そして私自身、先日誕生日を迎えました。
後1日遅ければ…………クソッ。
今回は多数の人物が登場します。
夏休みも残り半月まで迫ってきた。
提出する課題は当然の如く手をつけず、バイト三昧の日々を送っている。
コラボカフェでの暴力事件後、店長に辞めることを告げ新たな稼ぎ所を模索していたオレに、天使のお声がかけられた。
それも天使の仮面を被った、ただのおっさんだったんだが…………まあ気にしないでおこう。
オレにとっては有難い申し出だ。
その内容というのが、今夜近所で行われる祭りの屋台運営の手伝いだ。
でかい鉄板に切った野菜と解した麺を炒めてソースをかけるだけの簡単なメニューを作れと言うが、料理以前に接客が問題だ。
面倒な客が来たら、問答無用で殴り飛ばす自分の姿が目に見えている。
肝心の店長も、絶対に酔い潰れて使い物にならないだろう。
最悪、暴れ回るオレに便乗して喧嘩をさらにヒートアップさせる可能性だって大いにありえる。
せめて、オレからは事を起こさないようにしないとな──────。
陽が落ちて夜を迎えようと空が暗くなってきたタイミングで夏祭りが開催された。
今年もまた長身の赤毛の女が和太鼓を叩き、アナウンスと共に開店されたすべての店が人で溢れかえる。
オレの営業する店の前にもすでに何人かの列が作られていた。
「焼きそば2つください!」
「600円だ。そこのハゲに金を渡してくれ」
「はいど〜も〜っ!髪なし金なしふ〇っし〜!ひゃっはー!!」
「余計なことは言わなくていいからさっさと仕事しろ。後ろが詰まってる」
案の定、店長は酒に飲まれ既に出来上がっていた。
金を渡す客も少し引いている。
オレの言葉もおっさんの耳には届かず執拗に絡んでくる。
「おいおいお〜い、奏さんよぉ〜!誰のおかげで働けてると思ってるんや〜?おお!?」
「他の誰でもないアンタのおかげだよ。早くしないと、客が捌けない上に売り上げが悪くなる。頼りにしてやるからきっちり頼むぜ」
「おうよ!おじさんに任せなさ〜い!」
丸太のような右腕を強調させ、気色悪い台詞を吐く。
おっさんの着ている服がタンクトップだからか、余計にそれが逞しく見える。
「うだうだ言ってねぇでさっさとやれ。ところで、その片手に持ってるビール入りのジョッキーはなんだ?」
「あぁ?そんなん決まっとるやろ。オレは今日このビールと、さっきそこの店で買ったフランクフルトで優勝してるんや!」
「自分がアニメキャラだと信じて止まないYouTuberかっての。ほらっ、焼きそば2つ上がり」
「冷たいなぁこの野郎」
おっさんに構うこともなくオレは坦々と調理を進める。
味が評判になったか、キモい接客が話題を呼んだのかは分からんが、列が途切れることはなかった。
売れ行きは上々。この勢いなら完売も難しくないだろう。
開店から一時間が経過し材料も残り僅かとなった時、異質な客が来店した。
「おにーさん、焼きそば2つちょーだい!」
テンションがやたらと高いその女は来店するや突然、腰を低くし調理に集中するオレと強引に顔を合わせてきた。
満面の笑みを浮かべるその表情は、この祭りを心の底から楽しんでることが窺える。
しばらくすると、もう一人の女が駆け足で向かってきた。
「こらっ、日菜!急に走り出したら危ないでしょう!」
「だって焼きそばの屋台を見たらるんっ♪てなっまし、ソースの匂いを嗅いだらビュンって体が勝手に走り出したんだよー」
「あなたは相変わらず訳のわからないことを…………!」
全くもってその通りだ。
擬音だらけで何を言いたいのかさっぱり分からん。
「失礼しました。改めて、焼きそばを2つお願いします」
「600円だ。そこの厳ついおっさんに──────」
顔を上げるとそこには、同じ顔が二つ並んでこちらを覗いていた。
髪は長短分かれていたが、瓜二つの顔つきと同じ柄の浴衣姿に少々度肝を抜かれる。
後に来店した髪の長い方の女は、オレの顔を見て驚いた表情を見せた。
「月島くん…………?」
「おう。らっしゃい」
「ええっ!?おねーちゃんとおにーさんって知り合いなの?」
「ええ、まあ一応」
目をキラキラと輝かせる氷川妹とは対照的に、氷川姉は嫌そうな顔を浮かべる。
「知り合いと言ってもただの仕事仲間だ。心配しなくても、アンタの家族を取りやしねぇよ」
「そっかー、なら安心だねー!」
「ちょっ、ちょっと!」
「焼きそば2つだったな。ほらよっ、冷めないうちに食いな」
「わーい!ありがとー!」
氷川妹に焼きそばの入ったパックを2つ渡し、代金を受け取る。
「せっかくの機会だ、このキンキンに冷やしたラムネもやろう」
「ホントっ!?やったーー!」
「そんな、申し訳ないです………」
「気にするな。その代わり、お前の家族を少しだけ借りてくぞ。話しがしたい」
「うんっ、いいよー!おにーさん優しいから大丈夫っ!」
「私を差し置いて話を進めないでください!」
「そういうことだ。その辺のベンチにでも座って待ってろ」
「はーい!」
氷川妹は嬉しそうに駆け出した。
どうやらヤツは、氷川姉とは真逆の人間性を持っているらしい。
氷川があんな無邪気に走り出すところなんて想像もつかないな。
姉妹はよく似ると聞くが、双子のこの2人に関しては顔だけが当てはまるだけでそれ以外は点で合わない。
一人っ子のオレからしたら、実に面白い現象だ。
「あれが双子の妹か。何というか、"天真爛漫" という言葉がよく似合う女だ」
「全く、恥ずかしい限りです…………」
オレは調理後の片付けに入り、氷川は店前から動かず深いため息をつく。
「だが驚いたぜ、険悪の仲だったはずの妹と一緒にオレの前に現れやがったからな」
「何週間も前から誘われていましたから仕方ありません」
「それはウザいな」
「何度も何度も、しつこいと思えるぐらい誘ってきましたからね。私が行くと言った時はとても嬉しそうにしていたのを覚えています」
「今も心底楽しんでる様子だったからな。無下にするのは少し可哀想だと考えたか」
「そうですね、以前の私ならきっと──────」
氷川はそこで言葉を区切り、咳払いをする。
「私自身、態度を改めて妹と向き合ってるつもりです。今日はその第一歩ということです」
「そうか、まあこれからも精進することだな」
「勿論そのつもりです」
「…………おっと、お前の妹が手を振って呼んでるな。行ってやれ、呼び止めて悪かったな」
「こちらこそお世話になりました。また学校で会いましょう」
氷川はそう告げ、妹の待つベンチまで歩き始めた。
2人の仲が良くなっていくのを心から願おう。
◆◆◆
氷川姉妹が来店して以降、客足が完全に止まってしまった。
だが材料も残りわずかであと2、3人きたら完売できるであろう数だ。
前半で大量に売れたおかげで何とか黒字まで待っていけそうだ。
「店長、そろそろ店閉まいするか?」
「まだ最後のトリが残っとるから閉めんで大丈夫や」
「最後のトリ?あぁ、花火のことか」
「まだまだ客は来るはずや。最後まで売り切るでー」
「アンタは酒飲んで、つまみ食べて、酔ったまま接客してただけだろ」
「その接客がまともにできへん野郎はどこの誰や?」
「はいはい、感謝してるぜ」
「わかりゃいいんだわかりゃ!ハッハッハ!」
上機嫌なおっさんはそのまま、新たなつまみを買いに店を後にした。
オレは満月が昇る夜空を見上げる。
この夏祭りの目玉でもある打ち上げ花火は雑誌にも取り上げられるほどの知名度を誇る。
この一面の夜空に花火が舞い上がる図を想像すると、絶景になるのはもう間違いない。
今からでも楽しみだな。
思い出に浸っていると聞き覚えのある声が2つ、この店に近づくのが見えた。
青と黄色の浴衣を見に纏うその人物たちと目が合い、片方は笑みを浮かべて手を振って返し、もう片方はオレから顔を逸らしてきた。
「月島くんっ、お疲れ様!」
「おう、松原。らっしゃい」
「随分と仕事熱心なのね。関心だわ」
「…………白鷺千聖、心にも思ってないことを口にするな。目が全てを物語っているぞ」
「あらっ、失礼ね。本心から出た言葉よ?」
「ふ、2人とも〜………」
一触即発のオレたちの間に松原が割って入った。
どうもヤツがオレに対して放つ言葉は全て、おちょくっているようにしか聞こえない。
こんな女がテレビやドラマに出続けられるのだから不思議で仕方ない。
「ここに来たからには、飯食ってくんだろ?」
「うんっ、2人前お願いします!」
「あいよ。600円だ。しばらく待ってな」
慣れた手つきで野菜や麺を炒め、ソースを絡ませあっという間に完成させる。
氷川たちと同様にキンキンに冷やしたラムネとセットで手渡す。
「それにしても、お前たちってホント仲いいんだな」
「中学からの付き合いだからかしらね。今日も前々から誘われていたのよ」
「えへへっ」
松原は照れ臭そうに笑う。
中学からの友達と、か。
そのほとんどが今や、高校の友達や新しくできた彼女と共に夏休みを満喫すると言うものだから、ボッチ青年のオレからしたら羨ましい話だ。
「祭りは楽しんでるか?」
「うんっ!勿論だよ!」
「たまにはこういったことも悪くないわね」
「後10分もすれば花火が打ち上がるはずだ。人も多いし逸れるんじゃねぇぞ。特に松原」
「ふぇっ!?」
「うふふっ、ちゃんと手を繋いでいくからご心配なく」
「テメェは人集りをつくって松原に迷惑をかけるなよ。仮にも芸能人なんだからな」
「心配してくれてありがとう。あなたのその言葉、一応耳に入れておくわね♪」
あーホントっ、集まってきた人々に踏み散らされたらいいのに…………。
「いいからさっさとさっさと食いやがれ。これで飯が不味いと言われたら癪だからな」
「有り難く頂くわ」
「またメールで感想送らせてもらうね♪」
「くれぐれもSNSには投稿するなよ〜。学校で騒がれたら面倒だからなー」
店を後にする2人を見送り、残ったラムネを手に取り一気に飲み干す。
焼きそばも残り1人分だ。
このまま完売を目指したいと考えていた矢先、1人の女がオレを訪ねてきた。
「すみません、少しよろしいでしょうか?」
物腰柔らかく話すその女は、白を基調とした服装や話し方がどこかお嬢様を思わせる雰囲気を漂わせている。
それに似合わず、腰あたりまで伸びている長い髪はド派手な赤い色をしてるのが少し気になるが、触れないでおこう。
見知らぬ女との会話は好かないが、オレもこの半年で松原たちとの関わりで成長したんだ。
その成果を今ここで披露しよう──────。
「オレに何の用だ?後5分ほどで始まる花火を観たいから、他をあたって欲しいんだが」
………少々言い方は強くなったが、言いたいことは全て伝えた。
今までみたく、無視したり敵視することもなくあくまで対等に接したつもりだが、どうだろうか?
「とても重要な用事なので少しお時間をもらえたら幸いです」
「なるべく早く済ませてくれると助かる」
「それじゃあ、付いて来て貰ってもよろしいですか?」
「…………?ああ、別に構わねぇけど」
オレは背を向け歩くその女の後をついていく。
祭りの会場を離れ、道を歩く間にもオレたちが会話をすることは決してない。
気がつくとオレたちは人目のつかない裏路地まで足を踏み入れていた。
初めの印象が悪くなかったから気がつかなかったが、コイツ、ヤバイやつだな。
初対面の男をこんな場所に連れ込むなんて普通じゃない。
この場所を選んだのとオレに用があることから察するに、復讐とかその類によるものだと推測できる。
これはもう、この女に優しくする必要はなさそうだ。
気を引き締めなければやられる。
オレの野生の感が、そう囁く。
「お前、何者だ?」
やや上から目線から問いかけると、ヤツは背を向けたまま不敵な笑い声を上げた。
それはあまりにも不気味で、しんと静まり返ったこの空間と相まって余計際立って聞こえる。
ヤツが振り返るとそこには、青筋を浮かべさっきの笑い声の持ち主とは思えぬ顔つきでオレを睨んだ。
「…………やっぱり、思い出してくれなかったのね」
「お前みたいな不吉な女は知り合いにはいねぇよ。さっさと名乗りやがれ」
「あの時より背丈が伸びたかしら?体つきも逞しくなったわね。でも、言葉遣いは相変わらずね………」
「さっきから何ブツブツ言ってるんだ?オレは花火を──────」
「これでも思い出せないかしら?
元クラスメイトと名乗るその女は、肩に掛けてある小さいカバンから一枚の写真を取り出しオレに投げつけた。
それを拾い写真に目をやると、そこには女と並んで立つ制服の男が写っていた。
……………驚愕だ。その写真に写る双方をオレは知っている。
中学生の頃のオレともう1人は──────。
「随分久しぶりね。やっと思い出してくれたかしら?」
「…………あぁ、この写真のおかげで一致した。お前の名は
オレが中2の頃告白した女。
オレを振り侮辱した女。
オレを女嫌いにした張本人。
その女が今、目の前にいる。
「うふふ、正解よ。覚えてくれていて嬉しいわ。しかも、今の私についても何か知っているようで驚いたわ」
「驚いたのはこっちのセリフだ。あの綺麗だった栗色の髪はどこへやった?」
「そんなもの、とうの昔に捨て去ったわ。気に入らなかったんですもの。あなたの好む全てのものが」
「酷い言われようだな」
「当然よ。あなたは私を地の底まで堕とした張本人なのだから」
「それはお互い様だ。今じゃあオレは大抵の女が敵にしか見えねぇ上に、普通の恋愛なんてできなくなったんだ。どう責任を取るつもりだ?」
「うふっ。なら、私とお付き合いしましょうか?」
「あの頃のオレなら涙を流して喜んで受けただろうが、殺意剥き出しの雰囲気をかもちだすお前とじゃあ無理な話だ。それに、冗談でも告白は軽率に行うものじゃないと思うぜ?」
「恋愛なんて私にとってどうでもいいことよ。大っ嫌いなあなたでも付き合うことは可能だけれど?」
「残念だが、答えはノーだ。諦めろ」
こんな言葉のやりとりをすることになるとは、当時のオレでは考えられなかっただろう。
そして、この短時間で一つ気づいたことがある。
長い髪といい、話し方、格好から何までオレの嫌う
ヤツと仲が最悪なのはきっと、同じような人間に恋心を抱き、屈辱を味わったことが起因しているんだろう。
そう考えていると、外では花火の打ち上げ音が鳴り響き薄らとその光が目に入る。
「花火が始まったみたいだ。そろそろ本題に入ってもいいんじゃないか?」
「そうね。なら、そうさせてもらうわ──────」
北谷がフッと小さく笑うと、突如オレに向かって走り出し携えていたポケットナイフをオレの腹部目掛けて突いてきた。
それを間一髪かわし、左右に振り回す攻撃も対応し、二歩三歩飛び跳ねながら後退する。
あまりの出来事に驚いたが、所詮は女。
女帝と名乗られるには実力がまだまだ乏しく感じる。
「元クラスメイトに向かって刃を突き立ててくるとは、いい度胸じゃねぇか」
「お見事よ。全てかわすなんてね」
不満げに答える北谷は、手をプルプルと震えさせ怒りを露わにしている。
「あのいい女だった人間が殺人未遂とは………本当に堕ちちまったんだな」
「それも全てあなたのせいよ。これを見たら、その理由もわかるはずよ」
ヤツはポケットナイフをしまい、前髪を上げ額を見せてきた。
端から端まで深々と残っている傷跡。
それはおそらく、オレが当時暴れた時にできた傷だとでもいうつもりだろうか。
もちろんオレにそんな自覚はない。
あの時はただ、己の欲望に身を任せ力を奮ったんだからな。
「痛々しいな」
「…………私は癒えることのない傷を負わされた。月島 奏、あなたを殺すことでこの傷は名誉あるものへと変わると私は考えてるわ」
「酷い理屈だな」
「私はあなたを許さない。真っ当な人生を送るはずだった私にこんな仕打ちをするなんて、死ぬ以外に償うことなんてできないわ」
「まさか、その目的の為だけに不良へと成り果てたってか?もっとまともな人生を遅れただろうに………哀れみすら覚えるぜ」
「なんとでもいいなさい。次にあなたと会う時は、殺す準備が整った時よ」
「ああ、全力で返り討ちにしてやるよ」
北谷は薄暗い裏路地を真っ直ぐ進み、姿を消した。
◆◆◆
外はまだ花火が打ち上がっている真っ最中だが、もうそれを見る気になれない。
疲労した体を壁に預け、ぐったりと腰を下ろす。
「まさか、こんな形で再会するとはな…………」
オレは頭を掻き、独り言を呟きさっきの出来事を思い出す。
北谷の目は本気だった。
ヤツは確実にオレを殺るために策を練ってくるはずだ。油断はしていられない。
もちろん、オレだけが危害を加えられることなんてないだろう。
オレの身内、特に仲の良くなった松原や氷川なんかは特に注意しておいたほうがいいな。
ヤツが手段を選ばないのなら、こっちも手を尽くそう。
この学園で築き上げた2人の信頼関係を踏みにじる真似は絶対しない。
オレは心にそう誓った。
いかがだったでしょうか?
羽丘女子学園の女帝がついに登場です。
これから先、彼女が何をしでかすか………どうぞご期待ください。