「その声は、我が友、虞美人ではないか?」   作:銃病鉄

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最近、筆が進まない
→とにかく、何でもいいから作品を書こう
→それじゃあ、短編で

その結果出来上がったのがこちらです。
キャラ崩壊どころの作品ではありませんが、許していただける方はお読み下さい。


「その声は、我が友、虞美人ではないか?」

 カルデアの虞美人は才色兼備。

 

 清楚かつ温和な人物で、まさしく淑女と呼ぶのにふさわしい女性であった。(少なくとも、生前の項羽はよくそう言っていた)

 

 しかし、吸血種としての宿命で、人間が繁栄していく世界に彼女の居場所はない。項羽が活動を終えた後、虞美人はただ孤独の中で生きるのみであった。

 

 二千年以上の放浪の末、彼女はカルデアにスカウトされ、Aチームの一員となった。これは、おのれの人生に半ば絶望したためでもある。

 

 しかし、レフの爆弾によって死にかけた後、なんやかんやで異聞帯にて項羽と再会。そして、激闘の果てにカルデアに敗北し、彼らにサーヴァントとして召喚された。

 

 カルデアに召喚されてからの彼女は、それなりにサーヴァントとしての生活を楽しんでいた。

 だが、この頃から彼女はしだいにポンコツな一面を強調されるようになっていった。

 

 ある時は戦闘シミュレーターで醜態をさらし。

 ある時はラスベガスのカジノで大敗し。

 

 かつてカルデアの前に強大な吸血種として立ちはだかったシリアスなキャラクターは、どこに求めようもない。

 

 それに加え、かつて敗北した後輩をマスターとして戦うことが、どれほど彼女のプライドを傷つけたのかは想像にかたくない。

 自業自得という概念の欠如した彼女は、いつも不機嫌だった。

 後輩に理不尽な要求を出しては、それを叶えられるとさらに不機嫌になるという、とても面倒くさい事態となっていたのである。

 

 ある時、虞美人はついに発狂した。

 

 中国で発生した特異点において、カルデア一行が野宿をしている途中で急にわけの分からぬことを叫びだし、闇の中へと駆けだしたのだ。

 

 マスターたちは、「まあ、彼女の奇行はいつものことだし」と納得し、特異点の調査を優先した。

 しかし、彼女はなかなか戻らない。

 

 この困った先輩がどうなったかを知る者は誰もおらず、とうとう特異点修復の最終段階を迎えた。

 

 ある夜、同じくカルデアに召喚されていたサーヴァントである蘭陵王は、マスターと別行動を取り、何人かの仲間と小さな村に立ち寄った。

 そこの村人が言うに、「この先の道では、謎の獣が出ます。別に人は襲いませんが、やたら食べ物をねだってくるので、遠回りしてはどうか」と。

 

 蘭陵王には、しかし、急ぎの用があった。

 彼は村人の忠告に感謝した後、予定通りの道を通ることにした。

 

 月明かりに照らされた道を、馬に乗った蘭陵王と仲間たちは進んでいく。彼らが山中にさしかかった時、果たして、一つの黒い影が草むらから飛び出した。

 影は蘭陵王に襲い掛かるかと思えたが、急に身をひるがえし、元の草むらに隠れた。

 草むらの中からは、せっぱつまった声で、「あぶないところだった」と何度も繰り返しつぶやくのが聞こえる。

 

 その声に蘭陵王は聞き覚えがあった。

 

 

「その声は、我が友、虞美人ではないか?」

 

 

 蘭陵王は、生前は北斉の武将であり、虞美人にとっての数少ない友人でもあった。

 温厚な蘭陵王の性格が、ツンケンした虞美人と衝突しなかったせいだろう。

 

 しばらく草むらからは返事がなかったが、やがて、きわめて不機嫌そうな感じの声がした。「いかにも、自分はカルデアの虞美人である」と。

 

 蘭陵王は馬から降りて、草むらへと近寄った。

 自分やマスターがどれほど彼女を心配していたか、やや誇張して説明し、どうして草むらから出てこないのかと問うた。

 

 虞美人の声が応えて言う。

 自分は今、異類の身となっている。どうして人前に姿をさらせようか。必ず君に畏怖倦厭(いふけんえん)の情を起こさせるに決まっている。

 それに続けて、「そもそも、こんな格好を誰かに見せられるわけがないでしょう! あなただって、今の私を見れば、完全にネタキャラ扱いするに決まっているわ!」と語気を荒くしてまくしたてた。

 

 蘭陵王は、「あなた、だいぶ前からネタキャラだったでしょう」と、口にしかけた言葉を飲み込んだ。彼は顔が良いだけでなく、人格者でもあったのである。

 後から思えば不思議だったが、その時の蘭陵王は、この超自然の怪異を実に素直に受け入れた。カルデアであまりにトンチキな経験をしたせいで、神経が麻痺していたのだろう。

 

 虞美人に対して、彼は穏やかに質問した。一体、何があったのか、と。

 

 しばらく沈黙が続いた。

 しかし、やがて虞美人は心底いやそうに自分に起こったことを説明し始めた。

 

 野宿をした夜、ふと途中で目を覚ますと、闇の中で誰かが自分を呼んでいる。不思議に思って、声のする方へと歩いていくと、ますます声はしきりに自分を招く。

 そこで自分は気づいた。この声は、たしかに愛しい項羽の声ではないかと。

 

 もちろん、自分は声を追って走り出した。

 項羽の声を求めて無我夢中で走っていると、いつの間にか道は山林に入っていた。

 際限なく上がるテンションに任せ、険しい山肌や岩石を軽々と飛び越えていくと、自分は身体に起こる異変に気付いた。

 

 いつの間にか、自分は左右の手で地面をつかんで走っている。

 さらに、いつもは露出狂スレスレなほどにさらしている肌が、何やら暖かいものに覆われている。全身にフワフワした毛が生じているらしい。

 

 少し明るくなってから、川に自分の姿を映してみると、すでにその姿は獣となっていた。

 

 声は勢いを激しくして言う。「私だって最初は夢かと思ったわよ。あの役立たず、未だに項羽様を召喚できてないんだから! おまけにこんな姿になってるなんて!」と。

 

 結局、項羽が第一なのかと呆れつつ、蘭陵王は謎の声の正体について考えた。

 

「自分は民の前に姿を見せず、ただ声を発することによって人心を惑わす。その声の主は、間違いなく圧制者である!」

 

 仲間の一人が全身の筋肉を震わせながら叫ぶのを聞いて、蘭陵王は声の正体について考えることをやめた。

 このままでは話が進まないことをいち早く悟ったからだ。彼は顔が良い上に聡明な人物だった。

 

 虞美人は、姿を草むらに隠したまま、話を続けた。

 最初は、自分もおのれの身に起きた不幸を嘆いていた。こんな姿では、いざ項羽が召喚された時にも、会うことなどできないではないか。

 自分はすぐに、おのれの霊基を破壊することを考えた。

 

 しかし、その時、近くの道を旅人が歩くのを目にした。

 たちまち自分の中の理性は消え去った。

 再び、自分の中の理性が目を覚ました時、その口は旅人から譲ってもらったベーコンを頬張っていた。

 

 これが、獣としての最初の経験であった。

 

 それ以来、自分がどのような所業をしてきたか、語るに忍びない。

 今でも、一日のうちに数時間は、本来の思考が戻ってくる。しかし、その時間はだんだんと短くなっている。

 今までは、どうして自分が獣になってしまったか怪しんでいたのに、このあいだひょいと気がついてみたら、どうして以前の自分はサーヴァントだったのかと考えていた。

 

 これは恐ろしいことだ。

 

 もう少しすれば、自分本来の冷静で理知的な性格は、獣としての習慣の中にすっかり埋もれてしまうだろう。

 

「分かります。私も最近は、自分が呂布なのか赤兎馬なのか、考えてしまうことがあるのです。いえ、呂布なんですけど。ヒヒン!」

「馬。話をややこしくするのはやめなさい」

 

 赤兎馬と眼鏡の軍師のやりとりを聞き流し、虞美人は自嘲するようにつぶやいた。

 恥ずかしいことだが、こんなあさましい身となり果てた今でも、自分は項羽との再会を夢に見ることがあるのだ。

 ベーコンを口に詰め込んで見る夢にだよ。(わら)ってくれ。(蘭陵王たちは、本当に笑えば怒り出すんだろうな、と彼女のとことん理不尽で面倒な性格を思い出しながら、黙って聞いていた)

 

 そうだ。お笑いぐさついでに、今の想いを詩に述べてみようか。

 昔の虞美人が、今も生きているしるしに。

 

 そして、蘭陵王たちが「いえ、けっこうです」と断るのを無視して詩を詠んだ。その詩に言う。

 

 

 力拔山兮氣蓋世 

 時不利兮騅不逝 

 騅不逝兮可柰何 

 虞兮虞兮柰若何 

 

 

 虞や虞や(なんじ)奈何(いかん)せん。

 

 あの項羽の詠んだ有名な詩である。

 それを聞き、思わず蘭陵王は頭を抑えた。

 

「あなたをどうしたらよいか聞きたいのはこっちです」

 

 それが彼の正直な感想だった。

 彼の最期を看取った友人が、人からベーコンをねだる愉快なサムシングへと変貌していたのだ。

 その心労は、筆舌に尽くしがたいものだった。

 

 そんな蘭陵王の内心を知ってか知らずか、虞美人の声は再び続ける。

 どうしてこんなことになったか分からないとさっきは言ったが、実は心当たりがないわけでもない。

 

 カルデアにいた時、自分はつとめてマスターとの交わりを避けた。

 プライドが高いと思われていただろうが、それはほとんど羞恥心に近いものであったのだ。

 もちろん、孤高な吸血種として生きた自分に、自尊心がなかったとは言わない。しかし、それは臆病な自尊心とでもいうべきものだった。

 

 自分はサーヴァントとして召喚されながら、マスターをパシリに使っていた。それどころか、肩まで揉ませていた。

 距離感が分からず刺々しく接する一方で、自分は吸血種としてのプライドから、マスターと打ち解けることがなかった。

 

 共に我が臆病な自尊心と、尊大な羞恥心とのせいである。

 

 この心の中の獣を肥え太らせた結果、自分は獣となってしまったのだ。

 

「……なるほど?」

 

 蘭陵王たちには、その理屈がよく分からなかったが、空気を読んで真剣な顔でうなずいた。

 

 もはや、別れを告げなければならない。酔わねばならない時が(獣に還らねばならない時が)、近づいたから。そう虞美人は言った。

 それにつけ加えて言うのに、帰りはこの道を通らないでほしい。その時は、自分はきっと正気ではいないだろうから。

 さらに加えて言うのに、ここから去る間、絶対に振り返らないでほしい、と。

 

 蘭陵王たちは、「絶対にこっちを見るんじゃないわよ! 見たら世界まるごと呪ってやるわ!」と何度も念を押す虞美人の声を背にして、その場を去った。

 

 一行が丘の上についた時である。

 

 背後から「フォウ! フォウ!」という不思議な鳴き声が聞こえ、思わず彼らは振り向いた。

 

 たちまち、一匹の獣が草むらから道の上に躍り出たのを彼らは見た。

 リスともネコともつかない姿の獣は、「フォウ! ベーコ、キュー!」と月に向けて何度か叫ぶと、再び草むらへと姿を消した。

 

 こうして、第四の(ビースト)へと変貌した虞美人は、二度と蘭陵王たちの前に姿を見せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――というネタを思いついたんだが」

「ハッハッハ! なんで虞美人がフォウになってるんですかねえ!」

「「ワーハッハッハ!」」

 

「……原稿の続きに取り掛かりますか」 

「……そうだな」




新年早々、何を投稿しているのか。

*追記 1日たって評価バーを見ると、すでにその色は赤くなっていた。
たくさんのお気に入り登録と評価、ありがとうございます。
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