白銀の討ち手   作:主(ぬし)

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これを書いているときは、ちょうどFate/zeroの小説が発売されたときでした。僕はそれから少し前に友人からFate/hollow ataraxiaを借りてプレイして初めてFateという世界を知り、『贋作』という能力の有する果てしない中二病感にどっぷりやられていました。今思うと、少し恥ずかしいくらいにやられていました。


1-3 擬態

「まだお願いがあるんだけど、いいかな?」

「う、うん、別にいいけど。ところでシャナ、今日はいつもと口調が違うね。なんだか別人みたいだ」

 

 そんな悠二の疑問に、僕はギクリと表情筋を引き攣らせた。つう、と汗まで背筋を伝い落ちる。ここでばか正直に「実は僕はシャナの姿をしているけどシャナではなく君と同じ坂井悠二なんだ」とでも答えようものなら事態がさらにややこしくなりそうだ。とりあえず、今はシャナのふりをしておいた方がいいだろう。いそいで対策を導き出すと、僕はシャナの口調を思い出してそれを再現する。

 

「う、うるさいうるさいうるさい!この変態悠二!!」

「えええええ!?なんでそうなるの!?」

 

 少し不自然だったろうか。まあ、シャナはいつも無茶苦茶だし、いいよね。頭の中でシャナの怒り顔をトレースし、ふんっと眉間に力を込めてムッツリ顔を作ると、シャナがいつもそうするように腕を組んで偉そうにふんぞり返ってみせる。こうすると、ももや股がスースーしてとても心許ない。

 

「しゃしゃしゃ、シャナ!!今はそのポーズはダメぇええええええ!!!!!」

「ひぇ?」

 

 突然、悠二が慌てふためいて学生服の前の裾を引っ張った。僕の小さな身体がシーソーのように簡単に前のめりにされてしまう。

 

「みみみ、見えちゃうよ!その―――し、下が!穿いてないんだから!」

 

見える?僕がふんぞり返ると見えちゃうものっていったいなんだ?穿いてないって……。

 

「……っ!!」

 

 膝から力が抜けてその場にぺたりとへたり込む。恥ずかしい。見られたのはシャナの姿をした身体であって僕の身体ではないはずなのに、それでも人間の一番の弱点であり恥部であるそこ(・・)を見られるのはかなりの抵抗がある。

 

「……ごめん。浅はかだった」

「気づいてくれたのならいいよ。あははは……」

 

 横を向いて頬をぽりぽりと掻く悠二。頼むからニマニマした顔をするのはやめてくれ。そういうとこだぞ。自分は気が付かれていないと思っていても女の子は気がついているんだぞ。いや僕は女の子じゃないんだけど。

 ゴホン、と咳をついて話を切り替える。悠二も居住まいを正してきりっと表面上はマジメな顔をする。皮一枚下は相変わらずニヤニヤしているのがバレバレだけど。

 

「ゆ、悠二、ちょっと変なことを聞くけど……現時点、この世界はどうなってる?例えば、襲撃してくる敵とか、零時迷子のこととか」

 

 悠二は不思議そうな顔をしたが、何かのテストだとでも思ったのか、マジメに応えてくれる。

 

「つい先週に『探耽求究』ダンタリオンっていうおかしな紅世の王が街を襲ってきた。街はめちゃくちゃにされちゃったけど、カムシンとかが派手に暴れまわってなんとか敵は撃退した。零時迷子は無事。……それがどうかしたの?」

 

―――なんだって?

 

「すると今は、高校一年の夏?」

「そうだけど。ねえ、シャナ、今日はホントにどうしたの?おかしいよ?」

 

 いよいよ悠二が本気で心配してこちらの顔を覗き込んでくるが、その声は耳に届かない。目まぐるしく渦を巻いて思考が繰り返される。悠二の言うことが本当なら、今この世界は、僕が消えた時よりずっと前だということになる。高校一年なんてとっくに過ぎていたはずだし、戦局はもっと大きく、複雑になっていた。それに応じて僕は高校を卒業するより前にとっくに街を出た。それが僕の知る現在(・・)だ。だが、たしかに今僕が足を記しているこの世界が過去(・・)だというのなら、僕以外に坂井悠二が存在することにも納得がいく。でも、どうして過去なんかへ?テイレシアスさんは介入していないと言っていた。じゃあ、何が起きた?

 

「シャナ?黙りこくっちゃってどうかし、」

「悠二!!」

「ぅわ!?ななななに!?」

 

 いきなり立ち上がった僕に悠二が驚いて派手に尻餅をつく。可哀想なまでに不様に見えるのは、僕がシャナの身体を手にしたからか、それともシャナの感情を勝手にトレースしているからか。どちらを考えても僕自身が情けなくてるので考えないことにする。

 

「はあっ!」

 

 板で封印された窓に近づくと、それを一息にハイキックで蹴り破る。宙に見事な弧を描く蹴りが自然にできたことに自分でも驚く。シャナの肉体に長い鍛錬の結果染み付いた格闘技などの動きは、僕にもある程度再現ができるのかもしれない。差し込んでくる熱い太陽の光を背に、悠二に向かって人差し指を突き出して釘を刺しておく。

 

「今ここであったことは絶対に忘れるのよ!誰にも話しちゃダメ!たとえそれが私でも!!いい!?」

「なんでシャナにも……?」

「わかったかと聞いているの!どぅーゆーあんだすたん!?」

「い、イエス、マム!」

 

 過去に飛ばされた可能性が出てきた以上、歴史に無暗に影響を与えることは避けるべきだ。タイムパラドックスが起こると時間の流れが崩壊する、なんて話を聞いたことがあるし。ハートマン軍曹じみたの僕の怒声にびしりと敬礼の姿勢をとった悠二を背に、僕は窓枠に片足を乗せる。

 

「シャナ、どこに行くの?ゆっくり休んだ方がいいんじゃ……」

「お前には関係ない。変態悠二」

 

 背後の声に振り返らずに応える。変態と言われたことに反論できないのか、悠二はぐうと変な声をあげて押し黙った。故意ではないとはいえシャナの大事なところをバッチリ見たのだから反論できないのは当然だ。自分に言うのもなんだけど、いい気味だ。

 顔を出して窓の下を見る。どうやらここはビルの上階だったらしく、地上の人間がミニチュアのように小さく見える。周囲を見渡して、このビルに既視感を覚えた理由を悟る。かつて『狩人』フリアグネが根城にしていた廃ビルの旧依田デパートだ。フリアグネを僕とシャナが討滅したあとはマージョリーさんの隠れ家になる予定の、御崎市で一番高いビル(・・・・・・)だ。

 ゴウゴウと耳元を唸りを上げて強風が吹いた。かなり高い。落下死を想像して思わずゴクリと息を呑む。贄殿遮那が出せたのだから、きっとあれ(・・)も出せるはずだ。その証拠に、シャナの身体は『できる』と僕に伝えてくる。あんまり長くこの状態でいると悠二が余計に怪しむ。自分で言うのも自画自賛するようでおかしいけど、坂井悠二には妙に鋭いところがある。その鋭敏さで窮地を切り抜けたこともしばしばあるからこそ、これ以上詮索されるとボロが出てしまいかねない。のんびりと覚悟を決める時間はない。

 

「一か八か!うぉりゃあぁああぁああ!!」

 

 シャナが絶対に口に出しそうにない掛け声を上げると、僕は窓から身を乗り出して空中へと舞い降りた。

 

 

 

「い、いったいなんだったんだ……あ、シャナ、服は!?」

 

 悠二が急いで窓へ走り寄り、身を乗り出して階下を見下ろす。そこには、真っ逆さまに地面へと墜落していく少女の姿があった。

 

 

 

「ひゃああああああああ!!落ちるううううううう!!」

 

 ジェットコースターなど比較にもならない、内臓全体を震わせる浮遊感覚に手足をばたばたさせて戸惑う。学生服がめくれて恥部が丸見えになってしまうのを手で押さえて防ごうとするが、そうすると今度はお尻が丸見えになってしまう。悠二からズボンも奪っておけばよかった。いやいや、そんなこと考えてる暇か!

 

「当たり前だろうが。なぜ飛び降りたんだ?弔鐘を鳴らすにはまだ早いだろう」

 

 今までだんまりを決め込んでいたテイレシアスさんがようやく口を開いた。契約相手が今にも地面と激しくキスしそうだというのに、その声はひどく落ち着き払っている。まるで僕がこの状況を乗り越えることができると確信しているかのようだ。確信してくれるのは嬉しいけど、その根拠を知りたい。今すぐ!

 

「シャナみたいに炎の翼を出して飛ぼうと思ったんだけど、ちっとも出てくれなくて!どうすればいいんだ!?」

「やれやれ、そんなことだろうと思ったぞ。いいか、自分の感覚と体の感覚を同調させろ。その身体のモデルに出来ることはお前にも再現出来る」

 

 生麦生米生卵を連呼できそうなほどの早口で問いただした僕にテイレシアスさんは落ち着き払って助言を与えてくる。感覚を同調させろと言われても、どうすればいいかわからない。でも地面は一秒ごとに恐ろしいスピードで迫って来る。旧依田デパートは40メートル程度の高さしか無い。ということは落下にかかる時間は4秒もないはずだ。人形のようだった眼下の人間はもはや輪郭も判別出来るほどに迫っている。出来るかどうかは関係ない。やるしかない!覚悟を決めろ!

 すう、と息を吸って精神を落ち着かせ、全身の神経に感覚を行き渡らせる。やがて訪れる痛みの予想を五感外に押し出し、意識の流れを内面へと向かわせる。ざわざわと震えていた心が静けさを取り戻す。ビュウビュウと吹いていた風の音が遠のき、消える。精神が波一つない月下の湖面と化す。シャナとの訓練で精神制御の術はしかと身についていた。

 シャナが翼を広げるイメージを脳裏に思い浮かべる。真っ赤な紅蓮の炎が左右に大きく拡がり、猛々しく凛々しいシャナの姿を炎色に彩る。炎の翼が力強く大気を叩きつけ、強大な揚力を生み出す。そんなイメージを自分に重ねて―――

 

 

ちり、と火の粉が背中から溢れ出る。

 

 

「ッッ出ろ!!」

 

 カッと目を見開いた瞬間、背後で激しい燃焼音を弾けさせて爆炎が顕現する。荒れ狂う炎は一瞬で左右に別れ、羽ばたき一つで揚力を掴む。間一髪で鼻先をアスファルトが掠める。炎の疾風と化して通行人の間隙をすり抜け、驚愕の声を遥か後方に置き去りにして地面すれすれを滑るように飛翔する。気がつけば、暴風に弄ばれていた長い黒髪も燃え立つ焔色に染まっていた。まるで雄々しい獅子の鬣のようだ。翼を羽ばたかせようと意識すると、翼もそれに従って揚力を掴む。どうやら僕は本当に“炎髪灼眼の討ち手”シャナになってしまったらしい。

 

「上出来だ。お前は筋がいい」

 

 テイレシアスさんの褒めの言葉に照れを含んだ笑みを返して翼を一際大きく羽ばたかせ、僕はなだらかな曲線を描きながら蒼穹の空へと舞い上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突如吹き荒れた疾風に人々が悲鳴と悪態をつく中、一人の男が呆然と宙を仰ぎ見ながら呟く。

 

「 見 え た 」




少しどころかめちゃくちゃハマってたよ!!!『贋作』っていいよね!!!中二病感あって最高!!!!だからって丸パクリはやめろぉ過去の自分んんんんんん!!!!おげええええええええ!!!!
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