「その声は、我が友、虞美人ではないか?」   作:銃病鉄

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そろそろ、あの有名作品もパロディしたいな
→じゃあ、メロス役とセリヌンティウス役はこの二人で
→よし、書けた。……!?

そんな過程でできたのがこちらです。
太宰治先生も草葉の陰で泣いてしまうような内容になりましたが、それでもよろしければお読みください。


「走れテスラ!」

 テスラは激怒した。

 

 必ず、かの邪知暴虐(じゃちぼうぎゃく)の発明王を除かなければならぬと決意した。

 

 テスラには政治が分からぬ。ただ科学に打ち込み、ハトに餌をやって暮らしていた。

 けれども電流については人一倍に敏感であった。

 

 この日、テスラは研究所を出て、メンロパークの街にやって来た。

 彼は友人の発電装置を修理する約束をしており、その部品を街で買い集め、それから大通りをブラブラ歩いた。

 

 テスラには竹馬の友があった。エレナ女史である。

 この街に住むエレナを、テスラはこれから訪ねるつもりであった。

 

 歩いているうちに、テスラは街の様子を怪しく思った。

 街のそこかしこから、邪悪で、退廃的で、胸をムカムカさせるようなおぞましい空気を感じる。

 

 街中の電流が、あからさまに直流へと置き換えられているのである。

 

 テスラは近くを歩いていた老爺(ろうや)をつかまえて質問した。

 何があったのか。たしか、この街の電流は全て交流が採用されていたはずだが、と。

 

「王様は、交流を嫌っています」

 

 老爺はあっさりと答えた。

 

「交流を廃止し、直流を使っているというのか」

「最初は、自分の部屋の電流を直流に変えました。その次は城の電流を、それから街全体を」

 

 テスラはあまりの暴挙に愕然とした。

 

「驚いた。王は悪鬼か」

「交流を信じられぬと言うのです。王によれば、交流は邪悪で、退廃的で、胸をムカムカさせるようなおぞましい空気があると……」

「凡骨ブッ殺す!」

 

 聞いて、テスラの中に憤怒の炎が燃え上がった。

 テスラは賢い男であったが、交流をけなされると途端にIQが下がる傾向があった。

 

「呆れた王だ。生かしておけぬ!」

 

 そのままテスラは城へと入っていき、たちまち王の機械化歩兵に捕縛された。

 すぐに彼は王の前へと連れていかれた。

 

「貴様は何をするつもりであったか。言うのである!」

 

 発明王エジソンは、静かに、けれども威厳を持って問い詰めた。

 その顔は真っ白で、長いたてがみはライオンのように雄々しく波打ち、その口からのぞく牙はライオンのように鋭かった。

 

 つまり、顔がライオンそのものだった。

 

「街の交流を暴君の手から救うのだ!」

 

 テスラの言葉に、エジソンは憫笑(びんしょう)を浮かべた。

 

「交流だと? 貴様には、直流の良さが分からん。そんなことだから生涯独身なのだ」

「言うな!」

 

 テスラはいきり立って反駁(はんばく)した。

 

「発明王よ。貴様は哀れだ。頑迷で非効率的だ。まるで直流のように! いずれはみじめに没落するだろう。まるで直流のように!」

「なんだとこのヤロー!?」

 

 それからしばらく、二人は知性をどぶに捨てた悪口の応酬を繰り広げたが、やがてエジソンは息を荒げながらテスラに怒鳴った。

 

「とにかく貴様は罪人である! 私に対する反逆罪として罰金を払わせる。そして直流を侮辱した罪で、我が城の頂上に飾りとして串刺しにしてやる!」

「ああ。私は死ぬ覚悟でここに来た。命乞いなどしない。ただ、――」

 

 テスラは言葉を切り、足元に視線を落としてためらった。

 

「ただ、私に情けをかけるのなら、処刑までに二日の猶予を与えてほしい。友人の発電装置を修理する約束があるのだ。二日のうちに、私は必ずここへ戻ってくる」

「馬鹿な」

 

 エジソンはフンと鼻を鳴らした。

 

「とんでもない嘘をつく。逃がした小鳥が帰ってくるというのか」

「そうだ。帰ってくるのだ」

 

 テスラは必死で言い張った。

 

「私は約束を守る。嘘だと思うのなら、よいだろう、この街にはエレナというオカルト学者がいる。私の無二の親友だ。彼女を人質にするとよい」

「ふむ、エレナ君か」

 

 エジソンはしばらく黙って考え込んでいたが、やがて重々しくうなずいた。

 

「願いを聞いてやろう。二日目の日没までに帰ってくるのである。遅れれば、身代わりのエレナ君に罰を受けてもらう」

 

 そう告げたエジソンは、次の瞬間、意地の悪い顔でほくそ笑んだ。

 

「ちょっと遅れて帰ってくるがよい。そうすれば、貴様の罪は永遠に許してやるのである。まあ、言わずとも社会性ゼロのすっとんきょうに時間など守れるわけGAaAAAA!?」

「おっと、電気がすべった」

 

 数刻の間、理性のかけらも感じられない取っ組み合いが行われたが、そうこうしているうちにエレナが城へと到着した。

 

「またやってるの? あなたたち」

 

 心底うんざりした声で問うエレナに、エジソンとテスラは互いの顔を指差しあった。

 

「この悪鬼が悪い!」

「いいや、このすっとんきょうが諸悪の根源である!」

 

 それからケンカを再開しようとする二人の間に、エレナが割って入った。

 

「やめなさーい! 事情は兵士からもう聞いているわ。身代わりになってあげるから、テスラは早く行きなさい。友達との約束は破っちゃだめよ」

「すまないレディ。必ず戻る」

 

 そしてテスラは脇目も振らず、城を飛び出していった。

 それを見送った後、エレナは隣に立つエジソンの顔を見上げた。

 

「エジソン。彼が間に合わなければ、本当に私を処刑するのかしら?」

「まさか! そんな暴君のようなマネをすると思われるのは心外である!」

 

 エレナの問いかけを、エジソンは大声で否定した。

 

「じゃあ、彼が間に合わなかったらどうするつもりなの?」

「無論、大々的に宣伝するのである! フハハハハ!」

 

 さも愉快だと言わんばかりに、エジソンは肩を震わせて笑い声を上げた。

 

「三日後の朝刊にはこんな記事が載るであろう。交流の発明者が、いたいけな少女……失敬、可憐なレディを見捨てた、とな。そうすれば、交流のイメージはガタ落ちである。私の巧妙なネガティブキャンペーンの結果、人々はおのずと交流よりも直流を望むようになるであろう。すなわち、私と直流の勝利である!」

「あー、はいはい。もう、あなたたちの気が済むまでやりなさいな」

 

 

 

「うむ。これで修理は完了した」

「おう、相変わらずゴールデンな腕前だな」

 

 あれからテスラは眠る時間も惜しんで走り続け、翌日の午前に友人の家へと到着した。

 友人は疲労困憊した彼の姿に驚いたが、テスラは「なんでもない」と笑い、あっという間に発電装置を修理した。

 

「以前よりも完璧で高性能な発電装置だ。もちろん交流電源を採用した」

「助かるぜ。けどよぉ、顔色が悪いなアンタ。そんなに急いでくれなくてもよかったんだぜ? しかも、これからすぐに出発するなんて無茶ジャン」

「止めてくれるな、ゴールデンブレイブ! 私を待っている友がいるのだ!」

「分かった。わけは深く聞かねえよ。けど、さすがに一休みしないと体がもたないぜ」

 

 本当はすぐにメンロパークの街に戻りたかったテスラだが、友人の指摘は正しく、体力が尽きかけていた。

 彼は友人の家に泊めてもらい、死んだように深く眠った。

 

 目が覚めたのは翌日の薄明のころである。テスラは驚いて跳ね起きた。

 ジーザス、寝過ごしたか。いや、まだ間に合うはずだ。必ずエレナとの約束を守らなくては。

 そう固く決意したテスラは、矢のように友人の家を飛び出した。

 

 ただひたすらにテスラはメンロパークに続く道を駆け、ようやく半分ほど戻った時である。

 突然、彼の前に三人のサーヴァントが立ちはだかった。

 

「待ちたまえ。コヨーテのごとく駆ける男よ」

 

 三人の先頭にいた男、ナイフを手にしたアパッチのキャスターが言う。

 

「何をする。私は陽の沈まぬうちに街へと行かねばならないのだ!」

 

 もどかしさにテスラは怒鳴るが、彼らは道を譲ろうとしなかった。

 

「持ち物を全て置いていってもらおう」

「私から何を奪うつもりだ。今の私には、命と輝く知性の他には何もない」

「知性はともかくとして、命は欲しいのだ」

「さては、悪鬼の命令で私を待ち伏せしていたか!」

 

 返事は、彼に向けられたナイフだった。

 

「へーへー。それじゃやりますか。しっかし、なんで俺らはこんな野盗みたいなことしてるんですかねぇ」

「いいじゃない、グリーン。これはこれで、アウトローって感じでさ」

 

 キャスターの背後で、二人のアーチャーも弓と拳銃をかまえる。

 

「二人とも、気をつけろ。彼はスキルでNPを貯めて、天地特攻の全体宝具を連発してくるぞ。私たちは人属性なのが幸いだが、ガッツで粘られると厳しいところだ。できればランサーがいて欲しかったが、しかたがないか」

「……さっきから何を言ってるの、ジェロニモ?」

 

 テスラは覚悟を決めた。

 

「気の毒だが正義と交流のためだ!」

 

 激しい戦いだった。

 矢と銃弾、電流が飛び交い、太陽がテスラを焼いた。だが、テスラは一瞬の隙をついて、なんとか三人を振り切ることができた。

 

 しかし、さすがにテスラも限界だった。

 幾度となくめまいを感じ、一歩踏み出すたびに疲労がベッタリと足にまとわりついてくる。

 

 あきらめてしまおうか。

 

 一瞬浮かんだ考えを、テスラは頭を激しく振って追いやった。

 

 

「ああ、ああ。テスラよ。星の開拓者たるテスラよ。

 今ここで、全てを投げ出してしまおうとするとは情けない。

 まだ歩ける。行くのだ。

 テスラよ、殺されるために進むのだ。

 エレナが待っている。私を信じて待っている。

 私は信頼に報いなければならぬのだ。

 愛と誠と交流の力を、あの発明王に証明してやるのだ。

 走れテスラ!」

 

 

 以上のセリフを自己陶酔の極みで叫びながら、テスラは全力疾走した。

 

 道行く人々を押しのけ――と言うより、わけの分からないことを叫び高笑いしながら走るテスラに、誰もが関わり合いになるのを避けて自発的に距離を取った――黒い風のようにテスラは走った。

 野原では、とある自称アイドルが行っていたゲリラライブの、その会場の真っただ中を駆け抜け、ヴォーカルを仰天させた。

 西へと向いて沈みゆく太陽の、十倍も速く走った。

 

 そして、陽が地平線に没し、まさに最後の一片の残光も消えようとしたとき、テスラは疾風のようにメンロパークの刑場へと突入した。

 

 刑場の中央では、エジソンとエレナが和やかに談笑を行い、多くの市民と呼び集められた報道陣がその様子を眺めていた。

 

「待て! テスラが帰って来たぞ。約束の通り、帰って来たぞ!」

 

 テスラが群衆をかき分け、声を振り絞って告げると、刑場にいた人々はどよめいた。「あっぱれ」「ゆるせ」「交流はいい文明」、そう口々にわめいた。

 

 テスラは約束を果たしたのである。

 

「レディ、私を殴ってくれたまえ」

 

 親友の顔を正面から見つめて、テスラは言った。

 

「私は途中で、一瞬でもあきらめることを考えてしまった。このままでは、私はレディの友である資格がないのだ」

 

 エレナは少しためらってから、「しょうがないわね」という風に微笑んでテスラの右頬を殴った。

 

「それならテスラ、あなたも私を殴りなさい。私も二日の間に一度だけ、あなたのことを疑ってしまったわ」

「う、うむ。さすがに、それは……」

「いいから殴りなさい。私に、あなたの友達をやめさせるつもり?」

 

 こうなるとエレナが頑固なことを知っていたテスラは、しかたなく、コツンと遠慮がちにエレナの頬にこぶしを当てた。

 

「……テスラ」

 

 その様子をじっと見つめていたエジソンは、静かに二人に近づいて声をかけた。

 

「紳士として認めなければいけないようである。貴様が、見事に約束を果たしたことを」

 

 発明王の異名にふさわしい堂々とした態度でエジソンは宣言した。

 

「テスラの罪は不問とする。そして、電流に直流を使うか交流を使うか、今後は個人の意思によって選ぶといい」

 

 王の言葉に、群衆の間でドッと歓声が上がった。

 

「それだけでなくて、テスラが私を見捨てたなんて記事は出さないようにね」

「うむ。そんな内容の記事は出さないとも。紳士として誓う」

 

 こっそりとエレナがエジソンに釘を刺す一方、これまで体力の限り走り続けたテスラは限界を迎えた。

 彼は達成感に満たされながら意識を手放し、それを見たエレナが慌てて医者を呼ぶ。

 

 興奮する人々の中に、エジソンがニヤリと意味深に口元を歪ませていることに気づく者はいなかった。

 

 

 

 翌日、グッスリと寝て疲れを癒したテスラは、メンロパークの街を歩いていた。

 これからどうするか。もし(よこしま)な直流に魅入られた人がいれば、こっそり交流に置き換えてでも救済しなければ。

 

 そんなことを考えているうちに、テスラは街の様子を怪しく思った。

 すれ違う通行人の誰もが、彼に目をやってヒソヒソと話をしている。無論、人類一の碩学たるテスラが注目されるのは当然だが、それにしては人々の視線が冷たい。

 

 疑問に感じていたテスラだったが、ふと、街のあちこちに一枚の紙が貼られているのに気づいた。

 それは今朝の朝刊に載ったばかりの記事で、次のようなことが書かれていた。

 

“『科学者T氏、少女に暴行を働く?』

 

目撃者E氏の証言

「私は見た。先日の刑場において、交流電流の発明者Tが可憐なレディの顔を殴打したのである! 許しがたい行為だ。この蛮行が示すのは、彼が開発した交流が、いかに危険で野蛮なものかということである。それに比べ、私の直流は――(以下、直流への賛美が続いたため省略する)」”

 

 

 

 テスラは激怒した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――かくして電流戦争の第二幕は始まったのです。ポロロン♪」

「トリスタン。どうしたのですか、唐突に弾き語りを初めて」

「ああ、ベディヴィエール。急に頭に浮かんだのです。大きな悲しみと共に。なんだか、私の活躍の機会が失われてしまったような……」

 

(なぜか分かりませんが、円卓の名誉が損なわれる寸前だったような気がします)




あ…ありのまま今起こったことを書きます。
自分はトリスタンをメロス役にしてパロディを書いたと思ったら、配役がごっそり変わって、いつの間にかテスラが主役になっていました。
な…なにを書いているのか分からないと思いますが、自分も何が起きたのか分かりませんでした。
いきあたりばったりとかプロット変更とか、そんなチャチなものでは断じてありません。
もっと恐ろしいものの片鱗を味わいました。
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