風
お兄ちゃんが前線組に復帰して喜ぶべきやら悲しむべきやら、滞っていた攻略は飛躍的に進んだ。
私がなぜそんなことを知っているかって?アルゴから、情報をやり取りによって得ているからだ。
例えば、アインクラッド解放隊……なる前線組織がMMOトゥデイという広報組織を取り組んで軍になり、下層にひきこもって恐喝してるとか。アホか。
対してもう片方のDKBは聖龍連合となった。こちらはまだマシ。
あと、これが1番びっくりしたんだけど……最強のギルドと呼ばれる血盟騎士団ができたのだが……1度見てわかった。そのギルドの団長、ヒースクリフ。あれ、茅場晶彦だ。
確信して挨拶しにいったら、血盟騎士団の連中に嫌な顔された。まぁ、そりゃそうだ。でも、話ちゃんと通してくれるし、その話が通って驚きつつちゃんと通してくれたから許す。
ちなみに奥に行って今までのことを話すと、あの硬い表情のまま精一杯楽しめと言われた。まぁもちろん、言われようが言われなかろうがいつも通り私は気ままにやるわよ。
まぁ、そんなこんなで激動の暮らしをしてたけど私は元気です。
私?私は天使……もとい、サチとともに生産スキルを磨いていた。
ただし、サチと作るのは《調合》スキルによる回復ポーションや解毒ポーションと《裁縫》スキルによる衣類のみ。他の物は作れるものの作る必要は無いからだ。
ちなみに、サチが作るポーションはアルゴに買い取ってもらうことになっている。私が手取り足取り教えるなら質のいいポーションが作れるだろうから、ということだった。
とはいえ、私はそこまで教えることはしていない。私が言ったのは作る時に回復して傷が癒えていくイメージをすること、これ一つである。
ただ、これだけでも変わるのだ。実際。なお、このことは誰にも言わないようにと厳しく言っている。現状、謎組織の麻痺毒は私のポーションで回復が効くが、麻痺毒にもこの効果があることを確認してるために情報は流せない。思いっきり殺意を込めれば私が作るポーションすら効かない麻痺毒も出来上がるかもしれないからだ。
……ただ、サチには未だに私に対する怯えや遠慮が見てとれる。仲良くなるにはもう少し時間がかかるかもしれない。
そんな私は最前線より少し下層で足りなくなった素材集めをするのだった。
***
「うぉぉぉ!!!」「おりゃぁぁぁ!!!」
「…なんなの、バカなの?」
最前線より少し下層の森の中。男たちが威勢よくモンスターを倒している音が遠くまで響いていた。
そんな大声を出しながら攻撃してたら、当たり前だけど魔物も寄ってくる訳で……
「ふっ…!」
「グギャウッ」
後ろから忍び寄り、獣人型の魔物を不意に殴り飛ばしていた。
「やばっ、ちょっ」「撤退、撤退ぃぃ!!」
…撤退していく男達。まぁ、それが妥当な判断よ。
というのも、装備や戦い方を見るからに男達はこの森の踏破に必要なレベルを満たしていない。傍から見て、無謀。その一言に尽きる。
「…いや、俺は諦めねぇぞ!それがサフィルカちゃんの頼みだからな!」
いや、死んだら終わりよ!?とつっこみつつ、彼の言ってることを落ち着いて考えてみる。
サフィルカ…確かこの層に住んでるお姉さんのような人ね。気さくでほかの人とも仲がいい。ただ、彼女はこの層において重要な役割を持つ。この層はある領主が支配していたのだが……彼は妖魔に魅入られ妖魔を愛してしまい、妖魔を地下に閉じ込めた。
そしてその妖魔が出られないように魔物を地下に解き放ったのだ。その結果領主は魔物に殺される……というあらすじ。
彼女サフィルカはその領主の館の召使いだったのだ。ここのフィールドボスはその殺された領主で、この層のボスは妖魔だった。
サフィルカはボスの操る人を魅入る術を無効化する方法……目を見ないようにすることを知っており、それが無ければ攻略は難しかったろう。
私が知ってる限り、そんなサフィルカが自発的にクエストを出すような仕様はなかった。あの時の…悩んでるサフィリカとの問答を除いて。
確か、あの時__
そう、思考回路をめぐらせていた時だった
「ガルルルゥ!」
「へっ?」
背後から重い衝撃をくらい、私は地面に倒れ伏した。
私としたことが、しまった。周囲の警戒が足りなかった。
獣人…狼男だろうか。ヨダレを垂らしながらこちらに向かってくる。私は転倒してる上に麻痺をくらい、微動だもできず、ただ恐怖を感じて震えていた。
__もっと、楽しみたかったな
そう思いながら、諦めて目をつぶる。ソロプレイにおいて麻痺はほぼ死だ。
……しかし、いくら待っても来るはずの衝撃は来ない。代わりに聞こえたのは斬撃となにかが砕け散るようなエフェクト。
そして、抱えあげられる。
「おい、大丈夫か!?しっかりしろ、ポーション飲ませっから!」
野太いおじさんの声だった。助けられたようだ。
「あ…えぇ、大丈夫よ。助けてくれてありがとう」
「いいってことよ。というか…万事休す、だな」
麻痺から復活した私は周囲を見回す。
エネミーが湧いて、私たちを狙うように取り囲んでいた。
この助けてくれた男を除く男達は、音からして近くで他のエネミーと戦闘しているようだ。
そして、助けてくれたこの男は…先程戦闘をしていた男達の最も前線にたっていた、赤い髪で頭にバンダナを巻いた曲刀使い。
前に立っていたということは、ある程度耐久にステータスを振っているはず。
「……大丈夫、あなたはさっきみたいにバカみたいに大声を上げてヘイトをとってくれればいいわ」
「は?何を言って……」
「この場を切り抜けるにはこの方法しかないわ。私を信じて、早く!」
「__」
男は目をつぶって考える。それもそうだ、ヘイトを取れば自分に攻撃が集中する。その間に私が逃げることだってありうるのだ。でも、信じてもらうしかない…
「おらぁ!こっちこいやぁ!!!」
悩むのも一瞬。男は勇ましく声をはりあげてヘイトをとる。タンクのスキル、ウォークライ__
この場にいる取り囲んでいたモンスターや近くで戦っていたこの男の仲間が戦っていた他のモンスターもこの男を狙いって動く。
「隙さえあれば……!」
そして、私は隙の出来たモンスターをDexによる勢いまでつけて背後から扇を振りかざし、一息に刈り取る。
バックスタブのパークスキルを持つ私は背後からの奇襲でクリティカルダメージを与えられる。というか、私が敵と戦う時はこれがないと話にもならない。ヘイトを取ってくれている男を狙う魔物は思いっきり背中を見せてくれるので、これが容易い。
「あんたらもなにぼさっとしてるの、早く魔物を倒すわよ!」
「「お、おうっ!」」
突然のことに困惑していた男達もヘイト取りや魔物狩りに参加してくれたおかげで、私達はなんとか窮地を脱した。
「私はラーク、素材集めに上から少し降りて素材を集めていたの」
「そっか、俺はクライン。このギルド『風林火山』のリーダーみたいなもんだ」
敵を倒して、私の知る近くの安全地帯に逃げ込んだみんなで集まって一休みすることにした。
男達はただ叫んで切っていただけのように見えたが…判断の良さ、連携の仕方が上手い。さすがに黒の剣士達の連携には劣るが…連携を上手くやっていけば、上の連中とも充分に…いや、それ以上にわたりあえるかも…
「風林火山…?」
「おう、リアルの友人で立ち上げたギルドだ」
「なるほど」
親指を立ててドヤ顔でいうクライン。
よほど自信があるようで、連携は他のゲームで培っていたのかもしれない。とラークは感じた。
「で、なんつー素材を集めてんだ?」
「この辺の獣人がもってる粗悪品の武器と、獣人の爪ね」
「爪はわかっけど…レアドロップの武器ならまだしもなんで粗悪品の武器を集めてるんだ???」
クラインは首を傾げる。
まぁ、武器を割って経験値を稼ごうなんて普通は考えつかないわよね。それも、鍛治スキルもない剣士なら尚更。
「あら、有り余ってるなら少し買い取らせてもらえる?相場より高く出すわ」
そういうと快くだしてくれた。2~3倍程度で買い取ったらかなり大喜びしつつ、こんなにもいいのかと戸惑っている様子だった。
「私が欲しいのと、さっき助けてくれたぶんも上乗せしてるもの。助けてくれてありがとう、クライン」
「そっか、それならありがたくいただいてくぜ。っと、そういう武器ならうちのギルドでかなり保管してあっから戻ったらそれも買い取ってくれて構わねぇ。案内すっからよ」
「え、本当?ありがとう、助かるわ」
そういった武器を融通してくれるという事だったので、クラインとメッセージのやり取りをするためにフレンド登録をする。
最近はフレンドも多くなってきたな……まぁ、これもある種取引だし仕方ないか。と言いながらもなぜか嬉しく感じる。不思議だ。
「で、これからあなたはどうするの?」
「きまってら、これからクエストクリアのために近くの洞窟にいくんだよ。場所わからんけどな」
「洞窟……ねぇ……」
確かにあった。ただ、中は大きい空間一つだけで他には特に何も無い、ただの空洞のようなところだったが……
昔私がここに来た時のマップデータを開いて道を確認する。
……この場所から少し離れていて、魔物も当然POPする。このメンバーだけでは到底目的地につけないだろう。
「クライン、その洞窟に私心当たりがあるの。一緒にいかないかしら?案内するわ」
「おお!そいつは助かるぜ!」
そう言って私はクライン達とPT登録をして、一時的にPTとして行動を共にする。
……本当は、私もすこしサフィルカのことが気になったからとは言えなかった。
体力も回復した私たちは一直線にその洞窟へと向かった。
「ここ、ね」
「よっしゃあ!待ってろサフィルカちゃん!」
「ちょっとまってクライン!」
洞窟に着いた途端、クラインが飛び出す。
今ここはクエストフラグがたっている状態だ、何が起こるかなんて分からないのに……
私と他の風林火山のメンバーはクラインの後をおうように洞窟へとはいった。
道はまっすぐで、奥に開けた空間がある。
私の記憶ではモンスターなんてPOPすらしないしなんの素材もないような、謎の空間だったのだが……
その開けた空間に見るからにこれがクエストの主と思われる3つ首の黒い大きな犬__ケルベロスがそこにいた。
「あれが、そのクエストのボス……?」
「あぁ、間違いねぇぜ」
ついに目の前に現れたボスに向けて曲刀を構えるクライン。それを風林火山のメンバーの一人が止める。
「……なぁ、クライン。あいつカーソルがかなり赤いぞ?俺らにはまだ早いんじゃないか?」
「なぁにいってら。そういう敵を倒してこそ男ってもんだろ」
「まぁいつもならそうだけど、今日は女の子もいるし……」
といって私の方を見る。
私はというと、ケルベロスをじっと見つめていた。
「ラーク、案内ありがとうな。あとは俺らに任せて……」
「まって。レベルは問題ないわ、私から見て黄色いから…同じくらいか少し上のレベルなんでしょうね」
「「「「なん、だと……!?」」」」
カーソルについては別に問題じゃない。そのことを伝えると周りの男達が動揺していた。私のレベルが上であることに。しかし、クラインは刀を構えながらもこちらをじっとみていた。
「……ただ、こんな姿の魔物を私ですら見た事ないのよ。今最前線で前に出てる攻略組ですら、ね」
「「「「………」」」」
こちらから、自分が攻略組であると嘘をつく。いや、完全な嘘では無い。私は、私が楽しむために最前線に身を投じているしレベルも攻略組に負けないくらいのステータスがある。ただ、攻略していないだけだ。
先程の戦闘で実力を目の当たりにしている野郎達はかたまる。そんな中、口を開いて沈黙を破ったのはそのリーダー格の赤髪_クラインだった。
「つまり、攻撃パターンが不明ってことか」
「そういうこと。まぁ、やってみるわよ」
そういって、私は真正面から切り込んで走っていく。
引き止められると思ったが、ちらりと振り返ると引き留めようとしたもの達をクラインがなだめていた。きっと、私の意図に気がついたのだろう。
なら、思いっきり試せる……!
約10分ほど。しばらく攻撃をさせてパターンを見た結果、正面中距離でブレス、正面で噛みつき。回り込もうとすると体を回転させて攻撃を仕掛け、潜り込もうとするとストンプを放つことがわかった。前足や後ろ足、尻尾等、ある程度殴ったが弱点は見つからない、となると……顔か。私は素早く戻ってそのことを伝える。
「うーん、狭い空間なのが厄介だな。回転攻撃をかわすほどうまい逃げ場がない」
「なら、回り込まなければいいわ。で、これはクラインが受けたクエストよね?」
おう、と応えるクライン。であれば…
「人数が多いとかえって不利よ。だから、私とクラインで倒しましょう。おそらく、それが最善よ」
「ふむ…そうだな。2人でいこう」
「準備はいい?」
おう!と威勢のいい返事が返ってきた為、頷いて私はクラインに指示を飛ばす。
「いつでも振り下ろせるように武器を構えたまま、何も考えずに思いっきり敵に向かって走って!」
「え?」
「いいから早く!」
困惑しながらも、私を信頼してくれているのか頷いて彼は武器を構えておもいっきり走った。
そんなクラインを見届けた私は、深呼吸をしてから扇子を構え、同じように走る。AGI型の私はあっという間にクラインを追い越してケルベロスの正面にくる。
大抵もうあらかた敵は瞬間移動にも近い私の挙動に困惑して足を止めるのだが、ケルベロスは確かに私を捉えていた。こういった動きについてこれるあたりはさすが犬である。
だが、その事は私が先程対峙した時に気がついている。私を捉えたケルベロスはそんな私をねらって的確に噛みついてくる。が、私はそれをひらりとかわして扇スキル『雅打ち』を一つの頭の鼻っ面に叩き込んだ。
スタン効果のあるその攻撃を受けたケルベロスは怯み、その隙に私はクラインに背中をむけ、しゃがむ。
「うっ、おぉぉぉぉぉ!!!」
そこにクラインがようやく私に追いつき、いつもの雄叫びを上げながら、SSを放った反動で動けない私を踏み台にして跳躍。ケルベロスの顔の真正面まで飛び込み、その顔を真っ二つに一刀両断する。クリティカルヒットした重い斬撃がはいり、そのままHPが0となったケルベロスはポリゴンとなり、その体を爆散させる。
こうして、私たちはクエストをクリアした