恋する玉兎はメイドと巫女と   作:かくてる

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2話 博麗神社常連の玉兎さん

 真冬の博麗神社。雪がもうすぐ降りそうなこの季節。博麗の巫女はガタガタと震えながらコタツの中に入っていた。

 私はスキップしながら博麗神社の鳥居をくぐる。紫色のマフラーがふわふわ揺れていた。

 

「うっわぁ……さぶさぶ……」

「れっいっむさぁーん!」

「んあ? なんだ鈴仙か……」

「そんな露骨にガッカリしなくても!?」

「んなことよりお菓子は持ってきたんでしょうね」

「もちろん!」

 

 右手に持った紙袋を霊夢さんに見せる。霊夢さんは表情は変わっていないが、背景が明るくなったのが分かる。

 

「ちょっと、何当然かのように私の陣地に入ってきてるのよ」

「私だって寒かったんですよ? 少しくらい暖まらせてくださいーだ」

「ったく……」

 

 文句は言いつつも、私がコタツに入ることを了承してくれた。

 

「鈴仙、あんた足伸ばしすぎ」

「えー? いいじゃないですか。のんびりさせてください……」

「はぁ……あんたねぇ……用もないのにここに来るバカなんてあんたくらいよ……」

 

 博麗神社は妖怪の間では恐れられている。特に霊夢さんに退治された妖怪達は口を揃えて「あそこには行くな」と言う。

 私も、一度霊夢さんにお灸を据えられた身ではあるが、いつの間にか博麗神社に入り浸るようになっていた。

 

「博麗神社は居心地がいいんですよね。なんででしょう?」

「んな事知らないわよ。お茶いれてくるから待ってなさい」

「はぁーい」

 

 霊夢は私の持ってきたせんべいを見るや否や、こたつを出て台所へ向かっていった。私は、その背中を見る。

 

「(……やっぱり…………綺麗だなぁ……)」

 

 ほっこりとする。黒くて艶のある長髪、まるで体の一部のようになっている紅白のリボン。

 そして何より、肩から二の腕まで露わになっている綺麗な肌。

 

「(……あーあ、「好きです」なんて言ったら、霊夢さん、困っちゃうかな)」

 

 私が博麗神社に来る理由はそれだ。霊夢さんの事が好きだから。毎回気持ちを伝えようと博麗神社に出向くのに、なかなか勇気が出ないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 私が初めて霊夢さんを意識し出したのは、永夜異変で私を撃破した後だ。

 

「……な、なんて強さなのよ…………」

 

 私のインビジブルフルムーンを持ってしても、この博麗の巫女と賢者のペアには敵わなかった。

 

「……首謀者はどこ?」

「この奥よ……」

 

 ここまで完膚なきまでに完敗して抵抗しようなんて思えなかった。ごめんなさいっ、師匠…………! 

 

「ありがとね、行くわよ、紫」

「ええ」

 

 そう言って、博麗の巫女は私の横を通り過ぎた。しかし、博麗の巫女は通り過ぎようとしたところで止まり、私に近寄ってきた。

 悔しくて、私は手を思い切り握った。すると、ピリッとした痛みが走り、顔を歪めた。

 

「っつ……」

「…………あんた、血出てるじゃない」

「はぁ? な、何よ、早く行きなさいよ」

「どうして弾幕ゲームで流血するのかしら……」

 

 博麗の巫女は私の手を掴み、手のひらを上に向けた。すると、手のひらからはドクドクと血が溢れていた。

 

「こ、これは……ずっと握り拳を作ってたから……」

 

 そう、ここまで弾幕ゲームにのめり込んだことは無かったので、ついつい負けたくなくて力を入れてしまったのだ。

 

「はぁ……割と傷深いわね……包帯巻いといてあげるから」

「こ、こんなのすぐに治るわよ! 触らないでよ!」

「妖怪だろうがウサギだろうが、傷は傷よ。処置くらいしときなさいよ」

「…………どうして、ここまでするのよ……」

 

 博麗の巫女は包帯を取りだし、私の手にグルグルと巻いてくれた。逆に何か裏があるんじゃないかと思わずにはいられなかった。しかし、博麗の巫女から帰ってくる返答は予想の斜め上だった。

 

「あんたはもう敵でもなんでもない。私は博麗の巫女、困ってる人がいたら助けるのが務めなのよ」

「…………」

 

 ギュッと心臓が握られるような感覚になった。

 

「べ、別に困ってるなんて言ってないのに……」

「ごちゃごちゃうっさいわね。はい、これでいいわね。行くわよ、紫」

 

 包帯を巻き終えた博麗の巫女は患部をポンと叩き、賢者と共に奥へ入っていった。私は終始顔が火照ったままだった。

 

「博麗霊夢……か……」

 

 

 

 

 異変が終わった後も、私は霊夢さんから目が離せなかった。宴会でお酒によっているところも、一緒に異変解決に向かった時も、ずっと霊夢さんを見ていた。

 あの時は「好き」なんだって思いもしなかった。そもそも、恋愛なんて経験した事がなくて、どんな気持ちが「好き」なのか分からなかった。

 しかし、そんなもやもやを打ち破ったのは霊夢さんの親友、魔理沙さんだった。

 

「お前、霊夢に恋してんのか?」

「は、はぁ? なんですか急に……」

「だって、ずっと霊夢の事見てるし、霊夢と話してる時だけ顔赤いし笑顔だし……」

「…………」

「好きなんだな、霊夢のこと」

「……これが、好きって気持ち……?」

 

 この時、私は霊夢さんに恋をしてるんだって気づいた。それを自覚すると、どんどん好きな気持ちが溢れ出てきて、胸が痛くなる。この気持ちを伝えたい一心で博麗神社に行くも、伝えられない日々が2年も続いており、今も続いているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………鈴仙?」

「おひゃあ!? な、なんです?」

「い、いや。なんかボーッとしてたから……」

 

 回想を終え、私は現実に戻ってきた。すると、霊夢さんの顔が間近にあるのを確認した。

 ボッと頭が爆発しそうだった。

 

「(近い近い近い近い近い近い! 霊夢さん顔近い!)」

 

 心臓の鼓動がどんどん早くなっていって、いつか血管ごと破裂するんじゃないかと思った。顔も熱くなっていて、火傷しそうだ。

 

「れ、霊夢さん……近いです」

「あ? あぁ、ごめんなさい」

 

 霊夢さんは自分の距離感に気づいたのか、身を乗り出していた机から降りて、コタツに入った。

 

「はい、お茶」

「ありがとうございます」

 

 湯呑みに注がれている緑色のお茶。そこからは自分の顔が伺えた。

 

「(真っ赤になっちゃって……)」

 

 霊夢さんにあそこまで近寄られたらそりゃ赤くもなる。とてもじゃないけど心臓が持たない。

 

「それにしても、やっぱり永遠亭のせんべいは美味いわね」

「そうですか? これは私が作ったものなんですよ?」

「へぇー、また鈴仙に作ってもらいたいわね」

「あはは、材料さえあればいつでも作りますよ」

 

 …………これって、博麗神社にせんべいを作りに行く通い妻的な!? 

 

「……鈴仙、どうしたの?」

「あ、いや、なんでもないです」

 

 いけないいけない。想像が捗りすぎて思わずニヤけてしまっていた。

 

「鈴仙、だいぶ口調が柔らかくなったわね」

「え、そ、そうですか?」

「ええ、前までは「あんたみたいな奴と一緒にしないでくれる!?」みたいな辛辣玉兎だったのに」

「し、辛辣玉兎……」

 

 いつの間にかあだ名が付けられていたようだ。恐らく、魔理沙さん辺りが付けたのだろう。こういう犯人は決まって魔理沙さんなのだ。

 

「まぁ、私はどっちでもいいけどね」

「…………戻した方がいいですか?」

「いやいいわ。気持ち悪いし」

「そんなどストレートに言わなくても……」

 

 霊夢さんは誰にでも容赦が無い。弾幕も喋り方も、悪気はないのも分かっているし、根は優しい人だから誰も嫌ってなんかいない。

 

「…………鈴仙、足当たってる」

「……いいじゃないですか」

「邪魔なの。私のスペースよそこは」

「そしたら私の分が無くなっちゃうじゃないですか!」

「このっ」

 

 ゲシゲシと私の足を蹴る。それに対抗して私も霊夢さんの足に蹴りを入れる。

 

「博麗の巫女に逆らったら痛い目見るわよっと!」

 

 すると、霊夢さんの足が私の足に絡まってきた。霊夢さんの黒いハイソックスの感触が直に私の肌に触れた。

 

「ひっ!?」

「ほら、覚悟なさい鈴仙!」

「いだだだだだだっ! ギブギブ!」

 

 霊夢さんは思い切り私の足を押さえつけ、潰そうとしていた。人間とはいえ、霊夢さんの力は妖怪にも匹敵するらしいから油断なんてできない。

 霊夢さん、ただ寿命が短いだけの妖怪だ。なんて人里じゃ噂されているらしい。

 

「うぅ……」

「そもそも私のコタツなんだから所有権は私にあるはずよ」

「それでも横暴過ぎますよぅ……」

 

 結局、隅まで追いやられて私は足が冷たくなってしまった。

 

「……あ、雪」

「ほんとだ……」

 

 外を見ると、白い玉がゆっくりと地面に向かって落ちていた。確かに一段と寒かった今日は雪が降っても不思議ではないだろう。

 

「…………」

 

 今告白したら変だろうか。でも、今しかない気がする。この先もきっとチャンスはある。しかし、今伝えないと後悔する。

 

「れ、霊夢さん!」

「わっ、な、何?」

「えっと……その……」

 

 私はコタツから立ち上がり、霊夢さんを見る。

 

「わ、私……実は……」

「…………」

 

 言え。もう今しかないだろう。きっと、無理でも、霊夢さんなら友達でいてくれる。

 

「霊夢さんのこと…………!」

 

 そこまで言うと、霊夢さんは察したのだろう。少し顔を赤くした。もう後戻りは出来ないということだ。なら、もう言い切るだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

「す────」

「おーい、霊夢ー!」

 

 

 

 

 

 

 

 嘘でしょう。そんなベストタイミングでやって来てしまうのですか、魔理沙さん、萃香さん。

 

「ま、魔理沙、萃香……」

「鈴仙も来てたのか、おいっす」

「ど、どうも……」

 

 悪気はないのは分かってる。だが、悪気がないからこそ尚更タチが悪いというものだろう。

 

「なぁーなぁー、霊夢も鈴仙も酒飲もーよ」

「そうだぜ、今日は4人でパーティだ」

「す、すいません。私はこれから用事があるので帰ります」

「えぇー、つれないなぁ……」

 

 一刻も早くこの場から抜け出したかった。恥ずかしすぎて死にそうだ。中途半端な告白で。でも、きっと霊夢さんはそれでも私と仲良くしてくれるのだろう。優しい人だから。

 

「鈴仙!」

「……はい……」

 

 荷物を持って、私は博麗神社を後にしようとする。すると、後ろから霊夢さんが走ってきていた。

 

「……気が向いたら、また言ってきなさい」

「…………っ!」

 

 やっぱり、私はこの人が好きなんだ。私は幸せ者なんだ、こんな人を好きになれる気持ちを持っている。

 

「……はい!」

 

 そう言って、私は博麗神社を走って後にした。

 告白は失敗に終わった。でも、まだチャンスは残っている。霊夢さんも待っててくれている。

 しかし、霊夢さんはきっと、私の事なんて意識していないと思う。霊夢さんほどの人気者が、私個人に恋をするわけが無い。

 だが、それでもいい。霊夢さんと両思いになれた日に、私が報われればいい。それまでは霊夢さんに必死にアプローチをしよう。振り向いてくれるまで、私の魅力を見せてやろう。

 

「待っててくださいね、霊夢さんっ……」

 

 零れて来た涙を拭い、私は永遠亭への帰路を辿った。

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