「その声は、我が友、虞美人ではないか?」   作:銃病鉄

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特別編:銀河鉄道の旅

「銀河ステーション。銀河ステーション」

 

 不思議な声が聞こえました。

 

 すると、すぐに目の前がぱっと明るくなりました。

 それがあんまりにまぶしかったので、私は目をぎゅっと閉じてから、ようやくまぶたを開けることができたのでした。

 

 

 ごとん、ごとん。

 

 

 気がついてみると、私は古めかしい鉄道の、小さな黄色い電燈に照らされた車室にいたのです。

 いくつも並んだ青い天蚕絨(びろうど)の貼られた座席に座って、私はたった一人、線路を走る汽車に揺られていたのでした。

 

 ここはどこでしょう。

 私はついさっきまで、■■■■の管制室にいたはずなのに。

 

 

 ■■■■?

 

 

 なんだか頭にもやがかかったようにぼんやりして、私は車室を見渡しました。

 すると、少し前の席に誰かが座っているのです。

 さっきまで誰もいなかったはずなのに。いえ、きっと私が見落としていたのでしょう。

 

 そんなことを考えていると、私の視線に気づいたのか、相手が振り向きました。

 

「はじめまして、お兄さん」

 

 柔らかな黒髪に、まだ幼さの残る顔つきをした少年でした。

 

 お兄さんと呼ばれて、何だか違和感を覚えました。

 続いて手足も変にむずむずとしてきます。

 まるで、人間の身体がずいぶんと久しぶりなような……。

 

 気を取りなおし、私は少年に「ここはどこでしょう」と質問しました。

 

 すると、彼は椅子から立ち上がり、そのまま私の隣の席へとやってきました。

 そして、何やら丸い板のようなものを差し出したのです。

 

 それは地図でした。

 夜のようにまっ黒い盤の上を、鉄道線路をあらわす一条の白い線が走っているのです。

 

 きれいな地図ですね。これは、黒曜石でしょう。

 

 私が言うと、少年はうれしそうに目を細めてから、地図の一点を指差しました。

 

「さっき銀河ステーションを過ぎたから、今はここらへんだよ」

 

 少年が示したのは、“白鳥”と書いてある駅のしるしの、すぐ北でした。

 

 知らない駅です。

 そもそも、銀河ステーションとは何でしょう。

 

 さらに少年に問いかけようとした時です。

 ふと、窓から見える景色に気づいて、私は言葉をなくしてしまいました。

 

 そこは、銀色にぼうっと光るすすきの、一面に生い茂る河原でした。

 線路に沿ってうねる川の水は、青白く光りながら流れ、紫色の細かな波を立てたり、ちらちらと虹色に輝くしぶきを散らしたりしているのでした。

 

 私の驚いた顔がおもしろかったのか、少年はくすくすと笑いました。

 

「あれは銀河だよ」

 

 銀河?

 

 しかし、銀河は本当の川ではないでしょう。宇宙に浮かぶ、小さな星の集まりです。

 

 私はまじめに言うのですが、いっそう少年は愉快そうに笑うばかりでした。

 

「銀河はきらきら光る川だよ。お兄さんより、ぼくの方がよっぽど物識りだね」 

 

 私は、もう何も言えなくなってしまいました。  

 少年の表情が、とても無邪気で楽しそうで、否定するのが悪いことのように感じられたのです。

 

「ようこそ、銀河鉄道へ。ぼくの名前は、カムパネルラ」

 

 こうして、私の銀河鉄道の旅が始まったのでした。

 

 

 

 それから、私は不思議な少年と一緒に、窓を流れていく景色を眺めていました。

 

「さっき遠くに見えた鉄の塊は、ボイジャー。話をしたことがあるけど、とても良い子だったよ」

 

 珍しいものを目にするたびに、そうやってカムパネルラが説明をしてくれました。

 それがとてもおもしろいので、私は時間も忘れて彼の話に聞き入っていたのでした。

 

 そうして、しばらくたった時です。

 

 不愛想な、けれどもどこか温もりを感じさせる声が聞こえました。

 

「ここにかけてもいいか?」

 

 いつの間にか、通路には男性が立っていました。

 

 とても不思議な男でした。

 

 彼は人間のように服を着て帽子をかぶっているのですが、身体にはふさふさとした毛が生えて、頭にはぴんと立つ三角形の耳があります。

 そう、まるっきり狼のような顔をしていたのです。

 

「ああ、あなたですか。どうぞ座ってください」

 

 どうやら、彼はカムパネルラの知り合いのようでした。

 男性は私に小さく礼を言うと、腰を下ろしました。

 

「この人は、“鳥を捕る人”だよ」

 

 鳥を捕る人?

 

 カムパネルラに紹介されて、私はおうむ返しに応じました。

 

「そうだよ。鳥を捕まえて、ぼくのような銀河鉄道の乗客に分けてくれるんだ」

 

 しかし、鳥をどうやって捕まえるのでしょう。

 

 私の疑問が顔に出ていたのか、男性はぶっきらぼうに教えてくれました。

 

「ああ、そいつは簡単だ。鳥ってのはな、銀河の岸の砂が固まって生まれるだろう? だから、河原に降りたところを押さえて、川底にくっつけちまえばいい。そうすりゃ安心して動かなくなっちまうんだよ」

 

 そう言うと、彼はかばんに手をやって、ごそごそ何かを取り出しました。

 

「ちょうどいい。こいつをやるよ」

 

 そうして差し出されたのは、二羽の鳥でした。首の長い、まっ白な鳥が、押し葉のようにぺちゃんこになっているのです。

 

 その片方を受け取り、私はおっかなびっくり、羽の先をかじってみました。

 次の瞬間、口の中に、じんわり甘い味が広がります。

 

 なんだ、これが鳥のはずがない。砂糖菓子だ。

 この男はほらを吹いているのだ。

 

 私はそう考えたのですが、男性が親切で渡してくれた鳥をかじりながら、彼を疑ったせいでしょう。

 

 自分がひどい人間のように思えて、結局、ほとんど口をつけずにズボンのポケットに入れてしまいました。

 

「とてもおいしいよ。いつもありがとうございます」

「気にするな。こいつは、ヤガの口には合わないからな」

 

 ヤガ……。

 

 その言葉を、私は聞いたことがあるような。

 いえ、この鳥を捕まえる男性のことも知っているような気がしてきます。

 

 でも、どこで?

 

「ああ、白鳥の駅に着いたみたいだ」

 

 その時、カムパネルラが不意に立ち上がりました。

 窓を見ると、知らない間に汽車は停車していたのです。

 

「降りようよ、お兄さん」

 

 そして、私はカムパネルラに手を引かれるままに、ドアから飛び出して駅の改札口を通り抜けたのです。

 

 駅を出て、水晶細工のように見える銀杏(いちょう)の木に囲まれた広場に出ると、私は思わず「わあっ」と声を上げてしまいました。

 

 私の瞳に映ったのは、夜空の中で燃えている、数えきれないほどの星々でした。

 まるで、遠慮を知らない幼子(おさなご)が、バケツいっぱいの金平糖(こんぺいとう)を思うぞんぶん撒き散らしたかのような。

 今にもこぼれ落ちてきてしまうのではないかと思えるほどの、一面の星空なのです。

 

「こっち、こっち」

 

 夢見るような心地でカムパネルラの背中について行った私は、いつの間にか、銀河のすぐそばを通る道に出ていました。

 

「ごらんよ。鳥を捕る人だ」

 

 見ると、河原のすすきの中に、さきほど出会った男の人が立っていました。

 いったい、いつ私たちを追い越したのでしょう。

 

 何をしているのか疑問に思っていると、上の方から「ぎゃあぎゃあ」と叫び声を上げながら、たくさんの鳥が舞い降りてきました。 

 すると鳥を捕る人は、河原に降りた鳥の脚をすばしっこく捕まえて、袋の中に入れてしまうのです。

 鳥たちは袋の中でもぞもぞ動いていましたが、やがて眠るかのように大人しくなってしまいます。

 

「わあ、びっくり!」

 

 急に背後から声がしました。

 

 そこには、目をまん丸に見開いた幼い女の子が立っていたのです。褐色の肌に、三つ編みにした髪がかわいらしい子供でした。

 

「またお兄さんに会えるなんて! お兄さんも、汽車に乗って来たの?」

 

 私は、何を言えばいいのか分からなくなって、女の子を見つめました。

 彼女は私と会ったことがあるのでしょうか。そう言われると、たしかにどこかで会ったように思えるのですが。

 

「よお。お前らもいたのか」

 

 仕事を終えた鳥を捕る人が、道へと上がってきました。

 彼は女の子に歩み寄ると、袋からたくさんの鳥の押し葉を取り出しました。それから、女の子に手渡したのです。

 

「ありがとう。こんなにもらえるなんて、びっくり!」

 

 女の子は、それはもうよろこんでお礼を言いました。

 

 その時、少し離れた場所に、女の子の家族らしき人たちがいるのに気づきました。

 大人の男女が一組と、たくさんの子供たち。かわいい犬もいます。

 父親らしき男性が、私に向けて優し気な笑みを浮かべました。

 

「たくさんやるから、取り合いなんてするなよ」

「しないよ。ちゃんとみんなで分けるもの」

「そうか。……なら、いいんだ」

 

 女の子は笑顔で「さようなら」と告げると、走り去っていきました。

 

「あっちに行こうよ、お兄さん。とっても河原がきれいなところがあるんだ」

 

 カムパネルラに促され、私も歩き出しました。

 

 ふと振り返ると、さっきの女の子が、家族に鳥を配っているのが見えました。

 みんな楽しそうに笑って、とても幸福そうです。

 

 この上なく微笑ましい光景です。

 なのに、なぜでしょう。

 

 私の胸は、じくじくと痛みました。

 

 

 

 私たちがやって来たのは、さっきよりも少し下流の、ぼうっと淡い光のともる河原でした。

 

「見て。ここの砂はみんな水晶だ。中で小さな火が燃えている」

 

 カムパネルラが足元の砂を手ですくい、そうっとささやきました。

 彼の言うように、河原の砂はみな透き通り、その中で蛍のような光がついたり消えたりしているのです。

 

 砂の中心で燃える火は、私たちの話す中にも、その色を変えていきます。

 

 赤色かと思うと、緑色に。黄色くなったと見えたら、まばたきした後には青色に。

 

 ああ、これは万華鏡(カレイドスコープ)だ。

 私はカムパネルラと一緒に、万華鏡の中に飛び込んで、気ままに遊んでいるのだ。

 

 刻一刻と色どりを変える河原に立っていると、そんな風にも感じられるのでした。

 

 

 おや。

 

 

 川上に、人がいるようです。

 

 そこは河原が大きく広がって運動場のようになっているのですが、そんな中で四つの人影が、かがみこんで何やら掘り出しているようなのです。

 

「行ってみようよ」

 

 私の考えを見通したようにカムパネルラが叫び、私たちは彼らの方へと走っていきました。

 

 近づいていくと、そこには、河原の砂をスコップで掘っている人たちがいたのです。

 すると、一番近くにいた少女が私たちを見て、眼を見開きました。

 

「あなたは……」

 

 りんとした雰囲気の、すずしげな顔立ちをした少女でした。

 しかし、怪我をしているのでしょうか。右目を眼帯で覆っています。

 

 彼女はしばらくして、私の隣に立つカムパネルラへと顔を向けました。

 

「そう、あなたがここへ彼を連れてきてくれたのね……。カムパネルラ」

 

 カムパネルラは、とっておきのいたずらに成功したように、にっと笑いました。

 

「まさか、あなたがここに来るなんて」

 

 眼帯の少女が私に向かってそんなことを言うので、私の中に、もやもやしたものがいっぱいに広がりました。

 

 そうです。私は彼女を知っているはずなのです。

 いえ、それどころか、鳥を捕る人も、家族と一緒にいた女の子にも。やはり、私はどこかで出会ったことがあるのだ。

 

 でも、あと少しのところで、思い出せない。

 

 私は、言葉にできないくらいにもどかしいので、何も言えなくなってしまいました。

 

 その時です。

 

 

「話の途中だが、ワイバーンだ!」

 

 

 大きな声が響き渡りました。

 

 金髪を長く伸ばした男性が、白い洋服を砂まみれにして、何やら騒いでいるのです。

 

「見たまえ、この骨を。とうとう発掘したぞ。ワイバーンのもので間違いない!」

「まったく、あなたという人は」

 

 少女があきれ顔でため息をつくと、男性も私たちに気づいたようです。

 

「おや、君は……。いや、そうか。君がそうか」

 

 一人で納得している男性に、私は何をしているのか尋ねました。

 

「ああ、見ての通り発掘作業だよ。ここは百万年より前の地層だと聞いたんだ。ひょっとしたら、神代の遺物なんかも出てくるかもしれないと思ってね。そしたら大当たりだよ」

 

 男性はわくわくとした様子で、大きな白い骨を示しました。

 

「何がワイバーンですか。てきとうなことを言って」

「間違いないとも。フランスでは嫌になるほど見たからな」

 

 妙に自信満々で男性が言うと、横から別の声がしました。  

 

「うわあ、やっと出てきたんだね!」

「こんな大きな骨、見たことないわ!」

 

 発掘を手伝っていたらしい、二人の子供でした。

 黒髪の男の子と、金髪の女の子です。

 

「きっと、巨人の骨ね」

 

 女の子がはしゃいでぴょーんと跳ねると、男の子が首をかしげました。

 

「ええ、あんなに大きい人間がいるかな?」

「いるわよ。私、村の外にいるのを何度も見たんだから」

「巨人かぁ。天子様なら知ってるのかな。俺、あんまり村から出なかったし」

「……私もそうだったわ。ひょっとしたら、あれが馬の骨なのかしら?」

 

 それから二人は顔を見合わせて、とても愉快そうに笑いました。

 

「そろそろ銀河鉄道の出発する時間だよ」

 

 カムパネルラに袖を引かれて、私はだいぶ時間が過ぎていることに気づきました。

 

「ううむ。もうそんな時間か」

「一緒に行きますか?」

「いや、カムパネルラ。私たちはこの骨を運ばなければいけない。先に行くといい」

「これを汽車に積むつもりですか……」

 

 私たちは、骨を囲んで騒ぐ四人組に別れを告げ、駅へと走ったのです。

 

「やっぱり人間じゃないですか。変なことばかり言わないでください」

「いや、私と戦った時は、たしかにきらきらのもこもこで……」

 

 そんなやりとりが、背中越しに聞こえました。

 

 

 

 私とカムパネルラが座席に腰を下ろすと同時に、銀河鉄道が動き始めました。

 銀河の水がさらさら流れるのを眺めながら、私はずっと黙っていました。ぼんやりと考え事をしていたのです。

 

 この銀河鉄道に乗ってから、いろんな人に会いました。

 とても不思議な人たちでしたが、みんな幸せそうで、それを見るとこちらまで胸が暖かくなるようだったのです。

 

 ですが、どういうわけなのか。

 

 彼らのことを思うと、私はたまらなく悲しい気分になってしまうのです。

 まるで、私がとてつもなく、それこそ言葉で言い表せないくらい、ひどいことを彼らにしてしまったかのような。

 そんなもうしわけない気持ちが、わけもなく湧いてくるのです。

 

「あれは何の火か、分かる?」

 

 唐突に、カムパネルラがつぶやきました。

 

 彼の視線の先を追うと、銀河を挟んだ対岸で、ちかちかと二つの火が横に並んで燃えています。

 右側の火は怒ったように激しく火の粉を飛ばし、左側の火は慎ましく揺れているのです。

 

 なんだか双子みたいだね。

 

 そう私が言うと、カムパネルラがくすくす笑いました。

 

「お兄さん、あれは双子座だよ。遠い昔に、仲良しの双子が夜空に登って星になったんだ」

 

 なるほど、と私は納得しました。

 改めて二つの星を見ると、互いに寄り添うように光っているではありませんか。

 

「とてもきれいだろう」

 

 カムパネルラの言葉に、私は心からうなずきました。

 

 すると、通路から硬い声がしたのです。

 

「きれいなものか、あんな星」

 

 そこにいたのは、不機嫌そうな顔をした少年でした。

 彼のすぐ後ろにもう一人、穏やかに微笑む少女が立っています。

 

「だめよ。失礼でしょう。すみません、弟が」

「だって、姉さん」

 

 二人は姉弟のようです。

 たしかに、どちらも淡い茶色の髪で、どことなく雰囲気がそっくりです。彼らも双子なのでしょう。

 

 双子座は、美しくありませんか。

 

 私が不思議に思って問うと、少年は鋭く二つの星をにらみつけました。

 

「冗談じゃない。あいつらなんか……」

「やめなさい」

 

 少年の言葉を、姉がやんわりと遮りました。

 

「私はきれいだと思うわ」

「姉さん!」

 

 顔を赤くして怒鳴る弟に、姉は優しく語りかけました。

 

「きれいなものは、きれいだわ。自分の心にうそをつくのは、きっと、寂しいことよ」

 

 その言葉に、少年は一瞬顔をふせて、それからすねたように横を向いてしまいました。

 そんな弟の様子を見た姉は、ふっと笑って、それから私に顔を向けました。

 

「あの、もしかしてあなたは……。いえ、なんでもないわ。良い旅を」

 

 そして、二人は立ち去りました。

 

「……まあ、きれいだと思うよ。あの星は」

 

 弟のつぶやき声が、耳に届きました。

 

 

 

 銀河鉄道が、速度を落としました。

 また、駅が近づいてきたのでしょう。

 

南十字星(サウザンクロス)だよ」

 

 カムパネルラが、そっと教えてくれました。

 そして、私が立ち上がるのを見て、彼も跳ねるようにして席を立ちました。

 

「また銀河を見て回る? いっぱい案内するよ」

 

 その無邪気な姿に、私は口元をほころばせました。

 

 そして、ゆっくりと首を横に振りました。

 

 

 いいんだ。私はここで降りるから。

 

 

 カムパネルラを悲しませてしまうだろうか。

 

 そんな私の心配をよそに、彼は「分かっていた」と言いたげに微笑みました。

 

「お兄さん、思い出したんだね」

 

 全部、思い出しました。

 

 私がどこから来たのか。

 銀河鉄道の乗客が、誰なのか。

 

 そして、自分にはまだ、やらなければいけないことが残っていることも。 

 

「銀河鉄道は楽しかった?」

 

 もちろん、と私は答えました。

 

 もう会えないはずだった人たちと、また話をすることができました。

 とても楽しい夢でした。

 

 私の返事に、カムパネルラはにっこりとしました。

 

「それがぼくの宝具(銀河鉄道)なんだ。終わってしまった人たちを、ずっと遠いところに運んでいく。サーヴァントになってから、ずっとそうしているよ」

 

 カムパネルラと話すうちに、銀河鉄道は、サウザンクロスの駅に停車しました。

 

 駅に降りると、私はカムパネルラに小さく頭を下げました。

 

 いつか、カルデアに来るといい。今度は自分が案内するから。

 とても素敵な場所なんだよ。

 

 最後にそう告げると、車輪がゆっくり回り始め、銀河鉄道がするすると滑るように動き出しました。

 

 たった一人で駅に立つ私に、たくさんの人が車窓から手を振ってくれていました。

 見覚えのない人たちは、私が覚える暇もなく消えていってしまった人たちなのでしょうか。あるいは、これから出会うはずの人たちなのか。

 

 そんなことを考えているうちに、銀河鉄道はどんどん遠ざかっていきました。

 すぐに、そのかたちが米粒ほどに小さくなりました。やがて銀河鉄道が針の先ほどの大きさとなり、数億もの星の光に溶け込んでしまった時、また私の視界は、ぱっと明るく染まっていったのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ぱい! 先輩!」

 

 私を呼ぶ声がして、ぼんやりとしたまま目を開きました。

 

「マシュ」

 

 私が言うと、マシュは安堵のため息を漏らしました。

 

「良かった。先輩は管制室で倒れて、ずっと眠っていたんですよ」

「私はどれほど眠っていたのでしょう」

 

 質問に、男性の声が応じました。

 

「三日です。マシュは、ずいぶんと心配していましたよ」

 

 着物姿の中年男性が、マシュの後ろにたたずんでいました。

 倫敦(ロンドン)のキャスターです。どうやら、マシュと彼が私の容体を見守っていてくれたようでした。

 

「サプライズ。驚きです。こうして目を覚ましたので、私はすぐに起き上がると良いでしょう」

 

 そうしてベッドから立ち上がろうとしたのですが、現在の自分の姿を思い出し、四本の脚で踏ん張りました。

 思えば、もうすっかりこの身体にも慣れてしまったものです。

 本当の持ち主と気質が似通っていたのか、馴染むのに時間はかかりませんでしたが。

 

「まだ動かないでください。すぐにナイチンゲールさんとアスクレピオスさんを呼んできますから。先生、ここはお願いします」

 

 マシュが小走りで部屋を出ていった後、先生が不思議そうに話しかけてきました。

 

「それは何でしょう。毛の中に、何かが埋もれていますよ。失礼」

 

 先生が取り出したのは、平べったくなった一羽の鳥でした。羽の先が少し欠けています。

 

「……?」

 

 何とも言えない表情で鳥を見つめる先生の姿がおかしくて、私は声を出さずに笑いました。

 

 

 

 六番目の異聞帯で待っている、出会いと別れに思いをはせながら。 

  




宮沢賢治先生の世界に、筆力の追いつかない悲し味。
一年に一度はギャグを休ませるスタイル。

いつもこのシリーズを呼んでいただいて、ありがとうございます。
申し訳ありませんが、次の投稿はだいぶ先になります。

リアルの事情と、別の話も書きたいなという風に思いまして。
一応、まだ書きたいネタはあるので、シリーズ自体は続けるつもりです。

よろしければ、また読んでください。

※読み返したら、ヴィハーン忘れてた! 書き足しました。
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