私は、アスナに声をかけて要件を伝え、今日または明日に団長……ヒースクリフに会えるかを聞いた。
まぁ、直ぐに了解を得られてこうしてヒースクリフと会っているのだが。その日はもう予定があったらしく次の日にヒースクリフと会い、ラーメンを食べた。いつものクソまずいラーメン屋だ。
「ラークちゃんくらいよ。私の知る限り、こんなすぐに返答するの。」
とは、団長ヒースクリフを知るアスナの言葉である。
事実、私は彼と友人である。しかもそれは私にとっても唯一の向こうの世界の友人だ。だから、ヒースクリフは連絡には全て目を通した上で返答しない案件やアスナ等ほかのメンバーで解決できる問題には静観の形を貫くことを知っている。
だから、ヒースクリフは理解したのだと思う。わざわざ私が呼び出した理由を。
「やっぱりここ、落ち着くわ」
「そうか。ここは、君との思い出の場を再現した場所だ」
あのクソマズラーメン屋。かなり凝っていて、長らく行ってなかったこともあるために私は感嘆の声を漏らす。
「そういえば、君の兄にここに連れられた。まさか兄弟揃ってこういうところが好きだとは。結構似るものなのだな」
「見ず知らずの他人だけどね。でも、お兄ちゃんお姉ちゃん呼びが許されるなんて思ってもみなかったけど」
それからもずっとそう呼んでいる。デュエルで勝ち取った、私にとってかけがえもないものだ。
「彼らも、それが君にとっての救いになっていると。そうおもってるのでは?」
「……」
その発想はなかった。
彼らはデュエルして負けたから、仕方ないから。だから拒否しないんだと思ってたんだけど……
面白い。やはり、
「ところで、要件とは?」
「あ、そうそう。これよ」
私の作った武器をみせる。
「ほう、銘は……?」
「《フラガラッハ》。私があなたのために作った剣よ。」
「使って欲しい、と?」
頷いて、持っている剣をヒースクリフに渡す。彼はそれを持つと、おもむろに立ち上がってSSを発動した。
その後、しばらく彼は黙して考え……ようやく、口を開く
「なぁ、ラークよ。これをどうやって作った?」
「あら?合わなかったかしら?」
「逆だよ、
……たしかに私は攻略組に参加していないため、1度も彼の戦闘スタイルを見ていない。当たり前だが、ステータスも知らない。
なのに、私はヒースクリフに合った剣を作って見せた。そのことに彼は驚いているのだろう。
「あぁ、そういうこと。その答えは至極単純。私はあなたのことを__ヒースクリフのことを思って。鮮明にイメージをしながらそれに見合う素材でもって、武器を作った。ただ、それだけよ」
「……それでできるものなのか?」
「できるわ。私、あなたより生産系のスキルを使ってるんだもの。断言するわ」
しばらく考えた彼は、軽く頷く。何かしら自分の中でもう答えを得たのだろう。この一瞬でもって私でもまだ完全な理解に至って居ない現象を理解してみせるそれは、やはり天才なのである。
「なるほど。ところで、君は鍛冶屋なのか……?」
「《子供》スキルで生産スキルは覚えているから」
「そうか…この武器の強化、君に頼んでもいいか?」
「もちろん。強化内容はどうする?」
「君に任せる」
「了解」
それだけ言うと、しばらく無言でお互いにラーメンを食べる。
現実世界からの付き合いだが、お互いに気を使わずまずいラーメンをすするこの一時はとても楽しいものだ。
「「ご馳走様」」
特に示し合わせたわけでもなく2人は同時に食べきり、その後は黙って下げて何を言う訳でもなくそれぞれ別れる。
沈黙というのも、気の知れた相手がいるとこうも落ち着く。それも、救世主であり親友のヒースクリフといると尚更……
「1つ。1つだけ言っておこう」
「なに?」
突然、彼はそう口にした。そして、続く言葉に私は苦笑いをうかべる。
「鉄は熱いうちに打て。武器も、人も」
本当に、よく知ってよく見ている人だ。こちらの事情も把握しているのだろう。
「……えぇ、そうね」
それを聞いた私は、リズベット武具店へと、歩みを進める。
到着した私はふと、窓から中を見た。そこで驚くものをみる…いえ、見てしまう。
その手には二振りの剣。
片手にはお兄ちゃんが元から愛用しているボスドロップの魔剣。そして、もう片手には…青く輝く聖剣。
それは見ればわかる。打ち手の魂が、弟子の思いが込められた業物。魔剣にも、過去最高傑作であったインベントライトをも超える、弟子の最高傑作。
その二本を手に凄まじい連撃を繰り出すキリトと、それを口を開けて惚けたように見つめるリズベット……
__さすがに、1度落ち着いた頃を見計らってから話そう。
私はしばらくハイドした。
そして、玄関で待機していたら……いきなり、リズベットが飛び出していった。涙を流して。いやいや訳分からない。
そして、それをキリトが出ていって追いかけて…
「そこに隠れてるのは誰?」
私に向けて剣を構えるアスナ。いやいややばいやばい!
「ごめんなさい!出るタイミングを失って…」
「え、あなた…ラーク!?」
というわけで、この場に残った私とお姉ちゃんは、お兄ちゃんとリズベットを待ちながら雑談に花を咲かせる。
「で、今日は団長となにしてたの?」
「一緒にご飯食べて、私の銘の武器を渡しただけよ」
私がなんでもないようにいうと、お姉ちゃんは驚いていた。
「武器?あぁ渡したいものがあるって……え?あなた武器作れるの?」
「え、知らなかったの?」
事情はだいたい知ってると思ってた。
「アルゴさんからはあなたとリズベットが喧嘩したって聞いたわよ。それでミスしてるんじゃないかって」
「そう…サチからは?」
「話聞く前にあなたが現れたんじゃない」
「うっ…ごめんなさい」
というわけで、事情を説明する。
「えっ、リズがあんなに言ってた師匠ってラークの事だったの!?」
「そうよ。鍛治スキルだって、リズより早くマスターしたわ」
「知ってる。『私もすぐマスターするんだから!』って」
「あの子らしいわね」
アスナからしてみると、リズベットが慕っていた師匠がよく知ってる幼女という自体に驚いた。
「……あれ?」
「ラーク?どうしたの?」
「いや、喧嘩のきっかけのものが1つ、なくって…」
「きっかけ?」
えぇ、と私は頷いて伝える。
「あの子は鍛治の上で大切なことを見失ってる。昔のリズにはあって、今のリズにはない…いいえ、なかったもの。
それを伝えるために、私とリズはここの工房で武器を作ったの。全く同じ素材で、ただ純粋に武器を作れば伝わると思って」
「……結果は?」
「あの子、最高傑作っていいながら駄作の剣を持ってきて…さすがの私も呆れちゃったわ。でも、それがないのよね」
「あぁ、なるほど」
アスナは理解する。ラークが探していたものがその時の武器であることを。苦笑いを浮かべつつ話を続ける。
一方、ラークは気にもとめていない。
「あなたはどんな武器を作ったの?」
何となく聞いてみる。すると思いがけない返答が帰ってくる。
「それをお姉ちゃんの団長…ヒースクリフにさっき渡したのよ。その時、多分、攻略で使うだろうし強化依頼もうけたからすぐみれると思うわ」
「えっ、強化まで!?」
「鍛冶師だもの。できて当然よ」
「ちなみにどんな強化するの?」
「私におまかせされたわ。腕の見せどころね」
「おまかせ…!?」
血盟騎士団の長は、ヒースクリフは…ラークに全面的な信頼を置いている。
その事実を理解したアスナが驚いていると、店のドアが開く。
「ただいま」
「おかえりなさい。随分長かったわねーお兄ちゃん、リズ」
「アスナ、待たせてごめん…って、え?師匠!?」
「ラーク、こんな所に…え?師匠?」
私が来ている事に驚いている二人は違う反応を見せる。
「ふふっ。それより…ようやく、掴めたみたいね」
「えっ?」
戸惑うリズに、私は口元を扇子で覆い隠しながら告げる。
「あなたは大切なものを失っていた。昔のあなたにはあって、前までのあなたが失っていて……そして、今のあなたがきっと取り戻しているもの。何となく、心当たりがあるんじゃないかしら?」
「……!」
リズが固まる。うーん、やっぱり。
「図星、かしら?」
「……つくづく、ほんとに師匠ってなんでもお見通しですね」
「何でもじゃないわよ」
そう言って笑う。きっと、もう大丈夫。仲直り出来たのだ。
そうして、私は待つもののいるホームへと、帰路に着く
「じゃあもう大丈夫?解決したんだ」
「えぇ」
「よかった…」
そうして拠点に戻るとサチ待ってくれていた。解決したことを報告する。それから…
「サチ?」
「うん、どうしたの?ラーク」
「ありがとう。私、1人だったら諦めていたかもしれないから」
「__」
突然のことに驚いたサチは、少し間を置いて理解して
「どういたしまして」
と、私の手をギュッと。けど、優しく。握ってくれた。
そして、その手は暖かいものだった。
それから、しばらく後に。どんな因果だろうか、お兄ちゃんの手には私の愛弟子の最高傑作
そのことを、私達はまだ何も知らない。