「ホントにこれでいいのカ…?」
「もちろんよ。…嫌なら嫌で断ってもらっても構わないわ。片方が我慢して過ごすような関係なんて嫌でしょ?」
「むむ…いや、嫌じゃないゾ」
「よかったわ」
ここは私の宿にあるお風呂。そう、アルゴに頼んだのはPTを組んで一緒に過ごす事だった。もう夜だったため、クエストをするのは明日からにしようとアルゴに提案し…私の宿で一緒に泊まることになったのだ。
「ふふ、折角だしアルゴの背中あらってあげるわ」
「お、おう…」
緊張しているのだろうか。何だか距離が遠い。
「~〜~♪」
「………」
鼻歌混じりに洗う。いつの間にか洗い終えた私は、今度はアルゴに洗ってもらうように言う。
「大丈夫カ?染みたりしないカ?」
「ないない。ほら、おねがい」
「お、おう…」
戸惑いつつも、洗ってくれるアルゴ。
「どうしたの、アルゴ。様子が変よ?」
「…なら、聞くけどナ。なんダ、この痣ハ?」
「あぁ、それ?リアルで殴られた痕よ」
このゲーム、リアルでのスキャンが無駄に高精度でスキャンの際に体にあった、親による暴行の痕すらもアバターに反映されている。
「………だ、誰に殴られたんダ?」
「んー、色々。親とか先生とかクラスメイトとか」
「ラーちゃん……」
なんでもないことであるように言う私を、アルゴは急に抱きしめた。
「えっ、ちょっ、アルゴ!?」
「…嫌だったカ?」
「別に、嫌って訳じゃないわよ。ただ…ちょっとだけ愚痴ってもいいかしら」
「あぁ…構わないヨ」
…許された私は、ぐしゃぐしゃの感情を吐き出すことにする。
「イヤイヤもう帰りたくない痛いの嫌殴られたくない私何にもしてないのになんでなんで!毎日毎日殴られて捨てられて残飯食べて…あんな
「……」
そうハッキリとアルゴは泣きだす私を、ただただ抱きしめてくれた…
***
「ごめんなさい」
「別に気にするナ、面白い情報も手に入ったしナ」
「……」
お風呂から出たあと一緒に寝ることになった。
というのも、泣き終えた後に甘えてもいいだろうとアルゴに言われたが甘え方を知らない。それで、甘え方の情報をアルゴから買ったのだ。それに添い寝というのがあったのでしてみよう、ということになったのである。
「……なぁ、ラーちゃん」
「どうしたの?アルゴ」
「ここ、アインクラッドに来てよかったカ?」
……アインクラッド。晶彦の城。答えなんて決まってる。
「ええ。殴られないし、痛みも感じないし、色んなことが出来るし……何より、アルゴに会えた。だから、来てよかったわ」
「……そうカ」
アルゴが、今度は手を繋いでくれた。……それが、私には暖かく優しいように感じて……気がつけば、意識が遠のいていた。
***
「んう……」
「……」スゥースゥー
起きると、アルゴが寝息を立てていた。私は起き上がり、いつも通りに朝食を作る。
今日は安いパンに卵焼き、味噌汁と日本人の朝食。
「んう……」
「おはよう、もう朝ごはんできてるわよ」
「おお、いい匂いが……いやいやいや!?すごい豪華!?」
「ふふ、召し上がれ」
私が作った料理をガツガツと食べていくアルゴ。私も食べながらその様子を微笑ましく眺める。
「……なぁ、ラーちゃん」
「どうしたの?」
「持ってるスキルの数おかしくないカ」
「その情報は口止め料に1万コルで」
アルゴは悩んでから、頷く。膨らむ口止め料。それを更に増やしてでも聞くべきと判断したのだろう。スキルの数はそれだけ重要なのだから。
「……まぁ、種明かしにもならないけど。《子供》スキルっていうので、内容は生産系のスキルがスキル枠とは別に習得されてるの。習得条件は小学生以下よ。恐らく、大人とイーブンにするのとフィールドに出す必要を無くすための配慮のように感じるわ」
「あぁ、あったナそんなの……ラーちゃん小学生以下なのカ!?」
「見れば分かるじゃない……リアル情報だからあまり言いたくないのよこの情報は」
流石にアルゴも把握していたみたいだ。あとアルゴ、あんた驚くとこそこかよ。背丈とかで気づk……うんそんなに変わらないかもごめん
「そうか……わかっタ。それと、今言った情報は誰にも話さないから安心シロ。リアル事情の売り買いは鼠の流儀に反するからナ」
「よく知ってるわ。だから、こうして信用してPT組んでるんだもの」
「そうカ」
アルゴは頷いて料理に再び舌づつみをうっていた。
私も料理を食べ始める。
__ずっと食べられなかった食事がこうして食べられる
私にとって、これだけでも夢のような事に感じる。私が明彦にこのことを教えて貰ってこの食事を食べて、どれだけ素晴らしく感じたのか。
筆舌にも尽くしがたい。
……でも、夢はいつか覚める。そう、この食事さえも当たり前になりつつある。スキルで色んな食事が作れるのは楽しく、NPCにも時々教えてもらっている。それは、この世界こそが現実であることを突きつけていて……それがとても心地よく感じた。
「ごちそうさま」
「うん、ごちそうさまダ。ありがとナ、ラーちゃん」
そうして、私はアルゴを連れてNPCのお話をもう一度聞いてくる為に向かった。私の話だとミスがあるかもしれないと思ったからだ。
そう、その方が良かった。
__攻略組が、2層のボス部屋に行ったとの連絡を聞くまでは
***
「まずいナ、まず聞きに行ってからいくのでは間に合わないゾ」
「……これ、抜けがあるかもだから使いたくはなかったのだけどね」
と、紙のようなオブジェクトを出してアルゴに投げる
「おわっと!?……これハ?」
「ボス追加情報のメモよ。ここのボスはベータの将軍達に加えて王が出てくるわ」
「はぁ!?そんなの、急いで情報届けないと不味いダロ!!」
「そういうこと。他はベータのときと変わったところはないみたい。確認しておいてね」
AGIに身を任せて私達は迷宮区へと駆け出した。
……不意に、どこかで見た顔が迷宮区の入口前でウロウロしてるのを見つける。
「あら、こんな所で何をしているのかしらナタク」
「なた!?あ、あなたはあの時の……!」
「オレっちもいるゾ」
そう、件の男。ネズハ。強化詐欺師だ。
しかし、格好は完全に戦士のそれである。
「迷宮区に行くのカ?」
「はい。行きたいんです……」
「なら話が早いわね。一緒にいきましょ」
「え、いいんですか?」
「私達も向かってるもの。チャクラムと私の扇、あと私とアルゴの《隠蔽》があれば素早くいけるわ。ナタクのチャクラムは今回の追加ボス特攻みたいな所あるしね」
そう、王冠に攻撃を当てるとスタンする…がいかんせん王の背丈が凄まじく高く《投擲》スキルがなければそうそう当てられない。
「ほら、コレがボスの情報ダ。行く途中に眺めておくんだナ」
「何かあればナタクが動くのよ?頼むわよ英雄さん」
「……はいっ!」
そんな訳で迷宮区を3人で駆け抜けていった。
……チャクラムと《隠蔽》、扇、そしてアルゴの迷宮区の地図情報を駆使して一体ともエンカウントせずにボス部屋までいけた。
ちょうど王様が大暴れしていた。
駆け込んだ私達。
王様をナタクのチャクラムでスタンさせ。アルゴはボス情報を叩きつけ。私は《隠蔽》でボス戦の行く末をただ、じっと見守る。
……とはいえ。
ほぼ10割をナタクのチャクラムにより動けなかった王様はそのまま何も出来ずに没していった。
3層に因縁のある私は、ナタクの独白を聞く前に、誰よりも早くこっそりと3層に向かった。
この後ですが、3層以降の…ぶっちゃけるとキズメルがどういった存在とするか定まっておらず……1度原作まで時間軸を動かして後々足していく形にさせて頂きます。
簡潔にいえば、都合上次話で話が飛びます。すみません