く、手錠を繋いでいた筈の。

 

 

 

 ……そうか、俺の"手首が切断された"のだ、切り落とされた左手首からドクドクと溢れる血液を認識し、我に帰る。

 

 

 

 押し寄せる激痛を歯で噛み殺す、まだ奴は起きていない、ならせめて手負いにしなければ……

 

 

 

 ……前に進めない、腹に何か引っかかっている……

 

 

 

 しまった、刀だ。

 

 

 

 腹から突き出た刀の刀身を追えば真っ赤に瞳を染め上げた彼女が居た。

 

 

「パパを……いじめるなぁぁぁ!」

 

 

 ガストレアの因子を持つ俺にとって、バラニウム製の刀は致命的に過ぎる。咄嗟に右手で銃を抜き、自分の腹に銃口を押し当て、自身ごと彼女を撃ち抜く。彼女は咄嗟に刀を引き抜きながら下がったが、右脇腹に赤い染みが生まれている……だが、普通の弾丸である為、致命傷にはならないだろう。

 

 

 

 彼女はまだ戦意を解かない、次に一対の刀が俺にすら視認不可能な速度で食いかかる。

 

 

 

 まるでハサミの様に突きつけられたそれを隣から飛び込んだ黒い銃弾二発が大きく震わした。

 

 

 

 ……多田島警部と里見君だ。

 

 

 

「……ッうぁぁぁぁぁ!」

 

 

 

 揺らいだ切っ先を大きく身を捩り躱す、と同時に彼女の鳩尾に自身の尻尾を打ち付けた。……いや、まだ浅い。追撃を……そう思った次の瞬間、目の前の彼女を奴が大事そうに抱き抱えて、一瞬で窓際に現れた。

 

 

 

「大丈夫かい、小比奈? もうそろそろ帰る時間だ、それに……これ以上は君たちにも迷惑だろう?」

 

 

 

 ……視界の端に奴がぼんやり見える、霞んだ目を左手で擦ると、真っ赤に染まってしまった、ダメだ、頭が回らない。

 

 

 

「君は彼のイニシエーターかい? 先程の奇襲、見事なものだったよ」

 

 

 

 身体が前のめりに倒れる、ひんやりとしたガラスが暖かな血で染まっていく、それなのに体はどんどん冷えていく。……恐らく、分かった上で乗ったな、奴は……あぁ、色々な怒声が聞こえる。

 

 

 

「また、君たちに会える時を楽しみにしているよ、後、里見くん、これはプレゼントだ、受け取ってくれたまえ、それと君の手はお返しするよ」

 

 

 

 プレゼントボックスと、手錠のかかった手首がテーブルにポンと置かれる。里見君が殴りかかろうとするが、それを蛭子は器用に回避していく。

 

 

 

「そして……あぁ、私としたことが、名前を聞き忘れてしまった……君には、また日を見て会いに行かせてもらうとしよう」

 

 

 

 徐々に声が遠のく。

 

 

 

「絶望したまえ諸君、滅亡の時は近い」

 

 

 

 そこで、俺の意識は途絶えた。




斥力フィールドで反射された銃弾で死傷する人が居なくなった代わりに、オリ主がボコボコのギッタンギッタンにされました。……もうちょいマシな戦いにする予定だったけれども何故かオリ主君がバラニウム小太刀に滅多斬りにされました(二度目)……身ぐるみは剥がされなかったけど晒し者になったオリ主くんちゃん。
行き当たりばったりも存分に含む為か、どんどんタグが増えていく……
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