始まり
SAO__ソードアート・オンライン。
天才、茅場晶彦が作り上げた仮想空間における、大規模MMORPG
これをプレイしたものは仮想空間という名前の牢獄に囚われ、現実世界には帰って来れない。
帰る方法はただ1つ。
100層にわたる浮遊城の頂きに到達し、ボスを倒してゲームをクリアすること。
仮想空間で死んだ者は現実世界でも死ぬ。
……そんな所に、始まりの街の鐘なる広場に私は居る。どうしてこんな楽しいことになったのか。すこし振り返って整理してみる
私は、一ノ瀬雲雀。小学5年生のいわゆるぼっちである。
…学校では煙たがられて常に1人。人を頼るのもやめた。
原因はよく分からない。が、相談なんかしたらチクられて殴られた。まぁ、そういうものなのだろう。物心着いた時からそうなのだから。
話しかけてくるものがいなければ、訳の分からない理由で暴力を振るわれる。そんな日々が続き、いつしか人に対して興味を無くして1人で過ごすことに意義を見いだしていた。
そんなことを親はつゆしらず。元々放置されていたのだからあまり親と思っていないが。なんかすると殴ってくるし。親にはすぐ見切りをつけた。
家には兄や姉がいた。が、大抵罵ってくる。好きになれる訳もなく、その上その2人というのがかなり優秀なのだ。親の期待を受ける2人。私の事など見てすらいなかった。
家にも学校にも居場所なんてなかった私は学校終わりに人気を避けるようにラーメン屋へと向かった。そこは人気のない裏通りにある、やってるのかどうかも分からないラーメン屋。はっきり言ってまずい。けど、人がいないので自分的には居心地がいいのだが…
しかし、その日は珍しく…人がいた。もちろん、初めて会った。
「…まずい」
ひっそりとした路地裏でまずいラーメンをすする中年のおじさん、だろうか。
もちろん距離を取り、お小遣いでラーメンを頼む。ここの店主は黙って受け取ってくれてたすかる。それも私がここに通う理由の一つなのだが。
「…こんな所にくるとは、珍しい」
言葉通り物珍しそうにジロジロ見てくる。観察してみると、ただただ珍しいから気になるだけで、こんな所で一人でいることを蔑むようなものではなかった。
「…悪い?」
「いや、悪くなんてないさ。気分を悪くしてすまない」
気分が悪くなり、軽く睨むと礼儀正しく頭を下げてきた。その姿に、謝ることすら知らない
「…ん。こっちこそごめん、気にしないで」
「そうか」
それからお互い黙って食べた。おじさんも変人なのだろうか。少しなにかズレている気がして…心地が良かった。
それからしばらく、私がここに来るとそのおじさんがいた。お互いコミュニケーションが取れないことで逆に息があい、気がつけばお互い話しあえる仲になっていた。
このおじさんの名前は茅場晶彦。いわく、ゲームを作る人らしい。
というのも…
「…雲雀君、僕が作ったゲームをプレイしてみないか?」
「ゲーム…」
私は一人で過ごすことを信条としており、ゲームもよくすることを話していた。だからこそだろう。誘われた。ただプレイするだけではなく、ゲームをやった意見が欲しいようだ。
「やります」
「うむ、よろしい。ではついてきてくれ」
そう、思えばこれが全ての始まりだったのかもしれない。
***
車に乗っていくと、そこは大きくて立派なビル。
「…晶彦、ここは?」
「私の職場だよ。雲雀くん」
「…………」
さすがにあんな路地裏のボロいお店でラーメンすする人がこんな立派なビルで仕事してるなどと誰が思っていたのだろう。
呆気に取られていると晶彦は咳払いをして先を促した。焦っているらしい。
…だから遅く行こうなどする意味もないので足早にビルの中へと向かった。
株式会社『アーガス』に入った私たちは、そのままベッドのある部屋に通される。
「…これは?」
「それはナーヴギア。それを頭に被って『リンクスタート』と唱えることでゲームに入るんだ」
「ふーん…分かった」
そうして、私はベッドに寝てそれを被る。
「…リンクスタート!」
こうして私は晶彦と暫く仮想空間に潜り意見を出していた。
晶彦はもちろんテストをしたものの、子供らしい視点に色々と驚いていた。
…学校よりも、家よりも。大事な居場所が出来たのだった。
***
そして制式サービスの開始日。
招待状が届いた。晶彦からだ。
いつもの店の前で待つように言われる。
待っていると、一台の車が現れる。そう、茅場晶彦。
…と、もう1人、助手の凛子さんだ。
「やあ、雲雀くん。すぐに向かうとしよう。僕らの城へ」
「うん」
なんの疑いもなくのっていった。
そして、乗った直後、晶彦は軽々と私を掴み、無理やり寄せて首輪をつけられた。
「っ!?…これは?」
「……」
晶彦は答えないままだった。
そのまま私は晶彦に連れられ、連れていかれた先で晶彦の命令と共にSAOの世界ヘとダイブしていった。
現実への諦めと、仮想への期待を胸に。
「…リンクスタート!」
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