相変わらずアニメを見直しても原作キャラの口調がどうしても不安になってしまう……原作キャラをオリキャラにしない様に頑張らなければ……。
……ってうだうだ考えて投稿してない間に評価が赤になってたのを見て腰抜かしていました。
世界は、英雄を愛する。
運命は、英雄を嫌う。
人の中に生まれた特別である彼等を。
英雄は望まれて生まれるのか、それとも、生まれたから望まれているのか、それは誰にも分からない。
狩人もまた、同じような存在だった、人間と言う種に害を齎す者らを化け物と定義し、それを狩る、それはあたかも化け物を殺す英雄として生まれた様にも見えるが、狩人と言う存在がたまたま化け物を狩り続けたから英雄になった様にも見える。
だが、そんな特別になってしまった彼等に安寧の死など訪れる筈もなかった。
だからこそ願うのだ。
せめて次の者には安寧なる終わりを。
例え世界の理が変わろうと、次代の狩人へ向けて乞い願い続けよう。
安寧の死が彼等に齎される、その日まで。
✳︎
「早く、早く救急車を!」
怒声と共に目を覚ませば、そこは先程までの会議室だった。……まるで嵐でも過ぎ去ったかの様な風景だが。窓の外の日差しの位置を確認すれば、そこまで時間は経っていない事は分かった。テレビの画面は真っ暗だが。
近くには携帯を片手に彷徨う警部や、とにかく救急車とやらを呼ぼうとする里見君、腰を抜かしていたままの民警の社長らが目に入った。
起きなければ……そうは思うものの、体全体が脱力し、その上やや粘り気を帯びた血のりによってテーブルに貼り付けられた俺は身動きが取れない。
「あ……ぁ……」
声を出す。今にも消えそうな声とはこの事だなと、妙に客観視する自分が居た。
「……! 大丈夫か! アイゼン、もうすぐ救急車が来る、警察病院で治療を受けられる筈だ、意識をしっかり持て!」
「後、少しだ! あと少しで救急車が来る! だから踏ん張ってくれ!」
警部に……里見君。心配させてしまった様だ、さっさと起きなければ……
……さっきまで感じていた痛みは全くない、左手の感覚もある、"子供たち"の力による再生だろうか。先程の事は夢ではないかと錯覚してしまいそうだ。しかしこの状況がそうは思わせてくれない。
「わ……たしは、だいじょうぶ……ですよ」
「何馬鹿な事言ってんだ! 諦めるな!」
「いや、ほんと、ほんとですって……信じてくださいよ」
こんな問答が少し続いた後に、何とか俺は持っていたシュガーラスクを口まで運び、咀嚼する。
ゴクンと飲み込めば、だんだん体力が戻って来た、随分と早い物だが、これも子供としての力なのだろうか。
乾きかけの血のりを剥がし、二本の足でテーブルに立つ。
辺りを確認する。一部の民警は既に部屋に居なかった、奴を追ったか依頼を追ったか、それは分からないが、あの金髪口バンダナと三つ編みの少女も既に居ない。革ジャンを来た男と革ベストの少女はまだ居た、また唖然としている。
「アイゼン……?」
「はぁ……ふぅ……こっぴどくやられましたけど、なんとか生きてますよ」
「…………馬鹿野郎、心配かけさせるんじゃねぇよ」
多田島警部も里見君も露骨に安堵している。天童君や革ジャン革ベストの金髪兄弟も同様にだ、いや、彼ら二人はともかくとして、残る人は今日この場で会ったばかりなのだが……余程の人格者だろう。
「……すいません、テーブルから降りるのに手を貸してもらえますか?」
「おぉ、分かった」
そうして彼らの手を握った時、事件は起きた。
……ボトッ、ボトッ、ボトッ。
……何の音だ? ……首を回してテーブルを覗くと、そこには角、羽、尻尾があった。
"付属品"としてではなく、"単品"として。
「嘘……」
天童君の声が静謐の中を駆け巡る。先程までの安堵の雰囲気に反して場の空気が凍りつき始めた。俺は頭の辺りを探るが、先程まで角が生えていた筈のそこには毛髪が既に生え始めていた。
「ダメじゃねえか! やっぱり病院に連れて行くぞ、里見! お前さんも手伝え!」
「あぁ、分かった! ……俺が信頼してるガストレアの専門家で、病院の先生の知り合いがいる。そこ行くぞ!」
「待って! おんぶも抱っこもダメよ! それは絶対ダメよ!」
「どうしたんだよ木更さん! 今急いで……」
「彼女の背中側を見なさいよ! このままだと貴方達が変態でロリコンの誹りを受ける事になるわよ、里見くんは手遅れかもしれないけど!」
何事かと彼らが俺の背中を覗くと、彼らはまるで懺悔でもするかの様に膝を折り、頭を下げた。……一体何が起きてるんだ。
……そう言えば、尻尾を出す為にズボンの後ろ側には大きな穴が……あっ。
「全く、見てらんないっての!」
次の瞬間、現れた革ベストを着た少女が、腰の辺りを白い糸状の物でぐるぐる巻きにしてみせた、凄まじい早業だ。
「アンタ、アタシに感謝しなさいよね!」
「ありがとう、貴女の名前は?」
「……私の名前は
金髪のゆるくふわりとしたツインテール、皮のベストや左右で違う靴下など、目立つ格好であるが、それもまた子供ながらに雷撃的な、形容し難い魅力を放っている。
「馬鹿な事でもやらなければケガ人の一人や二人、出てしまうかと。しかし結局、私と言う特大のケガ人が出ましたがね」
「……目の前であんなの見せられたこっちの身にもなりなさいよ!」
「まぁまぁ、そこまでで良いじゃねぇか、マイシスター」
会話がヒートアップしつつあった所に割り込んだ革ジャンの男、恐らく彼女のプロモーターなのだろうが……
「オレっちの名前は片桐
オレンジ色の特徴的なサングラス、革ジャンに金髪、弓月君と同じくかなり目立つ、恐らく自己主張が激しい性格なのだろう。しかし、"悪い人"と言う訳ではない筈だ。玉樹君に向ける弓月君の目には信頼が見えている。
「私自身、無謀だったと反省してます、左手斬り飛ばされるなんて二度とごめんですよ」
もう少しまともな策を練るべきだった、先に小比奈君の両足を手錠で拘束して窓の外に……いや、これは殺してしまいかねない、俺は今、警察なのだから、彼らの事をやがては逮捕しなければならないだろう。
「だけどよ、その角と羽と尻尾、取り外しできるのか? 流石に驚いたぜ?」
「そうだし、アレ、ほんと何があったのかと思ったんだからね! 別に心配した訳じゃないけど!」
「……私にもよく分かりません、だから、今から調べに行くんですよ。……そろそろ、別れの時間の様ですから、自己紹介でも。警視庁対ガストレア課、イニシエーター、アイゼン・バンカー警部補です、何かガストレア絡みでお困りであればご連絡を」
敬礼を済ませ、視線を切り返せば警部と里見君が話しているのが見えた。
「里見、お前さんその専門家に連絡取れたのか?」
「あぁ、寧ろ興味深いから早く連れてこいだとよ。……悪いけど、木更さん、先に帰っててもらえるか?」
「えぇ、分かってるわよ、そこの彼女とあの仮面の男と里見くんとがどう関係してるかは後で聞かせてもらうけど」
「……話せる内容だったら話しますよ」
「お話中失礼しますけど、里見君、それは話さなければ話せない事があったと言ってしまう様なものですよ、返しとしては十点です、……千点満点中」
「ほぼ0点じゃねぇかよ……それ」
落とした角も羽も尻尾と、ついでに余った左手を拾い集め、あまりにも猟奇的なスタイルになった俺はそれを持って多田島警部、里見君と共に車で勾玉公立大学院附属病院へ向かう事となった。
✳︎
────東京エリア 車内
警部がハンドルを握り、里見君が助手席、俺は広い後部座席を一人で独占していた。
「それで、結局会議で空席だった人はどうなってたんですか?」
「…………」
俺の質問を聞いた里見君と警部の表情に陰りが見える。……成る程、当然来れない訳だ。
「……既に蛭子親子に殺されてましたか。殺人の容疑が増えましたね」
「はぁ、全く、察しが良すぎるだろうがよ」
ハンドルを片手に頭を掻く警部。最早呆れすら垣間見える、慣れてしまったのだろう。
「あぁ、最後に出て行く時、その社長の首をプレゼントだとか言って置いていきやがった……アイツは人の命を何だと思ってやがるんだ!」
里見君の表情に見えた陰りには、怒りと恐怖。恐らくは怒りが優っているだろうが、奴の狂気と強さに一切の恐れがない訳ではないのだろう。だが、それは人として当然の事だ。……俺は怒りにも恐怖にもすっかり慣れてしまっているが、奴に勝てるかはまた別問題だろう。
「里見蓮太郎、お前さんの気持ちも理解できるが、今はまだ冷静でいろ、やれる事は山ほどある、目を曇らすな」
「確かに、そんな凶悪犯が首輪も無しに彷徨いているんです、最早ケースだけの騒ぎじゃありませんよ」
「分かってる……分かってるんだよ、そんな事くらい」
……このままでは突っ走ってしまいそうだ、俺が言えた義理ではないが。
「……ボコボコにされた私が言うのもアレですけど、無理はしないで下さいね? あんなの"子供たち"の力があっても無茶なレベルだと思いますから」
「…………なら、俺がこの手で、影胤を止める」
彼は右手をグッと握りしめていた。それこそ、血が滲みそうな程に、しかし血は一向に滲まない。
……もし、もしもだ、奴と言う化け物に通用する銀の弾丸があったとして、それを扱うのはただの人間に他ならない、それに、銀の弾丸であろうが、当然、人に撃てば殺せてしまうのだから、彼の引き金は、より重いものでなければいけない。
「一つ、言っておきましょう」
「……なんだよ?」
「英雄の居ない時代は悲惨ですが、英雄を求める時代はもっと悲惨です、英雄なんてのは一部の人に都合良く狂ってくれた狂人ですよ? そうなればきっと、"奴"と同じ存在になるでしょうね。
だから……求められた英雄になんてなろうと思わないで下さい、誰かが奴を止めてと願ったとしても、貴方は選ぶ事が出来るんですから。……奴を倒すも倒すまいも、私はその結果、受け入れますよ」
狩人の人生の中で得た僅かながらの教訓だ、彼の役に立つかは分からないが。
✳︎
────東京エリア 勾玉公立大学院附属病院
「こんな所に例のガストレアの専門家がいんのか?」
「かれこれ先生には十年位は世話になってる、知識量で言えば東京エリア一位だろうな」
まるで死体安置所の様にひやりとした薄暗い廊下を歩いていると、その奥に金属製の大扉が見えてきた。あそこが目的地だろう。
里見君が大扉に手をかけ、通い慣れた家の様に軽やかに開けていく。俺達もそれに続き、中へと入っていく。
まるで手術室の様な四角いタイル、透明なカーテン、標本やガストレア絡みの本、薄暗い室内の照明と合わせれば正に恐怖の館と言った所だろう。何か壊して弁償騒ぎなんてのはごめんだ、慎重に歩みを進めて行こう。
「なぁ、こりゃ一体なんなんだ?」
警部が手術台の上に乗った灰色の袋の中身を問う。僅かに感じる死臭と縦長の袋の形から中身は察しがつく。
「……多分、それは遺体だと思いますよ?」
「……そうか」
警部は警察の性か、遺体の前で手を合わせ一礼していた。俺もそれに則り、一礼。
その手術台より更に奥に行けば、回転椅子に座る人影が一人、目に入った。
「良く来てくれたね、里見君、多田島君、アイゼン君」
椅子をグルリと反転させ、立ち上がったその人は、女性であった、波打つ臙脂色の髪に、やや不健康そうな顔色ではあるが、それでも尚美形である事が窺える。
「どうして私の名前を?」
「君が今身に付けている首輪の開発者は私だ、だから君の事は体の隅々まで知り尽くしていると言っても過言ではないね」
「あえて何も言いませんよ?」
「なかなか冴えた目をしている子だ、このドーナツでも如何かな」
血の付いた白衣をヒラリと翻した彼女は、奥から膿盆に注がれたゲル状の紫色をしたシチューを持って来た。少なくとも食欲は誘われない、吸血鬼のディナーの方がまだ目に優しいだろう。
「中々に趣深い食品ですね、死臭と腐臭が入り混じってますよ、ゾンビの腐肉に比べればマシですけど」
それをスプーンに取ってとっとと口に入れる、男衆は顔を青ざめさせていたが、腐乱した死体の肉よりかはマシだろう。
「……そのゾンビの腐肉の話、後で聞かせてもらおうか」
「ならまずは、貴方の名前を聞きたいのですが?」
「あぁ、失礼したな、私の名前は
「……先生、そりゃ初対面の奴に言う事じゃねえよ……」
呆れる里見君を尻目に彼女は卓上のケーブルを手に取ると、それを俺の首輪と、彼女の手元にあるパソコンに繋いだ。
「まずは、これを見てほしい、彼女のバイタルデータだ」
パソコンの画面に映し出されたのは、俺のバイタルデータとやららしい。
「……この一番下欄にある"浸食率"これが今回の原因だろう」
「浸食率……49.5%!?」
「おいおい、こりゃあ……」
里見君が妙に驚いている。何かあったのだろうか、俺は生憎字は読めない、多少の英語なら分からなくもないが。
「年齢は君自身も分かっていないらしいが、普通、子供たちと言うのはガストレアウイルスを抑える様に働く抑制因子を持つ、しかし、それはウイルスの進行を遅らせるだけで、ウイルスの浸食率"50%"を越えれば、殆どの生物が"形状崩壊"を引き起こしガストレアになる。ここまでは良いね?」
「……って、さっきそれが49.5%って言ってましたよね?」
「まさか……知らなかったのか?」
彼女が唖然とし、怜悧そうな面構えが少し崩れる。
「ガストレアになるかならないかのボーダーラインがあるのは薄々感じていましたけどね、まさか50%だとは」
「なら、尚更に説明しなければならないな……まず、浸食率が上がる条件として、時間経過だ、何もしなくても時間が経てば浸食率はかなり緩やかにだが、上昇する、しかし多くの学説においてこの時間経過のみでは寿命の内にガストレア化はしないと論じられている」
……なるほど、外周区の子供たちであっても十分に生き残れる可能性は存在しているのか。
「次に力の解放、"呪われた子供たち"としての力や治癒能力を使えば、その分浸食率は上がっていく、だからイニシエーターになった子供たちにはその能力の行使の際の急激な浸食率の上昇を抑える"浸食抑制剤"が配布され、定期的に注射するんだ」
これはイニシエーターには避けて通れない問題なのだろう、力を振るえば振るうほど奴らに近づく、なのに何故、彼女らはイニシエーターになったのだろうか。金か、身分か、自身のためか。
「最後はガストレアにより直接ガストレアウイルスを注入される場合だ、この場合はほぼ助からず、ペアのプロモーターなどに介錯されるケースが多いね」
……もしかして、あの森で見た二人の遺体は、やはりそう言う事だったのだろうか。
「つまり、成長に比例して浸食率は上がっていくしかないと言う事ですか?」
「そうなるな、今までは、と言う言葉が頭に付くがね」
そう言うと彼女は更にパソコンを操作し始めた。
「最初に君が投獄された時、私が君の浸食率を測ったんだが、これが驚きでね」
「投獄、ってお前そんな事になってたのか……」
丸椅子に座る俺に呆れた様な、哀れみの様な視線を里見君が向けてくる。あれは仕方のなかった事なので、特にどうも思ってはいない。恨み言の一つや二つ、あれは冗談でしかない。
「まぁ、色々ありましたからね」
「……君の最初の浸食率は"51.8%"だった、これを見た時私は腹の底から大笑いしたさ、突然こんなふざけた存在が現れたんだから」
「「51.8%!?」」
「それ、私既にガストレアになってないとおかしくないですか?」
「そうだ、だから君の事は安全だと評価させてもらった訳だ。……これで私の言いたい事は分かった筈だ」
「50%を超えていた浸食率が下がってる……って事ですか?」
「そう、だがある程度推論は出来る、この二日間のバイタルデータを見てほしい」
「まず、1日目、つまり最初に首輪をつけた日、その日の最終記録には浸食率は52.0%になっている、この上昇率の時点で異常だが、まぁそれは置いておこう」
「それがなんで今日、ここまで下がったんですか?」
「その原因は、今日のバイタルデータを見れば分かる」
パソコンの画面には浸食率の増加を確認する為のグラフが映っていた、文字ではないおかげで俺にもある程度分かる。グラフが丁度半分の所でガクリと下がっている。
「この時間帯は……こいつが奴らと戦った時間帯じゃねぇか」
「里見君から話は聞いている、何でも、腹に穴を開けられた上に手を切り飛ばされたそうだね、今再生している事を考えれば、君は再生レベルⅢのイニシエーターでもある様だ、ますます興味深い」
「再生レベル……?」
「再生レベルとはガストレアの生態である"再生能力のレベル"を表す言葉さ、これはイニシエーターにも使われる基準でね、レベルⅠはバラニウムにより簡単に殺せる、殆どのイニシエーターはここのラインにいる。レベルⅡはバラニウムの再生阻害を押し返せるが、首を切られたり焼却されると絶命する。レベルⅢは欠損した部位が生えたりくっついたりする。レベルⅣは内臓の殆どを喪失しても再生し、全細胞を滅却しないと倒れない。レベルⅤは分子レベルからでも再生し、現代科学では殺せない相手だ」
……あまり考えたくはないが、それはつまり、試された子供たちも居るのだろうか、ガストレアとの通常の戦闘から判明した事実であってほしいが。
「で、何で奴らと戦った後、一気にアイゼンの浸食率が下がったんだ?」
警部がいち早く問いかける、どうやら警部もかなり気になっているようだ、問いかけに迷いがない、ベテランの警察の風格がある。
「その秘密は、彼女の身体にある筈だ。彼女がそうした力と再生能力を一気に解放した結果、このグラフで見れば分かるように浸食率が一気に"増加"している、しかし、その反動と言わんばかりに"減少"している。この上がり幅と下がり幅を足せば、浸食率はこの間に約12.5%も急激に変動した事が分かる、5%上昇し、7.5%減少した、結果はマイナス2.5%だ」
「5%の上昇……ただ、力を使ったり、再生しただけで?」
「その上昇幅も通常ではありえないものだが、何より問題なのは減少幅だ、これはつまり、急激な浸食率の上昇に対し、カウンターの様に働きかけ、浸食率を大幅に下げる、いわば、抑制因子を超える様な存在、"超抑制因子"を有しているに他ならないだろう」
「超抑制因子…………それがあれば、他の呪われた子供たちも救えるかもしれないのか?」
里見君は反射的に質問をぶつけていた、彼にも何かさし迫った事態があるのだろうか。
「彼女の中にある超抑制因子を解析する事が出来れば、呪われた子供たちを救う方法も見つかるだろう。こちらでも、個人的に調べようとも思っている、だが、今回は別の話だ」
回転椅子を里見君の向きから直した彼女は、より一層深く背もたれに身体を預けた。
「……私の角や羽、尻尾の事ですか?」
「君のそれは、体内にあるガストレアの因子の影響が強く身体に現れた故に生まれた物だ、つまりそれらが壊死し、剥離したのは、君の中のガストレアの因子が超抑制因子によるカウンターで減少し過ぎた為に、身体に影響を及ぼせなくなったからだろう、増えた細胞や身体のパーツは、ほぼガストレアウイルスの増殖能力により増えた細胞に構成されているからね」
「……呪われた子供たちの力の源は、ガストレアウイルス。角を始めとしたそれらの部位が失われたと言う事は、ウイルスが体内からなくなっていると言う事……つまり」
「君は"力の発現を行えば行う程"、"子供たちの力を発現出来なくなる"、本当に唯の子供になってしまうと言う訳だ、君もどこかで感じていたんじゃないか、自身の能力が落ちていっている事を」
最初のモデルスパイダーとの戦い、あの時、俺は止まった時間の中にいる様な集中力を発揮できていた、感覚の濁流に酔いそうになったが、それが無ければ、他のガストレアが集まっている事にいち早く気付く事は出来なかった。二回目のガストレアとの戦いでも道路を踏み抜く程の脚力は発揮できていた。
「確かに、私が最初に目覚めた時は、意識を集中すれば時間を止めた様に観察出来ますし、力も十分に出せました、感覚も酔ってしまう位鋭敏に感じとれてました、ですけど、まだ浸食率は"49.5%"もある筈ですよ?」
「……君の場合、超抑制因子の働きの所為で普通の子供たちと比べて、ウイルスの活性化に伴う超人的な力の発現に必要な浸食率の下限が異なっているのかもしれない、君が十全に力を発揮出来るのは恐らく浸食率50%以上の時だろう」
「……呪われた子供たちでありながら、その力を使えない、つまり役立たずと言う事ですか、
「君が今の状態で能力を使おうとしてもそれはかなり運動の出来る小学生レベルでしか出せないだろうね、再生能力も同じレベルに落ちていると考えれば、君が鉄火場に出向くのはおすすめ出来ないな」
……せめてこの身が大人であれば、この体に十分に慣れれば、などと益体もない事を考えてしまう、どうせそんな事を言った所で意味が無い、結局は今出来る事を探すしかない。
「……浸食率を回復させるには?」
「……どうやら君は頑固者みたいだな。……超抑制因子は君が時間経過によってゆっくり浸食率を上げる分には作用しない。だから、待っておけばいつかはまた戦線に復帰出来る。後、もう一つ手段はある」
「どんな手段ですか?」
「"浸食抑制剤"、これを使えば、能力を発動した時、浸食率の上昇は緩やかになる。ゆっくりと浸食率が上がる分には、超抑制因子の働きには引っかからない可能性は高い、本来の目的とは真逆だが、これを戦闘の前に使えば、ある程度は浸食率をキープ出来るだろう、しかし、超抑制因子が存在する以上は上限がある筈だ、だから、君のフルスペックには届かないだろうがね」
「……最高能力を叩き出す為には、やはり他の手段が必要と言う事ですか」
いくつか考えはある、ガストレアを食うか、呪われた子供たちの血でも分けてもらうか。いくらガストレアウイルスが身体を健康に保つとは言え、不衛生極まりないのがやや不安材料ではあるが。
「今、私から言える事はこれで終わりだ、早く帰って仕事をこなすと良い……後、これは選別だ、受け取りたまえ」
席を立った俺に、彼女はジャケットのポケットにピッタリ入りそうなプラスチックの小箱を渡してくれた。案外彼女は面倒見の良い人柄なのかもしれない、彼氏でも居れば、尽くすタイプなのだろう。
「色々と、ありがとうございました、……ゾンビの腐肉の事はまた、用事が終わった時にでも話しに行きますね」
「あぁ、私は首を長くして待つとしようか。諸君、健闘を祈っているよ」
「後、このシチュー、ご馳走様でした、次も楽しみにしてます」
「……ふふっ、そうか、なら次も手塩をかけて作ろうじゃないか」
彼らは驚愕していた、何にかは分からないが。
各々が礼を済ませ、この部屋を後にする。因みに身体のパーツは、彼女が調べたいと言うので全て預けてきた、手錠はもちろん回収したが。
丁度勾田公立大学院附属病院の敷地から出た所で里見君は、イニシエーターの藍原延珠を迎えに行くといいこの場を後にした。残された俺たちはと言うと……
✳︎
────東京エリア 勾田署 "実験室"
勾田署の隅に追いやられた一室、そこに入った瞬間、濃厚な火薬、それに鉄の匂いがもわりと鼻腔に流れ込む。思わずむせ返りそうになったのは隣の警部も同じであったようで、ジャンパーの襟で口元を塞いでいる。
ここは、東京エリアに起きうる凶悪犯罪に対抗する為に生まれた特殊武装開発室と呼ばれる部屋である。
しかし、ここで時々開発される常軌を逸した様な発明ばかりが注目を集めたり、実験に使用された警察官が恐怖の体験談を流布してしまった結果、通称"実験室"と呼ばれており、署内の人間から恐れられているらしい。そして、この部屋に入って来た途端、煤臭い作業着で出迎えてくれた女性が……
「おぉ! 多田島警部、連絡した時刻通りに来るなんて相変わらず真面目ですね、少し頭のネジを緩めたらどうですか?」
短めの髪を振り回して荒ぶる彼女、そう、彼女こそが、ここの室長であり開発主任、"グリス・マークスマン"……実名かどうかは定かではないが、元狙撃手だったらしい彼女はガストレア大戦の際に、何らかの理由でガンスミス、そこからここの武器職人に転向したと警部から聞いていた。
「お前は緩めすぎだ馬鹿野郎!」
「ほらほら! この火薬の匂い嗅げばハッピーになれますよ、現に私はハッピーですよ、この上なくね!」
「……
「……この人が例の役立つ武器を作ってくれる人ですか?」
「あぁ、残念ながらな」
「! ……おぉ、貴女が噂の新人さんですか、角とか生えてるって聞いてましたけど、取れたんですよね! 痛かったですか?」
「いや、別に」
「……おい待て、いきなり話が逸れてるぞ」
警部の草臥れた服がより一層草臥れる前に話をつけよう。
「私の名前はアイゼン・バンカー、警部補やってます、よろしくお願いします」
「私の名前はグリス・マークスマン、この特殊武装開発室の室長で開発主任やってます、以後お見知り置きを!」
ツナギに留めた重そうな工具類をテーブルに乗せ、驚くべきスピードで俺たちの前に飛び出した彼女は勢い良く挨拶した。
「で、今回の話はもう電話で説明した筈だな、改めて言う必要もないだろうが」
「はい、私に多田島警部から連絡があった時、何事かと思ってたんですけど、まさか警部の口から"新人類創造計画"なんて言葉が飛び出すとは思いませんでしたよ、それに、そんな人に私の武器が向けられるなんて…………へへへ、光栄ですね」
「俺もお前さんを頼る事になるとは思いもしなかったさ」
「と、言う訳で今回の開発テーマは……」
と一旦区切った彼女はジャカジャカジャカジャカ……と、謎の口ドラムロールを披露しながら、ブルーシートが掛かった車輪付きのテーブルを俺たちの前に運ぶ。
「……『応用』です!」
彼女がブルーシートを取り払うと、そこには、五つの武装が二セットずつ並べられていた。
「まず、一つ目が、私がカスタムした原型皆無の"レミントンM870"、ショットガンで、名付けて"アローヘッド"! H&KのUSPを改造フォアグリップの両サイドのレールに装着、更にその下部には四角錐型の銃剣を取り付けている重量過多仕様なので前後に思いっきり揺すれば"片手"で排莢出来ちゃいます」
ショットガン……確かに近距離で戦うなら必要に違いない、ましてや今の俺は力負けする確率が高い、尚更に銃器に頼る必要があるだろう。しかし、何だこの見た目は、もはやクロスボウではないか。両サイドにハンドガンを取り付ける必要はあるのか。しかもショットガンに銃剣、一体どんな発想だろうか。更にストックから銃剣を含めれば私の身長を上回るぞこいつ。
「USPには通常の弾薬を、ショットガンの弾薬には"ビーンバッグ弾"と、もう一つ、"ドラゴンブレス弾"を用意してあります。私のとっておきで、"子供騙し"にはピッタリですよ! 後で射撃場で試し撃ちしましょう!」
「……嫌な予感しかしないとっておきですね、私を死の商人にでも転向させる気ですか?」
「……ふっふっふ、それは後のお楽しみです。二つ目がバッテリー増強済みの"テーザーハープーンガン"です、全長は先程のアローヘッドより短いですが、二股槍の様な穂先を強力なばね仕掛けで打ち出します、刺されば一般人であろうと子供たちであろうと、電撃を流し激痛を与える他、電流が神経を"インターセプト"、つまり神経間を流れる電気を阻害する為、発射スイッチを押して電流を流し続ければ、相手は動けなくなります。後、このハープーンガンに繋がってるバッテリーは取り外して別の事にも使えますよ」
ハープーンガン、本来火薬を使う所をバネで代用したと言う事は、当然弾速にも難があると言う事だ、利点だけ聞けば十分にも思えるが、下手をすれば唯の人間にすら回避される可能性もある上に、銛と本体を繋ぐケーブルを断ち切られればそれこそ唯の銛になってしまうだろう。二人一組の彼等に通用するか怪しい所ではある。だが、
「……おっかないですね、この武器」
「三つ目が長時間継続するスモークグレネード、これは特に言う事は無いですけど、シンプルな分応用を効かせられると思いますね」
視界を塞ぐと言うのは、時間を稼ぐ為の常套手段だ、視界を隠した間に即座に罠を仕掛けたり、逃げたり、それこそ何にでも使える。しかし、感覚の強化されている子供たちと斥力フィールドで煙ごと吹き飛ばせそうな奴に、どこまで通用するのだろうか。
「やっと普通のが出て来ましたね……」
「四つ目がこの直径5mmの高耐久鋼鉄製ワイヤーです、使い道は色々ですよ! 縛ったり、簡易のトラップにしたり、煮るなり焼くなりって奴ですね!」
……リールに巻かれた細く頑丈なワイヤー、色々と使い道はあるだろう、頭を使う必要はあるだろうが。
「最後がこのC4爆薬です、粘土代わりに遊べますよ、署内に置いてある古き良きピー◯君人形は私がC4爆薬で作った物です。後、2.5秒程で起動する雷管と即座に起動する雷管を十本ずつ用意しているので、このテーザーハープーンガンに繋がってる外付けバッテリー装置に雷管を取り付ければ起爆装置に出来ますよ!」
C4爆薬、粘土状の爆弾らしく、様々な場所に使用する事が出来そうだ。対人戦において使用出来るチャンスがあるかと言われれば謎ではあるが、武装としては十二分な性能を有している、しかし前半に言った言葉は本当なのだろうか。
「……この人逮捕されないんですか?」
「こんなんでもガストレア大戦時の英雄の一人と呼ばれてる、不思議なモンだな、だがその◯ーポ君人形は処分しとけ、上にその事チクるからな」
「そ、そんな殺生な、私はただ署内を楽しく愉快にしようと!」
「別の意味で愉快な事になるだろうがよ馬鹿野郎!」
怒られた彼女は妙に演技がかった啜り泣きを披露しながら更に奥、作業室のドアに収まっていった。
「英雄ってのはどいつもこいつもイカれてますね、いつの世も、いつの時代も」
「はぁ……他の荷物取ったら射撃場に行くぞ」
「他の荷物?」
「"浸食抑制剤"だ、受け取り先がこの警察署になっててな、まぁ次からはアパートに来る事になるがな……後、外で着れる筈の服が軒並み改造されてる奴だからな、一日署長の時や地域のイベントなんかに使っていた子供用の婦警の制服を取りに行く、流石にそのまま糸でグルグル巻きにするのも問題だ、服屋で今後着る服をいくつか買うつもりだが、身体的特徴が無くなった以上、これからは制服で身分を表した方が手っ取り早い。……まさかこんな事になるとは思わなかったがな」
「そうですよね……まさか身体の一部が簡単に取れるなんて思いませんよね」
「まだまだ分かんねぇ事ばかりなんだろうよ、俺たちもお前たちも」
「……そうですね、いつか分かれば良いと、そう思いますよ」
その後、試し撃ちを終えた俺たちは、荷物を全て受け取り、トランクを満杯にしたセダンで帰ることになった。
洋画とかでよく見る武器集めたり装備したりするシーン、大好きです。
今回出た魔改造ショットガンはたまたま資料になりそうな画像探してた時に見つけたフォアエンドに色々取り付けたエアガンの画像を見て思いついたものです、それも片手ポンプアクション出来ます。