白銀の討ち手   作:主(ぬし)

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この小説を書いている時、ちょうどFateにハマりだした頃でした。そして出会ったのです。『Archer who covered the skin of Saber.』。知る人ぞ知る名作、『Fate/Imitation Saber』が理想郷ではなく個人ホームページに掲載されていた頃の話です。セイバールートで衛宮士郎が英雄王に破れた後、アルトリアの姿となって第五時聖杯戦争に召喚され、今度は遠坂凛のサーヴァント・アーチャーとして再び戦いに挑むという物語です。本作『白銀の討ち手』を形作ったのは、ひとえにこの神作があったが故です。作者の下屋柚さんには感謝しかありません。


1-4 超人

「凄い!凄い!()()()()()()なのか!」

 

 機械的な補助ではなく、この身のまま空を自由に飛べるということがこんなに素晴らしいことだとは思いもしなかった。水圧に匹敵するほど強烈な空気圧を物ともせず、僕は太陽を目指して飛行速度を増し続ける。フレイムヘイズの身体は常人と比べ物にならないほど強靭だと知ってはいたが、まさかここまでとは。シャナに吊り下げられて凧のように空輸されていた昔とは比べ物にならない、自身のみの力で風を切り裂く爽快感に僕は興奮を抑えられなかった。

 

「それで、これからどうする気だ?」

「――え?何か言った?」

「これからどうする気だ、と聞いたんだ。お前、少し興奮し過ぎだぞ」

 

 テイレシアスさんの掣肘に、「わかったよ」としぶしぶ炎の翼を正面に強く羽ばたかせて速度を相殺する。レシプロ機の速度からジェット機もかくやという段階にまで至ろうとしていた身体は、たったそれだけでピタリと空中に静止した。

 

「わ……!」

 

 もう少し飛んでいたかったが、足元に広がる光景にその名残惜しさはすぐに吹っ飛ばされた。どこまでも続く純白の雲の大地と、その切れ目から垣間見える色とりどりの街の景観。人工物が有機的に配置され、街全体が一体の生物の体表のように忙しなく扇動している。見慣れていたはずの生まれ故郷を上空から一目で見渡せる壮観に、僕は神の目線を得たかのような全能感すら覚えてしばらく絶句していた。

 

「人の話を聞かん奴だな、お前は」

 

 と、呆れ果てた様子のテイレシアスさんの嘆息交じりの声に、僕は慌てて意識を胸元のペンダントに向ける。

 今さら気づいたのだが、テイレシアスさんの神器はアラストールの『コキュートス』と似ているようでまったく同じデザインではなかった。黒い宝石の周りを金色(こんじき)のリングが囲うアラストールのそれとは違い、こちらは白銀(しろがね)色を基調とした卵形のペンダントに金色の装飾が施され、その中心に眼下に広がる雲海のような純白の宝石が埋め込まれている。アラストールと対象的な色彩になったのは、そう意図した結果なのだろうか。ともかく、贋作者も自分自身の姿(デザイン)にはある程度のオリジナリティを求めるのかもしれない。

 

「自分で空を飛ぶのは初めてだったものだから、つい」

 

 笑いながら頬を掻く。こんな時、アラストールなら、きっとキツい叱咤の言葉を突きつけただろう。だけど、テイレシアスさんはそうはしないという感触があった。まだ出会って一時間ほど───過去に飛ばされたのだから正確な時間は不明だけど───しか経っていないが、テイレシアスさんはアラストールよりも遥かにフレンドリーだ。だから、多少のお茶目は許容してくれる気がした。趣味が贋作作りなのだから、堅物のアラストールより自由人であると予想できるのは当然と言えば当然だが。

 

「まったく、浮かれすぎだ、坂井悠二」

 

こんな具合だ。アラストールとマルコシアスを足して二で割ったらこんな感じになるのかもしれない。アラストールを“怖くて厳しいお父さん”だとするなら、テイレシアスさんは“年の近い不良オジサン”とでも例えられるだろう。

 

「あはは、ゴメン。『これからどうするのか』だったよね?」

「なんだ、ちゃんと聴いているんじゃないか」

 

 正直、自分でも驚いているのだが、聴覚を始めとするこの身体の能力は常人とは恐ろしく桁違いだ。見聞きした情報を瞬時に記憶し、僕が意識するより早くフィルタリングして必要な音だけを探り出してくれる。さらに、激しい気流と気圧差が支配する雲の上に浮いているという常人なら即意識を失いかねない過酷な環境にあっても、地上に足をつけている時となんら変わりなく呼吸し、瞬きができる頑強さ。これが『フレイムヘイズ』。異能の力を振るい、あり得ない事象を意のままに操る紅世の王と契約した、この世のバランスを保つ超常の戦士。その肉体(ハード)は、僕が想像していたものより遥かに格上だった。両手をぎりぎりと力強く握り締め、自分が手にした身体の優秀さを確かめる。

 

(……とは言え、せっかく手に入れた新しい体が女の子の、しかもよりによってシャナの体であるということは非常にいただけないんだけどね……)

 

 これ以上思考を深めると頭が痛くなりそうだったので、軽く頭を振ってテイレシアスさんとの会話に集中することにした。

 

「とりあえず、悠二の言質の裏をとろうと思う」

「ほう、あの坂井悠二の言葉は嘘だというのか?」

 

 その声に僕を咎める含意はなく、むしろ面白がっているのが半分、感心が半分といった雰囲気を含んでいた。慎重を期す僕の姿勢に好感を抱いてくれたらしい。

 

「まだ完全にあれが僕だと信じたわけじゃないからね。十中八九、僕みたいだけど」

「たしかに、あのヘタレっぷりはお前そのものだったな」

 

 見事に的をついた笑いを含んだ言葉にぐうと息詰まる。反論できない。たしかにあれは坂井悠二だった。零時迷子の存在も、たしかにあの悠二の体内から感じ取ることができた。

 

「でも、僕を欺く何者かの仕業だという可能性がなくなったわけじゃないし、何よりも情報が少なすぎる。とりあえず今は情報収集が先決だと思うんだ」

 

 シャナの声でまったくシャナらしかぬことを言う自分に言いようのない違和感を覚えながら、今後の方針を提案する。テイレシアスさんは黙ってそれを聴く。彼はアラストールのように命令はしてこない。もちろん、アラストールの命令が不快だったわけではない。アラストールの命令はいつも適確だった。僕がシャナとよく接するようになってからは時々無茶も言ってきていたが。その反面、テイレシアスさんは僕の意見に耳を傾け、たまに助言をしてくれるタイプのようだ。僕にはこういう紅世の王との方が相性が良いかもしれない。

 僕が黙っている中、テイレシアスさんも、ふむと何かを考えあぐねている。会ったばかりの紅世の王が何を悩んでいるのか、なんとなく想像がついた。彼は最初に「現世に現界した」「俺は介入していない」とたしかに言っていた。そして僕と同じように混乱もしていた。つまり、僕らを過去に飛ばしたのは彼の意思や能力によるものではない。その原因を彼なりに探っているのだろう。

 

「……俺もお前に賛同しよう。お前の言う通り、今、俺たちが持っている情報はあまりに少ない。こうして空に浮かんでいるより、この世界を探索してみた方が有益だろうな」

 

 どうやらテイレシアスさんも同じ結論に達したらしい。空を見上げると、太陽はちょうど真上にある。じりじりと照りつけて来る熱線は、今の僕には『生』の実感を与えてくれるようで心地良かった。

 

「太陽の位置から考えて、今はピッタリ正午だ。とりあえず、夕方までは情報収集に励もう。この身体ならそれまでに市内をある程度は回れる。それからあらためて身の振り方を考えようと思う」

「適確な状況判断かつ素早いプランニングだ。お前はいい師に鍛えられたらしい。だがその前にやるべきことがあるんじゃないか?」

「へ?」

 

 再び速度を得ようと滑空の姿勢に入ったところで、突然の不可思議な質問が投げかけられる。「やるべきこと」の見当が皆目つかない。何か忘れていただろうか?まったく要領を得られずに首を傾げる僕にテイレシアスさんは無い鼻を鳴らして、

 

「そんな格好で人ごみを出歩くつもりか?お前は優れているように見えて愚鈍だな、このとんちんかんめ」

「……あ、」

 

 その言葉でようやく、自分が素肌の上に学生服一枚というあられもない姿をしていることに気づいた。まずやるべきことは、

 

「服を手に入れなくちゃ……」

「そうだ。女物の服を、な」

 

 自分の未熟さとこれからしなければならないことの情けなさを思い知らされて、ガックリと頭を垂れながら僕は夏の御崎市へとゆらゆらと降りて行った。




下屋柚さんんんんんんんんんんんんんんん!!!!続きまだあああああああああああああああ!!!???
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