白銀の討ち手   作:主(ぬし)

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『ブリジットという名の少女』はいいぞ


1-5 転校

 げっそりと憔悴しきった顔のフリッツが自室のベッドに倒れこむ。大柄の肉体を受け止めたスプリングが抗議の呻きをあげるも、一日で身の回りの全てが激変した主人にそんなことを気にする余裕はない。弱々しい吐息を肺腑から吐き出すと、フリッツはまたたく間に意識と無意識の狭間に滑り落ちていった。

 

「……おやすみ、フリッツ君」

 

 その様子を隣の教会の窓から覗いていたサユが、そっと呟く。その声は、舞い降りる大粒の雪に遮られて届くはずがないのに、フリッツはピクリとまつ毛を震わせて窓に向けて寝返りを打った。壁の隙間から刺し込んできた北ドイツ(ニーダーザクセン)の冬の寒さを意識の外に追いやって、サユはフリッツの容姿をあらためて観察する。190センチをわずかに下回るだろう長身で、そのかなりの部分がすらりと伸びた脚に費やされている。もとより北方白人種は筋肉質で頑健だが、厳しい節制と運動によって無駄を一切廃された体型は、バイキングよりもスプリンタータイプと言える。身長は、坂井悠二だった頃の自分より25センチは高く、今のシャナそっくりの身体と比較すると軽く40センチ以上の開きがある。隣に立てば兄妹どころか父娘にすら見えるだろう。ドイツ人(ゲルマン)らしい彫りの深い造作はほぼ欠点がなく、坂井悠二と比べることすら烏滸がましい。正直、「モテそうで羨ましい」というジェラシーを感じないと言えば嘘ではない。だが、木製の義足が目に入ったところでそんな独りよがりな感情は一気にかき消え、同情の念がふつふつと湧き上がる。

 

「あれほどの体験をしてもまだ現実を認められんとは、人間の心理はよくわからん。意味のないことだ」

 

 教会の狭い倉庫に地鳴りのように低い呆れ声が木霊した。そこへ重なるサユの声は先ほどよりずっと沈んでいた。

 

「仕方ないよ。ボクも、そうだったから」

 

 サユの脳裏に、全ての始まりとなったあの日の出来事(・・・・・・・)が蘇った。日常の何もかもが変わってしまったあの日(・・・)

 『おまえは人じゃない、物よ』。フリアグネの燐子に襲われて最初にシャナと会った時、彼女に自分が坂井悠二の代替物(トーチ)だと告げられても、簡単に信じることはできなかった。本人の残り滓。燃え尽きてゆくだけの存在。いきなり、小さな女の子からそんな突拍子もないことを言われても、途方に暮れる他なかった。自分が世界から零れ落ちたような圧倒的な失調感に打ち据えられ、目眩すら覚えて絶句した。抗おうにも抗えない、厳然とした無力感が全身を包み込み、押し潰してくる。その絶望(しんじつ)から逃れようと目の前の現実から目を逸らして、必死に仮初の日常にすがり付こうとした。気味の悪い冗談だ、悪い夢なんだと逃避しようとした。反発、戸惑い、恐怖。認められない、認めたくない───。きっとそれが、普通の人間の正常な反応なのだ。

 

「しかし、『外界宿(アウトロー)』の情報屋ももっと詳しく調べていればよかったものを。“時の事象に干渉可能な宝具”を創ることのできる人間がいると聞いたのに、そいつはとっくに死んで、その遺産が人間の足に引っ付いているとは。知っていれば初手の対応も変わっていただろうに。しかもあの宝具、なにやら、あのフリッツとかいう小僧にとって思い入れもあるようだ。長年そばにあった道具に執着する気持ちは、まあわからんでもない」

 

 「少しばかり気の毒だ」と目には見えない唇を尖らせる。贋作創りを生き甲斐とする職人気質のテイレシアスは、大事なモノを簡単に手放すことのできない執着心という人情に共感できた。それを聞いたサユの表情が目に見えて曇る。膝を抱えてくたびれたマットに座り込み、冷たい石の壁に背を預ける。

 

「でも……宝具を持っていれば彼は不幸になる。彼も、彼の身の回りの人間も……」

 

 テイレシアスは、サユがフリッツと昔の自分を重ねて見ていることに気づいた。『零時迷子』という紅世秘宝中の秘宝をその身に宿し、常に紅世の脅威に晒されていた坂井悠二(トーチ)だった頃の自分に。

 

「彼を戦いに引きずり込んでしまうことは避けたい。きっと不幸になってしまうから」

「だから、あの小僧から宝具を取り上げる。それは正しい判断だ、サユ。間違いではない」

 

 テイレシアスは一際“正しい”を強調して言った。それは彼なりに自分のフレイムヘイズを気遣った言葉だったが、言った直後に内心に「しまった」と後悔して口を閉じた。サユが唇を噛んで目を伏せる。努めて平静を装おうとしているようだったが、その瞳は明らかに暗く沈んでいた。

 

「うん、きっと正しいことだ。間違ってない。だけど、正しいことは必ずしも良いこと(・・・・)と同じじゃないんだ」

 

 義足を渡せ、と言われた時のフリッツの絶望に染まる顔を思い出し、サユの胸は後悔と苦悩に締め付けられる。

 そう、サユが行おうとしていることは正しいこと(・・・・・)なのだ。危険な宝具を排除することでリスクを取り除く。それは極めて現実的な処置だ。―――かつて、ヴィルヘルミナが坂井悠二というミステスを破壊して『零時迷子』の及ぼす危険を振り払おうとしたように。

 また、万事順調にサルマキスを倒すことが出来て、フリッツが宝具を手放しても、紅世の住人からの危険は変わらず付き纏う。皮肉なことに、フリッツは抜きん出て『存在の力』を大量に保有する稀な人間だった。『存在の力』とは万物がこの世にあろうとする(・・・・・・・・・・)根源的なエネルギーであり、その保有量はそれぞれの体内の血液量のように個体ごとに異なる。体内に保てる限界量は生まれながらに決まっていて、不運なことにフリッツの場合はこの限界量が稀に見て多い。悪道に落ちた紅世の“徒”には絶好の餌だ。フリッツから宝具を奪うということは、紅世の暴挙に抗する手段を奪うことにもなる。都合よく彼から宝具(ぶき)を取り上げて、それでいいのか。こちらの都合は解決しても、フリッツは失うものばかりだ。もしも彼が別の“徒”に襲われてむざむざと殺された時、その責任は誰にあるのか。

 それに、問題は他にもある。おそらく、今起きていることの核心に迫る謎が。

 

「あの宝具には、きっと何か(・・)がある」

「ああ。俺もそう思う。サルマキスに狙われるとわかっている宝具を何も知らない息子の義足に仕込むなど、サディスティック極まる話だ。そも、“疾く走ることの出来る宝具”というだけではサルマキスがあれほど必死こいて奪おうとするはずがない。本来、アイツはフレイムヘイズとの直接対決は避ける陰湿なタイプだったはずだ。戦闘力も高くはなく、相手の不意をつかない限りまともに戦えもしない。『仮装舞踏会(パル・マスケ)』に門前払いを食らうほどだ。そんな奴が正面切ってフレイムヘイズに挑むなど、甚だ奇妙じゃないか。奴にとっても、小僧の持つ宝具は譲ることの出来ない(・・・・・・・・・)モノなのだろう」

 

 テイレシアスの同意に、サユは重々しく頷く。指摘の通りだった。宝具の製作者、デニス・ルヒトハイムは、サルマキスに宝具を渡すまいとして逃げた。フリッツの親しげな口ぶりからして、それなりの人格者であり、良き父親であったようだ。家族とともに日本からドイツへ逃げたのは、家族をサルマキスから守るためだったはずだ。だというのに、サルマキスが喉から手が出るほど欲するとわかっている宝具を、サルマキスが奪う際に必ず危害が及ぶだろう義足という必需品に隠した。そして何も知らない息子に、その生命が危険に晒されることを承知で宝具を託した。そこには何か意図(・・)があるに違いなかった。決してサルマキスに渡すわけにはいかないが、息子(フリッツ)が肌身離さず持っていなければならない理由があるはずだった。その謎を残したまま、フリッツから父親の遺産を奪取することは出来ない。出来るわけがない。

 今のサユの頭からは、『時の事象に干渉する宝具』を使って元の時間に帰るという考えは消えていた。胸中を支配するのは、かつての己のように紅世との戦いに理不尽に巻き込まれてしまった不幸な少年を、最も良い未来に導いてやりたいという願いだけだった。自分は、無力だったあの時とは違う。フレイムヘイズとなり、シャナと同じ姿を得て、シャナに匹敵する力を得た。それなのに、みすみすフリッツが自分と同じ道を歩んでしまうことを許すわけにはいかない。救いたい、救わなければならない。だが、そのためには、問答無用で彼から宝具を取り上げるしかないのだろうか?

 

「ボクは強くなったつもりだった。でも、目の前の少年一人だって、満足に救ってあげられない。どうすればいいのかも、わからない」

 

 今にも張り裂けそうなほどの悔しさに満ちた声に、テイレシアスは敢えて無言を返した。サユも何も言わない。その潤んだ瞳に映り込むのは、眉をハの字にして眠るフリッツの苦しげな寝顔だ。触れられそうなほど密度を持った沈鬱のなか、少女の形をした少年は小さな膝を抱えてそこに顔をうずめる。小さな身体をさらに縮こまらせ、身動ぎ一つせず、自分のすべきことは何かをひたすら模索し続ける。

 

 

 

―――遅かったじゃない。

 

 

 

 その脳裏に、一人の少女が燃え上がった(・・・・・・)。紅蓮の炎を身に纏ったその背中は圧倒的な存在感を放ち、まるで巨大な城壁のようだ。少女が漆黒の黒衣を大きく靡かせて振り返る。闘志溢れる赤い双眸を輝かせ、神々に宣告するように高らかに言い放つ。「悠二、お前は私が護る」、と。

 気づけば、サユは立ち上がっていた。誰かに背を押されるように力強く踏み出すと、開け放った窓枠をブーツの底で叩く。答えは決まりきっていた。かつての己と同じ境遇の少年がそこにいて、ここにはフレイムヘイズ(・・・・・・・)がいる。かつて自分を助けてくれた少女にそっくりのフレイムヘイズが。

 

「どうするか決まったようだな、サユ」

「ああ、決まった!ボクは、ボクがしてもらったこと(・・・・・・・・・・・)をする!」

 

 満足げなテイレシアスの声に晴れやかな笑みを返し、その強い決意を現すように純白の炎の翼を大きく羽ばたかせ、サユは雪舞う夜空へと飛び立った。目指すは、学校(・・)だ。

 

 

 ‡ ‡ ‡

 

 

 すっかり脊髄に染み付いた習慣に従って、自動的に半身が持ち上がる。まだはっきりとしない目を細めて枕元の時計を見ると、時刻はまだ6時前だ。朝のトレーニングに遅れないようにいつもこの時間に起きるようにしているのだ。昨日のことは全部悪い夢だったんじゃないかと都合のいい希望を抱いてベッドから起き上がるが、途端に怪我と疲労で全身の至るところから悲鳴が上がった。痛みに顔を顰めて呻き声を漏らす。その痛みに儚い希望は簡単に突き崩された。思わず仰け反りそうになるのを堪えて、鉛のように重い身体を引きずるように歩む。眠ったはずなのにちっとも回復できていない。唯一の救いは、あまりに疲れていて夢すら見なかったことだろうか。

 毎日やっているように簡単な屈伸運動をして意識を覚醒させつつ、硬直した筋肉を解していく。関節を動かすたびに痛みが走ったせいで、いつもの倍の時間がかかってしまった。軽くシャワーを浴びてから、疲労回復と心臓強化のために毎朝飲んでいるグレープフルーツジュースを一気に呷る。ふと、テーブルに置かれたままのマグカップが目に入った。それに注がれていたブラウナーを可愛らしい仕草で飲んでいた少女の姿を思い出す。

 サユは今頃何をしているのだろうか。サルマキスを捜しているのか、それともどこかから非力な俺を見守ってくれているのか。

 サユは、フレイムヘイズという超常の戦士でありながら、日常に住む普通の人間のような親しみやすさと他者への深い配慮を持っていた。さらに、その仕草一つ一つがどこかぎこちなくて、接する者にまるで小動物のような印象を与える。見ているだけでこちらまでなんだかほんわかとした幸せな気持ちになって―――

 

「何やってんだ、俺は?」

 

 そこまで考えたところで、毎日の習慣に従って通学用のボストンバッグを背負おうとしていた自分に気づいて深いため息を吐いた。化け物に命を狙われる身だというのに未練がましく普通に通学しようなど、何を考えているのか。

 

「……でも、一箇所に留まっているよりは移動した方がいいよな……」

 

 誰に言うでもなく呟く。いや、これは自分への暗示だ。日常から引き剥がされたくないという足掻きが勝手に口から漏れ出てしまったのだ。ほんの昨日まで、この退屈な日常からの脱出を望んでいたというのに、なんて手前勝手で卑怯な人間なんだ。

 

(でも、サユは『サルマキスはすぐに襲ってこない』と言っていた。学校に行っても平気なんじゃないか?それに仮に学校で戦いが起きたとしても―――巻き込んで気の毒に思う奴はいない。俺には何の関係もない)

 

 今はただ、無我夢中で走りたかった。誰よりも早く風を切る快感に浸って、全てを一度忘れたかった。そうやって頭の中をリセットすれば、何かが変わるような気がした。それが周りの人間を危険に晒すことだとしても、構わない。ふっと小さく嘆息して体内を空虚にすれば、自分でも驚くほど冷たい冷笑が浮かんだ。我ながら最低な奴だ。バッグを担ぎなおせば、後は毎日の習慣に従って身体が自動的に動いてくれる。

 ふと、サユの悲しむ顔が脳裏に浮かんで、胸がぎりりと痛んだ。

 

 

 走る。迷いや悩みを吹っ切るように、身体中の激痛も周囲の視線も気にせずにただがむしゃらに疾駆する。

 重力など物ともせず、遠心力を振り解き、空気抵抗を引き裂いて、競争路(トラック)をひたすら高速で駆け続ける。この爽快感に浸って悩みやしがらみを振り切りたいのに、一度『存在の力』というものを認識してしまった肉体は嫌でも義足から流れてくる“力”を感じ取ってしまう。昨日まではまったくわからなかったが、今では感覚で明確に理解(わか)る。この宝具は、きっと“俺の時間を速めている”のだ。俺の肉体や精神を世界の時間から切り離して加速させている。テイレシアスはこれを“時の流れに干渉する宝具”と言っていたが、それも頷ける。

 なぜ、父さんはこんな宝具を俺に託したのだろう。単純にサルマキスに渡したくなかったのなら破壊すべきだった。記憶の住人となって久しいが、むざむざ自分の子供を危険に晒すような真似をする人ではなかった。サユたちもこの宝具がいったい何を目的として創られたのかは知らなかった。この宝具には、まだ何か謎があるのか―――?

 

「フリッツ!フリッツ・Y・ルヒトハイム、終わりだ、止まれ!」

 

 唐突に耳に滑りこんできた叫び声に、思考を中止して身体に急制動をかける。踵のスパイクが地面をえぐって部員待機所前に長い爪痕を残した。ペース配分を無視していたため若干肩を上下させながら声のした方を見ると、いけ好かない部長が目を丸くしてこちらを凝視していた。丸くした目をそのままに、しばし逡巡し、躊躇いがちに口を開く。

 

「その……今日はどうしたんだ?いつもと様子が違うみたいだが」

「――─は?」

 

 今度は俺が驚く番だった。こいつが俺を心配することなんて今まで一度もなかったのに。見れば、周りの部員も気遣わしげな目付きで俺を注視している。自分の目と耳を疑う俺に、部長は気まずそうな顔をする。いつもの苦々しい面持ちの端に配慮の色が覗いている。

 

「お前の独尊的な態度には部長として不満を持ってるが、ハンデを抱えながらも誰よりも速く走るお前のことは認めてるつもりだ。だから、お前が普段の調子でないのはやっぱり気になる。何かあったのか?」

 

 認めてる、だって?こいつが俺を?いつも鋭い視線を送ってくるだけで、そんな素振りは一度も見せたことなかったじゃないか。

 

(いや、俺が見ようとしていなかったのか?)

 

 唐突に脳裏に浮かんだ直感めいた考えに息を呑む俺の背中に、誰かが柔らかく触れた。

 

「あの、大丈夫ですか?」

 

 振り返れば、新しく入部した小柄なマネージャーが心底心配そうな表情を浮かべてこちらを見上げていた。なんなんだ、いったい。お前だって昨日はあんなに怯えていたじゃないか。どうしてそんな優しそうな顔をして俺を見るんだ。俺は、お前らを巻き込もうとしてるんだぞ。

 

「だ、大丈夫だ。少しコンディションが悪いだけだ、気にしないでくれ」

 

 急に居心地が悪くなった俺は、突き放すように言い放つと荷物を掴んで控え室へと逃げ出した。怪訝そうな視線が背中に突き刺さる。調子が狂う。いつものように俺を睨んでくれた方がよっぽどマシだ。

 

(俺は、お前たちのことなんて何とも思っていないんだ。お前たちも、俺のことなんて何とも思ってないんじゃなかったのか?それとも……何とも思っていなかったのは俺だけなのか?)

 

 自分が取り返しのつかないことをしているような後ろめたさが背筋を冷やす。じくじくと疼き始めた罪悪感から意識的に目を逸らし、急かされるように急ぎ足で学校へ向かう。このまま考え続けていると気が滅入りそうだった。慌しく登校してくる生徒たちを掻き分けながら慣れた動きでスパイクシューズをスニーカーに履き替え、一限目の授業が行われる教室に入ろうと扉に手をかけ、

 

 

 

これは仕様です(Dies ist Ein Stil)!」

 

 

 

 カタコトのドイツ語だったが、たしかにそう聴こえた。一度聞いたら忘れられない、透き通るように凛として、だけど幼さを多分に残した少女の声。その声は間違えようもなく、俺の日常の破壊者の声だった。

 

「冗談だろ?」

 

 呟いてドアを乱暴に開け放つ。円陣を組んで何かに群がっていたクラスメイトたちの視線が一斉に俺に集中する。その中心に、中学生すら怪しい背丈の少女がいた。濡烏のような長髪と濃紺の給仕服の裾を翻し、他の者たちより遅れて少女がこちらを振り返る。俺を見つけると、なぜか当惑していたその表情が花が咲いたような可憐な笑顔にとって変わった。

 

「おはよう、フリッツ君」

 

 “なんで”とか。どうやって”とか。いろいろ言いたいことがあったはずなのに。なのに、その笑顔で全て吹き飛んでしまった。気負いも苦悩も晴らして癒すタンポポのような微笑みに、頬が火照り、胸が締め付けられ、心臓が高鳴る。腰から背中に電気が走り、全身が沸騰したようにカッと熱くなる。認めたくないが、俺には本当に特殊な嗜好があるようだ。そんな確信と諦めを覚えながら、クラスメイトが注視する中、俺は愛くるしい少女にただただ見蕩れていた。




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