更新が遅くなり申し訳ありません。約一ヶ月ぶりになりますが投稿します。
前回の続きというか後編になります。
最近、一色のアプローチが露骨になってきた。
いや、元からだと言いたいだろうが、普段のあれはGBN内や身内だけだからである。
学校など他人の目があるところでは、弁えてるのか最低限の接触しかしない。それでもかなり気安いが……
だが、ここ数日で彼女の対応は劇的に変化した。
朝、学校に着けば「せーんぱーい」と駆け寄ってくる。昼休みになれば弁当を持参して突撃してくる。放課後になると教室まで迎えに来る。
人が居ようがお構い無し。先輩センパイせんぱいと突撃してくる。当初は不特定多数の男子が反応していた。なんかスマン…
俺が原因と分かってからは、変に注目されることになった。
一色いろはは自他共に認める美少女である。これが葉山隼人の様な完璧超人相手なら、ここまで騒がれることもなかっただろう。
……葉山に猛アタックを掛ける一色の姿を想像したら腹立ってきた。奴の名前を絶対許さないリストの最上段に書いてやる。
しかし、現実、一色はそんなリア王をスルーして、陰の薄いどこぞの馬の骨とも知らない男に御執心なのだ。悪目立ちもする。
野郎からの恨みがましい目線や舌打ちやらが心臓に悪い。すれ違う度に爆発しろだの、もげろの声が聞こえる。アロンズかな?
だが、そんなのはまだいい。いや、良くはないが、俺に対しての悪意である。このくらいなら、小中の頃と比べたら温い。
問題は一色に向けられる視線である。明らかに嘲笑が含まれたものが存在する。中には微笑ましいものを見るようなものもある。しかし、悪意のある輩には、カースト上位な一色が最下部のボッチに構うのは滑稽なのだろう。リア充にとって連れている男子もステータスなのは、一色も分かっている筈だ。
一色いろはは元来賢い子である。
賢いといっても勉学のことではない。損得勘定の出来るクレバーな思考を持っている。外面の重要性を理解しており、未熟ながらもそれなりに使い分けていた。自分の言動がもたらす影響を計算している。
また、自分磨きに余念がない。可愛いわたしを魅せる為の努力を惜しまない姿には、正直尊敬出来る。
そんな一色が脇目を降らず、俺相手にぐいぐい来る。なんてことはない俺が甘く見ていただけだ。彼女の感情というものを。
現実はGBNとは違う。NPDみたく単純なルーチンで動いているだけではない。各々の性質というものに感情が上乗せされている。そして人間は感情に引きずられる。いくら外面を取り繕っているとはいえ、それは一色とて例外ではない。
彼女なら大丈夫だと勝手に理解した気になっていた。俺の中で一色いろはという少女はこういうものだと定義していただけだ。そんなもの、身勝手な押し付けに過ぎないというのに。
以前の俺なら一色を拒絶していただろう。煩わしいと切り捨てて、人間関係をリセットする。晴れて俺はボッチへと戻れる。それで良かった筈なんだが……
だが、今では一色が傍に居るのを心地好く感じている。孤独でいることに慣れているのに、揺らいでいる自分がいる。
俺といることで一色が傷付くのは嫌だ。それでも一色と離れたくないと思う俺の浅ましい願い。
俺は人の感情が理解出来ない。それは自分のことさえ含む。だから間違える。
思考が袋小路に陥りそうになるが、ふと過去に掛けられた言葉を思いだした。以前もお世話になり、また手間を掛けてしまうのは心苦しい。
まぁ、あの人なら何でもないように笑顔で受け答えそうだが……
暇潰し機能付目覚まし時計を本来の用途で使用する。
「もしもし、比企谷です。相談したいことがあるんですが…」
× × ×
約束の場所の喫茶店に入る。落ち着いた雰囲気の店内には、ゆったりとした時間が流れている。こういった所でゆっくりと本を読むのもいいかもしれない。
しかし、今日は待ち合わせである。無理を聞いて来て貰っている以上、いつまでも待たせるわけにはいかない。目的の人物を探すため視線を辺りに這わせる。
「こっちよ、八幡くん」
声の聞こえる方へ顔を向けると、柔和な笑顔で手を振る男性がいた。
「すいません、マギーさん。お呼び立てして」
派手なドレスシャツにジャケットを着こなした人物は、マギーさんのリアルでの姿である。傍から見ればホストクラブに勤めていそうな見た目ではあるが、ご本人はバーのママである。
やや垂れ目気味の瞳には優しさに溢れており、死んだ魚の目の俺とは大違いである。
「いいのよ。誰でもない、八幡くんからの相談だもの。頼りにされて、おねえさん嬉しいわ」
俺と一色の共通の知人で、信頼できる大人はマギーさんしか思いつかない。
えっ、平塚先生?あの人にこの手の相談なんて、そんな残酷な事出来るかよ。怒りのスーパーモードになった平塚先生から愛と怒りと悲しみのシャイニングフィンガーソードをくらい、俺が泣くまである。誰も幸せにならない結末しか見えない。先生が希望の未来へレディー・ゴー!出来るよう、誰か貰ってあげて。
と、独りの教師の未来を祈りつつ、ここに来た本来の目的を果たしに行く。席に着き注文をすると、話題を切り出す。
「そう、いろはちゃんとのことね」
「はい……」
ここ数日での一色の行動、それに伴う影響。そして背反する俺の感情。
マギーさんは俺の話を一通り聞き、「成る程ね」と呟きと、
「それで、八幡くんはいろはちゃんにどんなものを求めていたのかしら?」
と、問いかけてきた。
俺が一色に求めていたもの……
「俺は…ただ、わかりたいだけなのかもしれません……」
一色いろはのことを。知っていれば安心出来る。わからないことは怖いから。完全に理解したいという、独善的で傲慢な悍ましい願望。
だが、お互いがそう思えるのなら。
「その傲慢さを許容出来る関係性が欲しかった」
甘い嘘など欲しくない。上辺だけの理解や紛い物の関係などいらない。苦くてもいい。本物と呼べる存在が欲しかった。それだけで良かった。それを一色に求めていた。
「あなたは純粋すぎるわ」
俺の話に静かに耳を傾けてくれていたマギーさんはぽつり呟いた。
俺が純粋?捻くれてるや腐っているなどは数えきれないほど言われてきたが、そんなことを言われるのは初めてだ。家族にすら言われたことがない。
「はぁ…そんなん初めて言われました」
あまりにも予想外の返答に、思わず気の抜けた返事をしてしまう。
「アタシがそう思ってるだけよ。あなた風に言わせて貰えば、勝手に定義して押し付けているだけね」
茶目っ気を込めたウィンクをし、マギーさんは飄々と言う。しかし、ふと表情を真剣なものに戻す。
「あなたの想いは決して浅ましいものではないわ。いえ、純粋だからこそ願ってしまうのね」
俺を見つめながらそう切り出した。
「人は神様じゃないから簡単には分かり合えない。言葉にしなければ伝わらないこともあるわ。」
「それでも拗れちゃうこともあるけどね。拗れて、疑って、傷つけ合う。それが嫌で臆病になってしまうわ」
「勿論、あたしもね」と付け足しながら、寂しそうに笑う。
「大切だから傷つけたくない。貴方のいろはちゃんを想う気持ちは大切」
「そして、傷つくことを怖れず行動するいろはちゃんの勇気も大切」
マギーさんは俺の目を真っ直ぐ見ながら語る。
「確かにいろはちゃんは変わったわ。でも、それは悪いことばかりじゃないの。貴方に出会ったことでいろはちゃんは強くなったわ」
出会った頃の一色はその容姿と仕草を武器に、適当な男子をとっつかまえてはジャグリングするような清楚系ビッチのようや奴だった。ぶっちゃけ近づきたくないタイプの筆頭である。しかし、いまでは鳴りを潜めている。
まぁそれでも、元来の甘え上手で強かな所に俺の悪辣さや搦め手が加わり、知れず人を扱き使うのは手慣れたものになったが……
あれ、もしかして俺はとんでもない存在を作ってしまった?
「それに、変わったのは貴方もよ」
驚愕の事実に戦々恐々としていると、マギーさんは優しい声色で告げる。
「出会った頃の貴方なら、アタシに相談なんてしなかったと思うわ」
確かに…… それは自分でも思う。当時の俺なら誰にも頼ることなく、自分が取れる手段での最適解を出そうとする。いつかは致命的な間違いをした可能性がある。
そんな俺が人に頼るようになった。これは一色によって俺が変わったということだろう。
自分からは変わらないーーーそう考えていたが、既に変わっている俺がいた。それだけ、一色いろはが俺に与えた影響は大きかったということだ。そして、それが悪くないと思える。
やはり、俺は一色のことがーーー
「そう、答えは出たようね」
俺の顔付きが変わったことに気がついたのか、マギーさんは頷き激励する。
「行ってきなさい、男の子」
……ありがとうございます。行ってきます。
さて、告白すると決めたからにはタイミングとシチュエーションである。
一昔前なら兎も角電話やメールで済まそうものなら、いくら一色といえど激おこ案件である。どうしようもないごみを見るような目で、
「は?何ですか口説こうとしてるんですかごめんなさい時間と場所とムードとタイミングを考えて出直してきてください」
うん、容易に想像できる。
いくら俺でも、それが悪手なのは分かる。
学生にとって一番のシチュエーションは、放課後の屋上や校舎裏での告白だろう。数多の媒体で使い古されている手段ではあるが、それだけに王道とも言える。
だが、学校は不味い。只でさえ悪目立ちしている現状、わざわざ燃料を投下する必要はない。
だから俺は
そうなると、何処か別の場所でするのがいい。それも総武高生の活動範囲外で、だ。俺の心当たりでは、一ヶ所ぐらいしか思い付かん。
それなりに遠出になるから、学校帰りに行くのは向いていない。となると休日に出掛けることになる。休日は休むためにあるから出掛けるのに尻込みしたくなるが、そうは言ってられん。
場所は決まった。あとは一色をデートに誘うだけである。
あいつと遊びに出掛けたことは何度もある。だから今さら緊張などしていない。噛むことなんて有り得ない。
「あー、一色か?今度の休みに、で、デートに行かにゃいきゃ?」
結局噛むのかよ…
× × ×
デート当日、小町に頼んで服を見繕って貰う。
妹にコーディネートされるのはどうかと思われるだろうが、俺が選ぶよりは80000倍はマシである。八幡だけに。
「お兄ちゃんが出掛けるのにお洒落するなんて珍しいね」
クローゼットの中の服を物色しながら、小町がそう話しかけてきた。
「もしかして、いろはお姉ちゃんとデート?」
と、ニヨニヨしながら聞いてくる。普段の俺なら何かと屁理屈を捏ねて否定していただろう。だが、今日の俺は一味違う。
「あぁ、一色とデートだ」
何でもないように答える。あ、吃ることなくちゃんと言えた。八幡やればできる子。
「お、お兄ちゃんが、素直、だと……」
小町はリックドムが全滅したときのコンスコンばりの顔で驚いている。やだ、かわいいお顔が台無しよ。
「まぁ、なんつーの…覚悟を決めたからな…」
そう言うと小町は嬉しそうに笑い、
「いってらっしゃい、お兄ちゃん」
と、送り出してくれた。
………ああ、いってくる。
早めに家を出て、駅に向かう。
待ち合わせ場所に着き時計を見れば、約束の時間まで30分もある。
早く来すぎたか…… どれだけ楽しみにしてるんだよ、俺。
「あ、せんぱい」
「おう」
同じタイミングで着いたのか、一色の姿があった。
「まだ時間前ですよ。あ、もしかしてデートが楽しみすぎて早く来ちゃったんですかー」
と、手を口許に当て悪戯そうな笑みを浮かべる。気付いてないけどそれ、一色にも言えることだからね。マイダスメッサーの様に返ってくる。油断してるとミゲルみたいになるぞ。
「…ああ、そうだ。お前とのデートが楽しみでな」
一色はポカンとしていたが、やがてその顔がライデン専用機もかくやという程の深紅に染まる。
「な、な、な、な、な、なんですか口説いてるんですかいつも捻くれたことしか言わない癖にいきなり直球ですかまだデート始まってないのにあわわわわ………」
手をわたわたしながら慌てふためく。得意の早口言葉もいつもの切れがない。その愛らしい姿に和むが、本日は少々遠出するつもりなので、何時までも眺めているわけにはいかない。
「ほら、行くぞ」
そう言いながら、手を引く。一色はまだあわあわ言ってるが、こっちだって割といっぱいいっぱいなんだよーーー
電車を乗り継ぎお台場まで来た。目的地は実物大ユニコーンガンダムでお馴染み大型施設である。普段からI♥️千葉を唱う俺でも、ここは別である。
「あれ?ガンダムベースには行かないんですか?」
「いいんだよ、今日はこっちで」
今日みたいな日にガンダムベース行くほど、ガンダムバカじゃないよ。
「や、いつもなら直行じゃないですか」
普段の行いですか、そうですか。
「……行くぞ」
少々ぶっきらぼうになりながら、彼女の手を取り歩く。一色も、「はい」と言い嬉しそうに着いてきた。
カップル向けVRゲームやショッピングなど、普段の俺からすれば寄り付こうとしない場所を回った。不思議と一色といればそれほど苦にはならなかった。 一色も楽しんでくれていたと思う。
そうやって、一色と一日中遊び回った。
辺りも日がかけてきた。そろそろか………
「なぁ、一色。少し寄りたい所があるが、いいか?」
そう言って彼女と連れ歩く。目指すは決戦の場所へ。そこが俺にとってのア・バオア・クーである。
実物大ユニコーンガンダムの立像の前に来る。
態々こんな目立つところではなく、人の少ないところに行けばいいと思う。いくらガノタの聖地とはいえ、こんな人気の多い所など、長時間居たくない。
ここに来たのは願掛けのようなものだ。いくら覚悟を決めたとはいえ、所詮は俺である。人はそう簡単には変われない。変わらないなら、このぬるま湯のような関係のままでいられる。それでも、俺は一色いろはとの間に本物を求めた。
だからこそ、この獣に祈りたくなった。人の想いを受け“変身”する可能性の象徴に……
それに、ここも定番のデートスポットになっている。今さらカップルがいるからといって気にする人間などいないだろう。そんなもん見るよりユニコーンを見る。
……リア充どもが多いな。ユニコーン動かして蹴散らしてぇ……
いかん。これから告白をするってのに、思考がテロリズムに寄ってしまった。一色を見て心を落ち着けねば……
当の一色はといえば「ふへ~、でっかいですね~」とユニコーンを見上げて、手元をガチャガチャと動かしている。
どしたの、いろはす?もしかして操縦しているの?無意識なの?なにそれすっげぇ可愛いんだけど。ドキがムネムネしてきた。
やにわに辺りが騒がしくなる。演出時間が来て、ユニコーンの変身が始まる。純白のユニコーンモードから、サイコフレームの赤が目立つデストロイモードへと。
傍にいる一色を見る。あざと可愛い後輩。
これから俺がすることは、良かれ悪かれ今の関係を破壊することになる。学年での一色を取り巻く環境も変えてしまうだろう。それでも、変えたいと願ってしまった。だから、ユニコーン。俺に力を貸してくれ。
「一色…」
ぽつりと、すぐ隣にいる少女に話しかける。俺の声に、ユニコーンをほけーと見上げていた彼女はこちらを向いた。
「……少し、話をしてもいいか?」
目を逸らさず、一色を真っ直ぐ見る。俺の雰囲気に戸惑ったのか、彼女は居ずまいを正した。その鯱張った姿に思わず笑みが溢れる。
「なぁ、一色。初めて会ったときのことを覚えているか」
「もちろん覚えています。GBNで初心者狩り助けてもらいました」
懐かしむように、一色は答えた。
「だいたい忘れられませんよ。こーんなかわいい女の子がお礼を言ってるのに、先輩ってばあざといって言うんですもん」
頬をぷくりと膨らまし、わたし怒ってますのポーズをとる。そういうとこがあざといんだよ。
「…悪いな。あの頃の俺にとって、出会った頃のお前は要警戒だったんだよ」
我ながら素っ気ない態度を取っていたと思う。トラウマにより、この手のタイプは信用出来なくなってたからな。
それでも、こいつはちょろちょろぐいぐい纏わりついてきた。
「意地になってましたからね。わたしに対してあんな態度をするの、先輩だけでしたし」
パーソナルスペースをガン無視して来るこいつに、なんだかんだで絆されて現在に至っている。やだ、八幡ったらチョロイン!
「何かにつけて振り回してくるが、それも悪くないと思うようになった」
それとなく構ってやったり、俺なりに可愛がったりした。何処と無く似ていたからだろうか、小町を相手にするように気安く接するようになっていた。会わない親戚よりも身内と思っていたかもしれない。
「俺はそんなお前のこと、妹みたいなもんだと思っていた」
年下だから、お兄ちゃんスキルが発動しているだけかもしれない。
「だが違った。当たり前だ、一色いろはは妹じゃない。」
妹分でなければ何か。あざとい後輩?ヤハタの相棒のトリナ?色々と思い付くが、それではない。相応しいものはーーー
「一人のかわいい女の子だ」
改めて言葉にするには恥ずかしい。つーか、俺のキャラじゃねぇ。だが、俺の羞恥心は後回しだ。今はこの想いを一色に伝えるのみ。
「正直に言う。そういった意味でお前を意識し出したのは、かなり前のことだ」
一色が「は?」とでも言いたそうなジトっとした目付きになる。
落とそうとしてた相手がとっくに落ちていたらこうなる。ごめんな。
「気づいてからも、自分の気持ちに蓋をした」
ぽつりと、懺悔するように呟く。
「どうせ何時もの勘違いかもしれない。俺がお前の隣にいるのは相応しくない。そうやって目を背けてきた」
「そんなことないです!」
一色が強く否定する。良かった。これで勘違いだったら、部屋の窓からエントリィィィィィィ!しちゃうとこだった。
「……サンキューな。だが、俺はそんなお前の気持ちからも逃げていた。変わることが怖かった。ぬるま湯の関係なままで良かった」
こんな面倒な奴普通なら願い下げだろう。
「でも、お前は違った。なぁ、一色。賢いお前のことだ。教室に来たときに、自分に向けられる視線の意味に気付いていただろ?」
こくりと、一色が首肯する。いくらあざとい系したたかガールの一色といえども、年頃の少女である。上級生の、それも下卑た目線にさらされる場所に来るには、どれほど勇気がいるのかわからない。
それでも、こいつは来てくれた。そんな雰囲気などおくびも出さず。あざとい笑顔を全開にして。
「そんなお前を見て、俺ももう一度向き合うことにした」
ここまでされて漸く動き出せた。それでも暫くはぐだぐだしていたが…
「マギーさんにも言われたよ。お前が変わったように、俺も既に変わっている、って」
マギーさんに喫茶店で相談した時のことを思い出す。
「こんな俺が変われたのは、お前がいたからだ。お前になら変えられてもいいと思った」
一息付き、気持ちを落ち着かせる。
「今さらこんなことを言うのは、虫が良すぎると分かっている」
俺たちはニュータイプやイノベイターじゃない。言わなくても分かるというのは幻想だ。互いの意識を読み取り、許容し、受け入れる。そんな御伽噺のような存在に憧れた。
だが、現実は言葉なくしては伝わらない。いくら傲慢で自己満足なもの過ぎなくとも、言葉に頼るしかない。
「俺はお前が好きだ」
真っ直ぐな言葉をぶつける。こうして彼女に好意を示すのは初めてかもしれん。俺にしては珍しいストレートな物言いに、一色の息を飲む声が聞こえる。まだだ!まだ終わらんよ!
「かわいいを作るあざとい姿も」「その為に自分を磨いていた努力家なところも」「人を惑わす小悪魔なところも」「よく頼るくせに、任されたことはこなそうとする真面目なところも」「気が抜けたときのめんどくさそうな仕草も」「腹黒で計算高くしたたかなところも」「全開で甘えてくるところも」「照れ隠しの早口も」「からかってくるときのいたずらそうな顔も」「怒ったときの膨れっ面も」「不機嫌なときの冷めた顔も」「嬉しそうに笑った顔もーーー」
「全部ひっくるめて、いろはが好きだ」
一色への想いがマグマのように溢れてくる。理性で押さえ付けていた感情が迸る。既に頭の中は真っ白だ。自分が何を言っているのかさえ定かではない。ただ心のままに言葉の弾幕を浴びせ続ける。
「お前の隣にいたい」「誰にも渡したくない」
「対価にやれるのは、俺の残りの人生ぐらいなもんだ」
「ーーーだから、お前の、いろはの人生組み立てる権利を俺にくれ」
喉がカラカラになる。それでもなんとか、この気持ちを絞り出す様に伝えた。普段は捻くれたことしか言えない俺の、正直な感情。
……一気に捲し立てたけど大丈夫だよね。ドン引きしてないよな。いかん、不安になってきた……
内心不安に苛まれていると、不意に暖かな感触が胸に当たる。視界にはきらきらと輝く亜麻色の髪。ほんのりと届くアナスイの香り。
一色が…、いろはが俺を抱き締めていた。
「ありがと、です。先輩の気持ち、伝わりました」
腕の中に収まる小さな体躯。合わさった胸越しに、トクントクンと鼓動が伝わる。
「悪いな… 待たせちまって…」
大切な少女を優しく抱きしめる。腕の中のこの熱が何よりも愛おしい。
「ほんとですよ… あれだけアプローチしても反応ないんですもん。自信なくしちゃいます」
「す、すまん!」
「いいですよ。先輩が捻くれ者で、ヘタレで、朴念仁で、卑屈で、下衆なのはよく知ってますから」
い、いろはさん… やっぱり怒ってらっしゃる? 気のせいか抱き締める力が強くなってるんだけど。痛い痛い痛いあ、やわらか……
「だけど、そんなめんどくさいとこも含めて、先輩が大好きです」
顔を綻ばせながら言う。いろはの笑顔。俺の大好きな表情。
「好きだ、いろは」
「大好きです、八幡」
どちらからともなく近付き、やがて距離はゼロになる。
惑星の午後、ぼくらはキスをした。
「それにしても、先輩。どれだけわたしのこと好きなんですかー」
家路についている最中、ふと、いろはがイタズラな表情でーーーそれでも嬉しそうにーーー問いかけてきた。組まれた腕からはいろはの体温が伝わり、否が応にも鼓動か高まる。別に嫌じゃないが…
「いや、好きじゃなけりゃ、告白なんかしないってーの」
そうでなければ、あんなに散々悩んだりはしない。中学の時みたいに、舞い上がってなにも考えず告白して振られるまである。今回は振られなかったけど。
「や、告白すっ飛ばしてプロポーズになってましたよ」
は?確かに途中から頭が真っ白になってあんま覚えてないけど、俺そんなこと言ってたの?
「ですです。先輩らしからぬ熱い眼差しで、『誰にも渡したくない』とか『いろはの人生組み立てる権利を俺にくれ』なんて情熱的に愛を囁いてくれました」
うっとりとした様子でいろはが言う。ところでその作ったような低い声なんなのん?もしかして、俺の真似なのん?
「なんだったら録音してますし、聞きます?」
さらりと爆弾発言を打ち込んでくる。え?は?え?
「やー、いつもにも増して挙動不審な先輩の様子にスマホの録音入れてたんですけど、いいものが録れました。ここまで想われてたら、先輩のお嫁さんになるしかないじゃないですかー」
いろはは嬉しそうにへにゃりと笑い、抱きついた腕にさらに力を込める。やーらかくて、あったかい。
しかし、俺は後回しにしていた羞恥心と判明した
「や、死なないでくださいよ。入籍前に未亡人になんかなりたくありません」
ご尤もです。
× × ×
いろはと晴れて恋人関係となり、俺たちの共通の知人に報告する運びとなった。
マギーさんは俺たちをハグし、
「良かったわね。本当に良かった」
と、自分の事のように喜んでくれた。
ありがとうございます。貴方には本当にお世話になりました。
小町も喜んでくれたが、
「いやー、これで比企谷家の将来は安泰だよ。小町は早くかわいい甥っ子か姪っ子を見たいなー。あ、今の小町的にポイント高い」
と、おバカな事を宣う始末。低いし、気が早いわ。
それを聞いたいろはなんか、真っ赤になって再びあわわわわと言う機械になってしまった。控えめにいってかわいい。
よくやった小町。八幡的にポイント高い。
雪ノ下と由比ヶ浜にも一応報告することにした。まぁ、なに?いろはと小町が仲良くして貰ってるし、同じ部活とフォースのメンバーだからな。
「えっ!ヒッキーといろはちゃんってまだ付き合ってなかったの!?」
開口一番由比ヶ浜がそんなことを言う。ちょっと、声がでかいんだけど。
「あんだけさんざんイチャついてたのに!」
信じられないとばかりに騒ぐ。つーか煩ぇ。
「待て。こいつは兎も角、俺は断じていちゃついていない」
確かにいろはがベッタリしていたのは認めよう。しかし、俺からは一切してはいない。人前でいちゃつくなんてそんな恥ずかしいこと、ボッチに出来るわきゃない。
「いやいや、いろはちゃん相手だとめっちゃ甘かったし!ヒッキーがいつも飲んでる変なコーヒーぐらい甘々だよ!」
え?マジで。俺、そんなに甘やかしてたのん?精々、小町と同じような扱いのつもりだったけど。あぁ、甘やかしてるわ、これ。
それと、由比ヶ浜。マッ缶は断じて変なコーヒーではない。千葉のソウルドリンクであり、何かと酷使される現代人の脳に速やかに糖分を補給するエナジードリンクだ。
「自覚症状無しでこの有り様なのだから、始末に終えないわ。普段から一色さんを舐め回すように卑猥な目で見つめていたもの、ストーカー谷くん」
今更の事実からマッ缶の事を考えて逃避していると、雪ノ下が追い討ちをかける。
俺、そんなにヤバイ目付きしていたの?ごめんな、いろは。彼氏が犯罪者スレスレの変態で。
「大丈夫ですよ、先輩」
そんな俺を安心させるかのように、いろはは優しい声色で話しかけてくる。天使かな?
「確かに先輩の目はクルーゼ隊長もびっくりの澱みっぷりです。あまりの腐りっぷりにたまにドン引きすることもありますけど、わたしはそんな先輩の目も大好きです」
フォローしてるのかdisってるのか今一判断しかねるが、大好きと言われてちょっぴり嬉しい俺がいる。サンキューいろは、愛してるぜ。
「な、な、な、なんですかもしかして口説いていますかそんな気軽に愛してるなんて言う先輩は気障すぎて似合わないけど素直に嬉しいしわたしも愛してますからもっとぎゅっとしたりあーんしたり遠慮なくイチャイチャしますごめんなさい」
真っ赤になりながら相変わらずの早口でとんでもないことをぬかすいろはに、ユキユイコンビが無言になっている。
「あ、あれで遠慮してたんだ……」
再起動した由比ヶ浜は「たはは」と苦笑いをする。雪ノ下も頭が痛いとばかりこめかみに手を当て、「はぁ…」とあからさまにため息をついた。
そんな部室を眺めながら、ふと思う。
始めは無理矢理入れられた部活だった。何だかんだでサボらずはいたが、その程度の付き合いにしかならないと思っていた。それが、今ではメンバーでフォースを組んでいる。
いろはと出会う前の俺からしたら、信じられない風景である。
積み重ねてきた黒歴史も、この景色の礎となっていると思うと悪くないかもしれん。トラウマばかりの過去だが、いろはと出会いここまで来れた。
だから、これだけは胸を張って言える。
ーーーやはり俺といろはの青春ラブコメはまちがっていない。
ラブコメ成分マシマシ回でした。GBD要素はマギーさんのみ。
次回からまたバトルに戻ります。