師匠、弟子、賢者の三視点によるショタおねラブコメになり損ねたファンタジー短編。

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昔書いた短編を修正したものです。


最近弟子の様子がおかしいんだが

「最近弟子の様子がおかしいんだが」

 

 そう話を切り出した私は、昔からの知人と向き合ったまま茶を啜った。うん、旨い。このお茶も件の弟子が淹れてくれたのだが、旨すぎてお茶にこだわりの強い私が王都の名店まで赴かなくなって久しい。

 ちなみにその弟子には先ほど課題を出したばかりなので、しばらく戻らないだろう。

 

「おかしい~? どうしたんだ? お前の話を聞く限り、理想の弟子じゃないか」

「まあ、そうなんだが……」

 

 素直で努力家、純粋で師匠である私を心から慕ってくれている。才能にも恵まれていて、教えたら教えた倍以上の成果を出し、なおかつその先の伸びしろまで見せる逸材。家事などの雑務も自らすすんでこなし、そのどれもが高クオリティという……まさに理想を具現化したような弟子である。少々真っ直ぐすぎるきらいはあるが、些末なことだ。

 

「おかしいというのが、修業後のおねだりのことでな」

 

 おねだり。そんな言葉が似あうほど、弟子はまだ幼い。年齢もそうだが、全体的に見てまだまだ子供である。可愛い子だ。

 

 強くなりたいんです! そう言って山奥にある私の隠居小屋に弟子が押しかけてきたのが二年前。彼が十二歳の時であり、今年で十四歳になる弟子は私の言うことをよく聞いて修業に励んだ結果もっの凄く成長した。若干私が引くくらい成長した。おそらく山の下の方で幅を利かせている魔王軍やら悪の組織やら、力だけでなら幹部程度を片手で軽くひねりつぶせる程度には強くなっただろうよ。

 そんな彼に修業をつけるにあたって、私はモチベーションが低下しないように修業後にご褒美を用意するようにしていた。引き受けたからにはちゃんと育てたかったからな。私なりに教育方針を考えたのだよ。……その結果がご褒美を用意するという安易なものであるあたりに、教育者としての私の底の浅さが知れるが。まあ弟子はその方針で伸びてくれたので問題ない、そのことに関してはオーケーだ。

 

 しかしはて、それのご褒美の内容を弟子が自分でねだりだしたのはいつのことだったか。

 

 ぼやけば対面に座った知人は面白そうに身を乗り出す。

 

「それで、何を要求されたんだ? 金か? 強力な魔道具か?」

「いや、違う。おかしいと言っても、力を手に入れて傲慢になったとか物欲が出たとかではないんだ」

 

 私の小屋の地下には昔集めた金銀財宝や魔道具の類がごろごろしているが、そこの掃除を任せるようになってからも弟子がそれらに興味を示したことなど一度もなかった。当然、ご褒美で要求されたこともない。

 

「では、何だというんだ」

「……なんというか、幼子のようなことを言う」

「うん?」

「添い寝してくれだの、抱きしめてくれだの言ってくるのだよ。両親を幼いころに亡くしたというから寂しいのだろうか……」

「…………うん?」

 

 知人は一瞬停止したかと思うと、お茶を口にふくんでからもう一度聞き返してきた。

 

「成長期というやつか、最近は立派な体格になってきたというのに言うことがどんどん子供じみてきている。しかし修業は真面目にこなしているし、注意すべきか悩んでな」

「あ~……あー……。うん、そうか」

 

 知人は少々考えるそぶりを見せると、いくつか質問をしてきた。私がそれに答えていくと、何故だか知人の視線が段々と生ぬるいものへと変化していく。それを気味悪がった私が質問を返しても、はぐらかすように話題をそらすばかりだ。

 

 いい加減苛々してきたので問い詰めようと、知人の胸ぐらを掴んだときだった。

 

「おい、はっきり答えたらどう……」

「失礼しますお師匠様! ただいま帰りました!」

 

 弟子が帰宅し、勢いよく室内へ入ってきた。そしていつも眩しいくらいの笑顔が私と知人を見るなりこわばる。

 

「……。いらっしゃいませ、賢者様」

「おう、久しぶりだな弟子男(でしお)くん」

 

 妙な間を挟んだ後に普通に挨拶をした弟子に知人も気さくに挨拶する。この男は(ちまた)で賢者などというたいそうな名で呼ばれており、弟子もそうやって呼んでいた。対して知人は弟子のことを弟子男(でしお)などという奇妙な呼び方をする。

 ちなみに私にも不本意な通り名があるが、まあそれはどうでもいい。

 

「早いな。暗黒龍の首はとってこられたのか?」

 

 弟子に出していた課題の成果を問うと、横で知人が「ちょ、おまっ」とドン引きしていた。まあ暗黒龍といったら吐息(ブレス)一発で町くらい滅ぼせる最強クラスの龍だからな……。だが、この弟子の成長をなめてはいけない。もうこれくらいの課題でなければまったく修業にならないのだ。強くなりたい理由を問うたことは無いが、そろそろ聞いてみたい。誰かを倒したいとか魔物の脅威から守りたいものがあるとか、復讐したいとか。理由も聞かず、ただあんまりにもしつこく頼み込んでくるからなんとな~くで請け負った私にも問題があるだろうが、それほど極めて何故まだここに居るのかと心底疑問である。幼さはともかく、実力だけでいうならとっくに独り立ちをしていいころあいだ。まだ足りないとでもいうのか。今なら一国の英雄になることも容易だろうに。

 

(そろそろ課題を考えるのもしんどい……というか、んん? 早くないか? 流石に)

 

 出かけさせてからまだ二十分も経っていないのだが……。ティーコーゼをかぶせてあるとはいえ、まだ弟子に淹れてもらったポットのお茶が温かい。いくらなんでも早すぎる。

 

「もちろんです! その場で解体するのは難しかったので丸ごと持ってきました。ふふふっ、ちょうど近くに居たので仕留めるのは簡単でしたよ!」

「え、この近くにいる暗黒龍って……。もしかして魔王軍の龍将ドランバルドの相棒じゃ……」

「こら、人のものに手を出しては駄目だろう!」

「いやいや、そういう問題じゃなくね?」

 

 隣で知人がつっこみを入れてくるが、こういうことは早めに叱っておかなければ。魔王軍だか何だかは知らないが、他人の所有物に手を出すのは後々面倒なんだ。なので少しキツめにたしなめると、輝いていた弟子の表情が曇る。

 

「すみません……。でも暗黒龍の生息地まで行ったら、お師匠様にしばらく会えなくなるじゃありませんか」

「むう……。それも含めて修業だったのだが」

 

 暗黒龍の生息地は八つの山を越えて毒の海を渡り、氷河と荒野と砂漠を挟んだ先にある。どれくらいで戻ってこられるかで弟子の現在の実力を測ろうとしたのだが……。今の話を聞く限りだいぶ近場じゃないか。修行にならんわ。

 

「えっと……。あらためて確認するけどお前ら魔法使えないよな? なに、生身でその修行内容達成するのは前提なの? マゾなの?」

「お師匠様の修業を受けさせていただいたのなら、これくらい出来て当然ですよ」

 

 弟子が誇らしげに胸を張って言う。しかし課題を出した私が言うのもなんだが、それ普通じゃないからな。

 

「それで、お師匠様。意図をくみ取れなかったことは反省します。だけど「暗黒龍を狩ってこい」という課題自体はクリアですよね?」

「まあ、しかたがあるまい。合格だ」

「やったー!」

 

 外を見れば弟子が引きずって来たであろう龍の死体が虚ろな目をして転がっていた。知人はそれを見て物欲しそうにしていたので、仕方がないから後で鱗くらい譲ってやることにする。魔法使いである知人にとっては最上級の材料だろうからな。

 私たちは食える肉があればそれでいい。あれだけでかいなら結構喰いでがあるし、中でもほほ肉は絶品だ。後で赤ワインと塩で漬け込んでおくとしよう。ちょうど庭のハーブも肉によく合うものが育ってきているし、それで臭みもとるか。

 

 私が龍の調理法に思いをはせていると、弟子が何やらそわそわしている。

 

「どうした?」

「あの、お師匠様……。今回のご褒美、今ここで頂けませんか?」

「別に、構わないが」

 

 弟子が太陽のような輝かしい笑みを浮かべた。そのきらきらしい陽の気に思わず一歩下がる。可愛いがやめろ、私は陰キャなんだ。

 

「何が望みだ?」

 

 恐る恐る聞くと、弟子は止める間もなく私の首根っこに飛びついて引き寄せるなり言った。

 

「ちゅーしてください!」

「ぶっ」

 

 知人が口に含んでいた茶を噴いた。しかしその程度のおねだりは日常茶飯事なので、やれやれと思いながらも弟子の額にかかる柔らかい前髪をかきあげて唇を寄せる。母親になどなったことは無いが、こんな気分なのかもな。呆れはするが、愛しさゆえに抵抗はない。

 

 が、しかし。

 

「駄目ですよ、お師匠様。口にしてください」

 

 何か弟子が無茶ぶりしてきた。

 

「いや、口はダメだろ」

 

 主に私の倫理観的にアウトだ。相手は未成年である。しかも弟子の様子を見るにファーストなかんじのキッスではなかろうか。いくら慕ってくれているとはいえ、そんな大事なものは奪えない。

 それに弟子は今「今ここで」と言った。つまり知人も見ている目の前でしろ、というわけだ。……私の中身の年齢を正確に知るこいつに見られたら「うわ、犯罪。引くわ~」と一生言われ続ける。それは嫌だ。

 

 しかし弟子は引かない。最近気づいたのだが、素直なくせにこの子は押しが強いのだ。そして私は押しに弱い。

 

「……。では、お前からしなさい」

 

 結局私が折れることになる。私からするのは本当に無理なので、「自分からは恥ずかしくて無理なんじゃないかな」という一抹の希望を抱いて提案した。が、弟子のメンタルは強かった。

 

「!?」

「うわ、濃厚! ひゅう~! やってんね~!」

「殺すぞ」

「おぐっ!?」

 

 出来たとしてもせいぜい小鳥がついばむ程度の可愛いものだと思っていたら、これでもかというくらい舌で口の中をまさぐられた。ちょ、おま、何処でそんなもの覚えてきたんだ!!

 すぐに突き放し口笛を吹き茶化す知人の腹に蹴りを叩き込んでやったが、その私の首にするりと弟子の腕が絡んできて思わずゾクリとする。それは当然性的なあれではない。私はショタコンじゃない。これは強者に対する体の警鐘だ。

 

 …………私はこの子の強さを正確に測れていただろうか?

 

「ふふふ! お師匠様、だ~い好きです!」

 

 幼さを装ったその声色が恐ろしい。なんかこう、あれだ……。

 

 

 

 最近弟子の様子がおかしい。

 

 そのおかしさの方向性にやっと気づいた私は、教育方針よりどうやってこのガキを思いとどまらせるかで頭を悩ませることとなる。

 

 

 

 

 

 

 

++++++++++++++

 

 

 

 

 

 

 

 俺には尊敬するお師匠様がいる。

 今は魔物が跳梁跋扈する物騒な世の中だけど、俺は世界を見てみたかった。そのためには力が必要だと思い、眉唾物かもしれない噂に一縷の望みをかけて「武神」が住むと噂される山に登ったんだ。

 

 ぼろぼろになって山頂にたどり着いた俺を待っていたのは、どこにでもいそうな普通の若い女性だった。やっぱり噂はデマだったのかと落ち込んでいた俺だけど、そこで俺は信じられないものを目にする。

 彼女は山中で俺を追い掛け回してここまで追ってきた凶悪な魔物を、拳ひとつで肉塊に変えて見せたのだ。巨大な鉄の塊でもぶつかったのかというほどの衝撃でもってはじけ飛んだ魔物を見た俺はすぐに「強くなりたいんです!」と土下座して彼女に弟子入りを申し込んだ。

 最初こそ渋っていた女性も、俺が無理やり住み着いて身の回りの雑用を引き受け始めると諦めたようで弟子入りを承諾してくれた。

 俺のお師匠様はあんなに強いのに意外と押しに弱い。

 

 それからの修業の日々は、正直死ぬかと思うことが何度もあったけれど楽しかった。

 その中で俺のお師匠様に対する感情が変化していったのはいつごろからだろう。覚えていないから、もしかしたら出会った時には好きだったのかもしれない。あのたおやかな手が唸りをあげて魔物を屠った瞬間、俺の胸は熱く高鳴っていた。

 なるほど、あれが一目惚れか! 俺、今理解!

 

 お師匠様は俺が課題を達成すると必ずご褒美をくれた。それは時と場合によっていろいろだったけど、いつしか俺は自分でその内容を指定するようになっていた。その内容というのが添い寝だったり抱きしめてもらうことだったり、膝枕だったりと我ながら結構あからさまだったと思う。けど師匠にとって俺は子供でしかないのか、それらはすべて受け入れられた。

 きっと甘えてるだけだと思ってたんだろうなー……。抱きしめてもらう時とか、ちゃっかり胸に顔をうずめたり腰を撫でてみたりしてるのに全っ然反応ないもんな。役得だけど落ち込む。

 

 しかし俺も男。でもって思春期! めっちゃ思春期!!!!

 

 最近うぬぼれでなく師匠の強さに追い付いてきたことだし、そろそろ我慢の限界だ。時々訪ねてくるお師匠様の昔からの知人だという賢者様が居るのだが、どうにも嫉妬が収まらない。今日だってお師匠様が俺が留守の間にどこぞの馬の骨にかっさらわれないかと気が気じゃなくて、ズルと知りつつ急いで課題をこなして帰ってきた。そして扉を開けた瞬間目に飛び込んできたのは、賢者様の胸ぐらを掴んだお師匠様。その間に甘い空気がないことはわかっているけど、近いんだよ! 距離が!

 だから見せつけてやろうと思って、ご褒美には唇への口づけを要求した。お師匠様にも意識してもらえて一石二鳥ってね! 

 そして俺からしていいと許可されたのをいいことに、思いっきり深いのをお見舞いしてみた。子供のキスじゃない、大人のキスだ。さすがにこれで意識されないことはないだろ! と有頂天になりながら。

 

 

 …………早まったかもしれない。

 

 

「お師匠様、今日は一緒に寝てもいいですか?」

「いや、お前も大きくなったんだし一人で寝なさい」

 

 意識はしてもらえたようだ。けど防御力が跳ね上がった。

 最初にご褒美で要求して以来、お願いすればご褒美じゃなくても一緒に寝てくれたのに。ちくしょう、俺の癒しが!! クッソ! 早まった!! マジ早まった!!

 

「僕、お師匠様が大好きです!」

「ありがとう。私も好きだよ弟子として」

 

 弟子として、をとても強調されるようになった。でも壁を作ろうとしているわりに、めちゃくちゃ意識してもらえてることが凄く良くわかる。よし! よし!! いいぞ!! これはいい!!

 山奥で隠居する師匠に恋愛の経験値少ない事は分かったしそれは嬉しいんだけど……師匠、俺より年上なのに初心すぎだよな。目ぇ泳ぎ過ぎだし顔に出すぎ。ふっふん、このまま押していくか。

 にしても師匠、山に引きこもっててよかったよな……。下手に町にでも住んでたら今頃どこぞの馬の骨に食われていたかもしれない。師匠が嫌がれば相手は挽肉になって終わりだから無理だけど、師匠はあれで騙されやすい。俺のぶりっ子に気づかないのがいい例だ。

 

 そういえば以前賢者様を問いつめたところ、お師匠様の実年齢は俺と十もはなれていないらしい。けど賢者様とそろって前世の記憶なるものを持っているだとかで、本人たちの意識とすれば自分たちは年寄りなんだとか。なんのこっちゃ。

 でもそれが俺のあからさまな好意に気づかず、気づいた今もなかなか受け入れてくれない原因かもしれない。内面的に年齢差がありすぎて、ほんとーに意識してもらえてなかったんだろうなぁ。気にしなくていいのに。少なくとも俺は気にしない。

 

「まあ、察してやれよ。外見年齢もそこそこ、内面的にはかなりいい歳した奴がぴちぴち十四歳に手を出すのはどう考えても犯罪臭いって~」

 

 賢者様がそんなことをほざいていたが、そんなの関係ない。師匠は押しに弱いから、きっとこのまま行けば押し切られてくれるはず! 一つ屋根の下という優位性のある俺に死角はない。

 後ろからぎゅっと抱きしめてみたり、朝起こす時に耳元でささやいてみたりちょっと舐めてみたり、偶然をよそおってお風呂でばったり遭遇してみたり、わざと見せつけるように師匠の下着を洗ってみたり、これだけしてれば師匠の中での俺への認識は子供から異性に変わりつつあるはずだ!

 

「俺、弟子男くんの方が犯罪者じみて見えてきた。え、いや、つーか普通に怖っ!」

「失礼な! 愛ですよ、愛!」

「その歪んだ愛どこで知識を得てきたの?」

「自分で一生懸命考えました!」

「ダメだこの子早くなんとかしないと」

 

 ウルセー! 俺のは純粋な愛情表現なんだよ文句あるか! こちとら必死なんだよ!

 

 そういえば以前暗黒龍を奪った魔王軍の将が顔真っ赤にして山に攻め込んできたな。全部すりつぶしたからいい山の肥しになったぜ。俺と師匠の愛の巣に入ってくるなんていい度胸をしている。

 

 以前は怖くてしかたがなかった魔物だの魔王だのも、師匠に受けた修業を思えば負ける気がしないし実際負けなかった。というか師匠との生活を脅かす要素としてそろそろ目障り。そのうち適当に拠点をつぶして見せしめにしてやろうかな。少なくともそうすればこの近くで暴れるようなことはなくなるだろうし。

 

「弟子男くん、お前って子はどこ向かってるの?」

 

 賢者様がぷるぷる震えながら問うてきた。そんなの、聞かれるまでもない。俺の心はお師匠様へ一直線に決まってる!

 

 

 ふっふふふ。さてさて、先日の口づけから始まった俺のけなげな愛情表現とお師匠様との攻防が始まって数日経った。

 今日は師匠から免許皆伝をもらうための課題をもらえたぞ。何でも魔王を倒せばお前がナンバーワンだ、らしい!

 

 

 

 これを成し遂げた暁にもらえるご褒美はすでに決まっている。

 

 

「お師匠様、僕のお嫁さんになってください!」

 

 

 俺が帰ってくるまでに花嫁衣裳と式場の予約をお願いしますね! いってきます!

 

 ひゃっほう! 魔王、俺たちの幸せの礎になって死ね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

+++++++++

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ファンタジーな世界に生まれ変わって早二十数年。現在賢者と呼ばれる俺と、武神という物騒な通り名のついた友人は前世……地球という星で生活していた転生者だ。

 最初はまさかのミラクルにはしゃぎまわって、それぞれ道を究めてしまった俺たち。だが早々にその中二的黒歴史にピリオドを打って隠居した。

 いくらファンタジーな世界に浮かれていたとはいえ、冷静になってみればかなり恥ずかしい過去を作ってしまったものだ。隠居した後で魔王とか出てきたけど関係無い無い。俺たちは世間に背を向けて自由気ままな引きこもり生活にシフトしたのである。

 

 そんな中で、あいつに弟子が出来た。

 

 転生特典なのか、無駄にチートな俺たちと違って純粋培養なこの世界の人間であるお弟子君は最初こそ強くなるため苦労した。けど成長は目覚ましいもので、ぐんぐんとあいつから技術を吸収していった。

 あいつは知らないが、この世界って俺が前世でプレイしていたRPGゲームにそっくりだったんだよね。んでもって、弟子男くんってそれの主人公にそっくりだったんだよね。

 知らぬ間に主人公の師匠になり、それも魔法とか使わない豪傑スタイルに仕上げたあいつ。そんな友人が最近色気を出してアタックしてきている弟子男くんから逃れるために出した最終課題が、そりゃあまあひどかった。

 

 魔王倒して来いってさ。

 んでもって、弟子男くんはそれが出来たらあいつに嫁になれってさ。

 

 え、魔王ってそんな理由で倒されちゃうの? 勇者ってそんな色ぼけた理由で世界救っちゃうの? これは酷い改変だ。しかしいいぞもっとやれ。元ネタ知ってる俺としては超楽しい。

 あいつとしては一時もそばを離れない弟子男くんが旅立った隙に雲隠れするつもりらしいけど、弟子男くん、多分雑魚戦全部すっとばして魔王の首だけ盗ってくると思うぞ。きっといい笑顔で卑怯なことも平気でするだろうから、それはもう最短コースで。んでもってお前の居場所をいつでも検索できる超ハイスペック魔法使いで賢者な俺は敵に回したら怖すぎる弟子男くんの味方だから、そろそろ諦めればいいと思うよ。犯罪臭いとか青いこと言ってんなよ。お前も弟子男くん好きだろ? それにオネショタ最高じゃないか。あ、やべ本音、てへぺろりんぬ。

 

 

 でも傍観して楽しみつつも、実はちょっと羨ましい。…………あいつはこの世界でやっと家族が持てるんだな。

 お互い、転生だ何だで最初は苦労して家族親類関係はズタズタだったからなー……いや、強すぎる力の代償と未熟な心ってのは、怖いね。でも、そろそろ新しいステージへ行っていいころかもな。俺もあいつも。

 

「いいな、隠居生活もそろそろ飽きたし俺も弟子でもとってみるか」

 

 ちなみに巨乳でツインテで照れ屋な女の子だと嬉しいな! ツン属性もあるともっと嬉しいぞ!

 

 

 俺は新しい生活に思いをはせると、燃えるように輝く綺麗な夕日を見て笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……………………………。ああ、あれ、夕日じゃなくて燃えてる魔王城か。

 

「さて、祝儀袋は何処だったかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【おまけ】

 

 

 我は魔王軍が将、龍将ドランバルドである。

 

 先日卑怯な勇者の手によって魔王城が陥落した。現在はなんとか逃げおおせた重症の魔王様を守りながらも、魔王軍の再編成を行い勇者を待ち受けている最中である。

 まったく、魔に属する我らが驚くほどにあの勇者の卑怯なことよ……。思い起こせばアイツに関する事で我の魔人生における忌々しい記憶が一位と二位が占められているではないか。一位は言わずもがな魔王城の陥落、そして二位は我は龍将と呼ばれる所以(ゆえん)であった愛する暗黒龍アルメレイダが奴に狩られたことだ。

 

『え、恨みとか特にないけど? ちょっと暗黒龍が必要なんだ。ちょうだい。よこせ』

『暗黒龍の首はどうしたって? ああ! 美味しく食べさせてもらったぜ! あれって目玉も美味いんだなー!』

 

 脳内で繰り返される奴の言葉に、我の怨嗟の炎は今でもたやすく燃え上がる。小僧、今度こそ、今度こそ負けぬ! 山で我を逃がすために散った部下やアルメレイダの仇である貴様を! 魔族の怨敵である貴様を!! 今度こそ八つ裂きにしてくれようぞ!!

 

 

 

「あそこ、編成が甘いのではないか? あれでは容易く突破される」

「むう、そうか?」

 

 勇者への恨みに思考を沈めていた我に声をかける者がいる。それはここ数日ですっかり我が軍になじみ、そして頼もしい助言をしてくれる女性のものだ。

 

「装甲の硬い魔物を配置して、一瞬でも動きを止めたところで呪術の軍団で呪いをかければよいだろう。あれはそういう術に耐性がない」

「なるほどな。しかし、よいのか? お主の大切な者なのだろう」

 

 容赦のない作戦を躊躇なく我に話すのは、ついこの間勇者と親しい間柄であるとの情報を得て人質に捕らえた女だった。女はおとなしく捕まったかと思えば、勇者に後れをとる我らに次々と助言を与えた。最初こそ耳を貸さなかったものの、段々と余裕のなくなっていく我らはついに女の作戦に耳を傾けた。そして苦肉の策で実行されたそれは、見事に勇者を撤退させたのである。

 

『是非とも厳しくいってくれ。私もかくまってもらう分喜んで協力しよう』

 

 事情は分からぬが、親しいながらもこの女性は勇者に会いたくないようだ。

 勇者の心理を読み切り、短い期間で数々の実績をあげた彼女は現在魔王軍でも参謀として、そして貴重な女性ということで多大なる支持を得つつある。かくいう我も身内に容赦せず豪胆な彼女には惹かれているのだが……むう、勇者との関係が気になるな。

 

 ともあれ、彼女の真意がいかなものであれ使えるものは使わせてもらう! そして勇者を打ち滅ぼすのだ!

 

 

 

 

 戦場を駆ける勇者は叫ぶ。

 

「師匠何やってんすかぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 傍観する賢者は呆れたように言う。

 

「逃げ込む先、そこ?」

 

 未だ弟子の想いに応える気のない師匠こと武神はつぶやく。

 

「ま、まあこれも修業だ修行。私の弟子ならこれくらい突破できねば~」

 

 

 

 この師匠、弟子の勝利条件である魔王の首を必死に守っていた。

 

 彼らの関係が進むのは、まだまだ先の事である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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