高嶺の華と路傍の花   作:山本イツキ

12 / 54
ラッキースケベの次に好きな水着回。

実現できてよかった…………。


第11輪 夏風に揺らぐダリア

 夏の香りが漂い、青い空と輝く海がやたらと綺麗に見える今日この頃。

 藤村の事件以降真っ黒に染めていた髪に再び金のメッシュを入れた。

 学校が始まっても、オレの容姿に文句を言えるヤツはもういない。

 これがオレのトレードマークだ。

 

 そんなオレだが、期末テストも赤点なしで切り抜け毎日バイトに明け暮れていた。

 おふくろの知り合いが経営しているという海の家で、ここ2週間働きづめの生活を送っている。

 

 給料はその日の売り上げにもよるが、1日大体1万円。

 そこらでバイトするよりもよっぽど稼ぐことができているのだが……………まあ、心身共にすり減らしながらって感じだ。

 

 今日も真夏の太陽を直に浴びながら、海パン一丁のオレは店長にこき使われながらせっせと働く。

 従業員もオレと店長の2人だけだから、休んでいる間すら与えられない。

 

 

 「チンタラすんなや奏!次は3番テーブルに生ビール追加や!」

 

 「わーーってるわ!このクソ髭だるま!!」

 

 

 あまりの忙しさにお互い口が悪くなるが、連携は乱れず次々と注文してくる客を捌いている。

 横も縦もデカく、黒いグラサンをかけてるこの店長はもうシティー○ンターの海○主にしか見えない。

 本人にそのことを告げると笑いながら締め技を決めてきたから、自覚してるんだろう。

 

 本人曰く、生粋の大阪人………らしいが。

 

 おふくろとどういう繋がりか全くわからんが "ヤンキー仲間" だというのは間違いなさそうだ。

 

 

 「おい奏、そろそろ店仕舞いといこうや」

 

 「そうだな。あ〜〜疲れた………」

 

 

 17時を過ぎようやく今日の仕事が終わった。

 朝の8時半からぶっ通しで働き続けだオレはもう店長の立派な下僕(いぬ)だと言える。

 

 

 「今日もよく頑張ったな。ほれ、差し入れのジュースや」

 

 「おっ、サンキュー。助かるぜ」

 

 

 店長は店の冷蔵庫から冷えた炭酸ジュースを取り出し、オレに差し出す。

 蓋を開け、乾いた喉に一気に流し込む。

 

 …………あぁ、コレだこれ!!

 

 体中の細胞が炭酸を得て喜んでいるように感じるこの感覚!

 たまらねぇ。仕事の疲れが吹っ飛んだ。

 これのおかげでオレは乗り切れたと言っても過言ではない。

 

 

 「………ったく、人の気も知らねぇではしゃぎやがってあのチャラ男軍団…………!次にナメた態度とりやがったら顔面に右ストレートぶちかましてやる」

 

 「ハッハッハ、その短気な性格も母親譲りやなっ!」

 

 「るっせぇ。アンタも同じこと考えてたくせによ」

 

 「あぁっ?オレがいつそんな事言うたんや?」

 

 「"目" だよ。飯が不味いとヤツらがほざいた瞬間、殺し屋みたいな目つきで睨んでたろ。殺意をこもったオーラでな」

 

 「…………よしっ!なら、明日もあのクソガキ共が来て何か文句言ってきやがったら、ダブルラリアットかますぞっ!」

 

 

 そう言ってニカッと笑いながら、筋骨隆々の腕をこれ見よがしにアピールする。

 

 

 「アンタの丸太みたいな腕に比べたらオレは貧相で仕方ねぇよ」

 

 「あったりまえや!漢は筋肉があってなんぼなんや!お前はまだまだガリガリの分類なんじゃ!」

 

 「そう言いながらも、奥さんの尻に敷かれてるっておふくろが笑いながら話してたぞ」

 

 「…………奏よ、男は皆自分の嫁さんには敵わへんねんや。女はな、嫁になったら誰よりも強うなんねん」

 

 

 さっきまでの笑みとは違い、何かを悟らすかのような口調で話し出す。

 嫁に手を上げるDV夫ではないのは確かだし、見た目はこんなだが人柄的には非常に良いと働いてるうちに思い知らされた。

 

 人は見かけによらないとは、よく言ったものだな。

 

 

 「オレには負け犬の遠吠えにしか聞こえないぜ?」

 

 「アホっ!違うわ!!お前もいずれは………いや、ゲイのお前には一生わからへんことやな」

 

 「オレは結婚願望がないだけでゲイじゃねえ。だがそんなことが起こりえたのなら、アンタより幸せな家庭を築いてみせるよ」

 

 「ハッ、ぬかせガキが。お前みたいなヒョロガリに家族が守れるかい」

 

 「オレがヒョロガリなら、日本の男子高校生は皆ヒョロガリだわ、ボケっ!」

 

 

 そう言い頭に巻いてたタオルを手に取り、店長の背中に鞭の如く打ち付ける。

 しかし、奴はびくともせず『何かしたのか?』と言わんばかりに笑ってみせた。

 

 ムカつくが、肉弾戦ではコイツに敵いっこなさそうだ。

 

 

 「そうやったそうやった。明日からの予定やけどな、ここの店やなくて別の店で働いてもらうで」

 

 「はぁっ?急になんだよ」

 

 「なんや、ゲームのコラボカフェかなんかでそっちの方で人手がいるんやと。オレはこの店離れられへんし、バイトのお前なら問題ないやろ?」

 

 「おいおい、オレが居なくなったらこの店パンクするぞ?ただでさえこっちも忙しいのによ」

 

 「どうせそのコラボカフェとやらに客をとられて暇になるから、安心しろや。それに、その店はうちのお隣さんやからな」

 

 「なら、この店の店長は、あるアニメキャラにそっくりだって噂をしといてやるよ」

 

 「忙しくさせるのは勘弁してくれや。明日は常連客と、この店で()()()()()()()予定なんやからな!ハッハッハ!」

 

 「仕事サボって飲んでんじゃねぇよ!」

 

 

 高笑いする店長にカラになったペットボトルを投げつける。

 店長は難なくそれをキャッチし、足元にあるゴミ箱に入れた。

 

 

 「そのコラボカフェなんやけどな、どうやらアイドルが宣伝に来るらしいで?」

 

 「アイドル?」

 

 「そう!しかも現役女子高生やで!俺みたいなおっさんはともかく、奏でやったら知っとるんとちゃうか?名前は確か…………なんやったかな?」

 

 「そういうの、全く興味ねぇからなあ」

 

 「羨ましいなぁ、俺がお前の立場なら間違いなくアタックするのに」

 

 「オレはアンタみたいな変態思考じゃねぇよ」

 

 「誰が変態や!これは思春期男児の健全な思考や!むしろお前の方が変態やで!」

 

 「興味ねぇもんは仕方ねえだろ」

 

 「まあ折角の機会やし、仲良くなったらどうや?案外気ぃ合うかもしれへんで?」

 

 「あんま期待されても、オレは健全とは程遠い高校生だ。オレは一人が好きなんだよ」

 

 

 オレはテーブル席と調理場の清掃を全て終え、バイクのヘルメットを被り荷物を持った。

 

 

 「何にせよ女は信じられたもんじゃねえのは確かだ。過去の経験もあるしな。アンタは、嫁さんとうまく過ごせるように祈ってるぜ。それじゃあお疲れ、また明日もよろしく」

 

 

 店長に背を向け、別れを告げた。

 期末テスト前に松原と氷川に話してからずっと、あの嫌な女の顔が浮かび上がってくる。

 

 羽丘の女帝。オレが女嫌いになった原因。

 

 コイツに恋をしなければオレは、今誰かを好きになっていたりするのだろうか? 

 

 

 否、別の女に恋をしてもオレは必ず失恋していただろう。

 

 あの根暗な格好だと、好きになる要素を見つけ出すのは限りなくゼロに等しい。

 少なからず相手から告白されることなんて起こり得ないに決まっている。

 

 だからこそ、オレはあの失恋から変われた。

 一から己を鍛え上げ、男としてより逞しく、勇ましい肉体と決して何事にも屈しない精神力を会得した。

 

 オレに怖いものなんて存在しない。

 唯一警戒すべきは、おふくろの怒りを纏った鉄拳だろうな。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 一夜明け迎えた翌朝。

 いつも通りバイクでバイト先へと向かい、指定された店舗の開店準備に取り掛かった。

 スタッフは全員で8名。

 調理組とホール組みで分かれたらちょうど4人ずつでオレはホールに属された。

 前の店に比べて随分と楽できそうだな。

 

 だが、給料は以前よりガタンと落ちる。 

 こういう大きなイベントではガッポリ稼げると想像していたが、実際はそうでは無いらしい。

 

 それでも割高だ。金がもらえることに感謝して仕事するか。

 

 

 …………しかしまあ、店の外装を見る限りかなり凝っているように感じる。

 ゲームに関しては全く心得てないから、何が特別で、何が目的で客がここへ来るかが分からない。

 手渡されたメニュー表もカタカナ表記ばかりで理解に苦しむ。

 わざわざ難しい名前にしなくてもいいだろうに。

 注文を受け付ける身にもなって欲しい。

 

 間違えて怒鳴り散らして今日ものなら、店長を呼びつけてダブルラリアットをかましてやろうか。

 頭の中は、いちゃもんをつけてくる客と、それを力でねじ伏せるオレとおっさんの図しか浮かんでこない。

 

 力加減、考えないとな………。

 

 

 そして驚きなのが開店まであと1時間程あるにもかかわらず、店の前には既に何人かの列が出来上がっていた。

 

 これも、ゲームに対する熱意なのか………?

 暑いのは夏のこの気温だけでいい。

 

 ゲームの為にわざわざこの店に赴き、半袖半ズボンで汗だくのゲーマー達よ。

 その熱意や想いは確と受け取ったが、絶対に熱中症で倒れるな。

 ホール+介抱まで仕事に入れられると、投げ出したくなる気持ちを察してくれ。

 水分補給は忘れずに取ること、いいな?

 

 全ての準備が整いミーティングを行う前に若い店長から一言告げられた。

 

 

 「皆さんおはようございます。本日から10日間、ゲームとのコラボカフェがオープンとなります。くれぐれも粗相の無いようお願いいたします」

 

 

 丁寧なその口調は、どこぞの関西弁店長と比べ物にならないぐらいしっかりとした人間に見える。

 少しは見習え、似非海○主。

 

 店長はそんなことを他所に、続けて話す。

 

 

 「そして本日から2日毎にアイドルグループ、"Pastel✽Palettes" のメンバーが、一日店長として我々を手伝ってくれます」

 

 

 グループ名が告げられた瞬間、スタッフたちも、おぉっと小さな歓声をあげた。

 このコラボカフェはゲーマーだけじゃなくて、そのアイドルのファンたちも握手会感覚で来店するようだな。

 

 これなら客が増えて当然か。

 全く、面倒なことをしてくれる。

 

 

 「それでは、挨拶をよろしくお願いします」

 

 

 天頂の言葉と共に店の奥から1人の女が出てきた。

 赤と青の花が付いた麦わら帽子を被り、濃い青色の水着で身に纏うその女の正体は──────。

 

 

 「はじめまして。Pastel✽Palettesのベース担当、白鷺千聖です。本日からよろしくお願いします」

 

 

 アイドルご本人の登場にスタッフたちが歓喜の声を上げた。

 オレはこの女を知っている。

 それは同じ学校、そしてクラスメイトのウザいヤツ。

 藤村の事件後しばらく見ないと思っていたら、こんなところに現れやがった。

 

 

 「…………テメェ…………ッ!!」

 

 

 心の声が発せられる。

 怒気を含んだオレの声が聞こえたのか、ヤツはこっちに目線を向け、不敵な笑みを浮かべた。

 

 

 「ふふっ、月島くんもここにいたなんて驚いたわ。それに、髪も染め直したのね」

 

 「………何しに来やがった。ここはお前のようなお高くとまったクソ女が訪れるようなところでは無えんだが?」

 

 「あらっ、私の話は無視?」

 

 「答える義理は無え。用がないならとっとと家に帰れ」

 

 「おあいにく様、私は仕事でここに赴いてるのよ?それに私はあなたが思っているほど、嫌な女では無いのだけど?」

 

 「ホザけっ、この店の従業員を女王の権力で支配しようって腹立ったろうが残念だな。オレがお前を顎で使ってやるよ」

 

 「ええ、楽しみにしてるわ♪」

 

 

 ヤツは薄っぺらい笑みを浮かべ、会話を絶つ。

 オレとコイツの間に異様な空気に、スタッフたちが深く追求することは決してなかった。

 

 

 そして迎えた開店の時間。

 待ちに待ったと言わんばかりの客たちが一斉に押し寄せる。

 用意した50個近い席はすぐ満席となり、オーダーが殺到し、一日店長の名札をつけた白鷺千聖の前にはファンと思しき男たちが集まった。

 

 どれだけ捌こうがすぐに人はすぐにやってくる。

 かつて経験した喧嘩でも、多対一なんてことはよくあったがそれを遥かに凌駕する数に圧倒される。

 

 この状況を打開する方法は─────ダメだ、考える隙さえ与えてくれねぇ。

 8人で何とかなると考えていた数時間前の自分が恥ずかしい。

 

 助けを呼ぶべく隣のおっさんの店を覗く。 

 …………あっ、やっぱり酒を飲んでやがる!

 

 おいっ!こっちを助けろ!!

 ゲラゲラ笑ってんじゃねえ!!

 タバコを蒸すな!!

 

 オレがいくら叫んでも声が届くことはない。

 聞こえるのは、注文を促す客の声と隣の店のおっさんたちの笑い声だけ。

 

 この店のオープン期間は残り10日。

 オレの体は持つだろうか─────。

 

 

 

 昼の13時に差し掛かり1時間の休憩をもらった。

 既に体はボロボロ。

 前の店の数倍は確実に働いてる。

 

 文句を言うついでに昼飯をたかりに隣の店へと顔を出した。

 おっさん軍団はまだ飲んでいた。

 

 

 「おいっ店長!聞いてねぇぞ!なんであんな忙しさでたった8人なんだ!!」

 

 「ハッハッハ!随分と窶れた顔をしやがって、これでも食えっ!美味いぞ!」

 

 

 上機嫌に笑いながら店長はつまみのメンマを差し出した。

 あまりの適当な対応に机を強く叩いて抗議する。

 

 

 「空腹の男子高校生が、これで満足するか!」

 

 「なら、作り置きのカレーがあるからそれを食えっ!代金はいらねぇよ!」

 

 「よっ!店長、日本一!」

 

 「太っ腹!!」

 

 「その心遣いに痺れるわ!」

 

 

 天頂の案に、酒に酔ったおっさん軍団がゲラゲラと笑いながら相槌を打つ。

 それはもう、やかましいと言ったらありゃしない。

 

 コンロの火をつけ、カレー鍋を温める。

 オレがこうしている間にも、あの店のスタッフたちは今も押し寄せる客の対応で右往左往している。

 白鷺千聖の前に並ぶ列も一切途絶えない。

 

 それに比べてこっちは、むさ苦しいおっさんたちとのレッツパーティ。

 誰も近寄って来ようともしない。

 

 

 「なあ店長、休憩明けからこっち手伝ってくれよ。人手不足ってレベルじゃねえぞ」

 

 「あんま若い坊ちゃん嬢ちゃんの店にこんなおっさんが働けるわけないやろ?それに、酒も飲んで酔ってるし、フラフラしながら接客はできひんわ〜」

 

 「クッ、それは禁句だろ…………」

 

 

 店長のボケにおっさん軍団が笑い声を上げる。

 

 

 「だーーーっ!!もううっせぇ!!今から飯食うんだから静まりやが────」

 

 「あのーー………………月島くん、だよね…………?」

 

 「おいっ!人の話を……………あぁ?」

 

 

 オレの言葉を遮りおっさん軍団の背後に現れた少女は、ビクビクと怯えながら名前を口にした。

 淡い赤色の水着と蒼い髪を水に濡らし、黄色のビーチサンダルを履いたその少女に身に覚えがなくオレは首を傾げる。

 

 

 「お前……………誰だ?」

 

 「ふぇっ?ふえぇぇぇぇ!?」

 

 

 その少女は聞き覚えのある奇声を発した。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 「…………はあ!?松原だあ!?」

 

 「う、うん。松原だよ?」

 

 

 ふぇぇという口癖と松原という名前。

 その2つの単語がオレの思考回路をつなぎ合わせた。

 

 

 「嘘つけ!松原って確か、髪を横に束ねてたヤツだろ。騙そうったってそうはいかねえぞ?」

 

 「私の顔は覚えてないんだね………」

 

 「奏〜。結婚願望がねえとか言っときながら可愛子ちゃんと知り合いなんかよ〜。羨ましいな〜このこの〜♪」

 

 

 店長が膝をついておちょくってきた。

 それを振り払うようにオレは声を荒げる。

 

 

 「うっせぇよ!ただのクラスメイトだっつーの。なー、松原?」

 

 「そ、そうだね………」

 

 「ところで、なんでお前はこんなところにいるんだ?まさかまたナンパされに来たんじゃないだろうな?」

 

 「違うよっ!今日はバンドのメンバーと泳ぎに来たんだ。ほら、あそこでビーチボールで遊んでるのがそうだよ」

 

 

 松原が指差す方向を見ると、4人グループの女共が戯れていた。

 やはりというべきか、髪色の癖が凄え。

 

 紫、金、オレンジ、そして黒。まともなのが見当たらん。

 

 

 「遊びに来てるとこ悪いんだが、今日からバイトの手伝いしてくれねぇか?人手が足らなさすぎる上に、そこのおっさん軍団は全く役にたたねぇからよ」

 

 「役に立たへんとは失礼なヤツやな!」

 

 「お前より喧嘩強いわ!!」

 

 「このボケっ!」

 

 「関節決めたるぞ!!」

 

 

 おっさん軍団からブーイングの嵐が舞い上がる。

 松原はしばらく考えた後、『少し待ってほしい』と告げてから、ビーチボールで遊ぶメンバーの元へ駆け出した。

 

 ものの数十秒でヤツは戻ってきた。

 

 

 「メンバーのみんなも手伝いたいって言ってるけど、いいかな?」

 

 「もちろんだ。超絶助かる」

 

 

 オレが歓迎の意思を示すと松原は嬉しそうに笑った。

 

 

 「…………おっと、そろそろ休憩は終わりだ。松原、何度も悪いがそのメンバーを呼んできてくれ。大至急仕事に取り掛かる」

 

 「うん!すぐに呼んでくるね」

 

 「奏〜!ハーレムやないけ〜!」

 

 「俺たちと変わってや〜!」

 

 「客としてならいつでも行くで!」

 

 「お嬢ちゃんも奏に襲われへんように気をつけや〜!」

 

 「黙ってろや酔っ払い軍団!!」

 

 

 オレが切れておっさんたちはゲラゲラと笑い出した。

 人にからかわれるのは慣れてないからなんだか不思議な感じだ。

 本来なら力づくで黙らせるところだが、あの連中に素手では絶対に敵わない。

 

 体格も負けてりゃ踏んだ場数も桁違いだ。

 だが、酒とタバコに埋もれたあんなオヤジにはなりたくないな。

 

 松原のバンドメンバーを引き連れ、店に戻り店長に手伝いの許可をもらう。

 思っていたよりあっさり了承され、再び仕事に戻った。

 

 松原は冷め切った笑顔を続ける白鷺千聖のもとに歩み寄った。

 

 

 「千聖ちゃん!なんでこんなところに?」

 

 「か、花音!なんでこんなところに?」

 

 「それはこっちのセリフだよ〜」

 

 「ええ、私も驚いたわ。見ての通り私はここの一日店長を任されたの。実際は何もしてないのだけどね」

 

 「私は、月島くんとそこでばったりあってバイトのお手伝いを頼まれて………」

 

 「巻き込んでしまってごめんなさい。正直、人手不足で困っていたの」

 

 「ううん!私たちでよかったらいくらでも頼りにして!」

 

 「人手不足で困っているはこっち側だ、白鷺千聖。テメェは椅子に座って握手して宣伝して終わりだろうが」

 

 「あらっ、顔色一つ変えずお仕事するのも大変なのよ?」

 

 「握手会は終わりにしてこっちを手伝え。他のスタッフの負担を考えろ」

 

 「あなたに言われなくてもそのつもりよ。はぁ…………ホント、今日は災難だわ」

 

 

 ため息まじりにそう呟くとヤツは、紫髪で宝塚歌劇団ばりの長身女に目線をやった。

 どうやらそいつが気に入らないらしい。

 ヤツが嫌ってるのはオレだけじゃなさそうだ。

 

 

 「さっきから "儚い"って連呼してるが、あれは癖か?」

 

 「うん、そうだよ」

 

 「お前の "ふえぇ" と同等だな。あの羊みたいな泣き声の」

 

 「ふえぇぇ!?」

 

 「そう、それ」

 

 

 オレがケラケラ笑うと松原の顔は恥ずかしさからか真っ赤に染まった。

 

 

 「それじゃあ今日からよろしく頼むぜ、松原と愉快な仲間たち」

 

 

 オレは去り際に言い、客の注文を取りに行った。

 




主人公、今回はとても感情的でしたね。

キャラ崩壊かな…………?

次回は千聖さん視点の回です。
どうぞ、お楽しみに
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。