いろは生誕記念 やがて、この景色も一色いろはの思い出になる。
4月16日ーーーB.C.1178 ギリシアの英雄・オデュッセウスがトロイア戦争を終えて自国に帰還した日である。
長く辛い旅路の果てに故郷で待っている妻・ペーネロペーと再会する。その冒険を記した叙事詩がかの有名な“オデュッセイア”である。
え、知らない?面白いから一度読んでみるといい。
さて、コアなガンダムファンなら気付いていると思うが、このオデュッセウスとペーネロペーは、閃ハサのライバルMS・オデュッセウスガンダムとペーネロペーユニットの名前の元ネタである。アナハイム製ガンダムが20周年のことと、長い間放浪の旅を続けた英雄に掛けて付けられたらしい。奪われた王妃を取り戻すために遠征しギリシアの勝利を導いた英雄と、反連邦組織の象徴を墜とした
結論:閃光のハサウェイ楽しみです。
ーーーと、益体もないことを考えて現実逃避しているが、俺はここ数日、難題に頭を抱えている。
この問題に比べればまだ、単機でジャブローに潜入をする方が簡単なぐらいまである。俺のステルス性は伊達じゃない。
オデュッセウスの件で暈していたが、4月16日はあざとい後輩・一色いろはの誕生日である。
本人も鬱陶しいぐらいアピールしていたし、wikiにも載っていたから間違いない。wikiに誕生日が載ってるなんて、何もんだよ一色。あ、
俺のも載ってたわ。凄いな、wiki。
先月あった小町の誕生日には、手製のケーキを持参して祝ってくれた。兄妹水入らずの誕生会にちゃっかり参加して何様のつもりだよ、と言いたかったが、一色特製のケーキが絶品だったので文句を言う気も失せた。
俺の誕生日にもプレゼント貰ったしな。
HGジェノアス(特価500円シール付)だったけど。家族以外から貰えたのは初めてだったから、結構嬉しかったりする。
それにまぁぐだぐだと言っているが、一色の誕生日を祝うのは実は初めてではない。去年もプレゼントを渡したしな。
ただ、敗者たちの栄光の1巻を渡したら、物凄く微妙な顔で「先輩がガンダムバカなのは知ってますが、わたしのプレゼントにもガンダムで来るのは予想外すぎです。でも先輩から貰えることは素直に嬉しいのでありがとうございます」と言われた。
小町にも「ごみぃちゃん、それどうよ」と言われた。おかしい…
まぁ、結局は一色も嵌まったらしく、家に来て続きを読んでいたが… いや、自分で買えよ。
小町相手ならここまで悩まくても済む。欲しいものをおねだりしてくるからな。全く、うちの天使はちゃっかりしている。
しかし、相手は一色である。いくら小町みたいなもんとはいえ、そこは花の女子高生だ。どんなもんが欲しいのか検討がつかん。
それとなく聞いてみても「先輩がくれるなら何でもいいですよー。どんなものでも先輩との思い出になりますしー」と、とびっきりの笑顔で宣う始末。余計に難易度が上がった気がする…
思い出にねぇ…
こっそりバースデーカードとくまのぬいぐるみを一色の席に置いておく、とか。
……俺がやったらただの不審者だな。却下だ、却下。
五飛、教えてくれ……俺は一色に何をプレゼントすればいい?俺はあと何回、一色のお断り芸を聞けばいいんだ……小町は俺に何も言ってはくれない……教えてくれ、五飛!
と、何処かで聞いたことあるような台詞を流しながら、NPDのアルトロンガンダムEWとバトルをしている。…NPDだから回答などあるわけないが、お約束みたいなもんだからいいんだよ。
一色へのプレゼントのアイデアに完全に煮詰まった俺は、気分転換がてらGBNにダイブをしていた。戦闘に集中することにより、隅に追いやる。
「人、それを問題の先送りと言う!」と、脳内のロム兄さんが言ってる気がするが、全力でスルーしておく。
そもそも、ボッチ故に他人と会話しない分、独りで思索する事は得意分野ではある。しかし、後輩女子へのプレゼントという俺には慣れないジャンルの事であり、その分余計に頭を使っている。
そんな慣れない事へのストレス発散的な気分で、衛生軌道上でアルトロンガンダムと戦っている。それも何度も。
名場面の再現と呼べるミッションだが、個人向け上位の難易度でありそこまで人気はない。ただ、俺の機体特性上はめ技の真似事が出来、割りとあっさりクリアー可能だ。
ーーー貴様の為に、何人の五飛が死んだと思ってるんだ!?
ーーー聞きたいかね?……今までの時点では5人だ。
と、脳内で寸劇をしながら6人目を落とす。
単純作業は苦手ではないが、こうも繰り返すと疲れてくる。 いや、肉体的には疲れないが、精神的な疲労は溜まる。流石に不人気ミッションを、インターバルを入れているとはいえ、占有するのはマナーが悪い。
なんか糖分を摂取したくなってきた。喫茶店にでも入って一休みするか。
あ、プレゼント買う金もそんなにないわ。 インセパラブル作るのにそれなりに掛かったし。バイトするような時間もない。
新たに浮上した問題に頭を抱えながらも、行きつけの喫茶店へと足を運ぶ。メインエリアから外れた場所にあるここは、
普通に考えたら商売にならないが、そこはゲーム内、売り上げなんて度外視だろう。人が少ないからこその静かな雰囲気を気に入っている。寂れた感じが非常に落ち着く。
コーヒーとケーキを注文する。GBNでは現実と同じように、何かを食べた際に味を感じることが出来る。詳しい原理は説明されてもあまり理解出来そうにはないが、なんか脳を騙す的な原理で五感を再現しているんだろう。知らんけど。
無論、実際に食べている訳ではないから腹は膨れんし、栄養にもならない。しかし余分な脂肪にならないということで、女性からの人気は高い。
… 一色の奴も前に「罪悪感がなく乙女の夢が叶います」と力説してたしな。まぁ確かに、体重の事を気にせず思う存分ケーキを食べるのは、男の俺からしても魅力的に思える。
だが、GBNでの飲食か…… これは案外悪くないかもしれん。何も物に拘らなくてもいい。
やっぱ俺って、不可能を可能に…って、いかん。この台詞は撃墜フラグだったわ。続編で記憶操作されて仮面被って出てくる羽目になる。
待望の完結編なのに、久しぶりに見た主人公が仮面キャラになってたら、視聴者が全員画面の前でポカンとするわ。キャラデザ変更ってレベルじゃねぇ。タイトルも『俺の仮面ラブコメはまちがっている。 』に変わっちまう。
仮面ラブコメってなんだよ。仮面夫婦みたくカップルのフリでもするのか?ニセコイかよ。
……さっきから俺は一体何を言ってるんだ?
兎も角、方針さえ決まれば話が早い。
帰宅した後にVeda(G◯◯gle先生)にアクセスする。これだけ人気コンテンツだ。情報には事欠かない。GBN公式ページ、タイアップ企業のページ、果てはまとめサイトから個人ブログまで。そこから取捨選択し、最適のプランを構築しなければならない。
さあ、検索を始めよう。キーワードはーーー
知的欲求に夢中になった右側の魔少年みたく、それから数日に渡り夜遅くまで計画を立てていた。夜更かしし過ぎて小町に怒られることもあったが、一色の誕生日の計画を立てているのを知ると一転上機嫌になり、ポイント高いと言いながら人の肩をバシバシ叩いて去っていった。痛いんだけど。
その甲斐あってか、我ながらいいプランが立った。
勝利の法則は決まった。これなら、なんかいける気がする。待っていろ一色。もう、お前のお断り芸を聞かない!
ーーー後から振り返れば、この時の俺はテンションがおかしいことになっていたのだろう。
苦手分野の思索によるストレス、睡眠不足から来る思考力の低下。それに伴い解決の糸口を見つけたことの高揚感。それにより普段俺の感情を制御している理性が休眠状態になり、平時の俺からは考えられない行動を取っていた。
後に一色から聞いた話によれば、ただでさえ人の予想から外れた行動を取る俺が、更に輪を掛けた行動を取っていたらしい。
まぁ、だから今更なんだという訳ではないが。
× × ×
やって来る4月16日ーーーの前の休日。駅で一色と待ち合わせる。
麗らかな春の日差しが寝不足気味の目に染みる。
だが、出掛ける前にマッ缶をキメて来たからな。コーヒー入り練乳飲料と称されるぐらいの暴力的な甘さだ。この刺激により、今日一日ぐらいは乗り越えらるだろう。
そうこう考えているうちに待ち合わせの時間になった。しかし、まだ一色は来ていない。
別段、前触れもなく呼び出したわけでもない。事前に連絡を済ませている。天気がいいからと出掛けようなど、
まぁ、どうせあいつの事だ。わざと遅れてみせて、こちらの反応を評価しようって魂胆だろう。
全く何様のつもりだと言いたいが、今日呼び出したのは俺の方だし、誕生日だから大目に見てやろう。いや、一丁前に上から目線で俺の方が何様のつもりだよ。
と、噂をすれば、
「すみません。遅くなりましたー」
ほらな。一色の声が聞こえる。
とてとて小走りしながら、こちらに寄ってくる。
「その、先輩、大丈夫ですか?目がいつもよりヤバイことになってるんですけど」
ヤバイって何だよ。お前の語彙の方がヤバイぞ。
「や、キレたときの三日月みたいな目になってますよ」
え、何、そんな淡々と人を処理をしていきそうな目になってるの?確かにそれはヤバいわ…
「まぁ、少しな…」
言葉を濁す。計画を立てるのに夜更かしが過ぎたなんて、コイツには言えん。
しかし、俺の反応から何かを察したのか、
「期待してますよー」
と悪戯な笑顔を浮かべる。「でも先輩だからなー」と言いながらも足取りは軽い。
しばらく歩き、いつもの模型店に到着する。途端に一色はげんなりとした雰囲気になり、
「ダイバーギア持ってこい言ってたので、予想はしていましたが…」
小声で「わたしの誕生日祝いじゃなかったの…」とゴニョゴニョ言っている。心配しなさんな、ちゃんと考えてっから。
ダイブしてもまだブー垂れている
「予約していたヤハタです」
トリナと二人、席に通される。こういった店に入りなれているであろうトリナでも、真逆俺が率先して入るとは思っていなかったようだ。若干そわそわしている。
事前に
運ばれてきたケーキを見て、トリナが「わぁーー」と感嘆の声を漏らす。
ピスタチオクリームでボディカラーの緑を再現しており、半月状のドーム型で立体感もある。目や口はチョコレートで描かれ、耳の部分はラング・ド・シャになっており中々凝った作りをしている。
形を崩さないようにと横に添えられたチョコプレートは吹き出し型になっており、『タンジョウビ、オメデトウ』のメッセージが書かれている。
トリナもどうやら気に入ったらしい。さっきから頻りに撮影をしている。女の子ってこういうの好きだよな。同じもんだし、何枚撮っても変わらんでしょ?
「すいませーん、カメラお願いしてもいいですかー?」
それだけでは飽き足らず、店員を呼び止め撮影を依頼する。
「ほら、先輩も」
トリナに急かされ、俺も撮影範囲に入る。リアルでも喫茶店に入る度に散々付き合わされたからな。今更ごねても意味がない。
ケーキを挟んでトリナの方に身を乗り出す。
カメラの方に顔を向け
横目でトリナの方を見れば、手は逆だが同じポーズを取っていた。わかっているじゃねぇか。
ただコイツがすると、なんか別の如何わしい写真に見えてくる。こんな事を考えているのがバレたら、EDのリリーナばりの冷たい目で見られること間違いなしである。
「先輩、これ、ホントにいただいちゃっていいんですか?」
チラリとこちらを窺うように見る。普段は遠慮のえの字も知らんぐらい傍若無人に振る舞うくせに、珍しく此方から奢ったりすると途端に恐縮しだす。
「ああ、遠慮すんな」
そもそも、その為に予約したんだ。どんどん食ってくれ。
「可愛いからナイフ入れるの躊躇しちゃいますねー」と言いながらも、迷わずザックリと切れ込みを入れる。おい、全然躊躇してないだろ。
綺麗に切り分けられた断面を覗く。そこにはぎっしりとメカが詰まっていた…なんてことはなく、土台のビスキュイ、ピスタチオムースにベリーのソースが層になっていた。ほぉ、見事なもんだ。
ドームケーキはその形状ゆえに、ホールケーキよりも手間がかかる。丸型に入れて焼き上げたスポンジ生地を土台に飾りあげていくものと違い、焼いた生地をドーム型に張り付けて中身を入れて冷やし固めなければならない。加えてハロを模したキャラデコケーキだ。見た目に拘ればさらに時間がいる。
リアルで頼もうものなら相応の値段がする。具体的に言えば4000円ぐらい。
しかし、ここは電脳世界。データさえあれば簡単に量産が出来る。材料費、人件費その他諸々の経費がかからないので非常にリーズナブル。科学の 力って すげー!
それにしても、ケーキに対しての描写が細かすぎだろ、俺。まぁ、お菓子作りが得意な一色に色々と付き合わされたから、それなりに知識が付いている。スイーツ男子になっちゃうのかよ。
反対に、一色のやつはガンダム女子になりつつある。先程の
順調に洗の…もといはまってきている。そうか、これが相互理解。人類の革新というやつか。違うか。
脳内でそんなことを考えて、コーヒーを啜る。正面に座るトリナを見ると、「んぅ~」と目を細めながらケーキを堪能していた。
カロリーを気にする必要がないから、あっという間にワンホールを平らげる。
「先輩にしては中々のチョイスでした」
「おう」
女子の夢たるケーキワンホール食いを達成できたからか、トリナはご満悦のようだ。
だが、これで満足して貰っては甘い。
今日の俺は、祝福の鬼すら凌駕する存在だ!
「腹ごなしに一寸ばかり付き合ってくれんか?」
疑問符を浮かべながらも頷くトリナを連れて、AGE-2ステルスのコックピットに乗り込む。
「狭いかもしれんが、我慢してくれ」
コックピットで2人乗りだが、何度か乗っているので今さら気にはしていない。トリナも横で大人しくしている。
発進後すぐさまストライダー形態に変形し、空を翔る。フィールド移動のためのゲートを抜ける。
ゲートを抜けるとそこは雪国ーーーというわけではなく、むしろその反対、むせ返るほどの緑に満ちた世界だった。
「えと、先輩?ここは」
いきなり馴染みのない場所に連れてこられて、トリナは疑問符を浮かべる。
「南米・ジャブローだ」
宇宙世紀の地球連邦本部でお馴染みの場所だ。架空の地域だが、アマゾン川流域の熱帯雨林をモデルにしており見応えがある。
「や、なぜ、わざわざこんなとこに?」
場所を聞いてもいまいちピンと来ないのだろう。トリナは首を傾げたままだ。
「ま、お前に見せたいものがあってな」
「見せたいもの…… なんですか?」
そう慌てなさんな。そろそろだから。
「左を見てみろ」
俺の言葉に胡乱ながらも顔を向ける。その瞳の先には、視界一杯に拡がる薄桃色。
「先輩!フラミンゴですよっ!フラミンゴ!!」
トリナは目をキラキラと輝かせながら、目に写る情景を報告してくる。
おいおい、興奮しすぎだ。某アイドル閣下みたいな事を言ってるぞ。まぁ、あのお方もお菓子作りが得意でどことなくあざといから、似てるっちゃー似てるが…
俺も機体を制御しながらも、その風景を見遣る。コイツに見せたかった景色はこれだ。
ジャブローから再び
「綺麗ですね…」
トリナは感慨深げに呟く。
「なぁ、思い出に残りそうか?」
ふと、トリナに聞いてみる。彼女は不思議そうにこちらを見る。
どれだけ綺麗な風景でも、電脳空間でのことだ。現実世界には存在しない。
さっき食べたケーキにしてもそうだ。どれだけ美味しくても0と1の集合体に過ぎない。腹もふくれなければ、栄養にもならない。
この世界はサーバーの中でしか存在できない不安定な代物だ。いくらガンダムが息の長いコンテンツとは言え、いつ消えてしまうかもわからない。
それでも、
だが、俺はここにいる。
烏滸がましいことではあるが、コイツにもこの世界の事を好きになってもらいたい。あのフラミンゴのようにいつまでも記憶に焼き付けて欲しい。そう願ってしまう。
「いつか消えてしまうかもしれない景色だ。それでも、今はこのGBNを楽しんで欲しい」
そう伝えるとトリナはゆるゆると首を振り、
「今だけじゃありません。来年も再来年も、ずーっとよろしくです!せーんぱい!」
「素敵なプレゼント、ありがとです!」と
ーーー俺が貰ってどうするんだよ。
MISSION:一色いろはの誕生日を祝え
報酬:少女の笑顔
≪MISSION CLEAR!≫
いろはす誕生日記念SSでした。本編とはパラレルみたいな感じで。
五飛ネタに走ってますが、別段嫌いな訳じゃないです。当時のアンソロでも、ハゲキャラや一人だけ美形に描かれないなど散々ネタにされていたので、そのイメージが抜けきらないだけです。幼い頃の印象は大事。