指輪
カンっ、カンっ、カンっ……
景気よく、槌は打たれ…最後には割れる。
経験値が溜まり、レベルが上がる。ラークはいつもの日課をこなしている。
そのレベルは攻略組の誰よりも高く、強い__ただ、彼女も他の人も気がついておらず、ただその事実を知っているのはPTを時々組む『鼠』ただ1人。しかも、彼女は鼠に超多額の口止め料を払っており、その情報が回ることは無い。それでもなお、彼女は攻略になど全く参加せず、ただただ思いのままに暮らしている。
SAOに閉じ込められてかなりの年月がすぎた。既に59層も進んでおり、半分を過ぎていた。
その間も彼女は自由奔放に動き思うがままに力をつけ、成長した。とはいえ、特に背が伸びたとかそういうことは全くなく。やることはそんなに変わっていないのだが…元々そのやり方で差をつけてきたのだから、時が進めばさらに差が開くのは当然だった。
彼女は戦闘がギリギリになるとけたたましい笑い声と共に圧倒的な物量へと変化する。そして、相手を確実に死に至らしめた。
その姿を…表舞台にたつことなくけたたましく笑いながら躊躇なく人を殺すその姿を見たものは、《
__《笑う狂人》と。
***
その日、私は一通りの日課を終えて一休み。調合したものを一定数売りつけに57層におりてきていた。
武器には銘が着くため、武器を割ることで経験値に変えるくらいしか出来ない(売ると名前が広がるため。名誉なんて、自由を縛るものでしかない)が、調合した回復薬は銘がつかない。そのためアルゴに売り捌きつつ、その値段のいくらかは『口止め料』に回してもらっている。
そんな生活を続けていたからか、もう調合マスターまでは目前。
といった生活を続けていた私が降りてきたのは、アルゴに調合した薬を売る目的…と、素材集めのためだった。
何故か不名誉なあだ名が付いてて、たまにラフィンコフィンのメンバーと間違われるが気にしてはいない。むしろ人が近づくことがなく気が楽だ。
私が降りてきたのはポーションをアルゴに融通するためだ。口止め料の上乗せ+ここの美味しいご飯で手を打つことにした。
第57層主街区《マーテン》におりてきた私は隠蔽スキルを駆使しながら人目につかないように移動する。
目的の場所に着いた私はさっそく声をかけられる。
「よっ、ラーちゃん。…なんだか明るくなったカ?」
「機嫌がいいのよ。で、とりあえず例のものはこれでいいかしら」
「ほんと、助かるゾ。ありがとうナ、ラーちゃん」
食べ始めた彼女を…《鼠》を見ながら私は彼女に尋ねる
「で、なんでわざわざ私をここに連れてきたわけよ」
「ん?なんのことダ?」
「とぼけないで。私別に同居人…サチをここに送ったって良かったじゃない。最後に『
そう、今回はわざわざアルゴが私を指名してきたのである。普段こういう処理はサチに任せているのだが。
ちなみにサチはあれから私の代理人として働いてもらうことになった。戦闘スキルを生産スキルに変えて…具体的には私がお世話になっている《調合》スキルや所持容量拡張等をとって私と一緒にポーションを作ってアルゴにいい感じに流してもらうようにすると言った調子で立派に働いている。ちなみに鍛治はとらせていない。似合わなすぎる。思ったより仕事をするのでプレゼントを送ったら笑顔でありがとうって微笑んでくれた。サチちゃんマジ天使お腹いっぱいです。
「そりゃあ、ラーちゃんに会いたいからだナ」
「私に会って何をするのよ、私一般市民よ?」
「いきなりNPCレストランでなにか分からないウサギの糞みたいな調味料をいれるのは一般市民とは言い難いゾ」
「いいじゃない別に」
味が薄いので自家製の調味料を入れただけなのだが。いいじゃないか別に悪くなんてないぞ。
「で、なんだそれハ」
「食べて見ればわかるわよ。はい、アーン」
「え、いや、ここでカ…?あ、アーン…」
アルゴが照れつつ反応する。あかん可愛い惚れてまうやろ女神すぎる件。まぁ…なんだかんだ今日来て正解ね。
「お、おいこの味…ま、まさか…!!」
「わかる?そうこれは……」
「「お味噌!!!」」
ちょうどその時、どこからか悲鳴が聞こえた。
アルゴと顔を見合わせた私は現場に向かう。
そこに居たのは…教会の窓から吊り下げられた、槍が貫通している男性。これで死ぬのか。ありえない。私はその男の顔をじっと見る。
死んだなら、しっかりと見届けてあげるべきだもの。
そう、こういう時だからこそ、あせらず冷静に最後までしっかりととこの男の生き様を見届けるべきなのだ。
__転移、《ラーベルグ》
「…は?」
この男の最後の叫び。私が元々心得ている『読唇術』
__いや、習得したくてした訳では無いのだけどね。親の手から逃れるために、遠くから相手の話を判断して理解する能力が必要になっただけ…
まぁ…それで読み取れた情報がそれであった。《ラーベルグ》は19層の主街区の名前で、ここのプレイヤーが転移する場所では無い。
……謎が深まるばかり。とりあえず私はそのまま転移門まで爆走してそいつをとっ捕まえることにした。
***
割かしすぐに見っかった。まぁ、追跡スキルあるしね。
扇子で口元を隠して声をかける
「ごきげんよう。面白いショーだったわ」
「!?だ、誰だ」
「こちらこそ伺いたいわよ。圏内であんな派手なショーをして自分を死んだことにした上でここに転移した死体さん?」
「っ……カインズだ」
私がカラクリを知っていると知ってか知らずか。
彼はそう答えた。
「聞かせて欲しい、なぜ君にこのトリックがバレた?」
「私、全然分かってないわよ。ただ、私読唇術の心得をリアルで持ってるの。最後にあなたが転移、ラーベルグって言ったからここにいるだけよ」
「そう、か…このこと、黙っておいてくれるかい?」
その問いに私は、目で射抜くようにして
「動機次第、ね。まず、普通は情報屋に流すべき案件だからそれも踏まえて…ね」
「分かりました、全てをお話します」
そうしてギルド《黄金林檎》のことと、ギルド解散に至る指輪事件のこと、そして、今回の事件のことを聞いた。恐らくシュミットという男が犯人だと踏んでいるらしい。
__その指輪が共有ストレージに入っていてその片方が死んだ。それならば、必然的に指輪はもう片方に渡るはず。
私は何となく察した。犯人は夫なのはシステムからして明らかである。
しかし、その事はあえて言うことはしない。本人たちが気がつくべきことだからだ。
問題は、殺され方。睡眠PKなんて考え出した天才的なやつは限られている。時期もまだ当時知られていなかった頃。つまり、やったのはおそらく…《
すぐさま私はメールでアルゴにこの件から手を引いて欲しい、私は真実を知った。その上で情報屋が関わるのはまずいと伝える。
もうこれ関係の情報の売り買いおよび調査はしないだろう。手口のみは後でアルゴに伝えておく。
「悪いわね。でも、わかったわ。口外しないわよ、安心して」
そう聞くと男は安堵したのかほっと息をつく。
……口外せず情報屋も介入させないようにしたのはただ1つ。
《
「……ん?」
その後、
***
話は全て聞いた。恐らくあいつらが来るとしたら…最後。シュミットが脅えて被害者の墓に来る時だ。
私はじっとその時を見すえて準備した。
ちなみにアルゴは、私の対応が《
そして、今私は《
なお、私とヒースクリフはお互いの素性を共有している…私はヒースクリフをしってるし、ヒースクリフは私を知っている。
それもそのはず。何しろヒースクリフは私をここに導いたおじさん…
初めて会った当初はお互い言わない、関わらないだったものの寂しいし、何よりウマが合うのだ。誰よりも親友同士の私たちは自然と再び話すようになっていた。…運命とまで感じているのは最近の話。
私のホームに招き入れる。ちなみに部屋について感想求めたら「…君は女の子なのだな」だった。解せぬ。
「それで、どうだ?この城は」
「そうね、夢のような『普通の日常』が過ごせてるわ」
「それは良かった」
もはやお決まりの挨拶になってる問答をした後、私は例の件について切り出した。
「あぁ、そうそう。《
「ほう…?」
「うーん…まぁ、ちょっとした事件があってね。それで事件を起こそうとした動悸のほうで問題があってね。恐らく…いや、十中八九彼ら関わりがあって、扇動もされてるのが黒幕よ。事件起こしてるのとは全く別だけど。」
「ほう、もはや私よりも事を把握しているようだ。期待しているよ《
「その言い方はやめなさいよ…まぁ、
そして、続けてサチのことを…話そうとしたのもつかの間、ちょっと失礼とメニューを開くヒースクリフ。どうやら何かしらのメッセージがヒースクリフに来たらしい。
「失礼…目にかけている者からのメールだ。すまないがそちらへ向かう」
「そう、それじゃあまた」
無口で無愛想な
***
「うふふ…ついに来たわこの日が」
念入りに準備して迎えたこの日。
バレないように丁寧丁寧丁寧に《
私にとって、指輪がどうこうだとかその辺はどうでもいい。ただ、私は《
そうこうしてるうちにシュミットが来た。あのカップルがシュミットの尋問を始める…そして、シュミットに不意打ちを仕掛けるダガー使い。それからカップルを牽制する
まさかの主登場で私も拳に力が入る。話し込んでる隙を狙って主を殺そう_いや、無理そう。バレている訳では無いが…そこまでの距離が長すぎる。だから私が狙うのは…1番手前のダガー使い。
バレないように殺気を込めずに
足音を消すスキルを利用して、一撃で防御を貫く
人殺しをしてオレンジになりながら、私はにこやかに笑っている
「ワーンダウーン」
趣返しのことばを吐くとここまで聞こえてくる舌打ちをかましてくる。
エストック使いは乱入者に戸惑い、カップルとシュミットは
「い、一撃だあ!?」
「チッ…
「好きなように言えばいいわよ。変に色々吹き込んでたの、私まだ許してないのよ?」
さっと拳を構え、戦闘態勢をとる。すかさず人質をとるエストック使い。
「さっさと離れろ、こいつがどうなってもいいのか?」
「構わないわよ、関係ないもの。私の目的は指輪でもそれを守ることでもないの、アンタらを殺すことなのよ」
「ほーう…」「ヒッ!」「アンタ…っ」
希望を失ったような目を向けてくるが知らん。興味もない。
「…
「ハッハッハ!やっぱりお前さんは俺らより
「うふふ、どちらも素敵な褒め言葉ね。ありがとう《
まさに、一触即発。
そんな時だった。
__ドドドっドドドっドドドっ
という、リズミカルな振動がした。だんだんそれは大きくなり、こちらに近づいてくる。
お互いを警戒しながらそちらを確認する私とラフコフ達。
だから、私もラフコフ達も、もう1人の動ける者に気がつけなかった。
「おらぁっ!」
「!?」「えっ」「あっ」
「今だ!早く逃げろ!!!」
人質をとっていたエストック使いに見事なタックルをかましてカップルを解放したのは_麻痺毒によって最初に地に倒れ伏したシュミットだった。
しかも、確認したところ近づいて来ていたのは馬に乗って来たキリトだ。
私、立ち上がったシュミット、そしてキリト…
メンバーも1人欠けたことで形勢不利となった
ローブ等をつけて口元を隠している相手の行先は分からず、声は馬の音でかき消された。
「あー、逃げられたー…」
「間に合ったか…ラーク、何をしている?」
「ふん、何をしていたかなんてそこら辺の人が知ってるわ。あぁ、私事件の方は全部分かってるけど全く興味ないから、お兄ちゃんに任せるわ」
「…あぁ、わかった。任されたよ」
「助かるわ。じゃあね…」
そう言って私はこの場を去った。もうひとつの目的を達成するために。
「全く…なんであんなところにラークが…怪我はないか?」
「えぇ、私達もシュミットも無事です。けど…あの人のことは悪く言うのは…結果的に、私達は助けられたのですから」
「いや、でもあいつは俺たちのことどうでもいいって…!」
「カインズ、落ち着け…!」「カインズさん…」
馬でこちらに向かった俺はラークと遭遇。レッドプレイヤーになっていたラークは何をするでもなくこの場を離れた。
ラークの振る舞いにカインズは怒りに震えるもシュミットがなだめていた。
「わ、わかった落ち着いて。ともかく、話を聞かせてくれ」
なにか事情色々あったのだろうと、話を聞くことにした。
***
「そんなことが…」
「えぇ。ラークさんがいたおかげで注意がラークさんにそれて、あなたが派手に来たことで私は二人を助けられました。」
「なるほど。あいつと
昔、仲がよかったNPCを殺されてからというもの、目の敵にしている…と、大雑把には聞いている。情報屋とかなり仲がいいから、情報屋に聞いてもダメだったのは恐らくラークが手を回していたのだろう。
「なぁ、そういえばさっき麻痺で倒れてる時に太もものあたりにちょっとダメージを受けたんだ。その後、途端にだんだん痺れが取れていって動けるようになっていったけど…なんだこれ?」
「なんだって?」
そう言ってシュミットが太ももから取りだしたのは…ピック。針のような暗器だ。それも特徴的な。
「毒針…だな」
「いったい、なんのために…?」
「いや、いい。それは一旦置いておいて、事件のことを説明するよ」
一旦置いておいて、俺は事件の真相を明らかにする。ヨルコやカインズ、シュミットまでも半信半疑の中にアスナはグリムロックを連れてくる。アスナはレッドになっていなかったことにほっとしつつ…グリムロックを連れてくる。
グリムロックはシュンとなっていて…というより、何かに怯えるようにガタガタと震えている。極めて異常な光景だ。
「なぁ…一体何があったんだ?」
「ブッシュの中に
「…は?」
「それが…
『ふん、これがグリゼルダさんの思いよ。アンタが犯人ってことグリゼルダさんすら把握してるんだから、逃げられるとは思わない事ね。
最後に彼女からの伝言よ…この人殺し!!!』
って……怯えて抵抗しなくなったグリムロックを私に引き渡してきたわ。すごく助かったけど」
「………」
訳が分からない。
……いや、ともかく。おかげでアスナがレッドになることは無かったとも言える。もしかしたら逃げたグリムロックを捕まえる過程でアスナがレッドになっていたかもしれないのだ。
「まぁ、いい。とにかく話を進める」
「は、はい…」
……その後、罪の全てを認めたグリムロックをシュミットが引き取って罪を償わせるということで全ては収束した。
__最後に、墓から浮かび上がったグリゼルダさんと大切な約束を交わして。
人が誰もいなくなった、とある夜の墓__
「というわけで、依頼…
「あ、スっとした?ふふ、満足して貰えたなら私も頑張ったかいがあるわね」
「え?ほんと?まぁ…いいわよ。でも、本当に私でいいの?私はこの先攻略はする気なんて」
「…私が持ってて?ふふ、わかったわ。」
「それじゃあ、さようなら。グリゼルダさん」
__