高嶺の華と路傍の花   作:山本イツキ

13 / 54
評価、お気に入り登録ありがとうございます。

今回は千聖さん視点の回になります。


第12輪 優美な華には毒がある

 私は現役のアイドルで女優。

 それは誰もが疑わない事実であり、テレビにも出演することだって珍しくない。 

 

 ─────にも関わらず大した取材もない上に、テレビで報じられることもない極小規模のイベントの宣伝大使をさせようと、事務所は私に依頼した。

 私は子役からずっと脚光を浴びてきたから知名度だってそれなりにもあるはずなのに………。

 こういう仕事は、まだデビューしたての新人さんがやるものだと思う。

 それに、肌や髪に悪影響を及ぼしかねない海で仕事をさせるなんてとても正気の沙汰じゃない。

 

 

 全く、無能なスタッフたち─────。

 

 

 アイドル結成時だってそう。

 エアーバンドになる予定が急遽演奏を強いられることになったし、その理由も全てスタッフたちのミスによるもの。

 頼りの大人でさえこのザマ。決してお説教で済む話ではない。

 私の名前に泥を塗り、歩むべき人生「みち」を壊そうとしてくる人たちは皆敵だ。

 

 彼もそのうちの1人。

 はじめは私に興味を示さない言動から、からかったり挑発混じりの言葉も発した。

 しかし、彼は私に見向きもしない。

 

 それが私は許せなかった。

 私は子役からテレビに出てる有名人。

 おまけに容姿淡麗で性格もよく、その笑顔は人を幸せにするとまで言われてきた。

 こんな女を世間の男たちは放ってはおかない。どんなゲスだろうと虜にしてきた。

 それが私にとっては当たり前。

 人気や支持を得なければ、芸能界では生きていけない。

 

 そんな気持ちも見ず知らず彼は私を敵視する。

 芸能人とは誰もが仲良くしたいと思うもの。しかし彼にはそんな考えが一切なく "女" というだけで私に牙をむく。

 本気で殴られかけたこともあった。

 殺意にも近いオーラを見に纏うその姿は、まさに獣。

 標的である私に危害を加えようと両手の拳を握りしめる。

 

 どんな歪んだ形であれ、彼が私に興味を示してくれたことは嬉しかった。

 女優として、アイドルとして、テレビに出続ける者として、人の目に入ることへの喜びというものを感じた。

 それも、もう一年半もの月日がたった。

 今の私はそれだけでは満足できない。

 

 例えば…………そう、彼が私を好きになり告白してくるようなシチュエーションが見てみたい。

 主演は私も月島くん。

 男嫌いだった彼が健気なクラスメイトに恋心を抱くラブストーリー…………ええ、これが理想的な物語だわ。

 他のモブ女共に渡してはならない。

 

 女優の頂点に立つ為の第一歩は、女嫌いの彼を魅了し()()()()()()()

 

 欲しいものはどんな手を使ってでも手に入れる。

 

 

 性格の良いアイドル?

 なんでも演じれる女優?

 

 

 そんな表現はバカげてる。所詮は表の顔、そんな可愛らしいものじゃない。

 

 

 ドライでワガママなリアリスト。

 

 それが私の本性。そして裏の顔。

 

 

 何人たりとも、私の邪魔をするのは許さない。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 2日目を迎えた朝。

 今日で仕事は最終日だけど、やはり憂鬱な気分になる。

 何しろ苦手な幼馴染がいることに心底不愉快だわ。

 小学校まで『ちーちゃん』、『かおちゃん』と呼び合い幼馴染として仲が良かった上に両親の親交もあった。

 しかし、そんな彼女も中学になって変わってしまった。

 

 とにかくあのキャラクターが気に入らない。

 今はもう、彼女と顔を合わせただけで不快感に陥る。せっかく演技の才能があるのに…………非常に残念ね。

 昨日も目も合わさないように必死だったし、あまり関わらないようにしなくちゃ。

 

 

 集合時間まで残り1時間を切ったところで家を出て、スタッフの運転する車に乗り込む。

 電車でも行けるらしいけど、私は乗り換えが苦手だからどんな遠出だろうと必ず車で現場まで向かう。

 人が少ないから落ち着くし、何より必ず現場に着くという安心感がある。

 

 40分を経ったところで海に到着。

 持参した日焼け止めクリームをふんだんに塗り、髪には日焼け止めスプレーを振りかけた。

 ドアを開け、空を眺めると雲ひとつない真っ青な空が一面に広がっていた。

 流れる海も太陽の光を反射しキラキラと輝いているように見える。

 

 それでもなるべく海には近づきたくない。

 どれだけ予防しても日焼けはするし、海水は肌にも髪にも悪い。

 芸能人として日焼け痕とこんがりと焼けた肌を世間に晒したくないなら、海で泳ごうなんて自殺行為。

 明日からの仕事のためにもケアは怠らない。

 今日も我慢して愛想良くこなさなくちゃ─────。

 

 

 更衣室に入ると花音の姿が目に入った。

 足音をたて近づくと、カノンが私に気付いて笑顔で手を振った。

 

 

 「千聖ちゃん!おはよう」

 

 「おはよう、花音。急に手伝ってもらってごめんなさい」

 

 「ううん、気にしないで。少しでも千聖ちゃんの力になれるなら嬉しいな」

 

 「ふふっ、もちろんよ」

 

 

 彼女は私と違い裏表がない。とても綺麗で純粋な子。

 誰とでも普通に接することができる優しさに私は惹かれた。

 

 

 「そういえば、千聖ちゃんは8月の予定ってまだないのかな?」

 

 「ドラマの撮影が所々であるけど、盆は休みが取れそうよ」

 

 「ほんとっ!?それなら、一緒に夏祭りに行きたいなあ」

 

 「ええ、もちろんいいわよ。楽しみにしているわ」

 

 「えへへ、楽しみだなあ」

 

 「それじゃあ現場へ向かいましょうか。今日も1日お願いね」

 

 「うんっ、千聖ちゃんも頑張ってね」

 

 

 そう話しながら水着に着替え、車の中でやった日焼け対策をもう一度行い外に出る。

 太陽から降り注がれた熱が砂浜を伝い、裸足で触れるとそれがより感じられる。

 今日も日差しが眩しい。

 日焼けだけじゃなくて、熱中症対策もしないと。

 

 

 「─────それでは、今日も一日よろしくお願いします」

 

 

 店長さんから連絡事項を聞き、スタッフを含め私も開店の準備を整える。

 昨日は私と握手や写真を求めたりしてなんの戦力にも慣れなかったけれど、今日はホールとして花音や月島くんと共に仕事をする。

 

 正直、知らない人と握手をするのは好きじゃない。

 洗ってもない手を素手で触りたくないし、何より不潔だわ。

 それを満面の笑みで、愚痴も溢さずにこなすパスパレのメンバーには心底驚かされる。

 昨日も汗まみれの手を何度も握り、寒気さえした。

 

 彼は私の仕事を楽とみなしているようだけど、その考えは甘すぎる。

 一度体験してみるといいわね。

 私が日々どれだけの苦労を味わっているのかを。

 

 

 「月島くん、今日もよろしくね」

 

 「………………足引っ張るんじゃねぇぞ」

 

 

 私が愛想よく話しかけても彼はすぐに背を向けた。

 嫌われているのは重々承知してたけど、ここ最近は特に関係が悪化しているようにも感じる。

 "彼と仲良くなりたい" という感情は一切ないけれど、私は彼の後をついていく。

 

 

 「そういえば月島くん、学校の盗撮犯を捕まえたって本当なの?」

 

 「登校もして来ねぇ芸能人に話すことなんて何もねえ」

 

 「私は単純な興味を持って聴きたいのだけど」

 

 「心配しなくても、テメェの写真は全て松原と氷川が処分済みだ。それに単純な興味と言いつつ、自分の保身を守ることに必死なのが見え見えだぜ?」

 

 「ふふっ、否定も肯定もしないでおくわ。あなたは何も知らないだろうけど、芸能人も結構大変なのよ?」

 

 「聞いてねえよ」

 

 「普段の仕事に比べたら、昨日今日の仕事内容はあくびが出るほど楽に思えるわ。月島くんも同じことを考えたことはないのかしら?」

 

 「お前とこんなところまで来て一緒に仕事するほど、苦痛なものはねえだろうな」

 

 「私はそうは思わないけれど」

 

 「まあ多額の金がもらえるならそれなりに我慢はしてやるよ。もう仕事が始まる時間だ。これ以上用がないならとっとと戻れ」

 

 「ええ、そうするわ。今日も私たちと楽しい仕事を共にしましょうね♪」

 

 「ホザけっ、この阿婆擦れが」

 

 

 私は無言の笑みで返し、彼に背を向け元の位置へと戻ると既に何十人ものお客さんが列をつくっていた。

 目的の大半はコラボカフェによるものだと思うけれど、SNS上に私が宣伝大使をしていることが少なからず広まっていたらしい。

 

 今日はアイドルや女優としてではなく、店員の一員として働くから、握手や写真を求められても遠慮させてもらおうかしら。

 

 

 「千聖ちゃーん!こっち向いてー!」

 

 「水着姿も最高に可愛いよ〜!」

 

 

 案の定、私を求める人もいたけれど笑顔でそれを全て回避する。

 その対応に怒るファンも少なからずいた。

 今私が接客している人がまさにそれだった。

 

 

 「ねえねえ、千聖ちゃん」

 

 「はい、なんでしょうか?」

 

 「昨日はここに来た人たちといっぱい写真撮ったんだろ?なんで今日はダメなの?」

 

 

 半袖短パンのその男は、髪が水をかぶったように濡れシャツも汗で色が変わっていてまるで清潔感がない。

 おまけにバンバンとテーブルを叩きながら高圧的に抗議をしているところを見ると自己中心的な人間だと窺える。

 

 そんな男に対しても私は笑顔を絶やさない。

 

 

 「申し訳ございません。本日はアイドルとしてではなく、この店の一員として働かせてもらっています。そういったことは昨日までだとホームページにも記載されていますが、よくご覧になられなかったのですか?」

 

 

 私はそう言い携帯からコラボカフェに関するページを開いてお客さんに見せた。

 それでもお客さんは食い下がる。

 

 

 「じゃあせめて握手ぐらいしたっていいじゃないか。それがファンに対するせめてもの礼儀じゃないの?」

 

 「確かにあなたのようなファンがいてくれて私は嬉しいです。それなら、昨日はなぜ来られなかったのですか?」

 

 「昨日はどうしてもやらなければならないゲームのイベントがあったんだ!だから今日を楽しみにしてたのに…………あんまりじゃないか!」

 

 

 自己中心的な発言と態度に他のお客さんは呆れ顔を浮かべていた。

 正直私も話したくない。

 店長に視線を送っても、メニューの調理でそれどころではないらしい。

 

 みんなも忙しそうだし、私一人でなんとかするしか─────。

 

 

 「あ、あのっ!お客様!」

 

 

 私の背後から勢いよく花音が出てきた。

 

 

 「なんだよ、キミには用はないんだけど?」

 

 「花音、私は大丈夫だから他の仕事に戻って」

 

 「ううん、ダメだよ。千聖ちゃんが強く言っちゃうと噂が広まっちゃうかもしれないから………っ!」

 

 「か、花音…………ごめんなさい、少しだけお願いするわ」

 

 

 私は一歩下がり、花音に全てを任せた。

 

 

 「何度も言うけど僕は千聖ちゃんに用があるんだ。はやくどいてもらえるかな?」

 

 「いいえ、退きません………!ルールはちゃんと守るべきです。他のお客様もちゃんと守ってもらってますので…………」

 

 「そんなの僕には関係ないね。僕は他の奴らとは違って忙しいんだ。特別扱いするのは当然だろ?」

 

 「それは間違っています。忙しいのは皆さんと同じ、千聖ちゃんもあなたのためだけに仕事をしているわけではありません!

 

 「なんだと!?この生意気な女め、もうどうでもいい。はやく僕の言う通りにしないと事務所にクレーム入れるぞ!」

 

 「そ、そんな…………ふえぇ…………」

 

 

 男の言葉に花音が飲まれてしまった。

 もうこれ以上は見てられない。

 私が前へ出ようとしたその時、男は花音を突き飛ばしそのまま足で彼女の体に砂をかけた。

 

 

 「きゃっ………!」

 

 「花音!?」

 

 

 花音の手を取り、起き上がらせる。

 

 いい加減、我慢の限界がきた。

 

 

 「あのっ!お言葉ですが─────」

 

 「おい兄ちゃん、そんなデカイ声出してどうした」

 

 

 男の肩を掴み、月島くんが割って入った。

 

 

 「また無関係の人間かい?いい加減飽きたんだけど」

 

 「この店の従業員だ。そこの二人の関係者になるはずだぜ?」

 

 「なら言わせてもらうけどね、そこの青い髪の女が僕にいちゃもんをつけてきたんだ。これは明らかに僕を侮辱しているとしか思えなくてね、千聖ちゃんには申し訳ないけど、事務所には報告させてもらうからね」

 

 「ああ、お前たちのやりとりは全部聞かせてもらってた。確かにアンタの事情も知らずにうちの従業員が無礼を働いていたな」

 

 「だろ〜?そうだよね〜?」

 

 

 彼の言葉に男は調子良く腕を組み頷いた。

 そんな彼に私と花音は小声で異議を唱える。

 

 

 「ちょっと月島くん、一体何を…………!」

 

 「黙ってろクソ女。松原、怪我はないか?」

 

 「月島くん………。うん、大丈夫だよ」

 

 「お前を悪く言って悪い。だが、決してお前に非があるわけじゃねぇから安心しろ。今はこの男の気分を高まらせて、最後はお前が気持ちよくなるように話をつけてやる」

 

 「う、うん!」

 

 

 私たちは二人から距離をとり、彼は男と同じテーブルに腰掛けた。

 

 

 「兄ちゃんよお、こんな暑い中わざわざ来店してくれてサンキューな」

 

 「これも千聖ちゃんのファンとして当然のことさ。それで、さっきの話なんだけど─────」

 

 「要するにアンタは、白鷺千聖となんらかのアクションを起こしたいってんだろ?なら話は簡単だ。ちょっと待ってろ」

 

 

 月島くんはおもむろに立ち上がると調理場へと向かい、店長に何かを告げ戻ってきた。

 彼は一体何を考えているの?

 私にはさっぱりわからない。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 それから15分もの間、月島くんとその男は雑談を交えながら時間を潰し店長が来るのを待った。

 お客さんの全視線が二人に集まる。

 そして店長が運んできたのは、一面真っ白な生クリームが際立つクリームパイだった。

 普段はカットされたものを提供しているけれど、持ってこられたのは一ホール丸々だった。

 

 店長の様子を察すると、月島くんの考えが全く分からないみたい。

 それは他の人も同じ。私自身、彼の奇行に思考がついていけない。

 

 

 「この店自慢の一品だ。たんと味わえよ」

 

 「…………もしかして、これで許しを乞おうなんて思っているのかい」

 

 

 ケラケラと笑いふざけたような態度をとる月島くんとは対照的にその男は、額に青筋を浮かべ怒りを露わにしていた。

 彼はその姿勢を崩さない。

 

 

 「まさか、そんな酷いことする訳ないだろ?おいっ、白鷺千聖、手を貸せ」

 

 「え、ええ」

 

 

 二人に一歩近づくと、月島くんはいきなり手首を掴んで引っ張り、私の手を無理矢理クリームパイに押し付けた。

 綺麗な形をしていたパイは形を崩し、私の手痕を大きく残しその歪さを物語っている。

 

 突然の出来事に、私を含めたこの店にいる全員が驚愕し開いた口が塞がらない。

 そんな中、彼はただ一人笑みを浮かべ男の前に腰掛けた。

 

 

 「コイツと握手したいんだろ?ほらっ、そこにあるじゃねぇか。さっさと手を合わせろよ」

 

 「…………はぁ!?キミ、何を考え…………!」

 

 「このアイドルと写真を撮るのも握手するのもホームページの記載通りで不可能だ。だが、これならどうだ?直に感じることはできねえが、間接的に触れることができるんだぜ?これならなんの問題もないだろ、白鷺千聖」

 

 「え、ええ、特に問題ないはずよ」

 

 

 彼の言葉に乗せられて肯定する。

 まさかこんな方法で男を満足させようとは、誰も考えないと思う。

 さっきから驚かされてばかりね。

 

 

 「これを許されたのは、昨日ゲームで頑張ったアンタだけだ。このご褒美、確と受けとれよ」

 

 「こ、こんなのまかりとおる訳がないだろ!!」

 

 「まだ足りないのかよ、欲張りな野郎だ。他に何を求めるってんだ?」

 

 「だ・か・ら!僕は千聖ちゃんと触れ合いたいんだ!キミみたいな野蛮な男に用はないの!だからはやく僕の視界から消え─────」

 

 

 その言葉が言い終わる直前、誰が男の顔にペットボトルを投げた。

 

 

 「ふざけるな!何様なんだお前!」

 

 「そうだっ!良い加減にしろ!」

 

 「自己中にも程があるぞ!今すぐ帰れ!」

 

 

 店内がお客さんたちの帰れコールで包まれた。

 次々と物が投げ入れられ、収集がつかなくなりつつある。

 男は頭を腕で覆い、涙目を浮かべていた。

 そして、この状況を喜ぶかのように月島くんは立ち上がり、テーブルの上に飛び乗った。

 

 テーブルにたつやいなや、大きく息を吸いスピーカーから発せられたような声が鳴り響いた。

 

 

 「テメェェラァァァ!!ちゅうもぉぉぉぉくっ!!」

 

 

 彼の大声量が周りの空気を鎮まらせ、全員の視線が集まる。

 

 

 「この男は白鷺千聖を、そしてオレの大切な仲間を傷つけた!これは許される行為か否か…………選択肢は二つに一つ!どちらだと思う!?」

 

 「許せねぇ!」

 

 「今すぐ追放だ!」

 

 「同じ目に合わせよう!!」

 

 

 月島くんの問いかけに、周りの人々は賛同の意思を見せた。

 とても熱狂的で、まるで私たちのライブのような盛り上がりが目の前で起こっている。

 

 

 「テメェらの考えはよーくわかった。ここにいるヤツらは全員、この男に鉄槌を下そうってことをな!!」

 

 

 人々は握り拳を高く掲げ、声をあげた。

 反対の意はない。満場一致。

 これを覆すなんて……………今のあの男には不可能ね。

 

 

 「それじゃあ、テメェ、テーブルに上がれ」

 

 「……………!?」

 

 

 月島くんの声に肩をびくつかせ、男は彼の指示に従った。

 テーブルに立つや否や、ブーイングの嵐が巻き起こる。

 その光景はまさに、コロシアムで猛獣の餌食にされようとしてる小動物のよう。

 周りの人たちもまた、それの観客を思わせるような盛り上がりを見せている。

 

 

 「こいつは許されざる行為を犯した。オレ自身、コイツを殴り飛ばしてやりてぇが世間はそれを許しちゃくれねぇ。皮肉な話だ。それでもオレはこの男に罰を与えたい。テメェらは賛同してくれるな?」

 

 

 月島くんのその言葉にも反論の言葉はない。

 彼は手を上げ静粛にさせると、再び声を上げた。

 

 

 「テメェらが賛同してくれたことに感謝する。おいっ、覚悟はできてるんだろうな?」

 

 「…………う、うぅ……………怖いよぉ…………」

 

 「ウジウジしてねぇで答えろや!!」

 

 「は、はひ!ずみまぜん!!」

 

 「よしっ、いい返事だ。反撃の時は来た。それじゃあ─────行くぜぇぇぇ!」

 

 

 勢いよく叫んだ彼は握られた拳を大きく振りかぶり、思いっきり頬に殴るかと思いきや足元に置いてあった手形付きのクリームパイを手に取り、男の顔面目掛けて押し付けた。

 そして勢いを殺さずテーブルから男もろとも飛び降り、握られていた漢の顔面をそのまま地面に叩きつけた。

 

 砂浜には大きな穴ができ、男は声にならない声を上げる。

 

 

 「徳と味わいやがれ、甘さの中に秘められた白鷺千聖の怒りをよ」

 

 

 月島くんが左腕を高々と上げ、勝利のスタンディングをすると今までと比べ物にならない歓声が店内を包んだ。

 

 

 「ありがとう、月島くん」

 

 

 私の口からは、素直な感謝の言葉だけが出てきた。

 

 

 

 男の身柄はすぐに警察へと引き渡されて、月島くんや被害にあった花音も事情聴取される形となった。

 とりあえず店は営業を続け、二人の欠員分私も必死になって働いた。

 夕方を迎える頃に二人は警察署から戻ってきた。

 

 

 「おかえりなさい。どうだった?」

 

 「私は問題なかったよ。でも…………」

 

 「どうやらオレはやりすぎたらしい。男は頭蓋骨の損傷で数日間入院が必要だとよ」

 

 「確かに、すごい音がしたものね」

 

 

 それでも当然の報いとも言えるわね。

 正直、月島くんのおかげで胸がスッとなった。

 

 

 「まあヤツのことは置いといて、オレは悔いはない」

 

 「な、なるべく暴力以外で解決できるようにしようね?」

 

 「ああ、善処する」

 

 「でも、私は怒っているのよ?いきなりクリームパイに手を突っ込ませるなんて………あれ、かなり痛かったのだけれど?」

 

 「テメェの利用価値なんてその程度ってことだ」

 

 「酷い言い草ね」

 

 「事実だ。今更オレに優しさなんて求めるな。オレは入学した時からずっとテメェのことが大嫌いなんだからな」

 

 「あらっ、私はあなたのこと、嫌いじゃないのだけれど?」

 

 「知るかっ。でもとりあえずオレは、今日限りでこのバイトを辞める。店にも迷惑をかけたからな」

 

 「月島くん……………」

 

 「私も今日で終わりだから、店長に挨拶に行くわ。あなたもご一緒してくれるかしら?」

 

 「絶対にいかねぇよ」

 

 「それじゃあ花音、行ってくるわね」

 

 「おいっ!人の話を…………!」

 

 「うんっ!ここで待ってるね!」

 

 

 嫌がる月島くんを無理やり引っ張り、店長のもとへ向かい歩き出す。

 そんな私の手を彼は力ずくで引き離した。

 

 

 「おいっ、いきなり何なんだ!」

 

 「これでも、私はあなたに感謝してるのよ?」

 

 「チッ、テメェなんかに感謝される筋合いはねぇよ。オレは松原を助けただけだ」

 

 「それでも言わせれ欲しいの」

 

 「あっ?」

 

 「花音を助けてくてありがとう」

 

 

 極自然に、ほんのりと浮かべた笑顔で感謝の言葉を告げる。

 

 

 「だから、テメェの為じゃねぇって言ってんだろうが。テメェのことは大嫌いなんだからな」

 

 「感謝するついでに一つ聞きたいことがあるのだけれど」

 

 「ついでって何だよ」

 

 「何故あなたはそんなに私を敵視するの?私がそんなに憎い?それとも、()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 私の言葉に彼は口を閉ざした。

 

 

 「私の勝手な想像だけど、あなたが女嫌いになった原因と私はそっくりじゃないのかしら?例えば…………そう、性格だとか容姿とか」

 

 「………………!?」

 

 「もし良ければ教えて欲しい。あなたの過去と、その原因を」

 

 

 私がそう問いかけると、彼はとうとう口を開いた。

 

 

 「…………やっぱ、お前にだけは話したくないな」

 

 「そう…………。なら仕方ないわね」

 

 「だが、今日の一件でオレたちの関係性がネットに出てくるだろうから忠告はしといてやる」

 

 「忠告?」

 

 「"羽丘女子学園の女帝" には気をつけろ。ヤツはオレを恨んでいる。オレの関係者にさえ手を出しかねない危険性を持つ」

 

 「羽丘女子学園の………女帝………?」

 

 「忠告はした。あとは自分で何とかしろ」

 

 

 彼は一目散に店長の元へと駆け出した。

 羽丘女子学園………確か、パスパレのメンバーにもそこへ通っている子がいたはず。

 

 

 「………少し、調査する必要があるわね。」

 

 

 私も彼の後を追い、駆け足で向かった。




出る杭は打たれるとはまさにこのことですね。


度々口にしている羽丘女子学園の女帝もそのうち登場します。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。