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長い長い夏休みも終わりを迎え、オレたち学生は二学期を迎えた。
久々に登校した学校だが、家で毎日と言っていいほどその形を見てるから感動もクソもない。
見慣れた光景の中には、部活動に邁進したであろう生徒たちの肌がこんがりと焼けた姿も目に入る。
それはオレにも言えることなんだがそれとは別で、通り過ぎる生徒からやたらとオレに視線が集まっている。
気のせいならありがたいんだが、今のところ百発百中。
もちろん、心当たりは何もない。
強いて言うなら髪をまた金のメッシュに戻したことぐらいだが、もうすでに見慣れているはずだ。
その程度で注目されるほど、オレはここの生徒から好かれていない。
無言で教室の扉を開くと、先ほどまで夏休み明けの話で盛り上がっていたはずのクラスがシンと静まりかえり、オレをまじまじと見つめる。
それと並行してヒソヒソと陰口を叩かれるように話し出した。
なんだか気が悪い。いくら嫌われてるとはいえ、このクラスの居心地は最悪だ。
「月島くん、おはよう」
「おう。夏祭り以来だな」
「うん、すごく久しぶりな気がするなあ」
既に着席していた松原に声をかけられる。
夏休み明けだろうが、コイツはなにも変わらない。
白い肌に青い髪、そして薄紫の瞳には一切の淀みも感じさせない純粋さをかもちだす。
「そんなことよりも松原、一つ聞きたいことがあるんだが」
「どうしたの?」
「さっきからと言うか、今日登校してからずっと周りから視線を感じるんだが…………何故だか分かるか?」
「視線?」
「気味が悪い上にイラってくるんだよ。コソコソ話しやがって、この
「うーん…………なんでかな?」
2人で頭を悩ませていると、教室に白鷺千聖が入ってきた。
「2人とも、おはよう」
「あっ、おはよう、千聖ちゃん!」
「何か話してたみたいだけど、どうしたの?」
「それがね─────」
「オレを見てコソコソ話される原因を松原に聞いていただけだ。お前には何も関係ねぇよ」
松原が答える前に白鷺千聖にことの経緯を伝えた。
オレの予想だにしない返答に2人は驚きの表情を見せる。
今までなら無視か高圧的な言葉で応対してたが、コラボカフェの一件以降、こいつの見方が少々変わった。
人を嘲笑うかのような態度をしていたコイツでも、松原を助けるために動こうとしたあの瞬間、確かにコイツは本気だった。
理由はただそれだけだが、友達を守ろうとする心、特にコイツみたいな有名人だとそれが問題になり難しいだろう。
それを恐れず客に立ち向かったコイツを悪くいうことはできない。
だからこそあのとき力を貸した。
それでも、これまでの見方から毛一本分程度しか良くはなってないがな。
白鷺千聖はすぐさま笑みへと変え答える。
「恐らくだけど、私が関係してるわね」
「千聖ちゃんが?」
「どういう意味だ」
オレがそう問うと、白鷺千聖は携帯を取り出しある記事をオレたちに見せた。
それは夏休みにバイトしてたコラボカフェの写真が映されたものだった。
「月島くんはここで事件を起こしたのは、覚えてるかしら」
「汗だくの野郎を地面に叩けつけたアレか」
「そう、翌日からそれがネットニュースにも流れてかなり話題になったの」
「あっ、それなら私も見たよ。顔は映ってないし名前も公表されてなかったけど、すごく話題になったのは覚えてる!」
「それで周りからこんなに噂されてるとでも言うのか?だが、松原の言ったことが本当なら、なんで実名が出てないのにオレだってわかるんだ」
「うふっ、そんなこと、その場にいた人がSNSに投稿すれば自ずとアナタへと辿り着くことはできるわ」
白鷺千聖は笑いながらそう言うと、携帯画面をスライドさせ別の写真を表示した。
そこにはオレの顔がモザイクなしで映っていて、『この青年の情報を求む!』という呟きと共に投稿されていた。
「なるほどな。それでこの投稿を見た誰かがオレをリークしたと」
「そのようね」
「全く、迷惑なことをしてくれる。どうせオレに対する誹謗中傷の言葉で溢れかえったんだろ?」
「いえ、結果はその逆よ」
白鷺千聖は更にスライドさせると、様々な呟きが保存された写真を表示した。
呟かれた言葉はどれもオレを擁護するものばかり。
"迷惑な客を成敗した英雄" とまで謳う投稿も見受けられた。
「アナタの言う通り、暴力をしたことに対する異論は確かにあったわ。でも、この場にいた人のほとんどが思ったはずよ。月島くんが正しいと」
「別に他人に認められる為にやったことじゃねえよ。それにオレはこの学校では嫌われてる身。ネットでいくら褒め称えられようが花咲川の生徒たちにとっては、この一年半で与えたオレの悪い印象が強いに決まってる」
「そんなこともないわよ。現に月島くんが風紀委員として解決した事件の数々も、大多数の生徒は耳にしてるわ」
「盗撮事件は私たちしか知らないけど、藤村先生のことはみんな知ってるよ。放送で呼び出した日から、先生は変わったって」
「少しは月島くんがしてきたことが報われてきたんじゃないかしら?」
「はっ、女に幾ら好かれようが関係ねぇよ。オレは女が嫌いなんだ。それにさっきみたいにコソコソされると鬱陶しくて仕方ない」
「大丈夫だよ。ほらっ、人の噂も七十五日って言うよ!」
「…………おい松原、なんのフォローにもなってないことに気がついてないのか?」
「2ヶ月なんてあっという間だよ、うんっ!」
3人で話していると始業のチャイムが鳴り、白鷺千聖は席についた。
2ヶ月なんてあっという間か。
およそ60日間もの期間を短いと感じれる松原のポジティブ思考を見習いたいものだな─────。
始業式を終え教室へ戻ると、担任からある行事について説明を受けた。
それが花咲川学園文化祭。通称、花咲祭だ。
在校生や卒業生、保護者や学外の生徒も出入り自由のこの行事は高校としてかなりの知名度を誇っているらしい。
クラスメイトたちもこの行事の名を聞いた時、笑みを浮かべて話しているところを見るとそれなりの楽しさもあるようだ。
去年のオレは確か─────そうだ、屋上でサボり倒してたな。
らしい、とか、ようだ、と口にしたのはこの行事を直に経験してないからだ。
"女と力を合わせて" なんて一年前のオレでは考えもしなかっただろう。
今年は風紀委員の面目もあるし、オレがどう足掻こうが強制参加させられるのは間違いない。
オレはオレなりに、この行事を楽しむとしよう。
◆◆◆
クラスの話し合いの結果、2年A組の出し物は演劇。それも、オレと白鷺千聖が主演の "ロミオとジュリエット" に決まった。
もちろんオレと白鷺千聖は反対したが、夏休みに広まった噂はどう言うわけか、オレたちが恋人関係にあるという根も歯もない噂にまで発展していた。
犬猿の仲と言われたオレたちがそんな関係にまでなると妄言したやつはアホか、はたまた頭の中が花畑か。
それに、メルヘンチストの言葉を間に受ける他の人間もどうかしてる。全く迷惑この上ないな─────。
そして迎えた放課後。
予め考えられていた台本を手渡され、パラパラと本の中身に目を通す。
内容は原作とは少しばかり変更点を設けているらしいが、そもそもの話を全く知らないオレには関係ない。
クラスメイトに見つめられる中、台本の読み合わせが始まった。
「ああ、ロミオ、ロミオ!どうしてあなたはロミオなの?」
「しら………ジュリエット、ワタシハココダー」
「カーーット!!」
読み合わせ開始と同時に、気の強い女監督が止めに入る。
「月島くん、もう少し棒読みするのを何とかできないかな?」
「いきなりでそんなことできるか。それに相手は白鷺千聖だ。あの名女優と同じ演技力を求める方がどうかしてると思うが?」
周りに見られる気恥ずかしさもあるが、何より相手が悪い。
空想上の恋愛話だとしても、その役を担っているのはあまり好かない人間だ。嫌でも顔に出る。
「別に私に合わせなくて構わないのだけど、感情がこもってないことが丸わかりよ」
「望まねぇ役をやってる人間に、そんな感情を求めるな。代役なら他にもたくさんいるぜ」
オレはエキストラである他の男子生徒の名指しする。
しかしそれにも目もくれず、監督はため息まじりに答える。
「ロミオってかっこよくて紳士なイメージなんだよねぇ…………それを他の男子が務めるとなると、ちょっと…………」
監督は遠回しに、他の男子を "ブサイクだ" と発言した。
その言葉に男子たちは怒りの表情を見せる。まあ当然の反応だよな。
しかしオレにだって合致しない点はある。
「アンタの言っていることは間違ってるな」
「ま、間違ってるって?」
監督は不思議そうに首を傾げる。
なるほど、さっきのは何も考えずに発言したということか。
少々言い方はキツくなるが、コイツの為にクラスの野郎共の代弁をしてやろう。
「まず、オレは紳士なんかじゃねぇ。そんな野郎が授業をサボったりしないはずだろ?それに比べたらここにいる野郎共の方が紳士だと思うけどな」
「それは………そうだけど」
「それから、このクラスの野郎共をブスだといったことに対して謝罪しろ」
「べ、別にそう言ってなんか…………!」
「アンタはそう思ってなくても、少なからずオレたちはそう捉えたんだ。オレの演技にとやかく言う前に、自分の態度を改めるんだな」
監督は不満げな様子を見せるが、すぐさまエキストラたちに謝罪の言葉を述べた。
ヤツらもその謝罪を受け入れて事なきを得たように見えるが、少しばかり教室の空気が悪くなった。
それを監督も察して、各々個別練習をすることを提案し、皆が受け入れる。
白鷺千聖も、脇役の女たちに連れて行かれたからなぁ………仕方ない、屋上に行くか。
……………
………
昼休み以外で屋上に来るのは随分と久しぶりだ。
夕方を迎えたとはいえ外はまだ残暑が残っていてかなり暑い。
それでも、屋上に時たま吹く冷たい風はその暑さを忘れさせてくれる。
まさに春夏秋冬問わず楽しめる場所だと言えるだろう。
今日も学校で一番高い場所までよじ登り、台本を枕代わりに寝転び目を閉じる。
今オレに伝わるのは、風の音、生徒たちの声、虫達の囁くような鳴き声、誰かが梯子をよじ登る音、そして─────
「あっ、やっぱりここにいた!」
聴き慣れた女の声だった。
「っんだよ松原。仕事はどうした?」
オレは目を閉じたまま問いかける。
「急に教室からいなくなったから、もしかしてここにいるのかなあって思って来ただけだよ」
「そうか。ならお前は衣装作りの仕事を放り投げて、オレを探してたって訳か」
「ふええ〜…………そう言われると、そうだけど…………」
「まあ気にするな。文化祭まではまだ時間がある。あんまり気を張り詰めてると、当日まで持たねぇよ」
「あはは………月島くんは落ち着いてるね」
「今からジタバタしたって無意味だからな。お前も横になってみると分かるはずだ」
「そ、そうかな?それじゃあ、お邪魔します」
松原はポケットに入っていた水色のハンカチを床に敷き、オレの横に寝転がる。
さっきまでオレが感じていたものを全て味わった松原は心地良さそうな表情で呟く。
「これ………凄く…………いい」
「だろ?秋になるとまた違った良さが─────」
「……………ぐぅ」
唐突に聞こえた松原の寝息に、思わず目を開き音の鳴る方へ目線を向ける。
手を腹の上に置き、目を閉じ完全に寝る態勢に入っていた。
「…………まさか
全く、無防備な女だ。
他の野郎なら間違いなく襲われていただろうに。そう考えたらコイツをこのまま放置するわけにもいかないよな…………。
やれやれ、仕方ない。
初日ではあるが、今日は2人でサボりを決め込むとしよう。
そう考えた矢先、更なる客人が屋上を訪れた。扉の解放音が鳴ると同時にゆっくりと歩く足音が聞こえる。
入学当初から屋上を解放されてるとは教師陣が一切口実していない上に、扉の前には立ち入り禁止の看板まで表示されている。
それにオレが高一の時にはここの扉は鍵がかけられていて中に入ることは出来なかったから、あくまで周りでは "屋上には絶対に入れない" という事実だけが残る。
しかしオレはそれを蹴って壊し、誰でも容易に屋上へ入れるように仕向けた。
幸いなことに、屋上には監視カメラが一切設置されてなかったから教師陣に知られてすらいない。
もちろん壊したドアノブは接着剤で誤魔化したから、目視だけではバレることもない。
まさに完璧。
一体どんな野郎だ。
学園の一番高いところから恐る恐る顔を覗かせる。
オレの目に映ったのは、左肩を抑え右足を庇うように歩く女子生徒の後ろ姿。
金色の長い髪を風になびかせ、その生徒は金網にもたれ掛かり崩れるように座り込んだ。
見ただけで誰だかわかる。
2年A組のジュリエット様だ。
「はあ…………ホント、どうしようもない人たち…………」
ため息混じりに嘆くジュリエット口振りはまるで、手も足も出せず諦めているかのようだ。
今に至るまでの言動を察するに、オレと松原がサボりを決め込んでいる間にクラス間で何かあったに違いない。
変に気を使うのもオレの性に合わない上に、相手が相手だからな…………よしっ、ここはいつも通りに振る舞うか─────。
学園の一番高い所から梯子を使わずに飛び降りると、屋上にドンッと鈍い音が響き渡る。
およそ5メートルある高さからのジャンプ、そして着地に足がジーンとするが平然を装いゆっくりと歩み寄った。
「どうした、ジュリエット。そんな人殺しみたいなツラしてよぉ」
「…………どうしてあなたがここにいるの」
オレの投げかけにもジュリエット────白鷺千聖は下を向いたまま答える。
「簡単に言うと松原とサボりだ。お前は?」
「………………放っておいて」
オレの問いに白鷺千聖は答えようとしない。
「なら話を変えるぜ。
「……………!?」
オレの予想外の言葉に思わず顔を上げ、驚いたと言わんばかりの表情を見せる。
そんなヤツの前にしゃがみ、話を続けた。
「お前がそんな目に合うとは、よほど恨まれるようなことをやらかしたんだろうな。オレですら手は出さなかったのによ」
「…………あなたには関係ないでしょう」
「ここで話すのも何だ、お前も上に来ないか?」
「…………あなたから申し出るなんて珍しいわね」
「花咲川の名女優に手を出す野郎がどんな奴か気になるだけだ。ウダウダ言ってねぇでついてこい。オレの気が変わらないうちにな」
「ええ、わかったわ」
オレたちは立ち上がり、松原が寝て待つ所へ歩き出した。
◆◆◆
「─────そうか、そんなことがあったんだな」
これまでの経緯を聞き、白鷺千聖はゆっくりと頷く。
要約すると、学校にあまり来てないことや白鷺千聖自身の態度、今回の主役を奪われた仕返しとかで一方的にやられたらしい。
その相手は、脇役で出演予定の女の3人組で、クラスでもカースト上位に位置する奴ららしい。
そこまで詳しくは知らなかったが、女嫌いのオレですら "面倒な3人組" と位置付ける程のグループだ。
授業中もやたらデカい声で話すわ人を見下したかのような態度をとるわで本当にこの学園の生徒かって思うほどの………………いや、人の素行をとやかく言う資格はオレにはなかったな。
「それで、お前はこのままでいいのか?」
「…………私が抵抗したところで、どうにもならないもの」
「まあ、お前がそれでいいならオレは傍観するだけだ。助けたところで、本人の意思が無けりゃ何の意味もねぇからな」
テレビに出ている芸能人、だからと言う理由もあるんだろう。
問題を起こせばメディアは放っては置かない。
そう考えると、オレは死んでもテレビに出たくないな。
「お前がイジメられるのを受け入れるのは勝手だが、他人を巻き込むなよ」
「どういうこと?」
「仮に、お前がその時暴力を振るわれていたとしよう。そして運悪くそこに、お前の大親友が鉢合わせる。傷つくお前を見たコイツがどんな行動をとるか─────容易に想像できる」
横で寝ている松原を指差すと白鷺千聖も、どうなるか察したように顔が強張る。
「お前がどうなろうと知ったことじゃねぇけど、松原が同じ目に合うことになったら…………お前を絶対許さねぇ」
「ええ、もちろん、花音には気づかれないように努めるわ」
「その自信のない根拠はどこから出てくる?100%、確実に松原にバレないようにするなんて、この学園に通う限りありえないことだろ」
「そんなこと言ったって…………」
「"どうしたらいいかわからない" って言うんだろ?そんなこと、簡単じゃねぇか」
オレはそこで区切り、枕がわりにしていた台本を丸めてコンクリートの地面に突き立てた。
「─────二度とそんな目に合わないように、
オレの放った一言が理解できず呆気にとられたような顔をする白鷺千聖。
「もちろん、お前の芸能人としての身が脅かされるようなことは一切しない。これを行うのはあくまで、
「月島くんが?どうして…………?」
「松原のために決まってるだろ。あんな友達思いのいい女に手出しさせねぇ為だ」
「そう。あなた、花音のことが好きなのね」
「茶化すな、ボケッ。心配しなくてもお前の大親友を獲るようなマネはしねぇよ。それに、女を好きになる愚かさを、中学の時に身に染みて覚えたからな」
そう、これは恋愛感情で動かされてる訳じゃねぇ。
あくまで松原花音の友達として、そして松原花音の身を守るための行動だ。
「オレにいい案がある。少し耳を貸せ」
「あなたって、ほんと自分勝手よね」
白鷺千聖は呆れながら呟く。
夏休みの一件で少しはクラスメイトからマシな扱いを受けているが、そんなことはどうでもいい。
最小限、せめて松原と氷川と友好な関係にあればそれで十分だ。
影でこそこそいじめるのは最低な行為です。
月島くんがどうやって対処するのか、ご期待ください。
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