のんびりと見てください
カーンカーンカーン……
私は工房の一室で、1振りの剣を作成していた。
「いやぁ、まさかあんな面白いイベントがあったなんてね!」
すごく明るく、元気にハンマーを叩く私。
叩き終えて出来上がったのは白く光り輝く神秘的、かつ騎士であることを感じる剣。
イメージしたのは、天才。茅場晶彦。銘は《フラガラッハ》。
英語名でアンサラー、回答者の名をもつ名剣。情報屋の名鑑にもない、確実に上位ランクの剣。
「……さてと、どう出るかしらねぇ」
愉快そうに笑う少女。
時は、少し前に遡る__
私は、55層にある雪山に材料を取りに行くところで、片隅にある小さな村を見つけたのだ。そこで、白い髭の村長から面白い話を聞いた。
曰く、西の山の白竜は餌に水晶をかじり、その腹で精製して貴重な金属をためこんでいる、とか。初めて聞いた時は、その白竜のお腹は炉なのか?とか色々考えたけど。
そこまで難しい言われ方をするのは不思議だった。
恐らく、倒す訳では無い。龍が持っているその蓄えを強奪して逃げる、いわゆるスニーキングミッションなのではないか……
そう考えた私は、白竜の巣へと向かうことにした。が、雪山の洞窟を回ってもそれらしきものはない、どころかごくごく浅いものしかなく。(そのついでで集めていた、雪山関係の素材がかなり集まったが)
最終的に、残る候補は……
「ここ、ね……」
《
「……覚悟、決めましょう」
《
***
「ふう……きゃっっ!?」
扇の上位ソードスキル、『扇風』。
扇から風を巻き起こしてノックバックに使える他、至近距離の相手を吹き飛ばしたりひるませたりと応用が効くが故に扱いずらいそれを着地の際に地面に向かって打つことで自身にブレーキをかけた……が。
雪の中から多くの鉱石が風で舞い上がって襲いかかってきたためにいくらかダメージを受けた。
「いったた……これがあれね、クエストの」
なんとか、鉱石が手に入った。それは、いいものの……
空を見上げてもすごく出口が小さく見えるほどに深い深い穴の下。
「どうやってここからでようかしらね」
結晶無効化空間らしきそこから出る術を模索する必要が出た。
ちなみに転移結晶を試したもののやはりダメだった。
あとは……
「走って、飛んで壁ジャンプ……かしらね?」
任〇堂のどこぞの配管工のような発想である。
だが、やってみないことには始まらない。
「ダメ元だけど__やってみようかしら」
少女は壁に向かって走り出した。
***
「案外、何とかなるものね」
少女自身、AGI+DEX型でスピードが高く身軽であったこと。そしてなにより《跳躍》スキルと位置取りによって、少女は配管工のように壁を蹴って上がっていくことに成功した。
もちろん、ボスが目の前にいた訳だがそれも上手く使い、そのまま訳もなく逃走に成功する。
「ただ、なぁ」
正直、ああやって壁を蹴って穴から脱出するのは正規ルートでは無いと思う。
というのも、特定のスキルがなければクリアできないクエストやダンジョンはそのスキル持ちでないと出現しないクエストである。その上で、そのスキルを使うことをNPCやダンジョンの配置等、何らかの形で必ず示唆するはずだ。
こんな脱出方法は、簡単に言えば【茅場晶彦らしくない】
何かある気がする
「……ちょっと焚きつけてみましょうか」
私はサチに帰宅が遅れる旨を示したメールを送りつつ、ある人物の元に向かった
「……なんの用よ、師匠」
「いや、ちょっと現状の腕前を見せてもらおうと思ってね」
48層主街区《リンダース》にある水車付きの職人クラス用プレイヤーホーム。《リズベット武具店》に入った私は店の中でくつろぎつつ、鍛冶場にひきこもっているエプロンドレス姿の赤毛の店主……リズベットを待っていた。
私とリズベットはとある下層での出来事があってから知り合った中で、リズベットは私の鍛冶の腕前を見込んで私を師匠と呼んで親しんでいてくれていた。
……リズベットがこの家を買って、《リズベット武具店》として動き出す前までは
「まぁ、ここに並んでるもの見たらわかるけど…まだ、つまらない武器ばかり作ってるのね」
「む……」
いつからか、リズベットはつまらない武器ばかりを作り始めてしまったのだ。まずいと思ってそのことを指摘してたのだが、逆ギレされて……それから、私たちの仲が悪くなってしまった。
「私が打った武器は最前線攻略でも使われてるんだから!」
「だから、何よ。全く……そういう所よ」
「はぁ……?」
やはり、全く分かっていないみたいだ。
……伝わって欲しい。
が、直接教えることは出来ない難しさ。
「……お互い鍛冶師である以上、武器で語りましょう」
「何言って__!」
「あなたも鍛冶スキルはMAXになったんでしょう?同じ金属、同じ鍛冶場、同じスキルで武器を作る。それも現時点における最高級の、ね」
「!!」
かくして、勝負の火蓋が切られた。
そして、時は戻る。
私はリズベットの最高傑作を見させてもらった。
……ハッキリ言おう。店に並んでいるものと、そうたいした差は感じられない。
たしかに、素材の差がある。この勝負のために頑張って取得した鉱石だ。ここの武具よりも1ランクは上回っているだろう。だが、それまで。
「……これが、最高傑作?」
「ええ、そうよ!これが私の最高傑作の剣よ!」
「…………」
何度も見るが、やはり全く分からない。なんと表現するべきか分からないが、魂を感じない。
「再度聞くわ、あなたほんとに心のそこからこれが最高傑作って言えるの?」
「だから、そう言ってるじゃない」
「………」
扇子をパタンと閉じて事実を述べる。
ガッカリした、失望した_いや、ちがう。この感情は、そう
「呆れたわ。《ランベントライト》の方がいい武器よ、間違いなく」
「!?」
「なんか、勝負にもならなそうね」
ため息をついて私がここから出ていこうとすると、リズベットが止めてくる。
「まって!師匠はどんな剣……を……」
「…………」
私はクイックチェンジでそれを見せる。私の回答を。
リズベットだって馬鹿じゃなく、見る目がある。故に、性能は見ただけで理解できたはずだ。理解、してしまったはずだ。リズベットの最高傑作よりも強い武器であることを__
「言っていいか分からないけれど、言わないと成長しなさそうだから。師匠として出来るだけの、最低限のアドバイスをするわ。リズベット」
「…………」
「あなたは、大切なものを失いかけている__いや、失ってる」
「え……?」
「それを取り戻さない限り、あなたはつまらない武器を作り続けるでしょう。
__それじゃ」
「あっ、え?」
師匠!と呼ぶ声を背に、私は姿を消し去って家へと帰った。
***
「ただいまー。ごめんなさい、遅くなったわ」
「おかえりなさい。遅かったね、なにかあったの?」
「それが……」
サチに、事情を説明する。いつからか、私とってサチは誰よりも理解してくれる、良い相談相手になっていた。言いたくても言い出せないという共通の悩みを抱えているからだろうか。
「たしかに、ラーちゃんの作るポーションの効果って私の作るものと比べても上手だよね」
「そうかしら?私、もうしばらく作ってないから……今はサチの方が上手だと思うわ。」
「何言ってるの。私にとってのポーション作りの師匠はラーちゃんなんだから」
そう……師匠と呼んで親しんでくれるにはそれらしい事をしたい訳だが。いつからか、サチはサチなりにコツを掴んで良質なポーションを作るようになっていった。この間、鼠のアルゴにどうしたらそんな良質なポーションを作れるのか聞かれたこともあるらしい。ちなみに「一つ一つのポーションに込めた、愛情です」と答えてあのアルゴがドン引きさせたらしい。さすが天使。
「彼女の作った名作《ランベントライト》は……あれは、私から見ても至高の逸品。店で出してるのは、まぁ、悪くは無いのだけど……何も無いの。私が納得できるものが」
「納得したいの?」
「そうね、私の教えを知ってるあなたなら、分かるかしら。条件をだしてそれを乗り越えたとはいえ、愛弟子の頼みで100万コル程貸して建った店の武具に……まったく、愛も想いすらも込められずただただ無が拡がっているのよ」
「……それは」
《サチ視点》
サチは知っていた。今になってラークの作るポーションを使うのはサチだけだ。そして、サチはそれを持ってるだけでもラークがそばにいる、守ってくれると感じてしまうほどそのポーションには感情が、それも愛がこもっていると感じている。
だからこそ、サチは外出するときにラークに頼みポーションを作ってもらってそれを携帯するようにしている。逆にラークが外出をする時はサチがラークのことを想い、意思を……愛を込めてポーションを作ってそれをラークに持たせる。
言わば、1種の意思疎通をポーションを通じて行っている。
だからこそ……ラークがそんなものを作って渡したりしてきたら、私は__
と、サチはそこまで考えて辞めた。辛いことを考えるのを、本能的に避けたのだ。
それと同時にラークは苦しいんだと理解したサチは、どうにか出来ないかと思考を切り替える。ラークはこう見えて、こと対人関係は上手くない。おそらく話していた勝負も何とか仲直りしようとしていたのだろう。しかし、譲れない想いから、勘違いから。それはねじ曲がってしまって余計に仲直りしずらい状況となってしまっている。
……私自身もこういうことには疎い。上手な人に相談しよう。
そう結論づけたサチは、とにかく悲しみを和らげるためにもとラークと共にいることを決めた。
「ふむ……分かった、事情が事情だからナ。今から言う情報はタダにしてヤル」
「え、いいんですか?」
「あァ……《ランベントライト》の使い手だったナ。サっちゃんもよく知ってる、《閃光》ダヨ」
「《閃光》……あ、アスナさん?」
事情は細かく言えない。こういったことを知っていて、事情に深入りせず話をしてくれる相手としてサチは《鼠》を選んだ。
情報屋の方の仕事の関係で1週間後にはなったがようやく会って話せる。そうして会った2人はホーム近くのレストランで一緒に食べながら話していた。《鼠》にしては珍しく、サチの分も奢ってくれた。
そして、サチが事情を掻い摘んで説明すると、リズベット武具店とラーク両方から大きく支援を受けているアルゴは無料での情報提供をした。それが、《ランベントライト》の使い手についてだった。
《閃光》アスナ。攻略組のまとめ役で、血盟騎士団の副団長。
「いつも、彼女はリズベット武具店を利用してイル。そもそも、店主のリズベットと《閃光》は女性プレイヤー同士ともあってかなり昔から親交が深いのサ」
「……こんな情報、ほんとにタダで貰ってもいいんですか?」
「こちらとしても大きな話だったんダ。アノ攻略組御用達のリズベット武具店の主リズベットの師匠がラークだなんて話、初めて聞いたゾ」
あまりの情報量をタダでもらって驚いていると、それにも理由があったことをアルゴさんは告げる。
アルゴさんも知らなかったんだ……てっきり、知ってると思って話していた私は驚く。が、さらにサチの驚きは続くこととなる。
「もっと言えば実はダナ。ここ数日リズベット武具店でミスが頻発していてナ。それで、《閃光》に原因の調査を頼まれていたンダ。情報量はそっちの解明の情報量で充分すぎるくらいに元が取れてイル」
「な、なるほど……」
「と、言うわけで《閃光》に会ってくれないか?」
「えっ」
攻略組最前線の、《血盟騎士団》の副団長と……ただ回復薬を作って売ってる私が?
「そ、そんな……い、いいんですか?」
「言いも悪いも、向こう側からの要請ダ。あ、このことはくれぐれもラーク本人には内密に、ナ」
「こんにちは」
「こ、こんにちは……」
ラークが外出してる間にアルゴさんから教わった場所で待ちあわせる。話には聞いていたが、美人さんだ。
「そんな緊張しなくてもいいわよ。気軽にアスナって呼んで」
「あ、アスナさん。サチです。よ、よろしくお願いします」
思ったより堅苦しくなく、話しやすい人。と思ったサチは、ラークの教えていること等話せない事情は伏せつつ事情を掻い摘んで説明した。
「だいたいはアルゴさんからも聞いた通り、ね」
「えぇ…師匠が納得さえすればいいのですが」
「そう簡単に私が納得するとでも?」
「そうなんですよね……師匠、口下手で素直じゃないので言葉の真意を噛み砕いて考えていかないと」
「あのー……サチちゃん?」
「どうかしました?」
私が悩んでいると、アスナさんは苦笑いしながら私の左側を指す。視線をそちらに向けると、ここにはいないはずのラークが我が物顔で座っていた。さも当たり前のように。
「……な、なんでいるの?」
「私がサチのこと知らないとでも思ってるの?まぁでもお姉ちゃんにはバレちゃったかぁ」
「お姉ちゃん……?」
「お姉ちゃんに前にデュエルで勝ったの。その報酬として私をお姉ちゃんって呼びたいって言ったから…ね?」
「そ、その話は今関係ないでしょ、ほら!」
いやいやいや?師匠?攻略組トップのアスナさんにデュエル挑んで勝った?何言ってるんですか!?
報酬がお姉ちゃん呼びなのは……私は事情を聞いているし、何となくわかる、けど。話だけ聞いてるとお姉ちゃん呼びしたいからデュエルしたってことだよね?うん、ちょっと訳が分からない。
「たしかに関係ないし、かなり昔の話よね」
「そそ。で、話戻すけど……どうするつもりなの?」
「それに関して。とりあえず私は結論からいうわ。お姉ちゃん、あなたからリズベット武具店をお兄ちゃんに紹介して貰えないかしら」
「キリト君を?」
突然現れた彼女は、聞き返したアスナさんにうんうんと首を縦に振って返す。そのことに苦笑いしたアスナさんは、あははと笑って続ける。
「もう紹介ならしたわ。キリト君も剣を欲しがってて、すぐ行くって言ってたからリズベット武具店にいるんじゃないかな?」
「そう。それなら問題なさそうね」
そう言って、ラークは肩を竦めた。もう問題ないと言わんばかりに。
「サチはちゃんと帰るのよ?私はまだお姉ちゃんにちょっと用があるのよ」
「ま、待ってリズベット武具店のことは?」
「心配いらないわ。あぁいうの、何も事情を知らない人がいった方がいいし……お兄ちゃんなら何とかしてくれるわよ」
「そ、そう……」
もう、その事は彼女の気にも止めてない様子だった。そこから感じるのはお兄ちゃん……キリトという男への信頼。
サチも実際にあったこともあり知っていた。
だからこそ彼なら、もしかしたら。どうにかしてくれる、と。そう感じたのだ。
「うん。だから大丈夫。お兄ちゃんが何とかしてくれる。サチ、私もリズも大丈夫だから戻りなさい」
「……私信じてるから」
そう残して、私は去る。ラーちゃんが悲しまないのであれば、それでいい。けど……力になりたかったなぁ。そう思って、私は去っていく。
「……ほんと、あの子に助けられてばかりね。私」
「どういうこと?」
「諦めようかと思ってたのよ。でも、あの子が私のために動いてくれたから私も動ける。信じてくれてるのだもの」
「……そっか。ところでラーク、私に用があるって言ってたけど何?」
「あぁ、他愛ないことよ。これから私、そっちの団長と会いたいわ。私から団長に渡したいものがあるのよ。お姉ちゃんの方から連絡しといて。」
「あぁ、そういうこと。了解したわ」