2020年もよろしくお願いします。
ということで百合小説2作目。
鈴仙、咲夜、霊夢の百合作品です。
フランがシスコン過ぎて困っていますよりも、エロシーンは少なめにして、純愛を意識したいと思っています。
ただし、エチエチが全く無いわけじゃない。もう一度言います、イチャイチャさせたい(願望)
カラカラ……と、戸を開く。その扉は私の師匠の持ち場へと繋がる扉だ。
「師匠。患者さんが一人」
「ええ、通して頂戴」
数百年前、姫と共に月から地上へ追放された月の頭脳、「八意永琳」。その後を追うように、賢者の綿月姉妹の傍付きの玉兎も地上へと逃亡を図った。
地上へ辿り着いた玉兎は、八意が地上、「幻想郷」で営む病院で匿ってもらい、看護師となった。それが私、「鈴仙・優曇華院・イナバ」である。
そんな話ももう数百年も前の話。今は楽しく地上の兎、看護師として楽しく過ごしている。
「うどんげ、風邪薬と頭痛薬を」
「はい」
指示された通り、薬のある引き出しを開けて、それをすぐさま師匠に渡す。この手際が良くなったのも数百年働いている賜物だ。
「じゃあ、これ飲んで3日ほど安静にしてくださいね」
「ありがとうございます」
師匠はにっこりと笑ってそれを40代位の女性に渡した。女性は丸椅子から立ち上がり、診察室をあとにした。
「……ふぅ」
「師匠? おつかれですか?」
「そうねぇ……最近忙しいから休む暇が無くってね」
師匠は首を回しながら私の質問に返答していく。
ちなみに、私はまだ医者の見習いだ。師匠に医学を学びながらこうやって看護師をしている。一応、看護師のままで一生師匠のところで働いていようと思ったのだが、師匠が、それを許さなかった。「私がいない時にはうどんげが代理をするのよ」と言われ、何も言い返せなくなった。
「とりあえず、患者さんはしばらく来なさそうですし、休んでこられては? 片付けなどは私がやっておきますので」
「そう? 悪いわね」
師匠が、体を壊すことは滅多にないが、それども体は大事にして欲しい。今となっては幻想郷で信用出来る医者は師匠くらいしか居ないのだから体調不良で診察できないともなったら大事だ。
師匠が休憩している時は私が代理で診察を行う。よっぽどの大怪我や高熱でもなければ、私も対応は出来るからである。
師匠は私に礼を言った後、裏口から戸を開き、姿を消した。
「さてと……」
恐らく、患者さんが来るまで師匠は何かしら調べ物をしていたのだろう。資料やカルテが机の上に広がっている。
大体の物の場所は把握しているし、困ったら机の上に置いておけば師匠が残りを片付けてくれるので、これもパパッと終わらす。
幻想郷に来て数百年。変わりゆく色々なものをこの目で見てきた。半永久的な命が故に、良いものも悪いものも全てを見てしまう。人々の流れ、景色の流れ。思い出してみればキリがないくらいの数になっている。
──────────────
「ふぅ……」
私は片付けにひと段落ついた所で額の汗を拭い、部屋を一通り見る。
「こんな所かな……」
そう言って、私は師匠に報告へ出向こうと戸へ向かうと、私が開ける前に誰かがガラガラと扉を開けた。驚きつつも、開けた主としっかりと目が合った。
「……っと、鈴仙か。永琳は……いないわね…………」
「咲夜さん。師匠は今休憩に入られてますけど……緊急の、ご用事ですか?」
「いいえ、少し私が怪我をしてしまって……」
姿を現したのは紅魔館で働くメイド、十六夜 咲夜さんだった。咲夜さんは左の袖をまくり、怪我を私に見せてきた。
「ちょっ……酷い怪我じゃないですか! ちょっとそこ座っててください!」
腕の骨が折れ、いくつもの切り傷を作り、ところどころ肉が見えてしまっていたりしている。なかなかグロテスクだ。せっかくの可愛いメイド服が真っ赤に染め上げられている。
私は直ぐに咲夜さんを座らせ、引き出しから、ガーゼや消毒液を取り出す。
「何してきたんです?」
「レミリアお嬢様と手合わせをしたら、お嬢様が誤って本気を出してしまったのよ……」
「あの人は……」
紅魔館といえば、元々変人が多いことで有名だ。幼いのに実力は悪魔を超える吸血鬼姉妹。殺戮を繰り返し行っていそうな人間のメイド。人里から来る患者は口を揃えて「紅魔組は怖い」と言う。
噂によれば、咲夜さんが人里に来ると、道から人がいなくなるらしい。おお怖い。
「咲夜さんも、人間なんですから、早死しますよ?」
「大丈夫よ、パチュリー様の魔法で痛みは全くないから」
「馬鹿なんですか? そうじゃなくて、体の負担は魔法なんかじゃ拭いきれないんですよ」
「といっても、今はパチュリー様の魔法も解除されちゃってるのよ。半径千メートルまでしか効果がないのよね」
「じゃ今は痛いんじゃないですか!」
呆れるように私はため息をつく。咲夜さんは良く永遠亭に顔を出しに来るので、私は自然と仲が良くなった。私の数少ない心を開ける友人と思っている。まぁ、あっちがどう思ってるかは分からないが。
「はい、消毒しますので少し痛みますよ」
私はガーゼを手に持ち、傷に消毒液を付ける。見ているこっちがとても痛く感じてしまうくらい。
「……」
「………………痛くないんですか?」
「痛いわよ」
「ええ……」
普通に人なら泣き叫ぶくらいの傷に消毒液を塗ったのに、咲夜さんは表情一つ変えずに黙って自分の傷を見ていた。
「……ここまで来ると、本当に人間かどうか分からなくなってきますよ……」
「ええ、体の全てが人間よ」
「……まぁ、本当に無理はしないでくださいね」
咲夜さんが人間なのは知っているし、どれだけ体が強靭なのかもこれだけの頻度で来られては嫌でも分かってしまう。
私は止血と殺菌をし、腕に包帯を巻いて、優しくポンとその包帯を叩いた。
「はい、これで終わりです。完全に傷が消えたら外していいですよ。それまでは左腕は使わないでください」
「右手だけで生活しろと? 無茶言うわね」
「使ったらその分悪化するだけなので。別に全く使うなってわけじゃないですよ。安静にしておけばいいです」
「……まぁ分かったわ。また怪我したら世話になるわ」
「いや怪我しないでください」
切実な思いだ。私は怪我人や病人を喜んで支えている訳では無い。誰でも、怪我をして欲しくないし、病気をして欲しくない。綺麗事だとは分かっているけど、永遠亭に来る人が少なくなることを願うばかりだ。
「全く…………というか、咲夜さんってこんなに
「っ……ぐ、偶然よ」
珍しく、咲夜さんは少し焦りの表情を見せた。それと同時に少しだけ耳が赤くなっていた。
咲夜さんはいつも師匠が休憩している時、つまり私が代理で診察を行っている時にここにやってくる。単なる偶然だとは思うが、少し不思議である。
「私が診てる時にしか来ないなんて……」
「…………」
「よっぽど師匠のことが嫌いなんですね……」
「…………はぁ?」
「まぁ、元々は敵同士でしたしね。苦手意識を持つのも無理はありません。しかし、師匠はみんなに優しく接することが出来る素敵な方です。どうか、嫌わないであげてください」
「………………はぁ……そうね。努力するわ……」
「でも良かったです。師匠のことは嫌いでも、少なくとも師匠よりも私の方が咲夜さんに信頼されてるってことですよね。安心しました」
何よりの嬉しさだ。元々いがみ合っていた仲だが、今ではこうやって咲夜さんも怪我をしたらここに来て私に治療を求むということはそれなりに信用されているということだ。嬉しくないはずがない。それを知った私は自然と口角が上がり、笑ってしまう。
「っ!」
「……? どうしました?」
「いえ、なんでもないわ……」
よく分からないが少しだけ咲夜さんが慌てる様子を見て、私は珍しいものが見れたと得した気分になった。
「これに懲りたら、もう大怪我なんてしないでくださいね」
「ええ、努力するわ」
「治療するこっちの身にもなってくださいね。費用も馬鹿にならないでしょう?」
「でも、鈴仙もいい経験を積めるじゃない?」
「そういう問題じゃないです。咲夜さんの怪我した姿なんて見たくないんですから……」
「っ…………そ、そう、ありがとう……」
「それと、師匠とも仲良くなってくださいね。私じゃ手に負えない怪我をした時に師匠にしか頼めないんですから」
「そんな怪我をするつもりは無いわ」
「どっからそんな自信が出てくるんですか……」
私は溜息をつきながら、ドヤ顔をする咲夜さんを見上げる。こんな美人が大量に殺戮を繰り広げそうな人とは思えない。
「永遠亭にもほぼ毎週来てますけど、少しは減らしてくださいね」
「はいはい」
「師匠にも会いたくないんでしょう? なら、無理はしないことが一番ですよ」
「…………」
「咲夜さん? 聞いてます?」
「永琳に会いたくないんじゃなくてあなたに会いたいから来てるのよ…………バカ……」
「……? 何か言いました?」
「……何も言ってないわ」
咲夜さんが何か小声で呟いた気がしたが、どうやら何も言ってなかったみたいだ。少し気になるがこれ以上追求しないようにしよう。怒らせたら怖いしね。
「……とにかく、まだ紅魔館の仕事残ってるから。また怪我をした時はよろしくね」
「はいはい、お仕事頑張ってください」
咲夜さんは少し小走りで永遠亭を後にした。今日の咲夜さんは少し調子が悪かったのか、いつもみたいにクールビューティとは言えなかった。体調が悪いのだろうか。ついでに診ておけば良かったと今更後悔する。
「……つっかれたぁ……」
私は診察室までの廊下で背伸びをして歩く。いつもよりも患者さんが少なくて楽ではあったが、毎日診察しているので、やはり積み上げた疲れもある。
「あら、うどんげ、後片付けありがとう」
「あ、師匠。もういいんですか?」
診察室に入ると、師匠が残りの資料を整理していた。
「ええ。今日はもう休んでいいわよ」
「え?」
「もう患者さんも来ないと思うし。来ても私ひとりで対応するわ。だから休みなさい」
「…………わ、分かりました。ではお疲れ様でした」
師匠の言葉に甘え、私は診察室を後にしようとする。すると、師匠は少し嬉しそうな声で呟いた。
「うどんげにも、春が来たわねぇ……」
「はい?」
「なんでもないわ。お疲れ様」
「は、はい……」
師匠の意味深な言葉に首を傾げながらも、これ以上教えてくれなかった。私は疲れきった体を休めるために、自室へと歩を進めた。
「私が休憩するときを見計らって永遠亭に来るなんて。可愛いとこあるじゃない、咲夜ちゃん?」
師匠は誰もいない診察室でそう呟いた。
「……」
夕日が幻想郷を照らしている中、私は紅魔館までの帰路を辿っていた。今日怪我をした左腕を擦りながら永遠亭で鈴仙に放った言葉を思い出す。
「(みゃぁぁああっ! 何言ってるのよ私っ!)」
思い返して真っ赤になる顔を両手で隠す。誰も見ていないからいいものの傍から見たら不審者そのものだ。
「(何が『あなたに会いたいから来てるのよ……』よっ! いくら鈴仙のことが好きでもこれは踏み込みすぎでしょう!)」
そう、私、十六夜咲夜は鈴仙・優曇華院・イナバのことが好きだ。
この気持ちに自覚し始めたのも、以前の異変で共闘した時で、つい最近だ。しかし、溢れ出るようなこの気持ちは抑えることも知らなかった。
鈴仙へ向けるこの想いは本当に胸を締め付けるような痛みとともに溢れ出る。
これが恋だと気づいたのも、お嬢様に指摘されてから。鈴仙と一緒にいると顔が熱くなって鼓動が早くなることを伝えたら、即答で「恋だわ」と放った。
「…………はぁ…………」
まだ鈴仙と別れてから数分しか経っていないのに、また鈴仙に会いたくなってしまった。もっともっと会話をしたくなってしまった。もっともっと鈴仙の笑顔を見たくなってしまった。
仕事とプライベートのオンオフはハッキリ出るが、いずれ分けることが出来なくなりそうで怖い。
「……むぅ……」
鈴仙に簡単に恋をしてしまった自分を恨む。しかし、鈴仙が可愛すぎるのがいけない。いい子すぎるのがいけない。そうやって自分を正当化するしか方法はなかった。
滝のように溢れ出てくる鈴仙への想いをせき止める術は私にはなかった。
これからこの恋はどうなるのか、私には何一つ予想出来なかった。
更新おっそいので、気長に待ってください!