高嶺の華と路傍の花   作:山本イツキ

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ラッキースケベって羨まけしからんよなぁ。

と言うことで今回は、誰かがそんな目に合います


第10輪 突風に揺れるクレマチス

 長かった一学期も終了間近に迫り、オレの気分は最高潮に達している。

 しかしその高揚も束の間、オレたち学生には避けて通れない道─────期末テストが今日から始まろうとしていた。

 

 学期内に教わった全ての教科から出題されるそのテストは宛ら、長篠の戦いにおける織田信長の鉄砲隊。

 銃弾と化した様々な問いが雨のように降り注ぐ。

 勉強するのは不可避。

 もし赤点を取ろうものなら、夏休みは補修地獄に見舞わられる。

 去年は受けずに済んだが、今年はそうはいかない。

 なにせ、理数系が目も当てられないぐらい壊滅的だ。

 

 相加平均と相乗平均?

 複素数?

 等加速度直線運動?

 なにそれ日本語?というレベルである。

 

 国語は文章の中に答えがあるし、英語も単語さえ覚えればなんとかなるんだが………数字を使って解を求めるのはどうも苦手だ。

 こういうのは氷川のような生真面目な性格の人間が向いている。

 将来使うことのない事を勉強して、なんになるんだか。

 何でもかんでも真面目に勉強して、先生に媚を売り少しでも成績を上げようとする人間の気が知れねぇ。

 

 

 布団の中でそう考えてる内に起床の時間を迎えていた。

 外は生憎の雨。

 今日から1週間、期末テストを受ける身からするとこれほど憂鬱になるものはない。

 空は黒雲に包まれ、台風でも近づいているのかと言わんばかりの豪雨が窓ガラスにぶち当たる。

 部屋の中からも聞こえる雷の音もゴロゴロと鳴り、いつ落ちてもおかしくない状況だ。

  

 

 「いっそのこと台風が直撃してこのまま期末テストが延期してくれたらな」

 

 

 窓越しで外を見つめながらポツリと嘆く。

 ポッドで湯を沸かし、トースターでパンを焼く間にテレビをつける。

 チャンネルをニュースに変えると、ちょうど天気予報を伝えていた。

 

 

 『本日の天気は非常に荒れた雷雨となっています。降水量も東京では過去に例を見ないほどの数値を記録しており─────』

 

 

 …………非常に荒れた雷雨?

 お天気キャスターの言葉を頭の中で繰り返していると、各都道府県の最大1時間降水量のグラフが表示された。

 どこもかしこも100mm越えを記録し、ことの異常性を強調している。

 確かにここ最近天気は悪かったが、まさかこれほどまでとは……………。

 

 いやあ、お天道様には頭が上がらねえ。

 

 

 「奏っ!アタシは今日も出勤だけど、学校ちゃんと行きなさいよ!」

 

 「はいほーい。わかりやしたよー」

 

 

 玄関先で声を上げるおふくろに適当な返事を返す。

 仕事で忙しいおふくろには申し訳ないが─────学生には学生の特権がある。

 視線をテレビ画面に戻すと、東京都を含むほとんどの都道府県に大雨洪水警報が発令されていた。

 

 警報の発令、つまりは学校に登校することが許されない状況になったのだ。

 

 今の時刻は8時10分。

 何人かの生徒は既に登校を終えている時間だろうが、目と鼻の先にあるアパートに住むオレからしてら全く関係ない。

 今も焼き上がったトーストとインスタントコーヒーを堪能しているところだ。

 

 ちなみにだが、風紀委員の仕事はテスト期間の為か行うことはない。

 のんびりゆったりできる幸せ…………今のうちに堪能しておかないとな。

 

 そう考えていると、携帯に着信が入った。

 かけてきたのは松原だ。

 

 

 「はいは〜い、こちら月島〜」

 

 「あっ!おはよう月島くん!」

 

 「おぉ。それで、一体何のようだ?こっちはテレビを見ながら朝飯をゆーーっくり食べてるところだけど?」

 

 「そのことで電話したんだあ!さっきすれ違った先生に聞いた話なんだけど、今日は警報が出たからテストは中止らしいよ」

 

 「やっぱり中止か。あと、電車も止まってるみたいだな。全線運転見合わせだとよ」

 

 「ええっ!?そ、それは困ったなぁ………」

 

 「そうか、お前電車通学だったか」

 

 「うん………お母さんに迎えにきてもらおうかな…………」

 

 

 この雨の中だとそうせざるを得ないか。

 しかしまあ、車で来るにしても道路が水浸しの上に松原と同じ考えの輩が多いに違いない。

 いずれは渋滞を起こして帰るに帰れない状況に陥ることは容易に想像できる。

 

 そこでオレは、ある提案を松原に持ちかける。

 

 

 「もしよかったら、うちに来るか?すぐそこにあるんだが」

 

 「そ、それは申し訳ないよっ!」

 

 「気にするな、家には誰もいない。もう1人、確実に学校にいるであろう奴にも声をかけるつもりだ」

 

 「いるであろう?それってもしかして………?」

 

 「お察しの通りだな。それじゃあ、お前はどうしたい?」

 

 「うーーん…………」

 

 

 2人の間に数秒の沈黙が流れる。

 

 

 「……………せっかくだから、お邪魔してもいいかな?」

 

 「もちろんだ。なら、今から奴にも連絡する。オレの家はそいつが知ってるから連れて行ってもらってくれ」

 

 「もし勧誘に失敗したら……?」

 

 「安心しろ。()()()()()()()

 

 「う、うん、わかった!また後で連絡するねっ!」

 

 

 松原の着信を切り、すぐさま奴に電話をかける。

 1コールと待たずそいつは出た。

 

 

 「…………一体何の用ですか?もうすぐで試験が始まりますが、今伝えなければいけない用件なんですか?」

 

 

 いつもより荒っぽい口調で話してきたのは、仕事仲間の氷川だ。

 テスト前からか、やけにピリピリしてるように感じる。

 

 

 「今伝えないといけないことだな」

 

 「なら、手早くお願いします」

 

 「一つ目、クソ真面目に追い込みをしてるお前に残念なお知らせから」

 

 「大きなお世話です!」

 

 「今日の期末テストは警報発令に伴い中止となった」

 

 「…………そうだったんですか」

 

 「二つ目、電車も止まって全く身動きが取れない状況にあること」

 

 「それは困りましたね…………」

 

 「三つ目、そんな困り果てた氷川に朗報だ。今からオレの家で松原も来るんだが、お前にも─────」

 

 「お断りします」

 

 

 オレの言葉を遮り電話がプツンと切られた。氷川に再度着信を鳴らす。

 

 

 「お断りしたはずですが?」

 

 「まぁまぁ、最後まで話を聞いたらお前の考えも変わる。お前はただ遊ぶ為だけに家に招くわけじゃないんだぜ?」

 

 

 オレは苛つく氷川を宥めるように話す。

 

 

 「あなたの考えならお見通しです。どうせ、私に勉強を教えて欲しい、とでも言うつもりなんでしょう?」

 

 「流石だ氷川。まさにその通り」

 

 「勉強は1人で行うものです。大勢でやると、かえって集中出来なくなります。それに、期末試験ではある意味私たちは敵同士。双方、特に私側にメリットがあるとはとても思えません」

 

 

 的確な分析で詰みを狙う氷川だが、まだ考えが浅い。

 お前は確かに優秀だ。

 オレや松原では氷川より勉学において確実に劣る。

 だが、今回はあくまで期末テストだ。

 莫大な範囲の広さと問題量。とても1人で捌き切れるとは思わない。

 

 比較的頭の良い松原と秀才の氷川でバカのオレを教育する。

 そうすることでインプット・アウトプットが成立して双方メリットが得られるだろうに。

 

 この方式を"バカも育てば役に立つ"とでも名付けようか。

 

 しかしまあ、こっち側が得をしてるように見えなくもない。

 これはあまり使いたくない策なんだが…………仕方がない。

 オレは氷川を()()()()()()()()()()()()を打つ。

 

 

 「確かにお前の考えはもっともだ。けどな、これを聞けばお前は必ずうちに来る」

 

 「…………一体なんだというんですか?」

 

 「まず、お前には行きつけのキャンディー屋があるんだよな?」

 

 「な、何でそれを………!?」

 

 「そこの店主はオレの中学時代の友達の親御さんでな、よく味見役を頼まれてたんだ」

 

 「それとこれと、何の関係があるんですか?」

 

 「今季登場予定の新作が何種類かあるんだが………なんと今、それがオレの手元にある」

 

 「……………!?」

 

 「その味見役をお前に譲ろう」

 

 「何故そんなに上から目線なんですか!」

 

 「何故って、お前の好みで出す品が決められるんだぜ?現にお前が味見役となれば、誰よりも発言権があることになる」

 

 「誰よりも………」

 

 「どうだ?引き受ける気になったか?」

 

 

 無言で考え始める氷川。

 きっと携帯越しに、頭を抱えて悩みまくってるんだろうな。

 考えた結果、思いのか早く答えを出してきた。

 

 

 「………わかりました。その味見役を受けさせていただきます。その代わり、あなたが勉強以外のことをしだしたら即帰らせていただきます。この条件、のんでくれますね?」

 

 「ああ、いいだろう。時期に松原がお前の元に行くはずだから、一緒に来てくれ。場所はわかるな?」

 

 「はい、もちろんです…………あっ、ちょうど松原さんが来られました。今からそちらに向かいます」

 

 「くれぐれも気をつけろよ」

 

 

 そう言い残し電話を切る。

 物で釣って頼み事をするなんて、男らしくないとオレ自身思う。

 だからこそ使いたくない一手。

 だが、氷川の考えを詰むことには成功したようだ。

 

 まぁせっかくの機会だ。

 氷川と松原の頭脳を有効利用させてもらおう。

 

 

 そしてこの時のオレはまだ知る由もなかった。

 この後、とんでもないことをやらかすということを─────。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 氷川との通話後、急いで朝飯を完食し部屋を片付け、身のこなしも整えた。

 2人を迎える準備ができたと同時に家のチャイムが鳴る。

 

 

 「こんな雨の中悪いな。どうぞ入ってくれ」

 

 「「お邪魔します」」

 

 「…………よっぽど酷かったらしいな」

 

 

 雨風が激しい外は、もはや傘なんて使い物にならない状況にありそうだ。

 松原に至っては雨を凌げるものを手にしておらず、全身がずぶ濡れ状態にある。

 

 

 「松原、お前傘はどうした?」

 

 「あはは、風で飛ばされちゃった…………くしゅっ」

 

 

 松原はブルブルと震え、くしゃみをした。

 

 

 「学校を出たのはよかったのですが、ここに辿り着くまでが難関でした………」

 

 「風邪をひかれては元も子もねぇな。ほらっ、このバスタオルで体を拭け」

 

 「ありがとうございます。助かります」

 

 「うん、ありがと…………でも、この濡れた制服じゃあお家に上がれないかな…………」

 

 「なら、オレの服を貸してやるよ。その制服も全部洗濯して乾かしてくれて構わん。なんならシャワーも貸すぜ?」

 

 「し、シャワーはちょっと…………」

 

 「安心しろ、下心なんてものは持ち合わせてないし覗く気もさらさらない」

 

 「そんなこと私が許しません」

 

 「しねえっつってるだろ!正直、このまま風邪をひかれたらオレが困る。だから松原、遠慮すんな」

 

 「…………うん、わかった!月島くんの言葉に甘えさせてもらうね」

 

 「氷川はどうする?」

 

 「私はあまり濡れなかったので遠慮しておきます。靴下も替えの物を持ってきているので」

 

 「用意がいいことで。じゃあ松原、浴室まで案内する。氷川は適当にリビングで寛いでくれ」

 

 「寛ぐ前に試験勉強の準備です」

 

 「ハイハイ、ソウデシタ」

 

 

 松原を浴室まで連れて行き、シャワーがお湯になるよう設定して部屋を出る。

 リビングに戻ると氷川は机に教材を並べ、つけっぱなしにしてたテレビを凝視していた。

 

 

 「今日は警報が解除されることはないだろうな」

 

 「ええ、この大雨ですから当然です」

 

 「…………悪いな。こんな形で招いちまって」

 

 「今更なんですか?もうとっくに過ぎたことなので気にしてません。それに、風紀委員から赤点者を出すなんて真似は絶対にさせません」

 

 「なら、このバカにも分かるように解説頼むぜ」

 

 「望むところです」

 

 

 氷川は自信満々の笑みを見せると、テレビを消し勉強にとりかかった。

 やはりコイツを招いて正解だったな。

 

 

 「そういえば、松原に着替えを貸すんだったな。さてどれにしようか………」

 

 

 オレは自室に入り、適当なジャージを取り出して浴室へと向かう。

 

 

 「松原〜、これでいいか…………」

 

 「ふえぇ、下着もびちゃびちゃだよお……………えっ?」

 

 

 ─────唐突の光景に思わず固まる。

 だが、オレはとんでもないことをやらかしたということだけはハッキリと理解した。

 ノックもせず入った脱衣所には、上下水色の網柄で統一した、下着姿の松原の姿が目に入る。

 まだ全裸ではなかったのは不幸中の幸いだった。

 しかし、『覗く気もさらさらない』と言った矢先、こんな奇行に走るオレはアホだ。

 意識してないとはいえ、松原からしたらオレは『自分の破廉恥な姿を覗きにきた変態』としか映らないだろう。

 

 この時、オレは誓った。

 

 これから部屋に入る時は、必ずノックをしよう─────と。

 

 

 「………………………」

 

 「………………………」

 

 

 互いに顔を合わせ、無言の時間が流れる。

 

 

 「……………着替え…………持ってきたから…………ここに…………置いとくぞ…………」

 

 「……………うん、ありがとう…………」

 

 

 松原は掛けてあったバスタオルを急いで体に巻き、無理な笑みを浮かべた。

 それと同時にオレは逃げるかの如く勢いよく部屋を出る。

 

 

 「洒落になってねぇぞ、オイ…………」

 

 

 肝心の氷川は─────勉強に集中してるようでこちら側に気づいていない様子だ。

 あたかも、何事も起きなかったようにリビングに戻り鞄から教材を取り出す。

 

 

 「月島くん」

 

 「な、なんだ?」

 

 

 突如オレの名前を呼ばれた。

 

 

 「まさかとは思いますが、()()()()()()()()()()()()?それとも、()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 ─────どうやらお気づきのだったようだ。

 動かしていた手を止め、冷たい目でこちらを見つめる。

 隠してもどうせバレるだろうし、ありのままの真実を伝えよう。

 

 

 「後者だ。断じて好んで覗きに行ったわけではない」

 

 「ハァ…………月島くん。あなたは丸岡さんと等しい行為をしたという自覚はありますか?」

 

 「もちろん。だからこそ、お前に頼みたいことがある。松原に頼んでも絶対断られることだ」

 

 

 オレの言葉を察したかのように氷川は立ち上がりオレの側まで歩み寄ると、右足を半歩下げ右手を大きく振りかぶった。

 

 

 「…………覚悟はよろしいですね?」

 

 「ああ。手加減なしで頼む」

 

 

 氷川は表情を変えず、右手を鞭のようにしならせオレの左頬に強烈なビンタを喰らわした。

 

 これは戒めだ。

 

 心の中でそう呟きジワジワとくる痛みを必死に堪えた。

 

 

 

 松原が浴室から出る頃には、無言で机に向かう女と左頬を腫れさせた男が勉強している異様な光景を見せていた。

 

 

 「あのっ、月島くん…………シャワー貸してくれてありがとう。なんだか頬っぺたが腫れてるように見えるけど…………大丈夫?」

 

 「ああ、気にするな。服はちょっとデカかったか?」

 

 「ううん、大丈夫だよ。ズボンも紐を縛ればなんの問題もないよ」

 

 

 某スポーツメーカーのTシャツ+同じメーカーの上下セットのジャージを貸したが、ややブカブカのように見える。

 

 そういえば、浴室に行った時下着も濡れてたと言ってたよな?

 つまりは今、何も履いてな─────いや、これ以上は何も考えないようにしようか。

 

 

 「えへへ。この服、月島くんの匂いがするなあ」

 

 「…………そんなに臭うか?」

 

 「ふぇっ!?ち、違うよ!!心地いいって意味で、決して悪い意味じゃないんだよ!」

 

 

 両手と顔を同時にブンブンと振り、大袈裟に否定する。

 

 

 「まあなんでもいいんだけどな」

 

 「あ、あはは…………」

 

 「それは置いといて、試験勉強始めるか。早速だが氷川、数学教えてくれ」

 

 「本当に早速ですね…………。少しは自分で解けるようになってくださいね?」

 

 「ヘイヘイ」

 

 

 オレの脳内詰め込み時間(おべんきょうタイム)が幕を開けた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 勉強を始めて早3時間。

 オレは分からないところを氷川と松原に聞きまくった。

 そのおかげか、何とか赤点回避までは持ち込めそだ。

 いつの間にか雨はピークを過ぎ去り、雷も鳴らなくなった。

 しかし未だ強風が吹き荒れ、外に出るには危険な状況にある。

 

 一方で洗濯された松原の衣類は、全て浴室乾燥で乾かしている途中だ。

 もちろん、オレは指一本それらに触れていない。

 

 

 「そろそろ昼だし、休憩にするか」

 

 「うんっ。はあ………疲れたなあ」

 

 「そうですね。お二人ともお疲れ様です」

 

 「紗夜ちゃんもお疲れ様!」

 

 

 オレはテレビをつけ、昼に放送する人気ニュース番組にチャンネルを変える。

 そこでも、今日の大雨について話題が挙げられていた。

 

 警報もしばらくは解除されなさそうだな。

 

 

 「─────あっ、月島くんの写真だ!小さくて可愛いなあ」

 

 

 松原は部屋に飾られていた写真立てのひとつを見つめ呟いた。

 それは、5歳の時に水族館へ行った時の写真。

 水槽の中を豪快に泳ぐデカいサメに大興奮したのをよく覚えている。

 おふくろに『もしオレが水槽の中に放り込まれたらサメに食い散らかされる』と言われたときは恐怖で震え上がったものだ。

 

 まぁもちろん、こんな恥ずい出来事を語るわけがない。

 

 

 「昔から純粋無垢でアホ丸出しのクソガキだったよ」

 

 「純粋………無垢…………?」

 

 「おいっ、そこは肯定するところだろ氷川?」

 

 

 真剣な眼差しで首を傾げる氷川にツッコミを入れる。

 飾られている写真は全て、オレが幼稚園や小学校の頃だった物ばかりだ。

 どれも懐かしい思い出。

 全て語り尽くすには少々時間がかかる。

 

 

 「ねぇ月島くん?」

 

 「卒アルを見せろ、という申し出は受けないが?」

 

 「あはは、バレちゃった…………」

 

 「少しぐらいいいのでは?私も少し興味があります」

 

 「お前がそこまで言うのは珍しいな」

 

 「ええ、人の過去を散々遡った挙句、あんなイタイ台詞を語るあなたの過去を知るせっかくの機会なので」

 

 「ひっどい言われよう」

 

 「勉強を3時間月っきりで教えたお礼ということでどうでしょう?」

 

 「飴の味見役で手をうっただろうが!」

 

 「さあ?何のことでしょう?」

 

 

 白々しい態度を取る氷川に苛つきを覚えるが、まあ最もな取引だな。

 オレが奴の立場なら絶対に同じ手段を取る。

 取引というのは自分がやや有利になるようにしたいものだ。

 

 

 「…………いいだろう。ただし、中学の卒アルだけだ」

 

 「わかりました。それで構いません」

 

 「えへへ、楽しみだなあ」

 

 

 オレは自室に戻り、机の引き出しから卒アルを取り出し二人の待つリビングのテーブルに荒っぽく置き、適当なページを開く。

 それは丁度、中学一年時から中三までのクラス写真が載せられていた。

 

 

 「多分、真ん中にいるのがオレだ」

 

 「この時からヤンチャそうだねっ…………」

 

 「…………?月島くん、ひとつ聞いてよろしいですか?」

 

 「はいはい、なんなりとどうぞ」

 

 「私の見間違いかもしれないですけど、中学一年、二年当時のあなたの姿が見当たらないのですが………?」

 

 「おお、よく気付いたな。実は中ニの秋ぐらいに転校してな、その時のオレの写真は存在しない」

 

 「……………!!本当だっ、紗夜ちゃん、よく見つけたね!」

 

 「このアルバムの中で1番幼い月島くんの姿を探しただけのことです」

 

 「からかうつもりだったんだろうが、残念だったな」

 

 「それでも、なんだか楽しそう。心の底から学校生活を楽しんでるような………そんな気がするなあ」

 

 「実際楽しかったぜ。毎日アイツらとバカやって、派手に暴れまわったこともあった。藤村の件でも丸岡の件でも、情報収集で世話になった」

 

 「すごく優秀な方々ですね」

 

 「ああ、見返りは半端ねぇけどな」

 

 「それで、なんで月島くんは転校したの?親の都合とか………?」

 

 

 松原の問いに言葉を詰まらせる。

 元クラスメイトを病院送りにして逃げました、なんて言えねぇし…………。

 まさか松原からこのことを聞かれるとは思ってなかったから、本当驚いた。

 

 さて、どう返そうか─────。

 

 

 「…………あっ!言えないような事情なら言わなくていいんだよっ!」

 

 「あなたが言わなくても、そのうち私が調べて知ることになりますよ?」

 

 「氷川に言われると、本気でやりかねないな。……………なら、この学園で唯一信頼に値するお前らにだけ伝えとく」

 

 

 オレは一呼吸おき、ある異名を告げた。

 

 「─────()()()()()()()()()には気を付けろ」

 

 「羽丘女子学園の…………」

 

 「女帝…………?」

 

 「噂に聞いた話だが、オレが転校するきっかけをつくったクソ女がそこに在籍してるらしい。オレに強い恨みを抱いてな」

 

 「羽丘女子学園は私の妹が在籍してる高校ですね…………」

 

 「なにっ!?そうか…………なら尚更気をつけたほうがいい。奴は、あまりに危険すぎる」

 

 「わかりました、妹には私から伝えておきます」

 

 「ああ、頼んだぞ」

 

 

 羽丘の女帝。久々に口にした名だ。

 かつてオレが恋心を抱いた女が、どういう経緯か不良娘に成り下がり、男顔負けの力を身につけ暴れまわっているという話を高校入学と同時に耳にした。

 この1年間はなんの接点もなかったが…………花咲川からも近いしオレがそこにいると知られれば、何をされるか分かったもんじゃない。

 このまま平穏な日常が続けば幸いなんだが…………。

 

 しばらく無言が続いたあと、氷川の携帯に着信が入る。

 噂をすればなんとやら、かけてきたのは氷川の妹からのようだ。

 

 

 「もしもし、日菜?…………ええ、今は友達の家で……………!?……………ええっ、わかったわ。また後でね」

 

 「なんの電話だった?」

 

 「私の母が車で迎えに来てくれるそうです。松原さんも家までお送りしますよ」

 

 「ほんとっ!?ありがとう、紗夜ちゃん!」

 

 「話がまとまったなら早く帰った方がいい。雨も風も今が今日で一番マシだ」

 

 「うんっ、少し着替えてさせてもらうね!貸してくれたこのジャージは洗って返すね」

 

 「いや、そのまま洗濯機に放り込んでくれ。学校で渡されても変な噂が立つかもしれねぇからな」

 

 「そっか、ならお願いします!」

 

 

 松原は礼をするとそそくさと脱衣所に向かった。

 氷川は机に置きっぱなしの教材を鞄の中に詰め帰り支度を行う。

 15分も経つと氷川の親御さんがアパート前まで迎えにきた。

 

 二人を玄関先まで見送る。

 

 

 「今日は助かった。明日は確実に試験があるから、お互いベストを尽くそうぜ」

 

 「ええ、もちろんです」

 

 「そうだねっ!お互い頑張ろう!」

 

 「それじゃあまた明日。風邪ひくなよ」

 

 「お邪魔しました」

 

 「お邪魔しました、また明日ね、月島くん!」

 

 

 笑顔で手を振る松原に手をサッと挙げ答えた後、扉を閉める。

 

 

 「さて…………勉強の続きでもするか」

 

 

 足早にリビングへ戻り、再びオレは机に向かいペンを握った。




いつか紗夜さんと千聖さんもラッキースケベを………!


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