高嶺の華と路傍の花   作:山本イツキ

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お久しぶりです、2ヶ月ぶりの更新となりました。

一応報告ですが、ボクが執筆する2つの題材は共にバンドリのガイドラインに反するものではないので、これからも執筆し続ける予定です。
もちろん、営利を目的としてるわけではありません。
趣味で執筆しているということを理解していただけると助かります。


長くなりましたが、今回は前話の続き回で千聖さん視点となります。


第17輪 気高き華が変わり咲く時

 あの事件から一晩が過ぎ、私は今日も大事をとってもう1日入院することになった。

 文化祭に参加できないのは少し寂しいけれど、私の代役である花音なら、十二分に演じれるはず。

 

 私は心置きなくベッドに横たわれるわけだけれど…………なんだかもどかしい気持ちでいっぱいになる。

 

 それにしても、この1ヶ月は本当に色々なことがあった。

 3人に暴行を受け、あわや殺されかけ、人目も憚らず涙も流した。

 今となっては少し恥ずかしい気もするけれど…………。

 

 それでも私は、この経験を経て女優としてひとまわりもふたまわり成長することができたと確信している。

 ドラマや演技などとは違う、実際の出来事を肌で知った女優は強い。

 演じるだけでは味わえない臨場感は、どうやったって作り出せるものじゃない。

 

 心身共に追い込むまで過ごしたこの1ヶ月は決して無駄ではなかった。

 

 

 今すぐにでもそれを形にしたいところだけれど、お医者様からはしばらく安静にするように忠告を受けたからグッと我慢。

 

 

 「何もすることがないなんて、随分と久しぶりね。暇で暇で、仕方ないわ…………」

 

 

 独り言を呟いても誰からも返事がない。

 少しばかり、寂しく思える─────

 

 

 「そんなには暇ならこのオレが話し相手になってやるよ」

 

 「………………っ!?きゃあああああ!!」

 

 

 突然の訪問者に思わず左頬をビンタをしてしまった。

 部屋中にパチーンと高い音が響き渡りその人は『ぐふっ』と低い声をあげ、叩いた左頬を抑える。

 

 

 「いってぇ…………全く、見舞いに来た人間をいきなり殴るなんて、酷い野郎だな。折角、菓子やら果物やらを持ってきたのによォ」

 

 「な、なんであなたがここに!?というか、どうやってここに入ったの!?」

 

 

 突然の訪問者、月島くんは今なら学校にいて花音やクラスメイトたちと一緒に 文化祭の劇場で"ロミオもジュリエット" を演じているはず。

 そんな彼が私服で手土産を持って私の病室に来る理由がわからない。

 

 サボり?

 それとも、ただ私をからかいにきただけ?

 

 

 「何って、1人寂しく入院生活してるお前と話がしたかったから来ただけだ。それとここには、そこの窓ガラスから侵入した。正面からだと、面会許可?みたいなのがいるらしくて面倒だからな。いやーっ、ここが3階で助かった。7階以上はいくらオレでもビビって登れねェよ」

 

 

 それはそれで十分危険な行為だとは思うけれど昨日の彼を見てると、全て可能に、それも楽勝にこなしてしまう姿の想像がつく。

 

 

 「あなた学校は?まさか、主役を放棄したって言うんじゃないでしょうね」

 

 

 私が一番聞きたかったことを食い気味に尋ねると、彼は冷静に答える。

 

 

 「安心しろ。そんなマネはしねェよ。とりあえず、そのことも含めてお前が意識を失った後のことを話そうか。そこの椅子、借りるぞ」

 

 

 彼はお菓子や果物の入ったカゴをミニテーブルに置き、来客用のパイプ椅子に腰掛け足を組む。

 私もベッドを起き上がらせ、背もたれにして彼の話を聞く。

 

 

 「おいおい、無理して起き上がる必要はないんだぜ?患者は寝転んどけ」

 

 「これで構わないわ。昨日私が気絶した後に起こったことを話して」

 

 

 私は真剣な顔つきになり、彼に問いかける。

 

 

 「なら、遠慮なく話させてもらおう」

 

 「ええ、お願い」

 

 「昨日の放課後に起こったことはすぐに教師陣にバレて、察と救急車がきた。お前と種村の取り巻きたちは病院に搬送。オレと種村は署まで連行され、学園の生徒全員が強制帰宅となった」

 

 「種村さんはまだしも、どうして月島くんも…………」

 

 「ただの事情聴取だ。お前は精神的損傷の疑いがあったから、オレが代役として引き受けた。そのことを知らずにうちのお袋ときたら…………」

 

 「あなたのお母様がどうかしたの?」

 

 「アイツ、いきなりオレの首根っこを掴んで怒鳴り散らしやがってよ…………察に連れて行かれた=オレが罪を犯したってわけじゃないのに、せっかちな母親だよ、クソッ」

 

 「そうなの、それは災難だったわね」

 

 

 私の知らない間に本当に色々なことがあったらしい。

 

 

 「ついでに言うと、オレが割った窓ガラス代も弁償しないといけねェらしい」

 

 「そ、そういえばそんなことがあったわね」

 

 

 それまでの出来事があまりにも悲惨だったから、すっかり忘れていた。

 普通に走れば済むものを彼はどうしてあんな奇行をしてしまったか、今更だけど理解できない。

 

 まさか、いち早く駆けつけるためにわざと…………?

 

 

 「なんであんなことをしたの?」

 

 「そりゃあ、ああやって登場した方がカッコいいに決まってるからだろ」

 

 

 ─────どうやら私の思い違いだったみたい。

 本当に男の子って、どうしてそんなにカッコつけたがるのか私には到底わからない。

 

 

 「……………!そういえば、あの2人はどうなったの!?」

 

 「奴らは傷がそこまで深くはなかったらしくて、命に別状はない。だが、出血がかなり多くて、今も意識が戻ってないらしい」

 

 「そう、早く良くなるといいのだけれど」

 

 「今までの悪行が全て返ってきただけだ。奴らも無意識の中で、必死に反省してるだろうよ」

 

 

 確かに彼女たちは種村さん同様私を痛めつけてきた人たちだし、今だって謝ってきたとしても許せるとは思えない。

 この腕や足に受けた傷は、下手をしたら元に戻らないかもしれないものだから。

 

 これは女優として致命的なもの。

 

 到底許されざる行為を彼女たちは行った。

 それでも、『死んで詫びろ』なんて無慈悲なことを私は言わない。

 

 彼女たちは今も、そしてこれからも苦しむことは分かっている。

 目覚めたとしても、一生残るであろう腹の傷を負って生きなければならないのだから。

 

 

 「それで、種村さんは?」

 

 「あいつは昨晩意識を取り戻して、今も署の中だ。オレが奴の喉をやっちまったせいで声が出せない状態らしいが、まあ問題ないだろう」

 

 「出る杭は打たれる、というわ。正式な場で正しい処罰が下るのなら、私はそれで十分満足よ」

 

 「ほお、てっきりお前のことだからもっと残虐な要求をすると思ったが、すっかり丸くなっちまったな。ハハハッ」

 

 

 月島くんは私を挑発するように笑う。

 

 

 「彼女をいくら恨んでもこの身心の傷が癒えることはないって思っただけ。そんなことより、あなたはどうしてここへ来たの?」

 

 「そういえばまだ話してなかったな。結論から言うと、オレは学園長から()()()()()()()()()

 

 「えっ?謹慎!?」

 

 

 月島くんの発言に思わず驚かされる。

 あの3人組ならまだしも、私に一切危害を加えていない彼にこのような処分を下すのは少しお菓子か気がするけれど…………何か意図があるのかしら?

 

 あまりに重い処罰に疑問を覚える。

 

 

 「お前が暴行を受けていることを知りながら、オレは学園長や風紀委員長に一切伝えてなかったからな。当然と言っちゃあ当然の罰だ。受け入れる他ねェよな」

 

 「そうだとしても─────」

 

 「ちなみにだが、演劇の方も中止になったらしい。お前以外にも、ショッキングな映像を見せられて気分を悪くしたクラスメイトの数人も昨日病院で検査して、今日も休んでる奴がいるって松原から聞いた。要は人数不足だ」

 

 「……………クラスのみんなにはたくさん迷惑かけたわね」

 

 

 自分の不甲斐なさに心底落ち込む。

 

 

 「結局そのことも含めて学園長や担任からどやされるわ、氷川にはめっっっちゃ怒鳴られるわで最悪だったぜ………………。お袋のと合わせて怒りの3連コンボをくらったからな。

 

 「どちらかと言うと、紗夜ちゃんのお説教の方が辛そうに聞こえたのは気のせいかしら?」

 

 「そうだっ、アイツときたら『土下座して頭下げて誠心誠意、謝罪の意を述べなさい』なんて抜かしやがったんだぜェ?酷い奴だろ?」

 

 「それほど危険な行為だったということよ。紗夜ちゃん自身、頼って欲しかったところもあったんじゃないかしら?」

 

 「お前と全く同じことを言ってたな。『もっと私を頼ってください』って。だが、今回は誰にもバレるわけにはいかなかった。事がことだけに。アイツの性格上、決定的証拠と隙さえなかったら言いくるめられる確率が高かったからな」

 

 「助けてくれたのは本当に感謝しているけれど、方法としては少し強引だったと言わざるを得ないわね」

 

 「今更悔やんだって仕方ない。反省点は次に生かす」

 

 

 彼はそういうと立ち上がり、『喉が渇いたからコーヒーを買ってくる』と言って部屋を出た。

 再び静まる病室。

 1人取り残された私は、月島くんのお見舞い品の一つであるチョコ菓子を一つ取り出し口にする。

 

 部屋には、ナッツが散りばめられているそれをゴリゴリと噛み砕く音だけが響く。

 

 

 「…………美味しい」

 

 

 少し苦味のあるチョコだけれど、何個でも食べられそうな味わいが口に広がる。

 病み付きになる美味しさ。

 だけど、食べれば食べ進めるほど、甘い飲み物が恋しくなるのはなんでかしら?

 

 彼に頼んで買ってきてもらおう─────

 

 

 「そういえば、彼の連絡先を知らなかったわね」

 

 

 そのことを後悔しながらも食べ進める手は止まることはなかった。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 数分後、病室に戻ってきた彼は二つのコーヒー缶を手にしていた。

 一つは甘いもの、もう一つはブラック。

 どちらがいいか選ばされた時、私は甘いカフェオレを選択した。

 

 私の口の中は、さっきまで食べていたビターチョコレートの余韻でいっぱい。

 私の気持ちを察してくれたかのような行動に感謝して、カフェオレを一口含む。

 

 彼もまた同様にブラックの缶コーヒーを開けた。

 

 

 「今更だが、お前と1vs1(サシ)でこんな会話をすることになるとは思ってもみなかったな」

 

 「入学したての時から、私はあなたに嫌われていたものね」

 

 

 私たちは感慨深いといった感じで話を進める。

 

 

 「お前だけに限らず、この学校の女たちは皆嫌いだった。中学の一件があって以来、女は敵だとしか思ってこなかったからな」

 

 「その中でも私は特別嫌われていたような気がしたのだけれど?」

 

 「オレが無視し続けてもちょっかいをかけてくるからだ、ボケッ」

 

 

 ここで私はあることを思いつく。

 今のこの空気感、そして私たちの関係性であの頃のように一触即発の状態になるか試してみようと。

 

 私はいつも以上に彼を挑発しながら話す。

 

 

 「本当に、なんであの頃の私はあなたにそんな態度を取り続けていたのかしら?不思議で仕方ないわ」

 

 「知るかっ!!未来世界の青タヌキにでも頼んで過去に遡って確かめてきやがれ!」

 

 「そんな事ができるのなら、私はもっと他のことで有効活用するわね。月島くんなら何に使うのかしら?」

 

 「ああ?オレは高一の時に戻って今みたいなナメた態度を取れないように調教してやる。テメェは?」

 

 「私はもっと前に遡って月島くんの初恋の相手にでもなって既成事実をたくさん作るようにするわ。男女の関係を持った、なんてことになった時にはあなたは私の下僕(いぬ)になるのは間違いないでしょうね」

 

 「はぁ、これだよ………………この返答の仕方がほんっとうに癪に触ったんだよなぁ」

 

 「うふふ、戯れに付き合ってくれてどうもありがとう♪もちろん今言ったことは全て嘘だから安心してね」

 

 「本気だったらその手土産に毒仕込んでるわ、ボケが」

 

 

 もちろん月島くんも本気で言ってるわけじゃないのは分かっている。

 でも、夏のアルバイトの件と今回の件を踏まえて、彼はそんなことをもやりかねない危うさを感じさせる。

 

 もちろん嘘だと信じているけれど。

 

 

 「話は少し変わるのだけれど、いくつかあなたに聞きたい事があるの。少しいいかしら?」

 

 

 さっきまでとは違い真剣な顔つきで問う。

 

 

 「なんだ?急に改まって。まあ好きに話せよ」

 

 「ありがとう。私と月島くんが初めて話した日のことは覚えているかしら?」

 

 「ああ、もちろん覚えている。あれは確か、入学式が終わってすぐの時だったな。『何故あなたは女の子が嫌いなの?』ってしつこく聞いてくるお前の事を、"超" が付くぐらいウザい奴って思ってたな」

 

 「気になったのだから、仕方のないことよ」

 

 「それ以降もズケズケと聞いてはおちょくってくるお前を、真冬のプールに沈めてやろうかって計画してたんだぜ?」

 

 「あらっ、じゃあ真夏だとどうしてたの?」

 

 「熱湯にしたプールに沈めてたな」

 

 「季節に見合った嫌がらせ方法だとは思うけれど、どうしてそこまでプールにこだわるのかしら」

 

 「さあな、特に理由はねぇよ」

 

 

 あまりにも突拍子のない回答に私だけじゃなくて、月島くんも吹き出して笑ってしまった。

 

 

 「まさかお前と談笑する日が来るとは、夢にも思わなかったぜ」

 

 「本当、月島くんとこんな打ち解けることができるなんて信じられないわ」

 

 

 2人でそう話していると、数回扉を叩く音が鳴り看護師さんが入ってきた。

 なんでも、私に面会したい人がいたけど知らない間に帰ってしまったとか。

 

 その面会人の見当はついてる。 

 

 だってその人とはついさっきまで隣で──────

 

 

 「その人ならもう……………あらっ?」

 

 

 少し目を離した隙に、月島くんはどこかへ行ってしまった。

 どこかへ隠れてるとも思いベッドの下や天井を見上げても、どこにもその姿は映らない。

 

 少し話し足りないとは思うけれど、月島くんは仮にも謹慎の身。公には外へは出られない中、わざわざ私に会いにきてくれた。

 感謝の言葉を伝えたいけれど、彼はきっと拒むだろう。

 だからこそ、今日話したことは全て私の心の中へとしまい、2人だけの秘密にしたい。

 

 

 私の言動に不思議そうに見つめる看護師さんに何もないことを伝え、部屋を出てもらい私はベッドに横になった。

 

 

 

 ─────室内は再び静寂に包まれる。

 

 

 

 先程までの和やかな雰囲気の嘘のよう。

 私はひとり静まった病室で、大きくため息をつく。

 

 

 (もう少しだけ、話したかったわね)

 

 

 名残惜しくそう心の中で呟くと、私の携帯に一件の着信が入った。

 内容は、『Kanadeがあなたの電話番号で友達登録されました』というものだ。

 

 しばらくすると、もう一件の着信が入る。

 

 

 『とりあえず無事が確認できてよかった。くれぐれも、オレが来たことは誰にも言うなよ?それじゃあ、また学校で』

 

 

 そう短く綴られた文字には、彼なりの優しさが込められていた。

 私と話している時は相変わらず言葉数が少ないけれど、今の私には彼の言いたいことは十分理解できる。

 

 

 「次に学校で会えるのが、楽しみね」

 

 

 独りそう呟き、彼にありがとうと返信した。




またちょくちょく投稿予定です。

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