「その声は、我が友、虞美人ではないか?」   作:銃病鉄

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久々の更新です。
最近は某SFサバイバルゲームの実プレイを元にしたシリーズを書いていました。

とうとうH・G・ウェルズまでパロディしましたが、このシリーズはどこに向かっているのでしょう。


「タイムマシンはいい文明だ」

 あの忌まわしい記憶がはっきりとしているうちに、この手記を残しておこうと思う。

 

 これから書くことは、タイムマシンによって六百年後のカルデアに行った私が、実際に経験した出来事だ。

 そして、はるかな年月の果てに私たちがたどる、おぞましい未来の記録でもある。

 

 全ての始まりは、私が友人とお喋りしている途中、急にダ・ヴィンチから通信を受け取ったことだった。

 

「やあ、アルテラ。悪いけど、すぐに管制室に来てほしい。君に重大な頼み事があるんだ」

 

 唐突な呼び出しに、私は首を傾げた。全く心当たりがなかったのだ。

 すると、私の横で通信を聞いていた友人が、「ひょっとすると、アレかもしれませんねぇ」とつぶやいた。

 

「何か知っているのか、玉藻」

「ええ。これは噂なんですけど」

 

 玉藻によると、ここ数日、ダ・ヴィンチを始めとする科学者サーヴァントたちが、研究室にこもって怪しい研究をしていたらしい。

 なんでも、徹夜を重ねて相当ハイになっているらしく、尋常ではないテンションの笑い声が日夜響いていたそうだ。

 

「また、トンチキな騒動が始まるかもしれませんよ」

「もうそんな時期か」

 

 正直、面倒ごとの気配がした。

 だが、無視するわけにもいかない。

 

「心配ないと思いますけど、私もついて行きますね。念のため」

 

 玉藻がそう言ってくれたので、私たちは管制室に足を向けた。

 

 

 

「やあ、アルテラ。それに玉藻も。来てくれてありがとう」

 

 私が管制室に入ると、ダ・ヴィンチがスケートで滑りながら出迎えた。

 そこには彼女だけでなく、テスラとエジソン、バベッジといった科学者たちもいた。

 

 それよりも、私は管制室の中央にある奇妙なものに注意を引かれた。

 

 それは、これまで見たことのない不思議な乗り物だった。 

 

 それは一見、金属板を折り曲げて作ったソリのように見えた。しかし、そのいたるところには、象牙や水晶で出来た怪しい機器が所狭しと備え付けられていたのだ。

 

「時間とは、空間を構成する要素の一つに過ぎない」

 

 出し抜けに、ダ・ヴィンチが言い放った。

 

「空間は三次元的なものと考えられている。長さ、幅、厚さだ。人はその中を移動することができる。しかし、もし時間を四つめの次元と定義したなら? ……そう! 当然、人はその中を移動することだってできるというわけさ! ここまでは分かるね?」

 

 

 分からない。

 科学は悪い文明だ。

 

 

 それからも長いこと意味不明な説明が続いたが、私にはよく理解できなかった。

 

 それでも、分かったことは三つ。

 

 

 誰かが、「タイムマシンってロマンだよね?」と、食堂で何気なくつぶやいたこと。

 

 それを耳に挟んだ科学者たちが、冗談半分でタイムマシンの研究を始めたこと。

 

 だんだんと熱中し、悪ノリの末に本物のタイムマシンを作ってしまったこと。

 

 そして、タイムトラベラーとして選ばれたのが私だということ。

 

 

 違った。四つだ。

 

「行き先は、六百年後のカルデアに設定してある。私たちの未来を、君の眼で確かめて来てほしいんだ」

 

 その言葉に、私はうなずいた。

 

「いいだろう。願ってもない機会だ。カルデアが繁栄するべき文明かどうか、私は見定めなければいけない」

「本当に大丈夫なんでしょうね、それ」

 

 話を聞いていた玉藻が、心配そうに口をはさんだ。

 

「私も一緒に行けたらよいのですけど……」

「だが、お前はスケジュールがビッシリ埋まっているだろう」

「そうなんですよね。最近は新人さんが多いですから、周回が忙しくて。種火も素材も全然足りていないんです。マスターを支えるのは良妻の勤めですから、苦になりませんけど」

 

 彼女は笑ったが、私は近ごろ行われている過酷な周回を思い、心が沈んだ。

 本当に、過重労働は悪い文明だ。

 

「では、行ってくる」

 

 タイムマシンに乗り込んだ私は、象牙のレバーを思いっきり前に倒した。

 

 それから私を襲った奇妙な感覚は、とても言い表せない。

 管制室の風景はだんだんとぼやけ、やがて濃霧の中に放り込まれたようにあやふやな空間となってしまった。

 

 

 

 そんな状態で、数分が経過した頃だったと思う。

 

 映像を逆再生するように風景が輪郭を取り戻していき、気がついた時には、私はタイムトラベル前と何も変わっていない管制室の中にいた。

 たった一つの違いは、私以外のサーヴァントがいなくなっていることだけだった。

 

 タイムマシンから降りて、私は途方に暮れた。

 あまりに変化が乏しかったので、自分が六百年の時を旅した実感が湧かなかったのだ。

 

「とりあえず、部屋から出てみるか」

 

 そうつぶやいて、私は管制室のドアを開けた。

 

「!」

 

 廊下に出た瞬間、私は誰かとぶつかってしまった。

 最初、相手は子供サーヴァントの誰かだと思った。その背丈が、私の胸ぐらいまでしかなかったからだ。

 

 しかし、それは間違いだった。

 

「アルトリア?」

 

 それは間違いなく、ブリテンの王、アルトリア・ペンドラゴンに他ならなかった。

 

 しかし、その姿は!

 

 あの勇壮な姿は面影もない。私の目の前にいた彼女は、全身のフォルムが丸みを帯びて、二頭身になるまで背丈が縮んでいた。

 

 

 そう。

 

 

 まるで、本来の彼女を、リヨッとデフォルメしたような容姿になってしまっていたのだ。

 

「――」

 

 アルトリアは私に何か言うでもなく、なぜか終始ムスッとした表情で、廊下を走り去ってしまった。

 

「まさか……」

 

 自分の見たものを信じられないまま、私はカルデアを歩き回った。

 その結果は、私の予想を超えたものだった。

 

 私の出会ったサーヴァントは、全員がアルトリア同様、二頭身にデフォルメされた姿に変化していた。

 中には、それ以上の変化を遂げた者もいた。清姫は二頭身になった上、下半身がヘビになってしまっていたのだ。

 

「これが、六百年後のカルデア」

 

 ようやく、私はここが六百年後の世界だということを受け入れられた。

 

 サーヴァントたちがリヨ化――二頭身になった彼らを、私はそう名付けた――した以外は、カルデアに変化は見られなかった。

 ただ、経年劣化は避けられなかったのか、ところどころ床に大きな穴が開いていた。誰も直そうとしないどころか、その穴を避けている様子なのが不思議だった。

 

 しかし、しばらくして、私はさらに不可解なことに気づいた。

 未来のサーヴァントたちは、とても戦いができるようには見えない。なのに、彼らは例外なく、レベルもスキルもマックスで、限界まで強化されていたのである。

 

「どうやって、素材や種火を入手しているのだ?」

 

 私は思わず疑問をこぼした。

 すると、背後から私をせせら笑う声がした。

 

「プーッ! 素材? 種火? どこの原始人だ、お前は」

 

 振り返ると、声の主はネグリジェを着込んだ黒髪のアサシンだった。

 見たことはない。おそらく、私が出発したよりも先の未来で召喚されたサーヴァントなのだろう。

 

「種火も素材も、手に入れる必要はないのか?」

「遊んで寝ていれば、強化など勝手に済んでいるものだろうが。自分たちで集めていたのは、何百年も前の話だ、このシーラカンスめ!」

 

 なるほど。

 六百年後のカルデアでは、サーヴァントの強化は自動で行われるようになっているらしい。

 喜ばしいことだ。周回の過重労働から解放されるのだから。

 

「しかし、お前はまだ強化が中途半端だな」

「しかたないだろう。私が召喚されたのは三日前なんだ」

 

 私は繁栄した未来のカルデアに、この時は満足した。

 それはそれとして、ネグリジェのアサシンはむかついたので、簀巻きにして冷蔵庫に放り込んでおいた。

 

 

 

「タイムマシンはいい文明だ」 

 

 未来のカルデアで数日を過ごし、私は一人っきりの格納庫でつぶやいた。

 

 リヨ化したサーヴァントたちは、毎日気ままに遊んでばかりいた。

 闘争も、奪い合いもない。六百年後のカルデアは、心地よい平和を甘受していたのだ。

 

 正直、意外だった。

 てっきり、新しく現れた星6サーヴァントを巡って、殺し合いが行われているなどの惨状を予想していたからだ。

 

 過去に戻った時、私が報告すべきことは二つ。

 

 平和。繁栄。共存。

 

 三つだ。また間違えた。

 数学は、悪い文明。

  

 そんなことを考えていた時だった。

 

 不意に何者かの視線を感じ、私ははじかれたように振り返った。

 

「誰だ!」

 

 機材の影から、私を見つめる者がいた。

 その全身は黒いもやに覆われ、正体がつかめない。

 

「シャドウサーヴァント?」

 

 一瞬そう考えたが、すぐに違うと直感した。

 あれは、シャドウサーヴァントなどではない。さらに、禍々しい存在だ。そう本能が告げていた。

 

「HA■■I■AM■E、■■Y■ME■■MA■……」

 

 まるで呪詛のようにおどろおどろしい声でつぶやくと、そいつは一瞬で姿を消してしまった。

 私が機材に近づいて確認すると、死角となっていた床に例の穴が開いていた。どうやらこの中にもぐりこんだらしい。

 

「まさか」

 

 その時、不吉な考えを頭をよぎった。

 

「カルデアの地下に、何かが住み着いているのか?」

 

 何か不穏なものを感じた私は、管制室に置きっぱなしにしていたタイムマシンのことに思い至り、急いで足を向けた。

 

 しかし、全ては遅すぎたのだ。

 

「タイムマシンが、ない……」

 

 私を未来に運んだタイムマシンは、管制室から忽然と消え失せていた。

 リヨ化したサーヴァントに、重いものを運べるはずがない。おそらく、地下に住み着いた何かが持ち去ってしまったのだ。

 そう考えて管制室を探ると、案の定、それまで気づかなかった地下への穴を発見した。間違いなく、タイムマシンはこの中に隠されているのだ。

 

「行くしかないか」

 

 過去に戻るには、タイムマシンを取り戻すしかない。

 しかし、闇雲に探すのは危険が大きすぎる。何か良い手段はないかと、私は頭を巡らせた。

 

 そうしていると、聞き覚えのある声がした。

 

「おい、アルテラ! よくも私を冷蔵庫に放り込んだな。もう少しで座に帰るところだったぞ!」

 

 例のアサシンだった。自力で脱出したらしい。

 しかし、どういうわけか私の名前を知っていたのだ。名乗ったはずもなかったのだが。

 

「よく私の名前が分かったな」

「フッフッフ。人の秘密を探るのが、私の得意分野だからな。弱みを握ってネチネチ脅迫してやるぞ」

「……探し物も得意か?」

「当然だ! …………おい、待て。どうして縄を持って私に近づいて――」 

 

 都合よく、タイムマシンを見つける手段を手に入れた。

 

 

 

 地下に潜った私は、ぎりぎり立って歩けるほどの狭いトンネルを歩いていた。

 かれこれ一時間は歩き続けていた。しかし、トンネルはヘビのように曲がりくねっていたので、まだ管制室からそれほど離れていなかったと思う。

 

「おい、そこは右に曲がれ」

 

 簀巻きにして小脇に抱えたアサシン(レーダー)の誘導に従い、私は進み続けた。

 やがて、だんだんとトンネルが上に傾斜していった。地上に近づいているのだ。

 

「見つけた。この先に、広い空間がある。その中央に変な機械が置かれているようだぞ」

「タイムマシンだ」

 

 とうとう、私が過去に戻る時が近づいていた。

 

「しかし、これは明らかに罠だぞ」

「問題ない。いざという時には、お前を囮にする」

「やめろぉ!」

 

 騒ぐレーダーを無視して、私はトンネルを抜けた。

 

「ここは、霊基保管室?」

 

 そこは私も見たことがある部屋だった。

 しかし、信じられない光景が広がっていた。

 天井まで届くほどに、種火や素材が山積みにされていたのだ。これなら、カルデア中のサーヴァントを強化し尽せるだろう。

 

 そして、部屋の中央には、これ見よがしにタイムマシンが置かれていた。

 

「やっと六百年前に帰れる」

 

 思わず、私は安堵のため息を漏らした。

 

 

 その時だった。

 

 

「K■■R■AKU■A……!」

「■■RE■ISH■■OUK■NAA……!」 

 

 不意に、何者かが私たちめがけて飛びかかって来たのだ。

 

 例のシャドウサーヴァントもどきだった。しかも、十体以上はいた。

 

「軍神の剣を受けるがいい!」

 

 私は、群がってくる者どもを薙ぎ払い、タイムマシンへと近づいて行った。

 

 しかし。

 

 間近にそいつらを観察するうちに、私は妙なことに気づいた。

 身の毛のよだつ存在たちの中に、どこか馴染みのある姿の面影が見られるように感じたのだ。

 

「KEIRYAKUDAA……!」

「DORENISHIYOUKANAAA……!」

「MIJUKUMONO、DESUGAAA……!」

「OUNOHANASHIWOSURUTOSHIYOOO……!」

 

 まさか。いや、そんなはずはない。

 私はガムシャラにそいつらを振り払い、なんとかタイムマシンに乗り込んだ。

 

「おい! 私を置いていくな!」

 

 アサシンが飛び乗るのと同時に、私は象牙のレバーに手をかけた。

 そして、私の視界が急速にぼやけていく、その刹那――

 

 

「MIKOOOON……!」

 

 

 私を襲っているモノの、そのいまわしい正体を知った。

 

 

 

 

 

 それからのことは、あまり覚えていない。

 

 霊基保管室で倒れていたところを発見された私は、数日間、意識が戻らなかったらしい。

 

 六百年後のカルデアがどうなっていたか質問攻めにあったが、私は覚えていないと言い張り、見聞きしたことを誰にも明かさなかった。

 不幸にも、未来のカルデアにおけるおぞましい真実に気づいてしまったからだ。

 

 あの黒いもやに覆われた存在。

 あれは、サーヴァントたちのなれの果てだった。

 それも、ただのサーヴァントではない。過酷な周回を行っているサーヴァントたちだったのだ。

 

 おそらく、六百年が経過するうちに、周回適正を持つサーヴァントと、その他のサーヴァントとの労働環境の格差が広がったのだ。

 

 増え続ける新加入のサーヴァントを強化するため、周回は激化の一途をたどっていったのだろう。

 そして、周回に駆り出されるサーヴァントたちは、過重労働によって自我が摩耗し、ついでになぜか地下へと追いやられ、いつしか種火と素材を集めるだけのシステムのような存在に成り下がってしまったに違いない。

 

 一方、戦わなくても強化されるサーヴァントたちは働くこともなく、だんだんと退化していった。その結果が、リヨ化した姿だったのだ。

 

 未来のカルデアは、決して楽園などではなかった。

 過労サーヴァントの犠牲によって成り立つ、見せかけのユートピアだったのだ。

 

「アルテラさん、大丈夫ですか? 元気ないですねぇ」

「ああ、心配ない、玉藻」

 

 私は無理に笑顔を作ったが、あまりのいたたまれなさに、この友人の顔をまともに見ることはできなかった。

 

 過去に戻る着前、最後まで私を追ってきた存在。

 

 それは、六百年後の彼女に他ならなかったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで、アルテラさん。最近、変な噂が流れているんですよ」

「噂? どんなものだ、玉藻」

「アルテラさんが未来から戻って来たころから、召喚した記録のないサーヴァントが目撃されているらしいんです。ネグリジェを着た星1アサシンなんですけど、何か御存知ですか?」

「ネグリジェのアサシン……」

 

「? いや、全く心当たりがない」

 




FGO6周年おめでとうございます。

次話の投稿は、12月ぐらいになるかなと思ってます。
よろしければ、またお読みください。
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